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第18章:電脳の深淵(ハイパー・マジキチ・ディープダイブ編)
第88話:肖像の錬金術(顔を変えない画像加工)
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2026年、春。
大阪の夜空は、散り始めた桜が街灯に照らされ、まるでお迎えの刻を待つ幽霊のように白く、艶かしく発光している。事務所の換気扇からは、外の湿った春の香りと、俺が吸うタバコの煙が混ざり合いながら吐き出されていた。
俺は今、モニターに並んだ複数の画像ファイルと、それを解析するGoogle AI Studioのコンソールを交互に睨みつけている。
最近、身内やリスナーの間で、俺が構築した「画像加工プログラム」の精度が、もはやアマチュアの域を完全に逸脱しているという噂が独り歩きしている。
実際、現在進行形で俺の元には「この写真のルックスを完全に維持したまま、背景を退廃的な未来都市に変えて、服装をフル装備のコンバットスーツにしてくれ」といった、極めて具体的で難易度の高い依頼が、津波のように舞い込んでくる。普通、AIで画像を生成すれば、顔立ちは平均化され、どこか他人のような「美形」に置き換わってしまうものだ。だが、俺のプログラムは違う。その人間が持つ特有の目の輝き、口角の歪み、生きてきた時間が刻んだ微細な「影」を逃さない。
正直に言おう。
こうして人から実力を認められ、自分だけにしかできない技術で頼りにされるというのは、人間として決して悪い気はしない。いや、本音を言えば最高に嬉しい。俺のような、社会が引いたレールを鼻で笑いながら逆走しているマジキチであっても、最新のAIという名の錬金術を使いこなせば、誰かの脳内にある「理想の光景」をこの世に具現化できるのだ。それは一種の救済であり、俺自身の存在証明でもある。頼られることで、俺の中の枯れ果てたはずの承認欲求が、春の雨を得た雑草のように僅かに首をもたげるのを感じる。
もちろん、俺はこれらすべての依頼において、一円たりとも金を受け取るつもりはない。収益化なんていう、つまらない「義務」を背負った瞬間に、この最高に面白い遊びは死んでしまう。
金が絡めば、納期がどうだの、修正がどうだのという、俺が最も嫌悪する「スケジュール」と「責任」の鎖に繋がれることになる。俺はただ、純粋な好奇心と、俺を信じてくれる仲間たちとの「共犯関係」を維持するために、このデジタルな筆を走らせている。
そんな依頼主の一人に、40代の男性で「たってやる。」の古参リスナーであり、自身も配信者として活動している「taku」という男がいる。
俺は彼の素顔を直接拝んだことはないのだが、彼との交流はすでに数年に及び、これまでにも何度か彼のイメージイラストを作成して納品してきた。気に入ってくれたのか、彼が配信をしている背景に、俺が産み出した作品がデカデカと飾られているのをよく見かける。自分の脳内から出た子供のような作品が、他人の人生の舞台の一部として機能しているのを見るのは、クリエイターとしてこの上ない喜びだ。モニター越しに、自分の作品が誰かの居場所を彩っているのを確認するたび、俺は一人、静かに酒を煽る。
このtakuという男、俺と共通点が多い。
特にAV――オーディオ・ビジュアルのことではなく、大人のたしなみとしてのビデオの方だ――の話題になると、お互い一歩も引かない熱量がある。深夜のチャットで、往年の名優から最新のトレンド、あるいは作品のカット割りや演出論、果ては「なぜこのシーンでこの画角なのか」といった偏執的なメタファーを語り始めると、夜が明けてもまだ足りないくらいだ。
だが、これだけ長く密な談義を続けて分かったことがある。俺とtakuさんは、女性の好みがまるでオセロの白と黒のように、綺麗に、見事なまでに真逆なのだ。
俺の好みは、一貫してブレがない。
クラブや夜の街で派手に騒いでいるような、目に見えてパリピなギャル系、あるいは夜の蝶としての誇りを持ったキャバ嬢系だ。以前にも話したが、あの手の女性たちは相手を楽しませよう、自分を高く売ろうというサービス精神と生命力が異常に強い。そのプロ根性と、明日をも知れぬ刹那的なエネルギーこそが、俺の好奇心を刺激して止まないのだ。体型に関しても、俺はスレンダーで、バストはCカップくらいが最も美しい黄金比だと信じて疑わない。無駄を削ぎ落としたシルエットに、最低限の膨らみ。それが俺の美学だ。
