【完結】元Sランク受付嬢の、路地裏ひとり酒とまかない飯

旅する書斎(☆ほしい)

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その日の夕方、私はいつものように〈モンス飯亭〉へ向かった。
けれど、今日の気分はいつもとは少し違っていた。
リリアちゃんのことが、どうしても頭から離れないのだ。
無事だといいけれど……。

「いらっしゃい、レナちゃん。……なんだか、今日は元気がないみたいね。何かあったの?」

女将さんが、私の表情を察して心配そうに声をかけてきた。

「ええ、実は……」

私は女将さんに、リリアちゃんのことを話した。
女将さんは黙って私の話を聞き、そして深くため息をついた。

「そうかい……それは心配だねぇ。十五の女の子が、森で一人で三日間も……。早く見つかるといいんだけど」

「はい……。ギルドでも捜索隊を出してはいるんですが……」

「レナちゃんも、気が気じゃないでしょう。今日は、何か温かくて、元気が出るものでも作ってあげるわ。何がいいかしら?」

女将さんの優しい言葉に、少しだけ心が安らぐのを感じた。
こういう時、温かい食事と、誰かの優しさが身に染みる。

「ありがとうございます、女将さん。……それなら、何か……そうですね、鶏肉と野菜がたっぷり入った、生姜の効いたあんかけ丼なんて、どうでしょうか。体が温まって、元気が出そうな気がします」

「鶏肉と野菜の生姜あんかけ丼ね。いいわ、任せなさい。とびきり美味しいのを作ってあげるから」

女将さんは力強く頷くと、すぐに厨房へと向かった。
その手際の良さと、頼もしい背中を見ていると、不思議と少しだけ勇気が湧いてくるような気がした。

しばらくして、湯気を立てるあんかけ丼が運ばれてきた。
ご飯の上には、鶏肉と、色とりどりの野菜がたっぷり入った、とろりとした生姜風味の餡がかかっている。
生姜のいい香りが、食欲をそそる。

「いただきます……」

レンゲで餡とご飯を一緒にすくって、一口。
熱々の餡が口の中に広がり、生姜のピリッとした辛味と、鶏肉や野菜の旨みが溶け合って、なんとも言えない美味しさだ。
とろみのある餡がご飯によく絡み、食べ進めるうちに体が内側からぽかぽかと温まってくる。

(美味しい……。なんだか、本当に元気が出てきたみたい……)

夢中で丼をかき込んでいると、女将さんが隣にそっとお茶を置いてくれた。

「ゆっくりお食べ。焦らなくても、誰も取ったりしないからさ」

「はい……ありがとうございます」

女将さんの優しさが、今の私には本当にありがたい。
このあんかけ丼を食べて、少しでも元気を出して、明日からまた、リリアちゃんのためにできることを考えよう。

あんかけ丼を平らげ、温かいお茶を飲んで一息つくと、だいぶ気分も落ち着いてきた。
心配な気持ちが消えたわけではないけれど、美味しいものを食べて、少しだけ前向きになれた気がする。

「女将さん、ごちそうさまでした。すごく美味しかったです。元気が出ました」

「それは良かったわ。レナちゃんが元気じゃないと、私も心配だからね。リリアちゃんのこと、きっと大丈夫よ。あの子は、森の妖精みたいな子だって噂だもの。きっと、森が守ってくれてるわ」

女将さんが、励ますようにそう言ってくれた。
森の妖精、か。
確かに、ミリアさんの話を聞いていると、リリアちゃんはそんな不思議な魅力を持った少女なのかもしれない。

「そうだと、いいんですけど……」

「大丈夫、信じましょ。そして、私たちにできることは、美味しいものを食べて、元気でいることよ。そうすれば、きっと良い知らせが舞い込んでくるわ」

女将さんの言葉は、いつも不思議な力を持っている。
その言葉を聞いていると、本当にそんな気がしてくるのだ。

「はい、そうですね。ありがとうございます、女将さん」

私は女将さんに深く頭を下げ、〈モンス飯亭〉を後にした。
外はもうすっかり暗くなっていたけれど、心の中には、女将さんの温かい言葉と、生姜あんかけ丼の温もりが残っていた。

リリアちゃんの無事を祈りながら、私は家路についた。
明日、ギルドで何か新しい情報が入っているといいのだけれど。
そして、もし私にできることがあるなら、元Sランク冒険者としてではなく、一人の人間として、何か力になりたい。
そんなことを考えながら、夜空を見上げた。
星々が、静かに私を見守ってくれているような気がした。

翌日、ギルドに出勤すると、すぐに捜索隊のリーダーであるベテラン冒険者のゴードンさんが報告に来てくれた。
しかし、残念ながら、まだリリアちゃん発見には至っていないという。
森は広大で、手掛かりも少ないため、捜索は難航しているようだ。

「何か、リリアちゃんが好きだった場所とか、よく行く秘密の場所とか、そういう情報はないものだろうか……」

ゴードンさんが悔しそうに呟く。
その時、ふと私の頭に、ミリアさんが言っていた言葉が蘇った。
『森の動物たちともすぐに仲良くなるような子』
そして、女将さんが言っていた『森の妖精みたいな子』という言葉。

(もしかしたら……)

私は一つの可能性に思い至り、ゴードンさんに提案してみることにした。

「ゴードンさん、一つ試してみたいことがあるのですが……。もしかしたら、リリアちゃんは、『森の賢者』と一緒にいるのかもしれません」

「森の賢者だと?あのフクロウ型の魔獣か?だが、あれは……」

「ええ、危険な可能性も否定できません。でも、リリアちゃんは動物と心を通わせるのが得意だと聞きました。そして、森の賢者も、知性があると言われています。もしかしたら、何か通じ合うものがあって、一緒にいるのではないでしょうか」

私の言葉に、ゴードンさんはしばらく腕を組んで考え込んでいたが、やがて顔を上げた。

「……なるほどな。確かに、あり得ない話ではないかもしれん。よし、その線でもう一度、捜索範囲を絞り直してみよう。賢者の目撃情報があった場所の周辺を、特に重点的にな」

「はい、お願いします。それと、もし賢者と接触する可能性があるなら、絶対に刺激しないように、慎重にお願いします」

「わかっている。リリア嬢の安全が第一だ」

ゴードンさんは力強く頷き、再び捜索へと向かっていった。
私の推測が当たっているかどうかは分からない。
でも、何もしないよりはいいはずだ。
どうか、リリアちゃんが無事でありますように……。

その日の午後は、仕事をしていてもどこか落ち着かなかった。
窓の外を眺めては、ため息をついてしまう。
ナナミちゃんも、私の様子を心配してか、何度か声をかけてくれた。

「佐倉さん、大丈夫ですか?なんだか、元気ないみたいですけど……」

「ありがとう、ナナミちゃん。ちょっと、ね……。でも、大丈夫よ」

「そうですか……。あの、これ、よかったら食べてください!昨日、限定で売ってた『幸せのマカロン』なんです!食べたら、きっと元気出ますよ!」

ナナミちゃんが、可愛らしい箱に入ったマカロンを差し出してくれた。
その優しさが、今の私にはとても嬉しかった。

「ありがとう、ナナミちゃん。いただくわね」

マカロンを一つ口に入れると、優しい甘さが口の中に広がった。
ナナミちゃんの言う通り、なんだか少しだけ元気が出てきたような気がする。
美味しいものと、人の優しさは、最高の薬だ。

定時になり、私は急いで〈モンス飯亭〉へと向かった。
もしかしたら、何か新しい情報が入っているかもしれない。
そんな期待を胸に、暖簾をくぐる。
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