【完結】元Sランク受付嬢の、路地裏ひとり酒とまかない飯

旅する書斎(☆ほしい)

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(どこかで、軽く一杯飲んで帰ろうかな……)

そんなことを考えながら歩いていると、ふと、以前訪れた『隠れ家バル 月のしずく』のことを思い出した。
あのお店の、自家製スモークチーズと、アイラウイスキーの組み合わせは最高だった。
今夜も、あの深い味わいを堪能したい気分だ。

そうと決まれば、足取りは自然と『月のしずく』へと向かう。
路地裏にひっそりと佇むその店は、今日も静かに私を待っていてくれた。

扉を開けると、店主の穏やかな笑顔が迎えてくれる。

「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」

「こんばんは。また来ちゃいました」

「ええ、嬉しいです。どうぞ、いつもの席へ」

カウンターの隅の席に座り、私は早速、お目当てのものを注文した。

「アイラウイスキーのロックと、スモークチーズの盛り合わせをお願いします」

「かしこまりました。チーズは、今日新しく仕入れたものもありますが、いかがなさいますか?」

「新しいもの……!ぜひ、それでお願いします」

新しいもの、という言葉に、私の好奇心はすぐに刺激される。
どんなチーズが出てくるのか、楽しみだ。

運ばれてきたのは、前回とはまた違う、三種類のスモークチーズだった。
一つは、ヤギのミルクを使ったシェーブルチーズのスモーク。
もう一つは、青カビタイプのゴルゴンゾーラのスモーク。
そして最後の一つは、なんと豆腐を燻製にしたものだという。

「豆腐のスモーク……?初めて見ました」

「ええ、少し変わっているでしょう?でも、これが意外とウイスキーに合うんですよ」

店主さんの言葉に、期待を膨らませながら、まずは豆腐のスモークを一口。
口に入れると、豆腐とは思えないほど濃厚な味わいと、しっかりとした燻製の香りが広がる。
食感は、まるでクリームチーズのようになめらかだ。
そして、これをアイラウイスキーと一緒に味わうと、ウイスキーのスモーキーな香りと、豆腐の燻製の香ばしさが驚くほど見事に調和する。

(美味しい……!これは、新しい発見だわ……!)

シェーブルチーズのスモークは、ヤギ乳特有の酸味とコクが、燻製によってさらに深みを増している。
ゴルゴンゾーラのスモークは、青カビのピリッとした刺激と塩気が、ウイスキーの甘みを引き立ててくれる。
どのチーズも、個性的で、そして最高に美味しい。

「店主さん、このチーズのセレクト、最高です。私の好みを完全に見抜かれてますね」

「ふふ、お客様の顔を見れば、どんなお酒と料理がお好きか、だいたい分かりますから」

店主さんは、にこやかにそう言った。
この店は、ただお酒と料理を提供するだけでなく、客一人一人に寄り添った、最高のおもてなしをしてくれる。
だからこそ、私はこの店に惹かれるのだろう。

ウイスキーのグラスを傾けながら、ゆっくりと時間が流れていくのを感じる。
〈モンス飯亭〉の賑やかで温かい雰囲気も好きだけど、この『月のしずく』の、静かで落ち着いた大人の雰囲気も、また格別だ。
その日の気分によって、訪れる店を変える。
そんな贅沢ができるのも、今の私だからこそだ。

美味しいお酒とチーズに満たされ、私は心地よい酔いとともに店を後にした。
帰り道、ふと、学者さんのアランさんのことを思い出した。
彼の遺跡調査は、順調に進んでいるだろうか。
また〈モンス飯亭〉で、ばったり会ったりしないだろうか。
そんなことを考えると、少しだけ胸が温かくなった。

新しい出会い、新しい味、新しい発見。
私の日常は、穏やかだけど、決して退屈ではない。
むしろ、毎日が新しい冒険に満ちている。
そう、これは、戦わない冒険者である私の、最高に幸せな物語なのだ。

家に帰り着き、ベッドに身を沈めると、心地よい疲労感とともに、今日の出来事が次々と思い出された。
ナナミちゃんと食べた、ふわとろのパンケーキ。
『月のしずく』で味わった、奥深いウイスキーと、個性的なスモークチーズ。
どれもが、私の一日を彩ってくれた、大切な宝物だ。

(さて、明日はどこで、何を食べようかな……)

そんな幸せな悩みを抱えながら、私はゆっくりと目を閉じた。
きっと明日も、今日以上に素敵な一日が待っている。
そんな予感を胸に、私は穏やかな眠りへと落ちていった。
美味しい夢が見られそうな、そんな幸せな夜だった。
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