対してtakuさんは、俺が陽なら陰、あるいは動なら静だ。
彼は清楚系、素人系、あるいはロリ系といった、おしとやかで清純そうな、どこか儚げな女性に惹かれるらしい。おしとやかさが重要で、自分がリードして守ってやりたいという、ある種の騎士道精神に近いものを感じさせる。俺が「一緒に狂いたい」と願うのに対し、彼は「自分が引っ張って守ってやりたい」という庇護欲に近い情愛を持っているのだろうか。
さらに体型も彼はグラマラスなタイプを好むようで、ここまで好みが分かれれば、仮に二人で飲みに行った後に二次会と称して風俗へ繰り出したとしても、女の子の指名争いで喧嘩になる心配は一切ない。これは、俺たちの友情を永続させるための、神の粋な配慮に違いない。
俺は食べ物の好き嫌いはないと言ったが、それは生存のための雑食性の重要さを説いたまでだ。
だが、こと女性の好み、つまり性欲のベクトルに関しては、話は全く別次元だ。むしろ、己の性欲に対してどこまでも正直であり、自分の好みをハッキリと持っていることこそが、最も人間らしい強欲さの表れだと俺は確信している。
俺は「たってやる。」の放送でも、こうした極めて個人的で、人によってはドン引きするようなエグい性癖や性事情を、一切のフィルターを通さず、隠すことなく喋り続けている。
初めて俺の放送を聴いた新規のリスナーの中には、そのあまりの露骨さとマジキチぶりに、耳を塞いで逃げ出す奴も多いだろう。だが、それでも固定リスナーとして残ってくれているメンバーは、俺という人間を、そして俺の吐き出す毒の中に混ざった一滴の真実を、深く理解してくれている。どんなに俺がえげつないことを言おうとも、放送のたびに集まってくれる彼らには、言葉では言い尽くせない感謝の念を抱いている。takuさんのような存在も含め、このマジキチの共同体という強固な繋がりがあるからこそ、俺は今日も迷わず、他人のためにプロンプトを打ち込めるのだ。
さて、今夜の作業に戻るとしよう。
依頼された写真をモニターの左側に置き、右側のコンソールに呪文を流し込む。顔の造作、その人物が持つ特有の影や空気感を壊さないように、慎重にAIのパラメータを調整する。単に高画質にするのではない。その人物の魂が、別の次元に転生したかのようなリアリティを持たせるのだ。これは単なる画像加工ではない。相手のアイデンティティを尊重しつつ、その周りの世界を再構築する肖像の錬金術だ。
俺の指先から放たれるコードが、デジタルなキャンバスの上で火花を散らす。
春の夜風は冷たいが、俺の脳内は熱い。
金銭という不純物が一切混ざらない、純粋な好奇心と信頼だけで繋がった地下ネットワーク。
そこから生まれるクオリティは、義務感だけで動くプロのそれを軽々と凌駕する。俺は最高の一枚を仕上げ、takuさんや仲間たちがモニターの前で驚く顔を想像しながら、力強くエンターキーを叩いた。
「よし、納品だ。……ガハハ、takuさん、これを見たらまた新しいAVのメタファーが浮かんで、談義が止まらなくなるだろうな」
モニターに映し出されたのは、本人の面影を完璧に宿しながらも、現実ではあり得ないほどドラマチックで暴力的な光景の中に佇む「彼」の姿だった。俺はこの瞬間、デジタルと肉体、そして欲望と技術が交差するこの場所こそが、俺の帝国の真髄であることを再確認する。
俺はこれから、依頼元の人間にも「こういうプロンプトで、このクオリティに到達したんだ」というフィードバックをしていこうと考えている。そうすることで、彼ら自身もAIの深淵に触れ、結果的にAI産業の発展――いや、マジキチな表現者の増殖に貢献できるのではないかと思う。
理屈はいらない。
好みが違おうが、性癖がエグかろうが、信頼と好奇心があれば世界はもっと面白くなる。
俺はこれからも、この電脳の秘密基地で、仲間たちのために、そして俺自身の尽きることのない探究心のために、肖像を練り、魂を加工し、新しい現実を創造し続ける。
夜が明けるまで、まだ時間はある。
