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フェンリルのロースト――その余韻が、まだ舌に残ってる。
というか、喉から胃の奥まで、いまも“力”が流れてる感じ。
食べた瞬間に血が巡って、気づけば視界が澄んでた。
「……なんか、ちょっと走りたい気分です……」
「それ、正常な反応よ」
ヴァルミナ様がくすっと笑った。笑い方も上品なのに、ちょっとだけお姉さんぽくて、なんかズルい。
「フェンリルの肋骨肉は“闘争本能”に関わる部位。気が高まるよう設計してあるの」
「えっ、設計って、料理を“設計”って表現するんですか……!?」
「はい。“食設式”と呼んでます。これは私の流派のひとつ」
私の脳内で、冒険者時代に見た超高位魔法の記憶が蘇る。
(えっ、それ、どっかの魔導陣師が言ってたセリフ……!)
って思ったけど、いまは目の前の料理に集中する。
「さて……次は、〆のパスタですね」
運ばれてきたのは、黒と金が混ざり合ったリボン状のパスタ。
一瞬、これパスタ? って目を疑った。なにせ、見た目がほぼ“儀式”。
「こちら、“穀霊パスタ”。地霊の加護を持つ麦を、月光下で練り上げた手打ち生麺。香り、噛みごたえ、そして“体内との対話性”が特徴です」
「たい、たいわせい……?」
「食べた瞬間、あなたの“今足りない栄養”を自動的に補うソースに変わります」
「それって、もはや……オーダーメイドじゃないですか……私専用の……!」
「まさに、“今の佐倉さん”のための味よ。どうぞ」
言われた通り、ひと口。
口の中に広がったのは――
「……んっ……、や、優しい……」
とろみのあるソースが、じんわり喉を通って、体の奥にしみわたる。
さっきまでガンガンに上がっていた闘志が、ふわりと落ち着いていく感じ。
(あ……これ、バランス取られてるんだ)
たしかに、フェンリルのローストは“高揚”だった。
でもこのパスタは、ちゃんと“鎮静”の役目を果たしてる。
胃にやさしくて、でも味は濃厚。香りも、草原と木の実のあいだみたいな不思議なハーブ系。
「これ、……もう一生分食べたいです……」
「ふふ、ありがとうございます。でも、食べすぎると逆に感覚が鈍りますよ?」
「うう、そっち系の“贅沢病”があるなんて……」
ほんと、このお店の料理はひと皿ひと皿が魔法すぎる。
「それでは、デザートをお持ちしますね。最後は“夢見ミルクのブランマンジェ”。フェンリル蜂蜜とご一緒に」
ヴァルミナ様の手からそっと差し出されたグラスカップ。
白いミルクの層に、とろりと金色のハチミツがかかっていて、上には小さな青い花が飾られている。
「うわ……見た目が、もう夢……」
「この蜂蜜、フェンリルが棲んでいた森林で採れたもの。“幻視花”という植物の蜜を含んでいて、食後の脳波を安定させる効果があります」
「……すごい、デザートがヒーリングアイテム扱いされてる……」
スプーンですくって、ぱくり。
「……あああ~~~……っ」
口に入れた瞬間、舌がふんわりと包まれる。
ミルクはとろっとしていて、でも舌触りはすべすべ。
蜂蜜が後から追いかけてきて、甘さの尾を引いてくれる。
「……これ、ずっと食べていたい……」
「それはきっと、“今日一日よくがんばったね”って体が言ってるの」
「……なんか、泣きそう」
でも涙じゃない。
これは、“満たされた”ってだけの反応。
心と身体が、ごちそうさまって言ってる。
「以上で本日のコース、すべて終了です。佐倉レナ様、お楽しみいただけましたか?」
ヴァルミナ様が、きちんと姿勢を正して一礼してくれた。
「はいっ、すっっっごく! ……たぶん、今年いちばんの幸せ時間でした!」
「それは良かった。では、最後に――」
彼女がそっと、小さな革の小包を手渡してくる。
「今回使用したフェンリル蜂蜜をベースにした“夜用ハーブティー”です。おやすみ前に、ぜひ」
「っ、そんなの……ありがとうございますっ!」
受け取った包みから、ほんのり甘い香りがふわっと漂ってくる。
これ、今日の味の記憶が、明日の夜にも残るやつだ。
帰り道、私はいつものように駅へ向かって歩きながら、スマホを開く。
〈モンス飯亭〉の最新投稿が上がってた。
『【完売御礼】フェンリル×料理神官コース、満席での終了となりました。来週のテーマは“地底魚と世界樹ワイン”。乞うご期待』
「……えっ、地底魚!? 世界樹ワインって何!?」
衝撃に酔いが吹き飛びかけた。
私の胃袋に、また新たな冒険が待っているらしい――
というか、喉から胃の奥まで、いまも“力”が流れてる感じ。
食べた瞬間に血が巡って、気づけば視界が澄んでた。
「……なんか、ちょっと走りたい気分です……」
「それ、正常な反応よ」
ヴァルミナ様がくすっと笑った。笑い方も上品なのに、ちょっとだけお姉さんぽくて、なんかズルい。
「フェンリルの肋骨肉は“闘争本能”に関わる部位。気が高まるよう設計してあるの」
「えっ、設計って、料理を“設計”って表現するんですか……!?」
「はい。“食設式”と呼んでます。これは私の流派のひとつ」
私の脳内で、冒険者時代に見た超高位魔法の記憶が蘇る。
(えっ、それ、どっかの魔導陣師が言ってたセリフ……!)
