【完結】元Sランク受付嬢の、路地裏ひとり酒とまかない飯

旅する書斎(☆ほしい)

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翌日、ギルドに出勤すると、さっそくナナミちゃんが駆け寄ってきた。

「佐倉さーん!昨日、例の“エーテル”に行ってきたんですけど、すごかったです!本当に、料理が魔法みたいで!」

「そう、よかったわね」

私は、穏やかな気持ちで相槌を打つ。

「でも……」

ナナミちゃんは、少しだけ言いにくそうに続けた。

「でも、なんだか……すごく綺麗で、すごく美味しいんですけど、ちょっとだけ、落ち着かなかった、というか……。なんだろう、テーマパークに来たみたいな感じで、毎日通うのは違うかなって……」

その言葉に、私は思わずふふっと笑ってしまった。

「そういう時は、また〈モンス飯亭〉に行けばいいのよ。あそこには、毎日でも食べたくなるような、優しいごはんがあるから」

「……はい!そうですね!あー、なんだか、女将さんの卵焼きが食べたくなっちゃいました!今日の夜、行こうかな!」

ナナミちゃんは、そう言うと、ぱあっといつもの明るい笑顔を取り戻した。

そうだ、それでいいのだ。

新しい店も、老舗の店も、それぞれに良さがある。人々は、その日の気分や目的に合わせて、好きな店を選べばいい。

そして、〈モンス飯亭〉には、どんな時でも、変わらずに私たちを迎えてくれる温かさと、心に染みる美味しさがある。

その価値は、決して揺らぐことはない。

その日の夜、〈モンス飯亭〉のカウンターは、久しぶりに満席に近いくらいの賑わいを見せていた。

“エーテル”の派手な料理を一度体験して、そしてまた、この路地裏の味を求めて戻ってきた人たちが、たくさんいたのだ。

「いやー、やっぱり、俺にはここのモツ煮が一番だぜ!」

「わかるぜ!あのキラキラした料理もいいけどよ、五臓六腑に染み渡るのは、やっぱ女将さんの味だよな!」

冒険者たちが、ジョッキを片手に、そんな会話を交わしている。

その光景を、女将さんは、いつものように優しい笑顔で見守っていた。

その顔には、もう何の翳りもなかった。

私も、その賑わいの中で、一人静かに盃を傾ける。

肴は、『旬の山菜の天ぷら』。

採れたてのタラの芽やフキノトウが、薄い衣でカラリと揚げられている。

サクッとした食感の後に広がる、春のほろ苦い香り。

これ以上の贅沢があるだろうか。

(ああ、やっぱり、私はここが一番好きだな……)

路地裏の新星の登場は、結果的に、私たち常連客に、この〈モンス飯亭〉という場所の、本当の価値を再認識させてくれたのかもしれない。

流行り廃りでは決して測れない、確かなものが、この場所にはある。

私は、そんな幸せを噛み締めながら、ゆっくりと夜が更けていくのを感じていた。

やがて、客もまばらになり、閉店の時間が近づいてくる。

私が最後の一人になった時、女将さんが、そっとお茶を出してくれた。

「レナちゃん、いつも本当にありがとうね」

「……え?」

突然のお礼に、私はきょとんとしてしまう。

「あんたが、いつもと変わらず、美味しそうにうちのご飯を食べてくれる。ただそれだけで、私は、すごく救われてたんだよ」

女将さんは、少しだけ照れくさそうに、でも、まっすぐな目でそう言った。

その言葉に、私の胸の奥が、じんわりと温かくなった。

私にできることなんて、何もないと思っていた。

でも、ただ「美味しい」と感じ、それを素直に表現すること。

それが、この大切なお店と、大好きな女将さんの、力になっていたのかもしれない。

「こちらこそ、ですよ、女将さん。いつも、最高の幸せを、ありがとうございます」

私も、心からの感謝を伝えた。

「さあ、明日はどんな美味しいものを作ろうかねぇ」

女将さんは、そう言うと、もう明日の仕込みの算段を始めている。

その背中は、どこまでも頼もしく、そして輝いて見えた。

路地裏に輝く星は、決して一つだけじゃないのだ。
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