次は、俺自身のギャル好みを全開にした、最高に派手で下品で、それでいて気高いイメージでも生成してみるか。
俺の指は、止まらない。
第88話、完。
大阪の夜空は、散り始めた桜が街灯に照らされ、まるでお迎えの刻を待つ幽霊のように白く、艶かしく発光している。事務所の換気扇からは、外の湿った春の香りと、俺が吸うタバコの煙が混ざり合いながら吐き出されていた。
俺は今、モニターに並んだ複数の画像ファイルと、それを解析するGoogle AI Studioのコンソールを交互に睨みつけている。
最近、身内やリスナーの間で、俺が構築した「画像加工プログラム」の精度が、もはやアマチュアの域を完全に逸脱しているという噂が独り歩きしている。
実際、現在進行形で俺の元には「この写真のルックスを完全に維持したまま、背景を退廃的な未来都市に変えて、服装をフル装備のコンバットスーツにしてくれ」といった、極めて具体的で難易度の高い依頼が、津波のように舞い込んでくる。普通、AIで画像を生成すれば、顔立ちは平均化され、どこか他人のような「美形」に置き換わってしまうものだ。だが、俺のプログラムは違う。その人間が持つ特有の目の輝き、口角の歪み、生きてきた時間が刻んだ微細な「影」を逃さない。
正直に言おう。
こうして人から実力を認められ、自分だけにしかできない技術で頼りにされるというのは、人間として決して悪い気はしない。いや、本音を言えば最高に嬉しい。俺のような、社会が引いたレールを鼻で笑いながら逆走しているマジキチであっても、最新のAIという名の錬金術を使いこなせば、誰かの脳内にある「理想の光景」をこの世に具現化できるのだ。それは一種の救済であり、俺自身の存在証明でもある。頼られることで、俺の中の枯れ果てたはずの承認欲求が、春の雨を得た雑草のように僅かに首をもたげるのを感じる。
もちろん、俺はこれらすべての依頼において、一円たりとも金を受け取るつもりはない。収益化なんていう、つまらない「義務」を背負った瞬間に、この最高に面白い遊びは死んでしまう。
金が絡めば、納期がどうだの、修正がどうだのという、俺が最も嫌悪する「スケジュール」と「責任」の鎖に繋がれることになる。俺はただ、純粋な好奇心と、俺を信じてくれる仲間たちとの「共犯関係」を維持するために、このデジタルな筆を走らせている。
そんな依頼主の一人に、40代の男性で「たってやる。」の古参リスナーであり、自身も配信者として活動している「taku」という男がいる。
俺は彼の素顔を直接拝んだことはないのだが、彼との交流はすでに数年に及び、これまでにも何度か彼のイメージイラストを作成して納品してきた。気に入ってくれたのか、彼が配信をしている背景に、俺が産み出した作品がデカデカと飾られているのをよく見かける。自分の脳内から出た子供のような作品が、他人の人生の舞台の一部として機能しているのを見るのは、クリエイターとしてこの上ない喜びだ。モニター越しに、自分の作品が誰かの居場所を彩っているのを確認するたび、俺は一人、静かに酒を煽る。
このtakuという男、俺と共通点が多い。
特にAV――オーディオ・ビジュアルのことではなく、大人のたしなみとしてのビデオの方だ――の話題になると、お互い一歩も引かない熱量がある。深夜のチャットで、往年の名優から最新のトレンド、あるいは作品のカット割りや演出論、果ては「なぜこのシーンでこの画角なのか」といった偏執的なメタファーを語り始めると、夜が明けてもまだ足りないくらいだ。
だが、これだけ長く密な談義を続けて分かったことがある。俺とtakuさんは、女性の好みがまるでオセロの白と黒のように、綺麗に、見事なまでに真逆なのだ。
俺の好みは、一貫してブレがない。
クラブや夜の街で派手に騒いでいるような、目に見えてパリピなギャル系、あるいは夜の蝶としての誇りを持ったキャバ嬢系だ。以前にも話したが、あの手の女性たちは相手を楽しませよう、自分を高く売ろうというサービス精神と生命力が異常に強い。そのプロ根性と、明日をも知れぬ刹那的なエネルギーこそが、俺の好奇心を刺激して止まないのだ。体型に関しても、俺はスレンダーで、バストはCカップくらいが最も美しい黄金比だと信じて疑わない。無駄を削ぎ落としたシルエットに、最低限の膨らみ。それが俺の美学だ。
