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俺は、レオン。しがない冒険者だ。いや、冒険者と名乗るのもおこがましいかもしれない。薬草採取や荷物運びが主な仕事で、日銭を稼ぐので精一杯の毎日。住んでいるのは安宿の屋根裏部屋。窓からは隣の家の壁しか見えない。それでも、この世界『エルドラ』に来てからは、これが日常だった。
元の世界……そう、俺は異世界転生者ってやつだ。前の世界では、冴えないサラリーマンだった。毎日満員電車に揺られ、上司に怒鳴られ、サービス残業は当たり前。そんな生活に疲れ果て、ある日、駅のホームでふらついて……気がついたら、このエルドラにいた。女神様が言うには、手違いで死なせてしまったお詫びに、チート能力を授けて異世界に送ってくれる、とのことだった。よくある話だ。
だがしかし、俺が授かったチート能力は『動物親和EX』。なんだそれ、って思ったよ。動物に好かれやすくなる、それだけ。攻撃魔法もなければ、剣術の才能もない。鑑定スキルもなければ、アイテムボックスもない。あるのは、やたらと動物に懐かれる能力だけ。おかげで野犬に追いかけ回されることはないし、猫にはよくすり寄られる。……それだけだ。本当に、それだけ。この力でどうやって成り上がれって言うんだ。
おかげで、冒険者ギルドに登録しても、まともな依頼は回ってこない。ゴブリン討伐? スライム退治? 無理無理。素手でどうしろと。結局、誰でもできる雑用ばかり。たまに森に入って薬草を採る時も、熊や狼に遭遇しないように、動物たちの気配を察知して逃げ回るのが関の山だ。情けない話だが、これが現実だった。
「はあ……今日も依頼はなしか」
ギルドの掲示板を眺めても、俺にできそうなものは見当たらない。仕方なく、いつものように森へ向かう。今日の目的は、解熱効果のある『ヒールリーフ』の採取だ。最近風邪が流行っているのか、薬師からの依頼が少しだけ入っていた。微々たる稼ぎにしかならないが、何もしないよりはマシだ。
森の奥へ進むと、鳥のさえずりが聞こえてくる。俺の気配に気づいた小動物たちが、好奇心と警戒心の入り混じった視線を向けてくるのがわかる。これが『動物親和EX』の効果なのだろうか。害意がないことが伝わるのか、彼らはすぐに興味を失って日常に戻っていく。
ヒールリーフは、少し湿った場所に群生している。目的の場所に着くと、俺は早速採取を始めた。一枚一枚丁寧に、根を傷つけないように。こういう地道な作業は嫌いじゃない。ただ、もう少し割の良い仕事があれば、と思うのは贅沢だろうか。
不意に、ガサリ、と近くの茂みが揺れた。
「ん?」
野生動物か? 普段なら、俺の気配を察して近寄ってこないはずだが。熊や狼のような大型の肉食獣なら、もっと明確な威圧感がある。これは……なんだろう。小動物にしては、物音が大きい。
茂みの方へ近づくと、微かに呻き声のようなものが聞こえた。警戒しつつ、茂みを掻き分ける。そこには、見たこともない生き物が横たわっていた。
大きさは子犬くらいだろうか。全身がふわふわとした白い毛で覆われていて、長い耳がぴんと立っている。尻尾は太く、まるで狐のようだ。だが、額には小さな、本当に小さな角のようなものが一本だけ生えている。その生き物は苦しそうに息をしており、脇腹には痛々しい傷があった。血が滲んで、白い毛を赤く染めている。
「おい、大丈夫か!?」
思わず駆け寄る。その生き物は俺の気配に気づき、弱々しく目を開けた。瑠璃色とでも言うのだろうか、吸い込まれそうなほど美しい瞳だった。だが、その瞳には警戒心と恐怖の色が浮かんでいる。
「大丈夫、何もしないよ。手当てをさせてくれないか?」
俺はゆっくりと手を伸ばす。普通なら、野生の動物が怪我をしている時に不用意に近づけば、噛みつかれたり引っ掻かれたりするだろう。だが、俺には『動物親和EX』がある。この力が、少しでも役に立ってくれれば。
