外れスキル【畑耕し】で辺境追放された俺、チート能力だったと判明し、スローライフを送っていたら、いつの間にか最強国家の食糧事情を掌握していた件

☆ほしい

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俺とクロを乗せた若き竜の翼が、故郷の空を力強く打ち付けた。

眼下には俺が築き上げ、今や「アルス連合」の首都として世界中から人々が集う拠点が、宝石箱のように輝いて見える。研究所、議事堂、そして活気に満ちた仲間たちの笑顔。

あそこが、俺がこの手で守り抜くと誓った場所だ。

そして今から向かう霧深い森、その先に待つであろう絶望もまた、俺が希望へと変えるべき俺の世界の一部なのだ。

「クロ、全速力で頼む。待っている人たちがいる」

「きゅいーん!」

俺の言葉に応え、クロの飛翔速度が一段と増した。風が轟音となって俺の体を叩き、どこまでも広がる青い空と白い雲が瞬く間に後方へと流れ去っていく。

クロの翼はもはや鋼のように強く、その体躯は威厳に満ちている。俺が愛情を込めて育てた特別な作物が、この頼もしい相棒を世界最強の竜へと成長させてくれたのだ。

どれほどの時間飛んだだろうか。

眼下に広がる紺碧の海が、次第にその色を失いよどんだ灰色へと変わっていくのが見えた。空気も肌を撫でる温かい風から、生命力を奪うような不気味で冷たいものへと変化していた。

太陽の光さえこの領域を避けるかのように、弱々しく感じられる。

「……間違いない。あれが、瘴気に汚染された森だ」

水平線の向こうに巨大な森の影が見えてきた。だがそこから感じられるのは豊かな生命の息吹ではない。死と静寂。そして全てのものを腐らせ、無に還そうとする陰湿で邪悪な波動だった。

クロもまたその邪気を感じ取ったのか、警戒するように低く唸り声を上げている。

俺たちは目的の地、古代遺跡のあるという霧深い森の上空に到達した。

高度を下げていくと、その惨状がより鮮明に目に飛び込んでくる。

森の木々は生命力を完全に吸い取られ、黒くねじくれ、苦悶の叫びを上げたまま絶命した亡者のようだった。大地はひび割れ、動物の気配は一切感じられない。

瘴気の影響で、通常の植物は生きることすら許されない完全な死の世界がそこには広がっていた。

「ひどいな……。大地が泣いているようだ」

俺はそのあまりにも痛ましい光景に、胸が締め付けられるのを感じた。大地を愛し作物を育てることを生業とする俺にとって、この光景は何よりも許しがたい冒涜だった。

俺たちは森の最深部、瘴気の発生源となっている古代遺跡を目指した。

奥へ進むにつれて瘴気の濃度はさらに増していく。すると森の暗がりから、何かがうごめく気配がした。

「グルルル……」

クロが威嚇するように唸る。

次の瞬間、俺たちの前に瘴気そのものが実体化したかのような、影でできた魔物たちが無数に姿を現したのだ。その目は憎悪と飢餓の光で赤くぎらついている。

「瘴気のしもべか。見た目からして気分のいい連中じゃないな」

魔物たちが一斉に俺たちへと襲いかかってくる。だが俺は落ち着いていた。

「クロ、焼き払ってやれ。こいつらにこの森を汚す資格はない」

「きゅるるるァァァッ!」

クロの口から浄化の力を持つ黄金色の炎が、放射状に放たれた。炎は瘴気のしもべたちを瞬く間に飲み込んでいく。

「ギィィィィィィッ!?」

魔物たちは断末魔の叫びを上げる間もなく、聖なる炎に焼かれて浄化され、光の粒子となって消えていった。クロの浄化の炎は、瘴気のような負の力に対して絶大な効果を発揮するようだ。

「よし、いいぞクロ! そのまま道を開け!」

俺たちはクロの炎で瘴気の魔物たちを蹴散らしながら、森の奥深くへと突き進んでいく。途中、腐敗した大木が巨人のように動き出す「怨嗟のトレント」なども現れたが、俺の力の前では敵ではなかった。

「能力【畑耕し】、応用……『聖樹の捕縛』!」

俺が地面に手をかざすと、足元から清浄な魔力を帯びた巨大な蔓が生き物のように伸び、トレントの巨体を瞬く間に縛り上げた。そしてクロがとどめの炎を浴びせる。

俺とクロの連携は完璧だった。どんな障害も俺たちの進撃を止めることはできない。

やがて俺たちの目の前に、ひときわ濃い瘴気を放つ巨大な石造りの神殿が姿を現した。あれが古代遺跡。この地の全ての瘴気の発生源に違いない。

神殿全体が禍々しい紫黒色の邪気に包まれ、その威圧感はこれまでの魔物たちとは比較にならなかった。

「……親玉はあの中にいるようだな」

俺はクロの背から飛び降り、神殿の入り口へと向かった。だがその入り口は強力な呪術的な結界によって固く閉ざされている。物理的な攻撃はもちろん、クロの浄化の炎ですら結界に触れた瞬間に霧散してしまう。

「なるほど、厄介な置き土産をしてくれたもんだ」

俺はその結界をじっと観察した。そしてその仕組みをすぐに見抜く。

この結界は周囲の大地から瘴気を絶えず吸い上げ、それを呪いの力に変換して自らを維持しているのだ。

ならば、やるべきことは一つ。

「その力の流れを逆流させてやればいい」

俺は不敵に笑うと結界にそっと手を触れた。そして能力【畑耕し】を発動させる。

俺が思い描いたのは、大地から瘴気を吸い上げる流れを完全に逆転させること。そして瘴気の代わりに、この星の核から直接汲み上げた清浄で巨大な生命の力を、結界へと強制的に流し込むことだ。

「喰らいやがれ。俺の畑の栄養満点の生命力をな!」

俺の手を通じて凄まじい量の生命の力が結界へと逆流していく。邪悪な呪力で構成された結界は、そのあまりにも清浄で強大な力に耐えきれず、内部から浄化され悲鳴を上げるように軋み始めた。

「ギギギギギ……!」

結界の表面に無数の亀裂が走る。

そして次の瞬間。

パリーンッ!

巨大なガラスが砕け散るような甲高い音と共に、神殿を覆っていた呪いの結界は完全に消滅した。

結界が消え、神殿の内部へと続く暗く長い通路が俺たちの前にその口を開けている。その奥からは、これまでとは比較にならないほど強大で明確な知性を持った邪悪な気配がひしひしと伝わってきた。

「どうやら親玉のお出ましらしいな。クロ、準備はいいか?」

俺がそう言うとクロは俺の隣でその赤い瞳を爛々と輝かせ、力強く吼えた。

「グルルルァァァッ!」

その声は「いつでもいけるぜ、相棒!」とそう言っているようだった。

俺たちは互いの顔を見合わせひとつ頷くと、決意を新たに神殿の暗い通路へとその第一歩を踏み出した。

この星を蝕む本当の悪意。その正体を今この手で暴き出すために。
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