マジキチ組長一代記 ~半分は狂気、半分は真実~

マジキチ組長

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第16章:混沌の帝国(現実侵食・パラダイムシフト編)

第77話:道徳の賞味期限(不寛容社会へのツッコミ)

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 2026年、春。
 大阪の街は、深夜だというのに奇妙な明るさを保っている。LEDの冷たい光が、アスファルトの隅々までを照らし出し、そこに潜む「闇」や「汚れ」を許さないかのような圧力を放っている。

 この国は今、清潔になりすぎた。「コンプライアンス」という名の漂白剤で何度も何度も洗濯され、毒もなければ薬にもならない「正論」という名の無菌状態が蔓延している。人々は口を開く前に、頭の中で何重もの検閲を行う。

「これは誰かを傷つけないか?」「これは社会的に正しいか?」「炎上しないか?」

 そんなことを考えているうちに、言葉は熱を失い、ただの記号になり果てる。

 そんな息苦しい世界を、俺は今夜も8キロの行軍で切り裂いていく。俺の口から飛び出すのは、検閲も配慮もクソ食らえの、生の言葉だ。

「ガハハ! おい、世間の常識人ども! お前らの大事にしている『道徳』とやらは、もうとっくに賞味期限切れだぜ! 腹壊す前に捨てちまえ!」

 今夜は、俺の運営する番組「たってやる。」の核心部分、すなわち「8割のエグい下ネタと、2割の愛国思想」という、あの黄金比率について深く語ろうと思う。そして、なぜこの比率が、現代人の抑圧された魂を解放する唯一の鍵なのかを証明してやる。

 まず断言するが、この「8対2」という比率は、俺が長年の経験と直感で導き出した、完璧な黄金比率だ。
 これには、ちゃんとした理由がある。

 仮に、これが「5対5」だったとしよう。
 放送時間の半分をキチガイじみた下ネタで騒ぎ、残り半分を真面目な社会派トークで埋める。一見すると、ギャップがあってメリハリが効いているように思えるかもしれない。

 だがな、実際はそうはいかねえ。人間ってのは、パターンを学習する生き物だ。

「ああ、そろそろ前半の馬鹿騒ぎが終わって、後半の真面目な話になる時間だな」

 リスナー側がそうやって「予測」し始め、構えてしまうんだ。そうなると、エンターテインメントとしての緊張感が薄れ、飽きが来る。
「説教臭い時間はトイレタイムだな」なんて思われたらおしまいだ。

 だが、「8対2」は違う。
 圧倒的な量のエグい下ネタが、暴風雨のように降り注ぐ。リスナーは「こいつ、いつまでチンコの話をしてるんだ?」「頭おかしいんじゃないか?」と笑い転げ、呆れ返る。

 その暴風雨の中に、突如として、何の前触れもなく鋭利な「真面目な話(愛国思想や本質的な哲学)」が2割だけ混ざるんだ。
 予測がつかない。油断しているところに、真理を突きつけられる。だからこそ、その言葉は深く刺さる。

「こいつ、ただの変態だと思ってたのに、なんでんか急に核心を突いたこと言い出したぞ……」

 この「裏切り」こそが、中毒性を生むんだ。

 それに何より、下ネタは世界で一番面白いコンテンツだ。これだけは譲れねえ。
 右翼も左翼も、富豪も貧民も、老人も若者も、男も女も、LGBTQも、全員がパンツの中に「あるもの」や「出すもの」は共通している。

 排泄と生殖。この二つから逃れられる人間はいない。
 だからこそ、下ネタは万国共通であり、全人類が本能レベルで共感し、笑える最強の共通言語なんだよ。

「高尚なジョーク」なんてのは教養が必要だが、「うんこ」で笑うのに資格はいらねえ。
 この8割の共通言語で心の壁をぶっ壊し、無防備になった心臓に、俺の思想を流し込む。これが俺のやり方だ。

 さて、そんな俺の放送だが、最近とんでもない報告を耳にする。

「組長、俺はいつも『たってやる。』をスピーカーで聴いてます!」

 という命知らずなリスナーがいるらしい。

 おいおい、正気か? 俺はハッキリ言って、スピーカー視聴はオススメできない。

 考えてもみろ。8割がエグい下ネタだぞ? 「マン」だの「チン」だの「クリ」だの、放送禁止用語がマシンガンのように発射されているこの放送を、公共の場や、家族のいるリビングで垂れ流す? それはもはやテロだ。

 周りの人間に聞かれてみろ。

「なんだこいつ、頭のネジが外れてるのか?」「関わっちゃいけない人種だ」と白い目で見られるのは確実だ。

 最悪の場合、通報案件だぞ(笑)。

 だがな……内心では、俺はニヤリとしている。
「よくやった」と褒めてやりたい自分もいる。

 なぜなら、それは結果的に俺の「たってやる。」の宣伝になっているからだ。
 通りすがりの人間が、ふと耳にした俺の常軌を逸したトークに衝撃を受け、「な、なんだ今の会話は!?」と気になって検索するかもしれない。

