【異世界コンビニ】通販スキルを使って異世界でコンビニを開いたら、ただの100円ライターが魔道具、コーラが万能薬として神々に崇められた件

旅する書斎(☆ほしい)

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第24話 因果を縛る銀の布、あるいは布ガムテープ

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店の裏手にある搬入口付近で、不快極まりない破壊音が響いた。
バキィッ!! という、太い木材が繊維に沿ってねじ切れるような、鈍く、そして絶望的な音だ。
平穏な午後の静寂を切り裂くそのノイズに、俺は眉をひそめて手元のスマホを置いた。
せっかく、エアコンの設定温度を二十四度という完璧なバランスに調整し、まどろみの海に沈もうとしていたところだったのに。
俺は溜息を噛み殺し、カウンターの下に隠蔽されている監視モニターの映像を切り替えた。
高精細な液晶画面に映し出されたのは、店の裏路地で立ち往生している一台の豪奢な馬車だった。
白塗りの車体に、金箔で施された精緻な装飾。
車輪のスポーク一本に至るまで磨き上げられたその馬車は、以前コーラを「聖なる黒い聖水」として持ち帰った教団の聖女、レティアの専用車だ。
どうやら、前日の雨でぬかるんだ路地の窪みに車輪を取られ、強引に脱出しようとした結果、車軸が限界を迎えてへし折れてしまったらしい。
護衛の聖騎士たちが数人がかりで車体を持ち上げようとしているが、鉄と樫の木で作られた重量級の馬車は、巨人の死体のように微動だにしない。

「……主様。聖女様が、随分とお困りのご様子です」

エルザが、音もなく俺の背後に忍び寄り、モニターを覗き込んだ。
彼女の碧眼は、馬車の惨状よりも、俺が次にどのような「神具」を取り出すのかという期待に輝いている。
彼女にとって、俺の行動のすべては、この世界の常識を破壊するエンターテインメントなのだ。

「車軸か……。木材が完全に分離してるな。あれじゃ魔法でもくっつかないだろ」

この世界の修復魔法は、素材の断面が綺麗でなければ機能しないことが多い。
あんな風にササラのように裂けてしまっては、高位の魔術師でもお手上げだ。
俺は面倒だが、見捨てるわけにもいかないと判断し、カウンターの下にある「補修用品」の棚を探った。
ガサゴソと音を立てて取り出したのは、ずっしりとした重量感のある円筒形。
表面が鈍い銀色の光沢を放つ、粘着テープの王様。
『布ガムテープ・強力シルバー』。
現代日本において、引っ越しの荷造りから、台風時の窓ガラス補強、果ては簡易的な配管修理までこなす、万能の拘束具だ。
基材にポリエチレンラミネート布を使用しており、手で切れるのに、一度貼り付けば大の男が引っ張っても千切れない強度を誇る。

「……ほう。銀色……。ミスリルを遥かに凌駕する純度ですね」

エルザが、テープの断面を見て喉を鳴らした。
彼女の目には、そのロールが「銀竜の皮を極限まで薄くなめし、無限の長さを巻き取った封印の書」に見えているらしい。

「ガムテだ。これなら折れた木でも無理やり固定できる」

俺はテープを手に持ち、自動ドアのロックを解除した。
ウィーン、という電子音と共に扉が開く。
雨上がりの湿った空気が、ねっとりと肌に纏わりつく。
不快だ。一秒でも早く作業を終わらせて、エアコンの聖域に戻らなければならない。
俺は足早に裏路地へと向かった。

現場は、お通夜のような空気に包まれていた。
聖騎士たちは泥だらけになりながら地面に跪き、レティアは折れた車軸の前で祈りを捧げている。
彼女の純白の法衣の裾が、泥水で汚れているのも気にしていない様子だ。

「……ああっ! 聖導師様!」

俺の姿を認めるなり、レティアが弾かれたように顔を上げ、涙目で駆け寄ってきた。

「大変なのです! 陛下への献上物を運ぶ大事な馬車が、このような場所で……!
回復魔法も、物質修復(リペア)の術式も試みましたが、折れた場所が悪すぎて、魔力が定着しません!
これは、教団の失態……。神が我らに試練をお与えになったのでしょうか……」

彼女は両手を胸の前で組み、悲痛な声を上げた。
国王への献上品を運ぶ馬車が、路地裏で大破。
確かに、責任問題になれば聖女の首の一つや二つでは済まないかもしれない。
周囲の騎士たちも、「もはやこれまでか……」「腹を切って詫びるしか……」と物騒なことを呟き始めている。

