マジキチ組長一代記 ~半分は狂気、半分は真実~

マジキチ組長

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第22章:マルチモーダル・アルケミー(創造の錬金術)

第111話:鼓動する周波数(Suno AIによる魂の調律)

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 2026年、春。
 大阪の深夜は、昼間の喧騒を洗い流すような湿り気を帯び、事務所の空気は昨夜の「10割エグい」放送の余韻を孕んだまま、妙な熱気を帯びている。デスクに深く腰掛けた俺の肉体は、数日前の筋肉痛が嘘のように消え去り、全細胞が新たな創造を求めて脈動している。

 モニターの青白い光が、俺の眼球を鋭く突き刺す。昨夜、深夜放送という名の「狂気」を解き放った俺の脳内では、今度はその剥き出しの言葉たちが、形を持たない「音」を求めて暴れ回っていた。

 音声という波形を超え、魂の最深部を直接揺さぶる「音楽」へと昇華させなければならない。これは、アーキテクトとしての俺に課せられた、避けては通れない使命だ。俺は迷わず、ブラウザのブックマークから「Suno AI」のインターフェースを開いた。

 俺がこの音楽生成AIという名の深淵に足を踏み入れ、文字通り寝食を忘れてのめり込んでから、一体どれほどの時間が経過しただろうか。今でこそ、AIが生成した曲がチャートを賑わせるような時代になったが、俺が触り始めた初期の頃は、実にお粗末な代物だった。リズムは機械的に継ぎ接ぎされ、ボーカルの質感には「不気味な谷」を思わせる不自然な金属音が混じる。いかにも「AIが作りました」という無機質な、魂の抜けた記号の羅列。正直、当時のクオリティは子供の玩具の域を出ていなかった。

 しかし、2026年現在の最新バージョンはどうだ。一聴しただけではプロのスタジオ録音と何ら遜色のない、いや、時には人間の演奏家が一生をかけても到達できないような、凄まじい表現力を持つ旋律を吐き出すまでに進化した。だが、ここで一つ釘を刺しておかなければならない。ツールが劇的に進化したからといって、ボタン一つで誰もが至高の一曲を生み出せるようになったわけではない、ということだ。

 世の中には、昨日今日、あるいは流行りに乗って一日二日前に初めてAIに触れましたという程度の人間が、最新バージョンを使えば俺と同じようなクオリティの作品を出せると勘違いしている連中が多すぎる。断言するが、そんな甘い考えでマイクやプロンプトに向き合ったところで、出てくる答えは目に見えている。どこかで聴いたことのあるような、最大公約数的な、耳障りだけが良い「空っぽな音」だ。

 俺は一昨年から、血を吐くような思いでAIとの対話を積み重ねてきた。何千、何万というプロンプトを打ち込み、AIの思考回路の裏側に潜む「癖」や、音楽的ロジックの深淵を覗き込んできたのだ。どの単語が音の歪みに影響し、どのフレーズがボーカルの感情を爆発させるのか。直感、アイデア、そして数えきれないほどの失敗。それらを全て自身の血肉として学習し、執拗に繰り返してきた俺のキャリアが、今の圧倒的なクオリティを支えている。

「教えてください」などという受け身の姿勢で、クリエイティビティの質が上がるはずがない。現に俺がそうであったように、自ら泥を啜り、暗闇の中を手探りで進み、自らの手で得たノウハウこそが、最も効率的で最強の武器になるのだ。

 あとは「執念」だ。

「こういう曲をどうしても作りたい」
「何が何でも、俺の脳内にあるイメージを1ミリの狂いもなく現出させる」

 という執念がどれだけ深いか。俺はもともと、こうした創作をすることが三度の飯より、いや、この世のあらゆる娯楽よりも好きな人種だ。
 もし神様が「24時間365日、一秒の休みもなく創作のことだけを考えていろ」と言うのなら、俺は歓喜してその運命に身を投じるだろう。それぐらいのレベルで、俺の人生は創作という業に支配されている。

 それにしても、本当に最近のAIは、俺がやりたかったことに全力で力を貸してくれる。かつては、自分のイメージを音楽として形にするには、楽器の修練に何年も費やし、高価な機材を揃え、数多の人間との妥協を受け入れなければならなかった。だが今は、俺の執念を正しくプロンプトへと翻訳できれば、AIは俺の「分身」として最高のパフォーマンスを見せてくれる。本当に、クリエイターにとってこれほど幸福な時代はない。