俺の手がそっとその生き物の頭に触れる。生き物は一瞬びくっと体をこわばらせたが、俺の手から伝わる何かが安心させたのか、それ以上抵抗する様子は見せなかった。むしろ、擦り寄ってくるような仕草さえ見せる。
「よしよし、いい子だ。すぐに楽にしてやるからな」
持っていた鞄から、傷薬と清潔な布を取り出す。これは薬草採取の際に、万が一自分が怪我をした時のために持ち歩いているものだ。まさか、こんな形で役に立つとは思わなかったが。
傷口をそっと水で洗い流し、薬を塗って布を巻く。手当ての間、その生き物はずっとおとなしくしていた。時折、俺の手をぺろりと舐めたり、鼻をすり寄せたりしてくる。なんだか、心が温かくなるのを感じた。
「よし、こんなものかな。あとは安静にしていれば、きっと良くなる」
俺がそう言うと、その生き物は「きゅぅん」と小さく鳴いた。まるで、ありがとうと言っているかのように。
「どういたしまして。それにしても、お前、一体何ていう生き物なんだ? こんな森で一人でいるなんて、親とはぐれたのか?」
額の小さな角、白い毛並み、瑠璃色の瞳。明らかに普通の動物ではない。もしかしたら、魔獣の一種なのだろうか。だが、魔獣特有の凶暴性や威圧感は全く感じられない。むしろ、どこか神聖な雰囲気さえ漂っている。
俺がそうやって生き物を眺めていると、突然、頭の中に直接声が響いてきた。
『……助けてくれて、ありがとう、ニンゲン』
「え!?」
思わず声を上げる。今の声は……まさか、この生き物か? テレパシー的な何かか? 俺は混乱しながらも、目の前の生き物を見つめる。生き物は相変わらず俺を見上げているだけだ。
『驚かせてごめんね。でも、あなたには私の声が聞こえるみたい』
再び、頭の中に声が響く。間違いなく、この生き物からだ。これが……これが『動物親和EX』の真の力なのか? 動物に好かれるだけじゃなく、意思疎通までできるなんて。
「お前……喋れるのか?」
『うん。でも、あなたみたいに特別な人じゃないと、私の声は聞こえないの』
特別な人、か。俺が? 信じられないが、目の前で起きている現象がそれを証明している。
「そうか……。俺はレオン。お前は?」
『私は……名前、まだないの』
そう言うと、生き物は少し寂しそうな表情を見せた。いや、表情と言っても、耳が少し垂れたり、瞳が揺れたりする程度なのだが、俺にはそう感じられた。
「そうか。じゃあ、俺が名前をつけてやってもいいか?」
『ほんと?嬉しい!』
生き物は尻尾をぱたぱたと振って喜んでいる。その姿は、本当に子犬のようで愛らしい。どんな名前にしようか。白くてふわふわしているから……いや、もっとこう、格好いい名前がいいだろうか。額に角もあるし。
「うーん……そうだなぁ……『フェン』なんてどうだ? お前の毛並みが、風にそよぐ羽みたいだから」
我ながら安直なネーミングセンスだとは思うが、心を込めて提案してみる。
『フェン……うん、気に入った!ありがとう、レオン!』
フェンは嬉しそうに俺の手に頭を擦り付けてくる。その温かさが心地良い。まさかこんな形で、異世界に来て初めての友達ができるなんて、思いもしなかった。
「怪我もしてるし、こんな森の真ん中に一人で置いていくわけにもいかないな。俺の家に来るか? ちょっと狭いけど」
『うん、行く!レオンと一緒がいい!』
フェンは即答だった。俺は優しくフェンを抱き上げる。思ったよりも軽い。ふわふわの毛の下は、まだ細い体つきのようだ。
「よし、帰ろうか、フェン」
『うん!』
俺はフェンを抱いたまま、森を後にした。足取りは、いつもより少しだけ軽い気がした。屋根裏部屋に着くと、フェンは興味深そうに部屋の中をくんくんと嗅ぎ回っている。
「ごめんな、こんな狭くて汚い部屋で」
『ううん、レオンの匂いがするから好き!』