「大丈夫だ。神様の試練じゃない。ただの整備不良だ」

俺は淡々と告げ、手に持っていた銀色の円盤を掲げた。
曇り空の下でも、そのテープは鈍く、重厚な輝きを放っている。

「……それは? 銀色の……円盤?」

レティアが瞬きをして、俺の手元を凝視した。

「これがあれば、因果ごと固定してやる。折れた骨だろうが、砕けた木だろうが関係ない」

「因果を……固定する……?」

彼女の呟きが波紋のように広がり、騎士たちが息を呑んで俺に注目する。
彼らの視線が、俺の持つ『布ガムテープ』に一点集中した。
彼らの目には、それが現代の量産品ではなく、「時空の裂け目を塞ぐために神々が鍛造した、銀色の包帯」として映っているのが手にとるように分かる。

俺は折れた車軸の前にしゃがみ込んだ。
裂けた木材の断面を、パズルのように強引に噛み合わせる。
ささくれ立った部分が邪魔だが、力任せに押し込めば問題ない。
俺の腕力は、この世界の基準を遥かに超えている。
バキッ、と木材が悲鳴を上げ、元の形に収まった。
だが、手を離せばすぐに崩れ落ちる不安定な状態だ。

「……見てろよ」

俺はガムテープの端を指で摘み、粘着面を露出させた。
そして、一気に引き出した。

バリバリバリバリバリッ!!!!

静寂な路地に、雷鳴のような破壊音が轟いた。
強力な粘着剤が剥離する際に生じる、空気を引き裂くような摩擦音。
その「音」だけで、周囲にいた騎士たちが「ひいっ!?」と腰を抜かして後ずさった。

「……な、なんだ、今の音は……!?」
「空間が……空間が悲鳴を上げているぞ!」
「封印が解かれた音だ! 何という、恐ろしい魔音……!」

彼らにとって、ガムテープを剥がす音は、高位の召喚魔法が発動する際の大気の振動、あるいは魔獣の咆哮に聞こえるらしい。
確かに、静かな場所で聞くと結構うるさい音ではある。

俺は騎士たちの反応を無視し、露出した粘着面を車軸の亀裂部分に押し当てた。
ペタリ。
強力な粘着剤が、木材の微細な凹凸に食い込み、分子レベルで結合を開始する。
そして、俺はテープを引っ張りながら、手首のスナップを効かせてぐるぐると巻き付けていった。

シュッ、バリバリッ! シュッ、バリバリッ!

銀色の帯が、螺旋を描いて車軸を覆っていく。
一重、二重、三重。
巻くたびに強度は増し、折れていた箇所は、もはや元の木材よりも遥かに強固な「銀の筒」へと変貌していく。
テープの表面にある布目(メッシュ)が、光を受けて幾何学的な模様を描き出す。

「……見よ。あの網目模様を……」

レティアが、震える声で呟いた。

「あれは、ただの模様ではありません。
極小のルーン文字が、無限に連なっているのです……!
『結合』『不変』『永劫』……。
物質の時間をその瞬間に固定する、絶対的な命令式が編み込まれています!」

……ただの繊維の編み目なんだが。
彼女の解釈力は、常に俺の想像の斜め上を行く。
十重ほど巻き付け、ガチガチに固めたところで、俺はテープを素手で引きちぎった。

ブチッ!!

指先の力だけで、強靭な布テープを切断する。
その手際の良さに、騎士たちが再び「おおっ……」と感嘆の声を漏らした。
切断面を指で撫でて圧着させれば、作業は完了だ。

「……よし。これで、絶対に離れないぞ」

俺は補修した箇所を、拳でコンコンと叩いて見せた。
硬質で、中身の詰まった音が返ってくる。
完璧だ。

「……ほ、本当に……? あの無惨に砕けた車軸が……?」

レティアはおそるおそる近づき、銀色のテープが巻かれた部分に触れた。
指先に伝わる、圧倒的な剛性。
そして、テープ表面の独特なざらつき。

「……硬い。鋼鉄よりも硬く、そして温かい……。
これが、物理的な『接合』を超えた、『融合』の手触りなのですね。
私の魔力感知が、このテープの内側で、木材たちが歓喜の声を上げているのを感じ取っています。
『もう二度と離れない』と……!」

彼女は感極まり、涙ぐみながらテープに頬ずりしそうな勢いだ。
騎士たちも、恐る恐る馬車を押してみる。
ギシッ……ゴロン。
巨大な車輪が回転し、車体が持ち上がった。
折れていたはずの車軸は、悲鳴を上げることなく、数トンの重量を涼しい顔で支えている。

