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王都の方角から押し寄せる黒い霧。
それは、かつて私が浄化し、地の底に封印したはずの「怨嗟の魔力」だった。
エリアナは、民を救うための魔力が底を突き、ついに禁忌の封印を解いたらしい。
霧の中からは、腐敗した肉体を無理やり繋ぎ合わせたような、醜悪な魔物たちが這い出してくる。
「……お姉様……私の、力を……返して……!」
霧の奥から、エリアナの歪んだ声が風に乗って聞こえてくる。
彼女は自分の魔力を補うために、死者の因果を喰らい、己の魂を汚染させていた。
「見苦しいわね。エリアナ」
私は城壁の端に立ち、迫りくる黒い軍勢を見下した。
民たちは恐怖に震え、広場で泣き叫びながら私に祈りを捧げている。
「ユリアナ様! お助けください! あの怪物たちが、私たちを殺しに来ます!」
「静かにしなさい。あんなゴミ同然の連中、私の視界に入る価値もないわ」
私は右手を高く掲げた。
指先から放たれたのは、浄化の光ではない。
対象の存在意義を根底から覆す、冷徹な因果の鎖だ。
【因果逆転】
対象は、エリアナが呼び出した死者の軍勢が持つ「死の永劫性」と「生への未練」。
「……反転しなさい。あなたたちの苦しみは、私の国の『肥料』になるのよ」
私が鎖を振り下ろすと、黒い霧が一瞬にして純白の光へと変換された。
迫りくる魔物たちは、自分たちが抱えていた憎悪を奪われ、その場に崩れ落ちる。
彼らの肉体は塵となり、その魂に刻まれていた数千年の「時間」という因果が、私の城下町の大地へと吸い込まれていった。
瞬間、冬のような寒さだった周囲に、春のような暖かな風が吹き荒れる。
地面からは見たこともない大輪の花々が咲き乱れ、木々は一瞬にして黄金の果実を実らせた。
「お、おおお……! 奇跡だ! ユリアナ様が、死の呪いを祝福に変えられたぞ!」
民たちが狂喜乱舞し、地面に這いつくばって花を喰らう。
彼らにとっては奇跡。
だが、私にとっては、妹が必死に集めた「不幸」を「豊穣」に変換して横取りしただけに過ぎない。
「……があぁぁぁ! なぜ!? なぜ私の魔術が効かないのよ!」
霧が晴れた先、一機の浮遊馬車に乗ったエリアナの姿が見えた。
彼女の顔は、死者の呪いを受けたせいで、半分がどす黒い斑点に覆われている。
かつての美貌はどこにもない。
「エリアナ。あなたが投げた石は、すべて私を飾る宝石になったわ。ありがとう」
「ふざけないで! 私は聖女よ! 私は、愛される存在なのよ!」
エリアナが叫び、馬車から無理やり身を乗り出す。
その横には、怯えた表情で彼女の肩を抱くシグルドの姿もあった。
シグルドは私の城の威容を見て、腰を抜かさんばかりに震えている。
「ユ、ユリアナ……。悪かった、私が間違っていた! だから、その力を王国の復興のために……」
「今更何を言っているの? あなたたちの『謝罪』なんて、一貨の価値もないわ」
私はシグルドの言葉を遮り、彼の「王族としての血筋」に指を向けた。
【因果逆転】
対象は、シグルドが生まれながらに持っていた「高貴な出自」という因果。
「……消えなさい。あなたは今日から、どこの誰とも分からない『名もなき卑賤な男』よ」
スキルの発動と共に、シグルドの体から金色の光の粒が剥ぎ取られていく。
彼の瞳から知性が失われ、立ち居振る舞いから気品が消え失せた。
シグルドは自分が誰であるか、なぜここにいるのかさえ分からなくなり、馬車から転げ落ちた。
「あ、ああ……? 腹が減った……。何か……食べ物を……」
彼はかつての婚約者である私の前で、泥水を啜りながら這い蹲った。
「シグルド様!? 何をしているの、しっかりして!」
エリアナが叫ぶが、彼女の声はシグルドには届かない。
今の彼は、自分がかつて見下していた浮浪者そのものだ。
私はエリアナに向かって、優雅に手招きをした。
「次はあなたの番よ、エリアナ。あなたが私に擦り付けた『偽聖女』という汚名。それを、そのままあなたの魂に刻んであげる」
「嫌っ……来ないで! 私は……私はぁ!」
エリアナが必死に逃げようとするが、私の放った純白の鎖が彼女の四肢を無慈悲に拘束する。
彼女の体内にある、私から奪った魔力。
それが、私の呼びかけに応じるように激しく暴れ始めた。
「返して。私のすべてを」
私はエリアナの胸元に手を触れ、一気に力を引き抜こうとした。
その時、王都の方向から、天を突くような巨大な光の柱が立ち昇った。
それは、王国が最後の守護神として隠し持っていた「古代兵器」の起動を意味していた。
「あはは! 間に合ったわ! お姉様、一緒に死にましょう!」
拘束されたまま、エリアナが狂ったように笑い声を上げる。
「アスタロト、あれは何?」
私は眉をひそめ、光の柱を凝視した。
「……古の神々が遺したとされる、因果消滅兵器『ラグナロク』ですね。どうやら王家は、自分たちの滅亡と共に、この大陸すべてを無に帰すつもりのようです」
アスタロトが少しだけ真剣な表情を見せる。
私は口角を吊り上げた。
「無に帰す? 面白いじゃない」
「その『破壊の因果』、丸ごと私の胃袋に収めてあげるわ」
私は城を離れ、光の柱が立つ王都へと向かって、ゆっくりと空を歩き出した。
エリアナとシグルドを、鎖で犬のように引きずりながら。