そんなことを言われると、なんだか照れくさい。俺は床に毛布を敷いて、そこにフェンをそっと寝かせた。
「傷に障るから、あまり動き回るなよ」
『はーい』
素直に返事をするフェンが可愛くて、思わず頭を撫でる。すると、フェンは気持ちよさそうに目を細めた。こんな穏やかな気持ちになったのは、いつ以来だろうか。
元の世界では、ペットを飼う余裕なんてなかった。仕事に追われる毎日で、自分の世話すらままならなかったからだ。異世界に来てからも、日々の生活に必死で、そんなことを考える暇もなかった。
だが、こうしてフェンと触れ合っていると、心の奥底から何かが満たされていくのを感じる。これが、『動物親和EX』が俺に与えてくれた、本当の贈り物なのかもしれない。
「お腹、空いてないか? 何か食べられるものを探してくるよ」
『うん!待ってる!』
俺は立ち上がり、部屋を出ようとした。その時、フェンが「きゅぅん」と不安そうな声を出す。
「大丈夫、すぐに戻ってくるから」
そう言って頭を撫でると、フェンは少しだけ安心したように見えた。俺は急いで食料を調達しに外へ出た。幸い、宿の女主人が残り物のスープを分けてくれた。肉の欠片と野菜が少し入った、簡素なものだが、今の俺たちにとってはご馳走だ。
部屋に戻ると、フェンは俺の帰りを健気に待っていた。スープを器に入れて差し出すと、最初は警戒していたが、すぐに美味しそうに飲み始めた。その姿を見ているだけで、なんだか幸せな気持ちになる。
「ゆっくり食べろよ」
『うん!おいしい!』
食事が終わると、フェンは俺の足元に擦り寄ってきて、そのまま丸くなって眠ってしまった。穏やかな寝息を立てている。俺はその小さな体を撫でながら、これからのことを考えた。
フェンの怪我が治るまでは、俺が面倒を見る必要があるだろう。だが、その後はどうする? 森に返すのが自然なのかもしれないが、一度人に慣れてしまった動物が、野生で生きていけるのだろうか。それに、何より……俺自身が、フェンと離れたくないと感じ始めていた。
この出会いは、きっと偶然じゃない。そう思いたい。この殺伐とした異世界で、俺が見つけた、たった一つの温かい光。それを手放したくない。
元の世界……そう、俺は異世界転生者ってやつだ。前の世界では、冴えないサラリーマンだった。毎日満員電車に揺られ、上司に怒鳴られ、サービス残業は当たり前。そんな生活に疲れ果て、ある日、駅のホームでふらついて……気がついたら、このエルドラにいた。女神様が言うには、手違いで死なせてしまったお詫びに、チート能力を授けて異世界に送ってくれる、とのことだった。よくある話だ。
だがしかし、俺が授かったチート能力は『動物親和EX』。なんだそれ、って思ったよ。動物に好かれやすくなる、それだけ。攻撃魔法もなければ、剣術の才能もない。鑑定スキルもなければ、アイテムボックスもない。あるのは、やたらと動物に懐かれる能力だけ。おかげで野犬に追いかけ回されることはないし、猫にはよくすり寄られる。……それだけだ。本当に、それだけ。この力でどうやって成り上がれって言うんだ。
おかげで、冒険者ギルドに登録しても、まともな依頼は回ってこない。ゴブリン討伐? スライム退治? 無理無理。素手でどうしろと。結局、誰でもできる雑用ばかり。たまに森に入って薬草を採る時も、熊や狼に遭遇しないように、動物たちの気配を察知して逃げ回るのが関の山だ。情けない話だが、これが現実だった。
「はあ……今日も依頼はなしか」
ギルドの掲示板を眺めても、俺にできそうなものは見当たらない。仕方なく、いつものように森へ向かう。今日の目的は、解熱効果のある『ヒールリーフ』の採取だ。最近風邪が流行っているのか、薬師からの依頼が少しだけ入っていた。微々たる稼ぎにしかならないが、何もしないよりはマシだ。
