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第3話 最強の護衛と、快適すぎる遺跡ライフ
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「ルナ、そこ右。美味しそうなキノコの匂いがするわ」
「ワフッ!」
遺跡の中を、私たちは散歩気分で進んでいく。
かつて人類の勇者たちが血を流し、絶望の中で命を落としてきた古代遺跡『奈落の揺り籠』。
今、その通路を彩っているのは、ルナが放つ柔らかな銀色の光だ。
私の歩みに合わせて、彼は尻尾をゆらゆらと揺らし、時折、私の手に鼻先を押し付けてくる。
さっきの圧倒的な破壊神としての姿は、まるで夢だったかのような愛くるしさだ。
突き当たりにあった巨大な石門を、ルナが前脚で軽く突つく。
数トンはありそうな岩の塊が、まるでおもちゃのように軽々と吹き飛び、奥の広間へと転がっていった。
中に入ると、そこには息を呑むような光景が広がっていた。
「……すごい。これ、全部『マナの結晶果実』じゃない」
広大なドーム状の空間。
天井からは巨大な鍾乳石が垂れ下がり、その先々には宝石のように輝く果実が実っている。
この世のものとは思えないほど純粋な魔力が、霧となって足元を漂っていた。
この果実一つで、小国の国家予算が数年分は吹っ飛ぶと言われる超希少品だ。
それが、ここでは雑草のように生い茂っている。
「あっちには清らかな水場もあるわね。ルナ、ここを私たちの拠点にしましょう」
「クゥン!」
ルナも気に入ったようで、真っ白な魔力霧の中にダイブしてはしゃいでいる。
私は早速、エプロンを締め直した。
まずは、住環境の整備だ。
マジックバッグから、予備の布と、先ほどルナが凍らせた土蜘蛛から採取した極上の糸を取り出す。
この糸、見た目は不気味だったけれど、処理してみれば最高級のシルク以上の光沢と強度を持っている。
これに『マナの結晶果実』の果汁を染み込ませれば、魔力を遮断する防寒具兼、最高級の寝具が出来上がる。
「よいしょっと……」
私が手際よく糸を編み上げている間、ルナは周囲の警戒――という名の、お遊びを始めた。
広間の隅に潜んでいた『影の亡霊兵士』たちが、侵入者である私に襲いかかろうと剣を構える。
だが、彼らが一歩踏み出す前に、ルナの冷たい視線が突き刺さった。
「ガウッ!」
一喝。
物理的な衝撃を伴うその咆哮に、亡霊たちは存在そのものが耐えきれず、煙のように霧散した。
彼らが持っていた錆びた古い剣や盾が、カランカランと虚しく床に転がる。
ルナはそれを鼻先で転がして、私の足元まで持ってきた。
「これ、使える?」とでも言いたげな顔だ。
「ありがとう、ルナ。これは火を熾す台座にちょうどいいわ」
私は亡霊の盾を重ね、そこに遺跡内で拾った乾燥した魔力木を置く。
指先を鳴らせば、生活魔法の火が灯る。
普通の薪なら一瞬で燃え尽きるが、魔力木は私の【調育料理】の魔力調整によって、穏やかで永続的な熱源へと変わる。
「さて、今日のご飯は……ルナ、あの高いところにある紫色の果実を取ってくれる?」
ルナが軽く跳躍する。
重力を無視したその動きは、もはや芸術の域だ。
口に咥えて持ってきたのは、果実の中でも特に魔力密度の高い『天蓋の滴』。
これに、さっきの亡霊たちが守っていたチェストの中から見つけた「古代の熟成塩」を合わせる。
「聖女候補だった頃は、贅沢だって怒られたけど。今は誰にも文句は言わせないわ」
私は果実を贅沢に潰し、塩を少々、そして隠し味に私の魔力を一滴。
鍋の中では、またしても常識外れの化学反応が起きていた。
立ち上る香りは、もはや「食べ物」の域を超えている。