って思ったけど、いまは目の前の料理に集中する。
「さて……次は、〆のパスタですね」
運ばれてきたのは、黒と金が混ざり合ったリボン状のパスタ。
一瞬、これパスタ? って目を疑った。なにせ、見た目がほぼ“儀式”。
「こちら、“穀霊パスタ”。地霊の加護を持つ麦を、月光下で練り上げた手打ち生麺。香り、噛みごたえ、そして“体内との対話性”が特徴です」
「たい、たいわせい……?」
「食べた瞬間、あなたの“今足りない栄養”を自動的に補うソースに変わります」
「それって、もはや……オーダーメイドじゃないですか……私専用の……!」
「まさに、“今の佐倉さん”のための味よ。どうぞ」
言われた通り、ひと口。
口の中に広がったのは――
「……んっ……、や、優しい……」
とろみのあるソースが、じんわり喉を通って、体の奥にしみわたる。
さっきまでガンガンに上がっていた闘志が、ふわりと落ち着いていく感じ。
(あ……これ、バランス取られてるんだ)
たしかに、フェンリルのローストは“高揚”だった。
でもこのパスタは、ちゃんと“鎮静”の役目を果たしてる。
胃にやさしくて、でも味は濃厚。香りも、草原と木の実のあいだみたいな不思議なハーブ系。
「これ、……もう一生分食べたいです……」
「ふふ、ありがとうございます。でも、食べすぎると逆に感覚が鈍りますよ?」
「うう、そっち系の“贅沢病”があるなんて……」
ほんと、このお店の料理はひと皿ひと皿が魔法すぎる。
「それでは、デザートをお持ちしますね。最後は“夢見ミルクのブランマンジェ”。フェンリル蜂蜜とご一緒に」
ヴァルミナ様の手からそっと差し出されたグラスカップ。
白いミルクの層に、とろりと金色のハチミツがかかっていて、上には小さな青い花が飾られている。
「うわ……見た目が、もう夢……」
「この蜂蜜、フェンリルが棲んでいた森林で採れたもの。“幻視花”という植物の蜜を含んでいて、食後の脳波を安定させる効果があります」
「……すごい、デザートがヒーリングアイテム扱いされてる……」
スプーンですくって、ぱくり。
「……あああ~~~……っ」
口に入れた瞬間、舌がふんわりと包まれる。
ミルクはとろっとしていて、でも舌触りはすべすべ。
蜂蜜が後から追いかけてきて、甘さの尾を引いてくれる。
「……これ、ずっと食べていたい……」
「それはきっと、“今日一日よくがんばったね”って体が言ってるの」
「……なんか、泣きそう」
でも涙じゃない。
これは、“満たされた”ってだけの反応。
心と身体が、ごちそうさまって言ってる。
「以上で本日のコース、すべて終了です。佐倉レナ様、お楽しみいただけましたか?」
ヴァルミナ様が、きちんと姿勢を正して一礼してくれた。
「はいっ、すっっっごく! ……たぶん、今年いちばんの幸せ時間でした!」
「それは良かった。では、最後に――」
彼女がそっと、小さな革の小包を手渡してくる。
「今回使用したフェンリル蜂蜜をベースにした“夜用ハーブティー”です。おやすみ前に、ぜひ」
「っ、そんなの……ありがとうございますっ!」
受け取った包みから、ほんのり甘い香りがふわっと漂ってくる。
これ、今日の味の記憶が、明日の夜にも残るやつだ。
帰り道、私はいつものように駅へ向かって歩きながら、スマホを開く。
〈モンス飯亭〉の最新投稿が上がってた。
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