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第5章:交差する孤独編(たってやる。実録ドラマ)
第22話:デジタルな聖母(ベトナム人女性との再会)
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深夜二時、スマートフォンの青白い光が、俺の顔を無機質に照らし出している。
画面に映っているのは、SNSのタイムラインだ。あのベトナム人の彼女は、驚くほど頻繁に近況を更新する。故郷の家族の写真、あるいは日本のコンビニで見つけた珍しいお菓子の写真。そこには、夜の店で見せる「接客」の顔とは違う、一人の異国で生きる女性の、ささやかで生々しい日常が綴られている。
俺は彼女の新しい投稿を見つけるたび、迷わず「いいね」を押し、スタンプを送る。
それは、単なるファン活動ではない。「俺はまだ、お前と繋がっているぞ」という、マジキチ組長なりの無言の意思表示だ。かつて命がけでこの国を護り、繋いできた先人たちの精神を尊ぶ俺にとって、この国に働きに来ている彼女のような存在を、一時の欲望の対象としてだけ見ることはできない。郷に入り、この地で懸命に生きようとする者への、俺なりの敬意の示し方だ。
実際、彼女からは何度か直接メッセージが届いている。
『また会いたいです』 『今、暇ですか?』
これを見て「どうせ営業だろ」と冷めた目で詮索するのは、あまりに野暮というものだ。たとえそれが指名を狙った営業メールであったとしても、数多いる客の中から俺を選び、言葉を紡いで送ってきたという事実に変わりはない。俺という存在を、彼女の脳内の隅っこにでも留めておいてくれた。それだけで、俺は十分に嬉しい。
俺は、自分がタイプだと感じた女性には、みな平等にこうした態度をとるようにしている。一人の女に執着してえこひいきをするような、ケチな真似はしたくない。それが、数多の女性を真剣な表情で褒めちぎってきた、俺の「漢」としての矜持だ。
その夜、配信『たってやる。』のリスナーたちには、あらかじめ「特別なゲスト」が来ると告げていた。
「よお、お前ら。今夜は少し、空気が変わるぞ。俺が『聖母』と呼んでいる、あのベトナム人の彼女と、スマホ越しに繋いでやる」
スピーカーから、少し照れたような、聞き慣れない異国の言葉が漏れ聞こえてくる。俺はスマホの翻訳アプリをスピーカーに近づけ、リアルタイムで会話を成立させた。
リスナーたちは、いつもと違う神妙な雰囲気で、その「デジタルな対話」を見守っている。
「……彼女に、聞いてみたんだ。この日本という国が、彼女の目にどう映っているのかをな」
翻訳機の無機質な合成音声が、彼女の言葉を日本語に変える。
『日本は、とても綺麗。でも、みんな忙しそう。街を歩く人は、地面ばかり見てる。私、少し寂しいと思うとき、組長が送ってくれるスタンプ、見る。嬉しい』
俺は、胸の奥が少し熱くなるのを感じた。
「聴いたか、お前ら。彼女はな、地面ばかり見て歩いているお前らの死んだような顔を、寂しいと言ってるんだ。この国に来て、日本語も不自由な中で、彼女は俺たちが忘れてしまった『心の隙間』を見つめてる」
俺は、あの夜、彼女に贈った褒め言葉の余波について話し始めた。
千円しかない俺が、PayPayでの支払いを拒否し、魂を込めて彼女の瞳を、その存在そのものを褒めちぎったあの日。あれは単なる値切りの交渉術ではない。彼女を一人の「人間」として、尊厳を持って見つめるという、俺なりの真剣勝負だったのだ。
「いいか、女性を褒めるっていうのはな、相手の魂に火を灯すことなんだよ。俺がタイプだと思った相手には、俺は一切の妥協なく、全霊でその美しさを称える。見返りなんて後回しだ。感謝と敬意が先なんだよ。……それを彼女は、ちゃんと受け取ってくれた」