森の奥へ進むと、鳥のさえずりが聞こえてくる。俺の気配に気づいた小動物たちが、好奇心と警戒心の入り混じった視線を向けてくるのがわかる。これが『動物親和EX』の効果なのだろうか。害意がないことが伝わるのか、彼らはすぐに興味を失って日常に戻っていく。
ヒールリーフは、少し湿った場所に群生している。目的の場所に着くと、俺は早速採取を始めた。一枚一枚丁寧に、根を傷つけないように。こういう地道な作業は嫌いじゃない。ただ、もう少し割の良い仕事があれば、と思うのは贅沢だろうか。
不意に、ガサリ、と近くの茂みが揺れた。
「ん?」
野生動物か? 普段なら、俺の気配を察して近寄ってこないはずだが。熊や狼のような大型の肉食獣なら、もっと明確な威圧感がある。これは……なんだろう。小動物にしては、物音が大きい。
茂みの方へ近づくと、微かに呻き声のようなものが聞こえた。警戒しつつ、茂みを掻き分ける。そこには、見たこともない生き物が横たわっていた。
大きさは子犬くらいだろうか。全身がふわふわとした白い毛で覆われていて、長い耳がぴんと立っている。尻尾は太く、まるで狐のようだ。だが、額には小さな、本当に小さな角のようなものが一本だけ生えている。その生き物は苦しそうに息をしており、脇腹には痛々しい傷があった。血が滲んで、白い毛を赤く染めている。
「おい、大丈夫か!?」
思わず駆け寄る。その生き物は俺の気配に気づき、弱々しく目を開けた。瑠璃色とでも言うのだろうか、吸い込まれそうなほど美しい瞳だった。だが、その瞳には警戒心と恐怖の色が浮かんでいる。
「大丈夫、何もしないよ。手当てをさせてくれないか?」
俺はゆっくりと手を伸ばす。普通なら、野生の動物が怪我をしている時に不用意に近づけば、噛みつかれたり引っ掻かれたりするだろう。だが、俺には『動物親和EX』がある。この力が、少しでも役に立ってくれれば。
俺の手がそっとその生き物の頭に触れる。生き物は一瞬びくっと体をこわばらせたが、俺の手から伝わる何かが安心させたのか、それ以上抵抗する様子は見せなかった。むしろ、擦り寄ってくるような仕草さえ見せる。
「よしよし、いい子だ。すぐに楽にしてやるからな」
持っていた鞄から、傷薬と清潔な布を取り出す。これは薬草採取の際に、万が一自分が怪我をした時のために持ち歩いているものだ。まさか、こんな形で役に立つとは思わなかったが。
傷口をそっと水で洗い流し、薬を塗って布を巻く。手当ての間、その生き物はずっとおとなしくしていた。時折、俺の手をぺろりと舐めたり、鼻をすり寄せたりしてくる。なんだか、心が温かくなるのを感じた。
「よし、こんなものかな。あとは安静にしていれば、きっと良くなる」
俺がそう言うと、その生き物は「きゅぅん」と小さく鳴いた。まるで、ありがとうと言っているかのように。
「どういたしまして。それにしても、お前、一体何ていう生き物なんだ? こんな森で一人でいるなんて、親とはぐれたのか?」
額の小さな角、白い毛並み、瑠璃色の瞳。明らかに普通の動物ではない。もしかしたら、魔獣の一種なのだろうか。だが、魔獣特有の凶暴性や威圧感は全く感じられない。むしろ、どこか神聖な雰囲気さえ漂っている。
俺がそうやって生き物を眺めていると、突然、頭の中に直接声が響いてきた。
『……助けてくれて、ありがとう、ニンゲン』
「え!?」
思わず声を上げる。今の声は……まさか、この生き物か? テレパシー的な何かか? 俺は混乱しながらも、目の前の生き物を見つめる。生き物は相変わらず俺を見上げているだけだ。
『驚かせてごめんね。でも、あなたには私の声が聞こえるみたい』
再び、頭の中に声が響く。間違いなく、この生き物からだ。これが……これが『動物親和EX』の真の力なのか? 動物に好かれるだけじゃなく、意思疎通までできるなんて。
「お前……喋れるのか?」
『うん。でも、あなたみたいに特別な人じゃないと、私の声は聞こえないの』