 あるいは、そのあまりのバカバカしさに、抑圧されていた理性が吹き飛び、予想外にハマってしまって、新たな「コアなリスナー」が誕生する可能性だってゼロじゃねえ。リスクを恐れずに俺の声を拡散するその姿勢、嫌いじゃないぜ。

 ここで一つ、誤解を解いておきたいことがある。

「8割のエグい下ネタの場合は欲望に任せて適当に言ってるだけで、2割の真面目な話の時だけネタを考えてるんじゃないか?」

 そんな声が聞こえてきそうだが、それは大きな間違いだ。

 俺にとっては、8割の下ネタも、2割の真面目な話も、すべてが等しく「全力投球」だ。
 どちらも、俺の実体験や、旺盛な好奇心で調べ上げた知識を、惜しげもなく発表しているに過ぎない。

「昨日、道端で見た犬の交尾の角度がすごかった」という話も、「日本の半導体産業の未来」についての話も、俺の中では同じ熱量の「ネタ」なんだよ。
 俺の人生そのものがネタの宝庫であり、俺の脳みそは常にフル回転で世界を「面白がって」いる。だからこそ、これだけ喋り続けてもネタが尽きることがない。

 普通の人間が、上辺だけで俺の真似をしようものなら、ものの数分でネタ切れを起こして沈黙するだろう。
「えーと、おっぱいが……」で止まってしまうのがオチだ。俺みたいに、「おっぱいの揺れ方における流体力学と、それが男の精神に及ぼす経済効果」まで広げて喋れる奴はそうはいねえ。これが、本物と偽物の違いだ。

 ラジオ業界には、「10秒間の沈黙が続けば放送事故(失格)」という鉄の掟があるらしい。無音(デッドエア)は、リスナーに不安を与え、チャンネルを変えさせる最大の敵だからだ。

 俺はどうだ? 俺は放送終了後、あるいはこの行軍の最中に録音したデータを、必ず一人で聴き返す。「一人反省会」と称した儀式だ。
 そこで俺が耳にするのは、沈黙どころか、隙間なく埋め尽くされた言葉の洪水だ。

 10秒黙る? ありえねえ。
 俺の口は、脳からの指令を待つまでもなく、脊髄反射で言葉を紡ぎ出している。息継ぎの瞬間すら惜しんで、次から次へと喋り続けている。

「よくもまあ、ここまでペラペラと中身のない(たまにある)ことを喋り続けられるな」

 と、我ながら感心することがよくある。自分の声帯の耐久性と、言語野の暴走っぷりに呆れるほどだ。

 それと同時に、強烈な「自己嫌悪」に陥ることもある。
 深夜の大阪の路上、静まり返った住宅街や、交番の前を通り過ぎる時。録音の中の俺は、平然と、いや嬉々として、ここでは書けないようなドぎつい下ネタを叫んでいる。

「……俺、これ公道で言ってたのか?」
「すれ違ったあのサラリーマン、絶対聞こえてたよな?」
「今の発言、完全にアウトだろ……」

 冷静になった「常識人の俺」が、頭を抱える。
 顔から火が出るほど恥ずかしい。いい歳をした大人が、真夜中に一人で歩きながら、スマホに向かって「昨日のでっかいウンコがさあ!」なんて力説している姿を客観視してみろ。地獄だ。社会的信用の自殺行為だ。

 だが――。その自己嫌悪は、長くは続かない。
 俺は一晩寝れば、ケロリと忘れる。そして翌日の夜には、また同じ道を歩きながら、懲りずに同じような、いや前回を上回る下ネタを叫んでいるのだ。

 なぜなら、それが「俺の性格」だからだ。
 反省はする。後悔もする。だが、修正はしない。

 だって、「にんげんだもの」。 相田みつを先生も言っていた(ような気がする)。
 人間だもの、欲望に忠実で何が悪い。恥をかいて何が悪い。完璧で綺麗な人間なんて、AIに任せておけばいい。俺たち人間は、失敗し、恥じらい、それでも欲望を垂れ流して生きる泥臭い生き物なんだよ。

 コンプライアンス? 知ったことか。
 道徳? 賞味期限切れだ、食ったら腹壊すぞ。
 俺は、この「8割の下ネタ」という汚泥の中にこそ、人間としての本当の「清潔さ」があると思っている。
 隠さないこと、飾らないこと、それが一番綺麗なんだよ。

 だから俺は、これからもブレずに「たってやる。」を続けていく。
 8割の狂気と2割の本音を混ぜ合わせ、この窒息しそうな社会に、強烈な毒と、ほんの少しの解毒剤をばら撒き続ける。

「おい、そこのスピーカーで聴いてる命知らず! そのボリューム、もう一つ上げろ! 俺の恥を道連れに、世界をドン引きさせてやろうぜ!」

 8キロの道のりは、俺の独演場だ。
 誰が何と言おうと、俺の口は止まらない。
 今夜もまた、最高に最低な夜が更けていく。

 第77話、完。
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