【大賞】地味スキル《お片付け》は最強です!〜社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?〜

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第35話 新たな役職と二つの執務室

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私が提出した「退任願い」は、その日のうちに皇帝陛下の手によって暖炉の火にくべられ、灰になった。そして代わりに私に与えられたのは、新しい、さらにとんでもない役職だった。

「国家最高顧問兼王家筆頭監査官」。それが私の新しい肩書きだ。

「国家最高顧問……!?陛下、それは一体……」。私は呆然と尋ねた。

皇帝執務室で、アルベルト陛下は当然のように言った。「言葉通りの意味だ、ミカ。君はもはや、財務監査という一つの分野に収まる器ではない。外交、軍事、内政、法整備。その全ての分野において、君の類いまれなる情報整理能力と問題解決能力が必要だ。私の隣で、この国の全ての舵取りを手伝ってもらう」。そのあまりに壮大すぎる業務内容。前世で言えば、一介のシステムエンジニアがいきなりグループ企業全体の最高執行責任者(COO)に任命されるようなものだった。

あまりの無茶振りに、私はめまいがした。

「そ、そんな大役、私には務まりません!」。

「務まる。君ならな」。陛下の金の瞳には、微塵の疑いもなかった。

「それに、君が断れないように手は打ってある」。

「え……?」。

「君の新しい執務室を用意させた。案内させよう」。

陛下に促されるまま侍従についていくと、連れてこられたのは皇帝執務室の真隣の部屋だった。その扉を開けて、私は絶句した。そこは、私の今までの執務室の三倍はあろうかという広大な空間だ。壁一面の巨大な本棚には、世界中のあらゆる書物がびっしりと並んでいる。部屋の中央には、私のために特別に作らせたという、最新式の巨大な執務机。

そして何よりも驚いたのは、その部屋の壁の一部がすりガラスになっていて、隣の皇帝執務室と繋がっていることだった。

「これならいつでも、私と情報の共有ができるだろう?」陛下は悪戯っぽい笑顔を見せた。これはもはや執務室ではない。物理的に私を自分のそばから離さないようにするための、豪華な鳥かごだった。

「それだけではないぞ、ミカ嬢」。私の背後から、レオンの声がした。いつの間にか彼も部屋に来ていたらしい。

「君には、もう一つ執務室が用意されている」。

「ええっ!?まだあるんですか!?」。

「ああ。騎士団の本部棟にもだ」。

次にレオンに連れて行かれたのは、屈強な騎士たちが行き交う騎士団の本部棟だ。その一等地にある、騎士団長の執務室の真向かいの部屋。そこが、私の第二の執務室らしかった。

「ここは、君が軍事関連の最適化を行うための拠点だ」。レオンは真面目な顔で言う。「騎士団の全ての情報は、リアルタイムで君と共有される。ここから君の的確な指示を仰ぎたい」。こちらの部屋もまた、私のために完璧にカスタマイズされていた。壁には、王国全土の巨大な軍事マップが飾られ、私のスキルと連動するよう特殊な魔法がかけられている。いつでも騎士団の配置状況や、兵站の流れを一目で把握できる仕組みだ。

「これなら、君がどこにいても俺が守ることができる」。レオンは満足げに頷いた。

皇帝執務室の隣の部屋と、騎士団長執務室の向かいの部屋。この国の政治と軍事の二つのトップが、それぞれ自分のテリトリーに私を繋ぎ止めようとしている。その執念にも似た溺愛ぶりに、私はもはや笑うしかなかった。

(私のスローライフ計画、完全に消滅したわ……)。

こうして私は、二つの超高性能な執務室を持つ前代未聞の「国家最高顧問」として、新たなキャリアをスタートさせることになった。逃げ場はない。私のセカンドライフは、この二人の独占欲の強い英雄たちによって、完全にロックオンされてしまったのだから。

私の最初の仕事は、アッシュフォード家の残党の処遇を決めることだった。捕らえられたライナスは、特別牢で完全に黙秘を続けているという。

「ミカ、君なら彼の心を開かせることができるかもしれん」。陛下は私に、ライナスとの対話を命じた。

自分の血の繋がった兄かもしれない人物との対面。それは、私にとってあまりにも重い任務だった。私はレオンに護衛されながら、再び王宮の地下牢へと向かう。

鉄格子の向こうで、ライナスは静かに座っていた。その銀色の髪と整った顔立ちは、やはりどこか私と似ている。

「何の用だ。偽りの王に、寝返った裏切り者よ」。ライナスは私を見ると、冷たい声で言った。

「あなたと話がしたくて来ました、ライナスさん」。

「話すことなど、何もない」。

「いいえ、あります。私は知りたいんです。あなたが、アッシュフォード家が本当に目指していたものは何なのか」。

私の問いかけに、彼は鼻で笑った。「お前のような小娘に、理解できるものか。我らの二百年の悲願が」。

「理解できます。なぜなら、私とあなたは同じだから」。

「何?」。

「あなたのやり方は、間違っていたかもしれない。でも、その目的はきっと私と同じだったはずです。この国をより良くしたい。淀んだシステムを、正しき姿に「最適化」したい。違いますか?」。

私の言葉に、ライナスの表情が初めて揺らいだ。彼の硬い仮面が、少しだけ剥がれ落ちる。

「私には、あなたの力が必要です。あなたの知識と経験が。この国を本当に変えるためには」。私は鉄格子越しに、彼に手を差し伸べた。「私と一緒に、この国を「お片付け」しませんか?今度は、正しいやり方で」。

私のあまりにも突拍子もない提案。ライナスは、信じられないという顔で私を見つめていた。その瞳の奥に、ほんの少しだけ光が宿ったように見えた。この頑なで複雑なシステムのデバッグ作業は、どうやら始まったばかりのようだった。
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