元Sランク受付嬢の、路地裏ひとり酒とまかない飯

３０

仕事を終えて、ギルドから足早に出ると、夜の冷たい空気が顔に当たる。普段はどこかほっとする一歩だけど、今日は少し違う気がした。

「ふふ、今日は、久しぶりに飲んじゃおうかな」

そんな気分になって、自然と足が向かうのは〈モンス飯亭〉だ。毎日のように通うわけじゃないけど、今日みたいな日は心から楽しみたい。

店に入ると、女将さんがすぐに顔を上げて、にっこりと笑って迎えてくれる。

「おかえりなさい、佐倉さん。」

「はい、今日も。カウンター空いてますか？」

「もちろん、空いてるわよ」

席に着くと、いつものようにカウンター越しに見えるキッチンで女将さんが軽やかに動きながら、料理を仕上げていく。とても落ち着く、そんな空気が流れている。

メニューをちらりと見たが、今日は決まっていた。目の前に並んだのは、ビールとシンプルな豆のおつまみ。これだけで心が満たされる。

「……ああ、最高だな」

ビールをひと口。泡が滑らかに喉を通り過ぎていく感覚がたまらない。仕事で凝り固まった頭が一気にほぐれていく。これが私の最高の癒しだ。

「ぷはぁ、うん、この冷たさがたまらない」

グラスを持ちながら、少しだけ顔を上げると、女将さんが温かい笑顔で見守っている。

「どう？　今日のビールも悪くないでしょ？」

「最高です。今日のは特に冷えが良くて……ああ、これこれ」

ビールをひと口飲み、また少しつまむ豆のおつまみ。シンプルな味が、ビールとの相性をバッチリと引き立てている。

「これだな。これが私の定番だ」

無駄に凝ったものは要らない。ただ、ビールとおつまみがあれば、他には何も要らない。そう思いながら、ビールの冷たさを楽しみつつ、豆をつまんでいると、自然とリズムよく口が動く。

「……もう一杯いこうかな」

ビールをあおって、次のグラスを注文する。これから、もう少しの間、今日の余韻を楽しもう。

「今日も忙しかったんですか？」

女将さんが、ちらりと私の方を見て聞いてくる。私はグラスを持ちながら軽く笑って答える。

「うーん、まぁ、忙しかったけど……なんだか今日はすごく飲みたい気分で」

「ふふ、それじゃあ、今日は好きなだけ飲んじゃってください」

女将さんの言葉に、少し安心した気持ちになる。今日は思いっきり楽しんで、明日のことは明日考えることにしよう。

次のビールが運ばれてくると、グラスの中でキラキラと泡が立ち上がる。その見た目を見ているだけで、心が少しだけ満たされる。

「これが、いいんだよな」

ふと、目の前に並べられたシンプルな豆が、しっかりとお酒と絡み合っているのが分かる。味わい深い塩気と、ほんのりとした甘さ。それが一粒一粒に宿っていて、ビールを進ませる。

「ついつい飲みすぎちゃうな」

おつまみが、またひとつひとつ小さな満足感を与えてくれる。その度に、ビールを一口。

「ぷはぁ……最高」

今日は、何も気にせず、ただ飲んで食べて、心からリラックスしたい。仕事のこと、誰かのこと、何も考えずに、ただこの時間を楽しみたい。

グラスを空けると、また次のビールを頼んで、少しだけ目を閉じる。今日の疲れも、思い切り解き放たれて、だんだんと頭が冴えてくる。お酒の力って、やっぱりすごい。

女将さんはキッチンで忙しそうに動きながらも、私が飲み終わるたびに新しいビールを持ってきてくれる。

「ありがとう、女将さん」

「あら、気にしないで。佐倉さんが元気になるのが、私の幸せだわ」

その言葉を聞いて、少しだけ胸が温かくなる。私も、こうして人と心を通わせられることが嬉しい。飲みながらでも、ほんのりとした優しさに包まれるような感覚が、何よりのごちそうだ。

「さて……今日は、どこまで飲んじゃおうかな」

ビールの勢いが止まらない。豆もお酒も、どんどん進んでいく。

「うーん、最高」

おつまみが少なくなると、また新たなものを注文したくなる。でも今日は、このシンプルさがちょうどいい。

「ふふ、こうしていると、時間があっという間に過ぎちゃうね」

グラスが空になりかけると、女将さんが再び新しいビールを持ってきてくれる。今日も、ずっとこうしていられるといいのにな。

「そうですね。こういう日が続けば、毎日幸せなんだけど」

ビールを一口飲み、また一息つく。

しばらく、そうして黙々と飲み続ける。話さなくても、ただこの空間が心地よくて、何もいらないと思える。

「あー、やっぱり……ここのビール、裏切らないな」

言葉が自然に出てきて、つい笑顔になる。今日も最高だ。