「……動いた! 軋み一つしないぞ!」
「奇跡だ……! 時間を巻き戻した上に、強度を増している!」
「これが、聖導師様の『因果縫合』の御業……!」

騎士たちが一斉にその場に平伏した。
泥水に膝をつくことも厭わず、俺に向かって最敬礼を送ってくる。
馬車が直っただけで大騒ぎだ。
だが、彼らにとっては、国家の威信と自らの命を救われたに等しい出来事なのだろう。

「店主様……。この『不滅の銀布』、もし予備がおありでしたら、私に分けていただけないでしょうか!」

レティアが、俺の手にある残りのテープを熱っぽい瞳で見つめながら懇願してきた。
彼女の瞳には、崇拝を超えた、狂信的な光が宿っている。

「これがあれば、私は巡礼の旅で、どんな災厄に見舞われても怖くありません!
折れた杖も、破れた天幕も、そして信徒たちの揺らぐ信仰心さえも、この銀の帯で繋ぎ止めることができる気がします!」

信仰心をガムテで補強するのはどうかと思うが、物理的な修繕には役立つだろう。
教団の古い施設など、ガタが来ている場所は多いはずだ。

「一本八百円だ。何にでも使えるが、肌に直接貼るなよ。剥がす時、皮膚ごと持っていかれるからな」

「皮膚ごと……!? 一度触れたら、魂まで捕縛するという『絶対契約』の呪具なのですね!?」

レティアは戦慄しつつも、懐から金貨を数枚取り出し、俺に握らせた。
俺は使いかけのロールを彼女に手渡した。
彼女はそれを、まるで聖遺物を収める黄金の箱にでも入れるかのように、絹のハンカチで包み、懐の奥深くへとしまい込んだ。

「感謝いたします、聖導師様!
この『シルバー・バインド』の御名は、教団の聖典に新たな章として書き加えさせていただきます!
さあ、皆の者! 献上品を陛下のもとへ!
我らには、聖導師様の加護がついている!」

レティアの号令一下、騎士たちは雄叫びを上げ、馬車を動かし始めた。
車輪が軽快な音を立てて石畳の上を転がっていく。
銀色のテープが巻かれた車軸が回転するたびに、鈍い光が点滅し、騎士たちがそれを拝みながら行進していく様は、異様な宗教儀式のようだった。

「……主様。また、この世界の『物の寿命』という概念を、力技で書き換えましたね」

いつの間にか外に出てきていたエルザが、呆れたように、しかし誇らしげに呟いた。
彼女の手には、俺が以前渡した「おにぎりの包み紙(ラップ)」が握りしめられている。
彼女もまた、現代の石油化学製品の信奉者の一人だ。

「書き換えてない。補強しただけだ。物は大切に使わないとな」

俺は肩をすくめ、店内に戻った。
自動ドアが閉まり、再び静寂と冷気が俺を包み込む。
レジカウンターに戻り、今日の売上を確認する。
ガムテープ一本で金貨数枚。
利益率は計算するのも馬鹿らしいほどだ。

俺は事務スペースに行き、自分用の昼食を用意することにした。
棚から取り出したのは、『日清カップヌードル・カレー味』。
フィルムを剥がし、蓋を半分まで開ける。
ポットの給湯ボタンを押し、熱湯を注ぐ。
濃厚なカレーの香りが立ち昇り、先ほどまでの泥の臭いを上書きしていく。

「……あと三分。この待ち時間がいいんだ」

俺はスマホのタイマーをセットし、カウンターの椅子に深く座り直した。
三分間。
それは、麺が水分を吸い、スープが完全に溶け合い、至高の味が完成するまでの聖なる時間だ。
外の騒動も、宗教家の狂信も、この三分間だけは俺の意識の外にある。

ふと、店の外から野太い叫び声が聞こえた。
通りすがりの冒険者が、去っていった馬車の噂を聞きつけたらしく、店のドアを叩いている。

「頼む! 店主殿! あの『銀の布』を一枚、俺の盾に貼ってくれ!
あれがあれば、ドラゴンの爪も弾き返せるって聞いたんだ!」

……ガムテープでドラゴンの爪は防げないと思うが、気休めにはなるかもしれない。
だが、今の俺は動かない。
タイマーの数字がゼロになるまで、俺は誰にも邪魔させない。
俺は無言で、デジタル時計の数字が減っていくのを、ただ静かに見つめ続けた。
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