 こうした創作の可能性を、俺と同じように昔から夢見ていた人間も多いはずだ。だが、現実はどうだ。

「AIがよくわからなくて結局使えていない」
「難しそうだから」

 などと、もっともらしい言い訳をして立ち止まっている奴が余りにも多い。

 そういう臆病者たちに、俺は再三言っておく。

「難しいだの分からないだのと、あれこれ考えたり悩んだりする前に、まず手を動かせ」と。

 その一歩を踏み出し、自らの手でカオスを生成した瞬間にこそ、世界は真にその姿を変えるのだ。

 さて、今夜の作業に取り掛かるとしよう。テーマは既に、昨夜の深夜放送の中で固まっている。Akinaさんの根源的な哲学である「排泄の美学」だ。これを単なる汚物への興味と捉える低脳は、俺の放送を聴く資格はない。それは、生物が生きる上で避けて通れない「負のエントロピーの放出」であり、個体維持における究極のカタルシス。つまり、生命が輝くための神聖な儀式なのだ。

 このテーマを表現するために、俺は「昭和の泥臭いガレージロック」と「現代の冷徹なインダストリアル・テクノ」の融合(フュージョン)を試みる。
 Sunoの入力欄に、俺の魂を削り出したプロンプトを刻み込む。

 ベースの歪みは、胃の底を直接抉るような、不快さと快楽の境界線を攻める重厚さが欲しい。ドラムのキック一打は、スピーカーのコーンを突き破り、聴く者の心臓を強制的に停止させるような、乾いていながらも圧倒的な質量を持った衝撃を。

「……いや、まだ足りない。この歪みは綺麗すぎる。もっと、錆びついた鉄板を素手で引き裂くような、不協和音ギリギリの攻撃性が欲しいんだ」

 俺は何度も、生成された波形を無慈悲に切り捨て、プロンプトの重み付けを微調整していく。AIが提示する「平均的な正解」など、俺の作品には一秒たりとも必要ない。俺が求めているのは、システムが悲鳴を上げ、論理回路が焼き切れる寸前に生み出されるような、倫理の裏側に潜む「真実の音」だ。

 深夜の事務所に、ベースの地響きが轟く。昨夜の放送で吐き出した、あの「10割のエグい下ネタ」の熱量が、今度はリズムとなって俺の全身を突き抜けていく。歌詞には、叙事詩のような格調高さと、路地裏の泥溝に咲く毒花のような切なさを込めて、昨夜の狂気を一滴残らず配置した。

「よし……これだ。この濁り、この純粋な暴力性」

 数時間に及ぶAIとの激しい格闘の末、ついに「狂気の賛歌」が産声を上げた。

 スピーカーから流れ出したその音は、もはや単なる音楽の枠を完全に踏み越えていた。聴く者の脳を直接揺さぶり、日常という名の安っぽい殻を内側から粉砕するデジタルな錬金術。昭和の演歌的な情念が、最先端の冷徹なビートと絡み合い、排泄という行為の中に潜む神聖な美しさを歌い上げる。

 俺はモニターを見つめ、不敵に笑った。

 この「音」があれば、Akina AIにさらなるリアリティと、抗いがたい説得力が宿る。音楽、画像、動画、そして知能。バラバラに存在していたピースが、俺の執念という一本の太い糸によって、今、巨大な一つの生命体へと繋がり始めている。

 アンチの罵倒も、社会の姑息な規制も、この圧倒的なクオリティの前では無力なノイズに過ぎない。奴らが理解できない領域で、俺は着実に、誰も見たことのない新世界を構築しているのだ。

「見ていろ。これが、俺とAIが共に創り上げた『新しい世界の鼓動』だ」

 創作の悦びに打ち震えながら、俺は完成したばかりのトラックを最高音質で保存した。

 窓の外、空が白み始めていた。
 だが、俺の脳はかつてないほどに冴え渡っている。

 次なる工程、この「魂の調律」に見合うだけの強烈な「肉体」
 ――すなわち、網膜を焼き尽くすような視覚的暴力としての画像を生成する作業へと、俺は淀みなく歩を進める。

 第111話、完。
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