嗅ぐだけで寿命が延び、失った魔力が全回復するような、魂に響く芳香だ。
完成したのは、黄金色に輝く濃厚なスープ。
【調育料理:星屑の黄金ポタージュ】。
これ一杯で、並の魔術師なら賢者へと至るほどの叡智を授かる一品だ。
「はい、ルナ。おかわりもたくさんあるからね」
私は大きな器にスープを注ぎ、ルナの前に置いた。
ルナは瞳をキラキラと輝かせ、一滴も残さない勢いで食べ始める。
そのたびに、彼の体から溢れる魔力が密度を増し、遺跡の広間全体が彼の支配領域へと塗り替えられていく。
もはやこの場所は、凶悪な遺跡ではない。
ルナという神獣が統治する、聖域だ。
「ふふ、美味しい? よかった」
私も自分の分を一口啜る。
……うん、完璧。
カイやエレナたちが、今頃必死に汚れた聖王国の空気の中で、権力争いに明け暮れていると思うと、笑いが止まらない。
あんな窮屈な場所より、ここの方が百倍豊かだわ。
その時だった。
遺跡の入り口、遥か遠くの方で、複数の魔力反応が動いた。
ルナがピクリと耳を動かし、不快そうに低い唸り声を出す。
「……お掃除が不十分だったかしら? それとも、新しいお客さん?」
私の呟きに合わせるように、広間の入り口から、数人の男女が姿を現した。
彼らは全身を最高級の魔導具で固め、血の気の引いた顔でこちらを見ている。
聖王国のエリート探索者チーム『暁の翼』。
そのリーダーが、信じられないものを見たという顔で、ガタガタと震えながら私を指差した。
「な……なんだ、あれは……。伝説のフェンリルを、あんな……スープで手懐けているのか……!? 聖女クロエ、お前、一体何をしているんだ……!?」
私はスープを一口飲み込み、彼らに向かって最高に優雅な微笑みを浮かべた。
「見ての通り、お食事中ですけど? ……あ、それとも、あなたたちも離乳食、食べてみる?」
その瞬間、探索者の一人が、あまりの恐怖と神々しさに耐えきれず、その場に膝をついて祈りを捧げ始めた。
「ワフッ!」
遺跡の中を、私たちは散歩気分で進んでいく。
かつて人類の勇者たちが血を流し、絶望の中で命を落としてきた古代遺跡『奈落の揺り籠』。
今、その通路を彩っているのは、ルナが放つ柔らかな銀色の光だ。
私の歩みに合わせて、彼は尻尾をゆらゆらと揺らし、時折、私の手に鼻先を押し付けてくる。
さっきの圧倒的な破壊神としての姿は、まるで夢だったかのような愛くるしさだ。
突き当たりにあった巨大な石門を、ルナが前脚で軽く突つく。
数トンはありそうな岩の塊が、まるでおもちゃのように軽々と吹き飛び、奥の広間へと転がっていった。
中に入ると、そこには息を呑むような光景が広がっていた。
「……すごい。これ、全部『マナの結晶果実』じゃない」
広大なドーム状の空間。
天井からは巨大な鍾乳石が垂れ下がり、その先々には宝石のように輝く果実が実っている。
この世のものとは思えないほど純粋な魔力が、霧となって足元を漂っていた。
この果実一つで、小国の国家予算が数年分は吹っ飛ぶと言われる超希少品だ。
それが、ここでは雑草のように生い茂っている。
「あっちには清らかな水場もあるわね。ルナ、ここを私たちの拠点にしましょう」
「クゥン!」
ルナも気に入ったようで、真っ白な魔力霧の中にダイブしてはしゃいでいる。
私は早速、エプロンを締め直した。
まずは、住環境の整備だ。
マジックバッグから、予備の布と、先ほどルナが凍らせた土蜘蛛から採取した極上の糸を取り出す。
この糸、見た目は不気味だったけれど、処理してみれば最高級のシルク以上の光沢と強度を持っている。
これに『マナの結晶果実』の果汁を染み込ませれば、魔力を遮断する防寒具兼、最高級の寝具が出来上がる。
「よいしょっと……」