彼女が、拙い日本語で直接マイクに向かって言った。
『クミチョ、いつも、アリガト。あなた、ヘンタイだけど、とても、いい人』
コメント欄が、一瞬で爆発した。
『ヘンタイだけど、いい人www 最高の褒め言葉だ』『なんか、泣けてきた。組長の言ってる「ありのまま」って、こういうことか』『国籍なんて関係ないんだな。真剣に向き合うって、こういうことなんだ』
俺はガハハと笑い、スマホの画面に向かって、いつものように過激で、それでいて約束に満ちた言葉を投げかけた。
「おい、お前! そんなこと言って、またPayPayの画面出すなよ。……分かってるよ。今度会うときは、二千円は必ず用意しておくからな。いや、なんなら一万円くらい持って、お前のことをハノイの王女様みたいに扱ってやるよ。もちろん、冗談だけどな!」
彼女は、電話の向こうで鈴を転がすように笑った。
性欲と損得。そんな、世の中を支配している卑近なルールを、俺たちの「ダル絡み」は一瞬で飛び越えていた。
孤独な異国の地で生きる彼女と、歪んだ組織の中で吠え続ける俺。二つの孤独な魂が、デジタルな電波を通じて、奇妙な連帯感で結ばれた瞬間だった。
配信が終わった後、俺は一通のメッセージを彼女に送った。
『今日の配信、付き合ってくれてありがとう。お前はやっぱり、俺の聖母だ』
数分後、彼女から届いたのは、いつもの、俺が好きなあの屈託のない笑顔のスタンプだった。
俺は、窓を開けて夜風を吸い込んだ。
下ネタで笑い、歴史を語り、異国の友と魂を交わす。
俺の人生は、なんと欲張りで、なんと豊かなんだろう。
この日本という国には、まだまだ語られるべき「真実」が転がっている。
地面ばかり見て歩いている連中の鼻っ面に、俺はこれからも、この劇薬のような愛を叩きつけてやる。
「……さて、明日も八キロの行軍だ」
俺は、明日会うかもしれない「新しい誰か」のために、すでに心の中で「褒め言葉」の準備を始めていた。
やりたい放題。
千円の追加ラウンドから始まったこの縁は、今や俺の活動における、最も清らかな「光」へと変わっていた。
画面に映っているのは、SNSのタイムラインだ。あのベトナム人の彼女は、驚くほど頻繁に近況を更新する。故郷の家族の写真、あるいは日本のコンビニで見つけた珍しいお菓子の写真。そこには、夜の店で見せる「接客」の顔とは違う、一人の異国で生きる女性の、ささやかで生々しい日常が綴られている。
俺は彼女の新しい投稿を見つけるたび、迷わず「いいね」を押し、スタンプを送る。
それは、単なるファン活動ではない。「俺はまだ、お前と繋がっているぞ」という、マジキチ組長なりの無言の意思表示だ。かつて命がけでこの国を護り、繋いできた先人たちの精神を尊ぶ俺にとって、この国に働きに来ている彼女のような存在を、一時の欲望の対象としてだけ見ることはできない。郷に入り、この地で懸命に生きようとする者への、俺なりの敬意の示し方だ。
実際、彼女からは何度か直接メッセージが届いている。
『また会いたいです』 『今、暇ですか?』
これを見て「どうせ営業だろ」と冷めた目で詮索するのは、あまりに野暮というものだ。たとえそれが指名を狙った営業メールであったとしても、数多いる客の中から俺を選び、言葉を紡いで送ってきたという事実に変わりはない。俺という存在を、彼女の脳内の隅っこにでも留めておいてくれた。それだけで、俺は十分に嬉しい。
俺は、自分がタイプだと感じた女性には、みな平等にこうした態度をとるようにしている。一人の女に執着してえこひいきをするような、ケチな真似はしたくない。それが、数多の女性を真剣な表情で褒めちぎってきた、俺の「漢」としての矜持だ。
その夜、配信『たってやる。』のリスナーたちには、あらかじめ「特別なゲスト」が来ると告げていた。