それは、かつて私が浄化し、地の底に封印したはずの「怨嗟の魔力」だった。
エリアナは、民を救うための魔力が底を突き、ついに禁忌の封印を解いたらしい。
霧の中からは、腐敗した肉体を無理やり繋ぎ合わせたような、醜悪な魔物たちが這い出してくる。
「……お姉様……私の、力を……返して……!」
霧の奥から、エリアナの歪んだ声が風に乗って聞こえてくる。
彼女は自分の魔力を補うために、死者の因果を喰らい、己の魂を汚染させていた。
「見苦しいわね。エリアナ」
私は城壁の端に立ち、迫りくる黒い軍勢を見下した。
民たちは恐怖に震え、広場で泣き叫びながら私に祈りを捧げている。
「ユリアナ様! お助けください! あの怪物たちが、私たちを殺しに来ます!」
「静かにしなさい。あんなゴミ同然の連中、私の視界に入る価値もないわ」
私は右手を高く掲げた。
指先から放たれたのは、浄化の光ではない。
対象の存在意義を根底から覆す、冷徹な因果の鎖だ。
【因果逆転】
対象は、エリアナが呼び出した死者の軍勢が持つ「死の永劫性」と「生への未練」。
「……反転しなさい。あなたたちの苦しみは、私の国の『肥料』になるのよ」
私が鎖を振り下ろすと、黒い霧が一瞬にして純白の光へと変換された。
迫りくる魔物たちは、自分たちが抱えていた憎悪を奪われ、その場に崩れ落ちる。
彼らの肉体は塵となり、その魂に刻まれていた数千年の「時間」という因果が、私の城下町の大地へと吸い込まれていった。
瞬間、冬のような寒さだった周囲に、春のような暖かな風が吹き荒れる。
地面からは見たこともない大輪の花々が咲き乱れ、木々は一瞬にして黄金の果実を実らせた。
「お、おおお……! 奇跡だ! ユリアナ様が、死の呪いを祝福に変えられたぞ!」
民たちが狂喜乱舞し、地面に這いつくばって花を喰らう。
彼らにとっては奇跡。
だが、私にとっては、妹が必死に集めた「不幸」を「豊穣」に変換して横取りしただけに過ぎない。
「……があぁぁぁ! なぜ!? なぜ私の魔術が効かないのよ!」
霧が晴れた先、一機の浮遊馬車に乗ったエリアナの姿が見えた。
彼女の顔は、死者の呪いを受けたせいで、半分がどす黒い斑点に覆われている。
かつての美貌はどこにもない。
「エリアナ。あなたが投げた石は、すべて私を飾る宝石になったわ。ありがとう」
「ふざけないで! 私は聖女よ! 私は、愛される存在なのよ!」
エリアナが叫び、馬車から無理やり身を乗り出す。
その横には、怯えた表情で彼女の肩を抱くシグルドの姿もあった。
シグルドは私の城の威容を見て、腰を抜かさんばかりに震えている。
「ユ、ユリアナ……。悪かった、私が間違っていた! だから、その力を王国の復興のために……」
「今更何を言っているの? あなたたちの『謝罪』なんて、一貨の価値もないわ」
私はシグルドの言葉を遮り、彼の「王族としての血筋」に指を向けた。
【因果逆転】
対象は、シグルドが生まれながらに持っていた「高貴な出自」という因果。
「……消えなさい。あなたは今日から、どこの誰とも分からない『名もなき卑賤な男』よ」
スキルの発動と共に、シグルドの体から金色の光の粒が剥ぎ取られていく。
彼の瞳から知性が失われ、立ち居振る舞いから気品が消え失せた。
シグルドは自分が誰であるか、なぜここにいるのかさえ分からなくなり、馬車から転げ落ちた。
「あ、ああ……? 腹が減った……。何か……食べ物を……」
彼はかつての婚約者である私の前で、泥水を啜りながら這い蹲った。
「シグルド様!? 何をしているの、しっかりして!」
エリアナが叫ぶが、彼女の声はシグルドには届かない。
今の彼は、自分がかつて見下していた浮浪者そのものだ。
私はエリアナに向かって、優雅に手招きをした。
「次はあなたの番よ、エリアナ。あなたが私に擦り付けた『偽聖女』という汚名。それを、そのままあなたの魂に刻んであげる」
「嫌っ……来ないで! 私は……私はぁ!」
エリアナが必死に逃げようとするが、私の放った純白の鎖が彼女の四肢を無慈悲に拘束する。
彼女の体内にある、私から奪った魔力。
それが、私の呼びかけに応じるように激しく暴れ始めた。
「返して。私のすべてを」
私はエリアナの胸元に手を触れ、一気に力を引き抜こうとした。
その時、王都の方向から、天を突くような巨大な光の柱が立ち昇った。
それは、王国が最後の守護神として隠し持っていた「古代兵器」の起動を意味していた。
「あはは! 間に合ったわ! お姉様、一緒に死にましょう!」
拘束されたまま、エリアナが狂ったように笑い声を上げる。
「アスタロト、あれは何?」
私は眉をひそめ、光の柱を凝視した。
「……古の神々が遺したとされる、因果消滅兵器『ラグナロク』ですね。どうやら王家は、自分たちの滅亡と共に、この大陸すべてを無に帰すつもりのようです」
アスタロトが少しだけ真剣な表情を見せる。
私は口角を吊り上げた。
「無に帰す? 面白いじゃない」
「その『破壊の因果』、丸ごと私の胃袋に収めてあげるわ」
私は城を離れ、光の柱が立つ王都へと向かって、ゆっくりと空を歩き出した。
エリアナとシグルドを、鎖で犬のように引きずりながら。
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