特別な人、か。俺が? 信じられないが、目の前で起きている現象がそれを証明している。
「そうか……。俺はレオン。お前は?」
『私は……名前、まだないの』
そう言うと、生き物は少し寂しそうな表情を見せた。いや、表情と言っても、耳が少し垂れたり、瞳が揺れたりする程度なのだが、俺にはそう感じられた。
「そうか。じゃあ、俺が名前をつけてやってもいいか?」
『ほんと?嬉しい!』
生き物は尻尾をぱたぱたと振って喜んでいる。その姿は、本当に子犬のようで愛らしい。どんな名前にしようか。白くてふわふわしているから……いや、もっとこう、格好いい名前がいいだろうか。額に角もあるし。
「うーん……そうだなぁ……『フェン』なんてどうだ? お前の毛並みが、風にそよぐ羽みたいだから」
我ながら安直なネーミングセンスだとは思うが、心を込めて提案してみる。
『フェン……うん、気に入った!ありがとう、レオン!』
フェンは嬉しそうに俺の手に頭を擦り付けてくる。その温かさが心地良い。まさかこんな形で、異世界に来て初めての友達ができるなんて、思いもしなかった。
「怪我もしてるし、こんな森の真ん中に一人で置いていくわけにもいかないな。俺の家に来るか? ちょっと狭いけど」
『うん、行く!レオンと一緒がいい!』
フェンは即答だった。俺は優しくフェンを抱き上げる。思ったよりも軽い。ふわふわの毛の下は、まだ細い体つきのようだ。
「よし、帰ろうか、フェン」
『うん!』
俺はフェンを抱いたまま、森を後にした。足取りは、いつもより少しだけ軽い気がした。屋根裏部屋に着くと、フェンは興味深そうに部屋の中をくんくんと嗅ぎ回っている。
「ごめんな、こんな狭くて汚い部屋で」
『ううん、レオンの匂いがするから好き!』
そんなことを言われると、なんだか照れくさい。俺は床に毛布を敷いて、そこにフェンをそっと寝かせた。
「傷に障るから、あまり動き回るなよ」
『はーい』
素直に返事をするフェンが可愛くて、思わず頭を撫でる。すると、フェンは気持ちよさそうに目を細めた。こんな穏やかな気持ちになったのは、いつ以来だろうか。
元の世界では、ペットを飼う余裕なんてなかった。仕事に追われる毎日で、自分の世話すらままならなかったからだ。異世界に来てからも、日々の生活に必死で、そんなことを考える暇もなかった。
だが、こうしてフェンと触れ合っていると、心の奥底から何かが満たされていくのを感じる。これが、『動物親和EX』が俺に与えてくれた、本当の贈り物なのかもしれない。
「お腹、空いてないか? 何か食べられるものを探してくるよ」
『うん!待ってる!』
俺は立ち上がり、部屋を出ようとした。その時、フェンが「きゅぅん」と不安そうな声を出す。
「大丈夫、すぐに戻ってくるから」
そう言って頭を撫でると、フェンは少しだけ安心したように見えた。俺は急いで食料を調達しに外へ出た。幸い、宿の女主人が残り物のスープを分けてくれた。肉の欠片と野菜が少し入った、簡素なものだが、今の俺たちにとってはご馳走だ。
部屋に戻ると、フェンは俺の帰りを健気に待っていた。スープを器に入れて差し出すと、最初は警戒していたが、すぐに美味しそうに飲み始めた。その姿を見ているだけで、なんだか幸せな気持ちになる。
「ゆっくり食べろよ」
『うん!おいしい!』
食事が終わると、フェンは俺の足元に擦り寄ってきて、そのまま丸くなって眠ってしまった。穏やかな寝息を立てている。俺はその小さな体を撫でながら、これからのことを考えた。
フェンの怪我が治るまでは、俺が面倒を見る必要があるだろう。だが、その後はどうする? 森に返すのが自然なのかもしれないが、一度人に慣れてしまった動物が、野生で生きていけるのだろうか。それに、何より……俺自身が、フェンと離れたくないと感じ始めていた。
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