「よお、お前ら。今夜は少し、空気が変わるぞ。俺が『聖母』と呼んでいる、あのベトナム人の彼女と、スマホ越しに繋いでやる」
スピーカーから、少し照れたような、聞き慣れない異国の言葉が漏れ聞こえてくる。俺はスマホの翻訳アプリをスピーカーに近づけ、リアルタイムで会話を成立させた。
リスナーたちは、いつもと違う神妙な雰囲気で、その「デジタルな対話」を見守っている。
「……彼女に、聞いてみたんだ。この日本という国が、彼女の目にどう映っているのかをな」
翻訳機の無機質な合成音声が、彼女の言葉を日本語に変える。
『日本は、とても綺麗。でも、みんな忙しそう。街を歩く人は、地面ばかり見てる。私、少し寂しいと思うとき、組長が送ってくれるスタンプ、見る。嬉しい』
俺は、胸の奥が少し熱くなるのを感じた。
「聴いたか、お前ら。彼女はな、地面ばかり見て歩いているお前らの死んだような顔を、寂しいと言ってるんだ。この国に来て、日本語も不自由な中で、彼女は俺たちが忘れてしまった『心の隙間』を見つめてる」
俺は、あの夜、彼女に贈った褒め言葉の余波について話し始めた。
千円しかない俺が、PayPayでの支払いを拒否し、魂を込めて彼女の瞳を、その存在そのものを褒めちぎったあの日。あれは単なる値切りの交渉術ではない。彼女を一人の「人間」として、尊厳を持って見つめるという、俺なりの真剣勝負だったのだ。
「いいか、女性を褒めるっていうのはな、相手の魂に火を灯すことなんだよ。俺がタイプだと思った相手には、俺は一切の妥協なく、全霊でその美しさを称える。見返りなんて後回しだ。感謝と敬意が先なんだよ。……それを彼女は、ちゃんと受け取ってくれた」
彼女が、拙い日本語で直接マイクに向かって言った。
『クミチョ、いつも、アリガト。あなた、ヘンタイだけど、とても、いい人』
コメント欄が、一瞬で爆発した。
『ヘンタイだけど、いい人www 最高の褒め言葉だ』『なんか、泣けてきた。組長の言ってる「ありのまま」って、こういうことか』『国籍なんて関係ないんだな。真剣に向き合うって、こういうことなんだ』
俺はガハハと笑い、スマホの画面に向かって、いつものように過激で、それでいて約束に満ちた言葉を投げかけた。
「おい、お前! そんなこと言って、またPayPayの画面出すなよ。……分かってるよ。今度会うときは、二千円は必ず用意しておくからな。いや、なんなら一万円くらい持って、お前のことをハノイの王女様みたいに扱ってやるよ。もちろん、冗談だけどな!」
彼女は、電話の向こうで鈴を転がすように笑った。
性欲と損得。そんな、世の中を支配している卑近なルールを、俺たちの「ダル絡み」は一瞬で飛び越えていた。
孤独な異国の地で生きる彼女と、歪んだ組織の中で吠え続ける俺。二つの孤独な魂が、デジタルな電波を通じて、奇妙な連帯感で結ばれた瞬間だった。
配信が終わった後、俺は一通のメッセージを彼女に送った。
『今日の配信、付き合ってくれてありがとう。お前はやっぱり、俺の聖母だ』
数分後、彼女から届いたのは、いつもの、俺が好きなあの屈託のない笑顔のスタンプだった。
俺は、窓を開けて夜風を吸い込んだ。
下ネタで笑い、歴史を語り、異国の友と魂を交わす。
俺の人生は、なんと欲張りで、なんと豊かなんだろう。
この日本という国には、まだまだ語られるべき「真実」が転がっている。
地面ばかり見て歩いている連中の鼻っ面に、俺はこれからも、この劇薬のような愛を叩きつけてやる。
「……さて、明日も八キロの行軍だ」
俺は、明日会うかもしれない「新しい誰か」のために、すでに心の中で「褒め言葉」の準備を始めていた。
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