私が手際よく糸を編み上げている間、ルナは周囲の警戒――という名の、お遊びを始めた。
広間の隅に潜んでいた『影の亡霊兵士』たちが、侵入者である私に襲いかかろうと剣を構える。
だが、彼らが一歩踏み出す前に、ルナの冷たい視線が突き刺さった。
「ガウッ!」
一喝。
物理的な衝撃を伴うその咆哮に、亡霊たちは存在そのものが耐えきれず、煙のように霧散した。
彼らが持っていた錆びた古い剣や盾が、カランカランと虚しく床に転がる。
ルナはそれを鼻先で転がして、私の足元まで持ってきた。
「これ、使える?」とでも言いたげな顔だ。
「ありがとう、ルナ。これは火を熾す台座にちょうどいいわ」
私は亡霊の盾を重ね、そこに遺跡内で拾った乾燥した魔力木を置く。
指先を鳴らせば、生活魔法の火が灯る。
普通の薪なら一瞬で燃え尽きるが、魔力木は私の【調育料理】の魔力調整によって、穏やかで永続的な熱源へと変わる。
「さて、今日のご飯は……ルナ、あの高いところにある紫色の果実を取ってくれる?」
ルナが軽く跳躍する。
重力を無視したその動きは、もはや芸術の域だ。
口に咥えて持ってきたのは、果実の中でも特に魔力密度の高い『天蓋の滴』。
これに、さっきの亡霊たちが守っていたチェストの中から見つけた「古代の熟成塩」を合わせる。
「聖女候補だった頃は、贅沢だって怒られたけど。今は誰にも文句は言わせないわ」
私は果実を贅沢に潰し、塩を少々、そして隠し味に私の魔力を一滴。
鍋の中では、またしても常識外れの化学反応が起きていた。
立ち上る香りは、もはや「食べ物」の域を超えている。
嗅ぐだけで寿命が延び、失った魔力が全回復するような、魂に響く芳香だ。
完成したのは、黄金色に輝く濃厚なスープ。
【調育料理:星屑の黄金ポタージュ】。
これ一杯で、並の魔術師なら賢者へと至るほどの叡智を授かる一品だ。
「はい、ルナ。おかわりもたくさんあるからね」
私は大きな器にスープを注ぎ、ルナの前に置いた。
ルナは瞳をキラキラと輝かせ、一滴も残さない勢いで食べ始める。
そのたびに、彼の体から溢れる魔力が密度を増し、遺跡の広間全体が彼の支配領域へと塗り替えられていく。
もはやこの場所は、凶悪な遺跡ではない。
ルナという神獣が統治する、聖域だ。
「ふふ、美味しい? よかった」
私も自分の分を一口啜る。
……うん、完璧。
カイやエレナたちが、今頃必死に汚れた聖王国の空気の中で、権力争いに明け暮れていると思うと、笑いが止まらない。
あんな窮屈な場所より、ここの方が百倍豊かだわ。
その時だった。
遺跡の入り口、遥か遠くの方で、複数の魔力反応が動いた。
ルナがピクリと耳を動かし、不快そうに低い唸り声を出す。
「……お掃除が不十分だったかしら? それとも、新しいお客さん?」
私の呟きに合わせるように、広間の入り口から、数人の男女が姿を現した。
彼らは全身を最高級の魔導具で固め、血の気の引いた顔でこちらを見ている。
聖王国のエリート探索者チーム『暁の翼』。
そのリーダーが、信じられないものを見たという顔で、ガタガタと震えながら私を指差した。
「な……なんだ、あれは……。伝説のフェンリルを、あんな……スープで手懐けているのか……!? 聖女クロエ、お前、一体何をしているんだ……!?」
私はスープを一口飲み込み、彼らに向かって最高に優雅な微笑みを浮かべた。
「見ての通り、お食事中ですけど? ……あ、それとも、あなたたちも離乳食、食べてみる?」
その瞬間、探索者の一人が、あまりの恐怖と神々しさに耐えきれず、その場に膝をついて祈りを捧げ始めた。
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