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しおりを挟むミャレーに依頼してから数日後、彼女は約束通り二つの幻の食材を私の元へと届けてくれた。ギルドの私のカウンターの前に、ちょこんと置かれた二つの小さな木箱。
「はいニャ、レナ。約束のブツだニャ」
ミャレーは得意げに胸を張っている。
私はゴクリと喉を鳴らしながら、おそるおそる一つ目の箱を開けた。箱の中には柔らかな苔が敷き詰められ、その上にちょこんと乗っていたのは……。
「……うわぁ……」
思わず声が漏れた。
それはカサの部分がまるで夜空のように深い藍色をした小さなキノコだった。そして、そのカサには銀色の小さな斑点が無数に散りばめられている。暗い箱の中だというのに、その斑点は自ら青白い光を放っているようだった。
まるで満天の星々を閉じ込めたような美しさ。これが『星屑茸』。
「こっちは、もっと綺麗だニャ」
ミャレーがもう一つの箱を開ける。そこに入っていたのは数本のハーブだった。その葉はまるで銀箔を貼り付けたようにきらきらと輝き、形は美しい三日月のよう。
『月光草』。
どちらも噂に違わぬ、神秘的で美しい食材だった。
「ミャレー、ありがとう! 本当にすごいわ!」
「えへへ、これくらい朝飯前だニャ。で、いつ作ってくれるのかニャ? あの美味しいってやつ」
ミャレーはきらきらとした目で私を見つめてくる。
「ええ、もちろん。準備が整い次第すぐにでも。ミャレーも試食会に招待するわね」
「やったー! 楽しみにしてるニャ!」
ミャレーはぴょんと軽やかに跳ねると、風のように去っていった。
いよいよ役者は揃った。
私はその日の仕事終わり、二つの幻の食材を大事に抱えて〈モンス飯亭〉の厨房に立っていた。
女将さんは私の隣で腕を組みながら、にやりと笑っている。
「さあ、いよいよ本番だねぇ、レナちゃん。腕が鳴るだろ?」
「はい! ……少し、緊張しますけど」
「大丈夫だよ。あんたならできるさ。あたしがついてる」
女将さんのその言葉が何よりも心強い。
私はヴァルミナ様から贈られたミスリル銀のナイフを手に取った。
まずは下ごしらえから。星屑茸は石づきを丁寧に取り除き、カサと軸に分ける。月光草は葉を一枚一枚優しく摘み取っていく。その全ての工程を、私は信じられないほどの集中力でこなしていく。
次に、女将さんから教わった秘伝の魔獣出汁を魔導コンロにかけ、温めておく。
そして、いよいよ調理開始。鍋に最高級のバターを溶かし、みじん切りにした星屑茸の軸の部分をじっくりと炒めていく。芳醇なキノコの香りが厨房いっぱいに立ち込める。
香りが十分に立ったところで、温めておいた魔獣出汁と、このポタージュのために特別に取り寄せたという『ケンタウロスの牛乳』を加えていく。
そして、コトコトと煮込むこと一時間。スープはとろりとしてクリーミーな乳白色に変わった。
最後に星屑茸のカサと月光草の葉を加え、ひと煮立ちさせる。香りが飛ばないように、火を入れるのはほんの一瞬だけ。そして塩、胡椒で味を微調整する。全ての神経を舌先に集中させる。
……うん、完璧だ。
こうして、古代のレシピ『星屑茸と月光草のポタージュ』がついに完成した。
完成したポタージュは、器に注ぐと自ら淡い光を放った。星屑茸の青白い光と月光草の銀色の光。それらが乳白色のスープの中で混じり合い、まるで天の川をそのまま掬い取ってきたかのような、幻想的な美しさだった。
「……すごい……。本当に、光ってる……」
私は自分の作った料理に、我ながら見とれてしまった。
「さあ、冷めないうちに皆に食べてもらおうじゃないか」
女将さんの声で、私ははっと我に返った。
その日の夜、〈モンス飯亭〉ではささやかな試食会が開かれた。メンバーは私と女将さん、レシピをプレゼントしてくれたアランさん、食材を採ってきてくれたミャレー、そしてどこからか噂を聞きつけていつの間にかカウンターに座っていたナナミちゃん。
皆の前に、光り輝くポタージュが並べられる。
「うわぁ……! 綺麗……!」
「これが、古代の……!」
「うまそうだニャ……!」
皆が期待に満ちた表情でごくりと喉を鳴らす。そして、それぞれがスプーンを手に取り、ゆっくりとその光るスープを口に運んだ。
その瞬間、店の中がしんと静まり返った。誰もが言葉を失い、ただその味を噛み締めている。
最初に口を開いたのは女将さんだった。
「……やるじゃないか、レナちゃん。あたしの出汁を完璧に使いこなしやがった……。悔しいけど、文句なしの味だよ」
次にアランさん。
「これが……古代の王族が求めた味か……! 滋味深く、そしてどこか懐かしい……。素晴らしいよ、レナさん! 君は天才だ!」
ミャレーはもう夢中だった。
「ニャんだこれ! こんな美味いもん、初めてだニャ! おかわり、あるのかニャ!?」
そしてナナミちゃんは目に涙を浮かべていた。
「佐倉さーん……! 美味しすぎますー……! 私、今、すっごく幸せですー……!」
皆のその絶賛の言葉に、私の胸はじんと熱くなった。戦いで誰かを守る。それも確かに誇らしいことだ。でも、料理で誰かをこんなにも幸せな気持ちにできる。それもまた、なんて素晴らしいことだろう。
「よかった……」
私が安堵の笑みを浮かべた、その時。
店の扉が、カラン、と静かに開いた。
そこに立っていたのは、優雅な薄紫のシェフコートに身を包んだ、意外な人物だった。
「……素晴らしい香りがしたので、つい立ち寄ってしまいました」
料理神官、ヴァルミナ様だった。
「そのポタージュ、私にも一口、味見させていただけますか?」
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