元Sランク受付嬢の、路地裏ひとり酒とまかない飯

☆ほしい

文字の大きさ
29 / 80

29

しおりを挟む
ああ、今日も疲れた。ギルドでの一日はやっぱり長い。忙しいとはいえ、結局帰ってきてまたこうしてモンス飯亭のカウンターに座ると、すべての疲れがすっと消えるから不思議だ。

「いらっしゃい」

「カウンター空いてますか?」

女将さんがにっこりと笑いながら案内してくれる。その笑顔を見ると、仕事で疲れていた気持ちが少し和らぐ。

「もちろん。あなただけの特等席、空けてあるわよ」

「ありがとうございます」

何気ない言葉に、いつもながら心から感謝している。席に着いて、バッグを置いてから、メニューを見てみる。やっぱり、ここに来たら、何を食べるか迷うけど、だいたい決まっている。

「今日は……あ、これだ!」

目に飛び込んできたのは「ドラゴン卵のスクランブルエッグと、雷獣の肉のグリル」という、まさに私の好みの料理だった。

「それ、お願いします」

女将さんがにっこりと微笑んで、キッチンに向かう。

待っている間に、ゆっくりと席でリラックス。カウンターの向こうから、女将さんの軽快な手際の音が聞こえる。

しばらくして、目の前に出されたのは、ふわっと膨らんだスクランブルエッグに、見事に焼き上げられた雷獣の肉が添えられている料理。

「いただきます」

まずはスクランブルエッグをひと口。ふわっとした卵が口の中で広がり、そのまろやかな味わいが心地よく広がる。

「うん、これだよ、これ」

卵の柔らかさに、ほんのりとした塩味が絶妙に調和している。しっかりと味付けされているけれど、卵そのものの甘みも感じられる。まさに、これが食べたかったんだ。

次に、雷獣の肉を切って、ひと口。思った通り、肉の味わいはとても深い。雷獣という名前から、少しクセがあるのかと思ったけれど、焼き加減が完璧で、香ばしさとともに、肉の旨みが口いっぱいに広がる。

「うわぁ、これ、ほんとにおいしい」

ビールを一口飲んで、ふと外を見る。外の夜空はすっかり暗く、街の灯りがぼんやりと浮かんでいる。こんな夜、やっぱりひとりで食べるのが一番だ。何も考えずに、ただ美味しい料理を味わって、ゆっくり過ごす。

「あー、いいなぁ。幸せだなぁ」

ほんのり酔いが回ると、体の力が抜けて、心がリラックスしていくのを感じる。今、私はこの時間を大切にしている。

しばらくして、料理がほとんど終わる頃、女将さんが声をかけてきた。

「どうだった、今日は?」

「最高でした。卵のスクランブルエッグ、ふわっふわで、ほんとに美味しいですね。雷獣の肉も、焼き加減が絶妙で、ほんとに大満足です」

女将さんはにっこりと笑いながら、私の反応を見て満足そうにうなずく。

「よかったわ。それにしても、あなたがいつも頼むもの、だいたい分かるようになってきたわ」

「ふふ、やっぱり、私の好みはバレてますね」

軽く笑いながら、私は最後の一口を食べて、グラスのビールを飲み干す。ビールの泡が喉を通るたびに、心地よい満足感が広がる。

「お代は、今日もそのままでいいわね?」

「もちろんです。毎度ありがとうございます」

支払いを済ませると、女将さんが軽く頭を下げる。

「こちらこそ、ありがとう。次もお楽しみにね」

その言葉に軽く手を振って、席を立つ。

「はい、また来ますね」

店を出て、夜風に当たりながら歩き出す。外は少し肌寒く、冷たい風が心地よく感じる。歩いていると、今日一日の疲れがじわじわと抜けていくのが分かる。

こんな時間がずっと続けばいいのに。毎日、仕事を終えて、美味しいご飯を食べて、ひとりで静かな夜を過ごす。

「明日も、また来よう」

そう思いながら歩いていると、家が見えてきた。静かな夜道を歩くこの時間が、私にとっては何よりも大切なひとときだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】 異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。 『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。 しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。 そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。

異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ
ファンタジー
「あの魔物の倒し方なら、30万円で売るよ!」  ――これは、現代日本にダンジョンが出現して間もない頃の物語。  カクヨムにて先行連載中です! (https://kakuyomu.jp/works/16818023211703153243)  異世界で名を馳せた英雄「一条 拓斗(いちじょう たくと)」は、現代日本に帰還したはいいが、異世界で鍛えた魔力も身体能力も失われていた。  残ったのは魔物退治の経験や、魔法に関する知識、異世界言語能力など現代日本で役に立たないものばかり。  一般人として生活するようになった拓斗だったが、持てる能力を一切活かせない日々は苦痛だった。  そんな折、現代日本に迷宮と魔物が出現。それらは拓斗が異世界で散々見てきたものだった。  そして3年後、ついに迷宮で活動する国家資格を手にした拓斗は、安定も平穏も捨てて、自分のすべてを活かせるはずの迷宮へ赴く。  異世界人「フィリア」との出会いをきっかけに、拓斗は自分の異世界経験が、他の初心者同然の冒険者にとって非常に有益なものであると気づく。  やがて拓斗はフィリアと共に、魔物の倒し方や、迷宮探索のコツ、魔法の使い方などを、時に直接売り、時に動画配信してお金に変えていく。  さらには迷宮探索に有用なアイテムや、冒険者の能力を可視化する「ステータスカード」を発明する。  そんな彼らの活動は、ダンジョン黎明期の日本において重要なものとなっていき、公的機関に発展していく――。

我が家と異世界がつながり、獣耳幼女たちのお世話をすることになった件【書籍化決定!】

木ノ花
ファンタジー
【第13回ネット小説大賞、小説部門・入賞!】 マッグガーデン様より、書籍化決定です! 異世界との貿易で資金を稼ぎつつ、孤児の獣耳幼女たちをお世話して幸せに! 非日常ほのぼのライフの開幕! パワハラに耐えかねて会社を辞め、独り身の気楽な無職生活を満喫していた伊海朔太郎。 だが、凪のような日常は驚きとともに終わりを告げた。 ある日、買い物から帰宅すると――頭に猫耳を生やした幼女が、リビングにぽつんと佇んでいた。 その後、猫耳幼女の小さな手に引かれるまま、朔太郎は自宅に現れた謎の地下通路へと足を踏み入れる。そして通路を抜けた先に待ち受けていたのは、古い時代の西洋を彷彿させる『異世界』の光景だった。 さらに、たどり着いた場所にも獣耳を生やした別の二人の幼女がいて、誰かの助けを必要としていた。朔太郎は迷わず、大人としての責任を果たすと決意する――それをキッカケに、日本と異世界を行き来する不思議な生活がスタートする。 最初に出会った三人の獣耳幼女たちとのお世話生活を中心に、異世界貿易を足掛かりに富を築く。様々な出会いと経験を重ねた朔太郎たちは、いつしか両世界で一目置かれる存在へと成り上がっていくのだった。 ※まったり進行です。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

商人でいこう!

八神
ファンタジー
「ようこそ。異世界『バルガルド』へ」

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

処理中です...