対してtakuさんは、俺が陽なら陰、あるいは動なら静だ。
彼は清楚系、素人系、あるいはロリ系といった、おしとやかで清純そうな、どこか儚げな女性に惹かれるらしい。おしとやかさが重要で、自分がリードして守ってやりたいという、ある種の騎士道精神に近いものを感じさせる。俺が「一緒に狂いたい」と願うのに対し、彼は「自分が引っ張って守ってやりたい」という庇護欲に近い情愛を持っているのだろうか。
さらに体型も彼はグラマラスなタイプを好むようで、ここまで好みが分かれれば、仮に二人で飲みに行った後に二次会と称して風俗へ繰り出したとしても、女の子の指名争いで喧嘩になる心配は一切ない。これは、俺たちの友情を永続させるための、神の粋な配慮に違いない。
俺は食べ物の好き嫌いはないと言ったが、それは生存のための雑食性の重要さを説いたまでだ。
だが、こと女性の好み、つまり性欲のベクトルに関しては、話は全く別次元だ。むしろ、己の性欲に対してどこまでも正直であり、自分の好みをハッキリと持っていることこそが、最も人間らしい強欲さの表れだと俺は確信している。
俺は「たってやる。」の放送でも、こうした極めて個人的で、人によってはドン引きするようなエグい性癖や性事情を、一切のフィルターを通さず、隠すことなく喋り続けている。
初めて俺の放送を聴いた新規のリスナーの中には、そのあまりの露骨さとマジキチぶりに、耳を塞いで逃げ出す奴も多いだろう。だが、それでも固定リスナーとして残ってくれているメンバーは、俺という人間を、そして俺の吐き出す毒の中に混ざった一滴の真実を、深く理解してくれている。どんなに俺がえげつないことを言おうとも、放送のたびに集まってくれる彼らには、言葉では言い尽くせない感謝の念を抱いている。takuさんのような存在も含め、このマジキチの共同体という強固な繋がりがあるからこそ、俺は今日も迷わず、他人のためにプロンプトを打ち込めるのだ。
さて、今夜の作業に戻るとしよう。
依頼された写真をモニターの左側に置き、右側のコンソールに呪文を流し込む。顔の造作、その人物が持つ特有の影や空気感を壊さないように、慎重にAIのパラメータを調整する。単に高画質にするのではない。その人物の魂が、別の次元に転生したかのようなリアリティを持たせるのだ。これは単なる画像加工ではない。相手のアイデンティティを尊重しつつ、その周りの世界を再構築する肖像の錬金術だ。
俺の指先から放たれるコードが、デジタルなキャンバスの上で火花を散らす。
春の夜風は冷たいが、俺の脳内は熱い。
金銭という不純物が一切混ざらない、純粋な好奇心と信頼だけで繋がった地下ネットワーク。
そこから生まれるクオリティは、義務感だけで動くプロのそれを軽々と凌駕する。俺は最高の一枚を仕上げ、takuさんや仲間たちがモニターの前で驚く顔を想像しながら、力強くエンターキーを叩いた。
「よし、納品だ。……ガハハ、takuさん、これを見たらまた新しいAVのメタファーが浮かんで、談義が止まらなくなるだろうな」
モニターに映し出されたのは、本人の面影を完璧に宿しながらも、現実ではあり得ないほどドラマチックで暴力的な光景の中に佇む「彼」の姿だった。俺はこの瞬間、デジタルと肉体、そして欲望と技術が交差するこの場所こそが、俺の帝国の真髄であることを再確認する。
俺はこれから、依頼元の人間にも「こういうプロンプトで、このクオリティに到達したんだ」というフィードバックをしていこうと考えている。そうすることで、彼ら自身もAIの深淵に触れ、結果的にAI産業の発展――いや、マジキチな表現者の増殖に貢献できるのではないかと思う。
理屈はいらない。
好みが違おうが、性癖がエグかろうが、信頼と好奇心があれば世界はもっと面白くなる。
俺はこれからも、この電脳の秘密基地で、仲間たちのために、そして俺自身の尽きることのない探究心のために、肖像を練り、魂を加工し、新しい現実を創造し続ける。
夜が明けるまで、まだ時間はある。
次は、俺自身のギャル好みを全開にした、最高に派手で下品で、それでいて気高いイメージでも生成してみるか。
俺の指は、止まらない。
第88話、完。
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