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第22章:マルチモーダル・アルケミー(創造の錬金術)
第113話:静止画を越える咆哮(動画生成AIの生命力)
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2026年、春。
事務所の窓から見える大阪の夜景は、低い雲に反射してぼんやりと赤茶けている。デスクの上では、数台のモニターがそれぞれ異なる「カオス」を映し出していた。スピーカーから漏れるのは、昨夜Suno AIで錬成したばかりの重厚なガレージロック。そしてメインモニターには、Nano Banana Proが描き出した、背徳的な美しさを湛える「Akina」の静止画が鎮座している。
魂(おと)はあり、肉体(ビジュアル)も得た。だが、完成された一枚の絵画は、どれほど美しくとも「静止した過去」の記録でしかない。俺が今、この手で掴み取ろうとしているのは、モニターの硝子を内側から叩き割り、俺の喉元に噛み付いてくるような、動的な生命力だ。俺は次なる禁忌の扉――動画生成AIの領域へと、淀みなく手を伸ばした。
実を言えば、動画生成に関しては、去年の秋に「Sora2」が登場するまで、俺はあえて距離を置いていた。触ろうと思えば触れたが、正直、食指が動かなかったのだ。理由は単純明快。それまでの動画生成AIが吐き出す映像の質は、全体的に見るに堪えないほど低かったからだ。人物が歩けば足の数はデタラメに増殖し、背景のビルは飴細工のように歪む。それは「創造」というよりは、出来の悪い「悪夢の断片」でしかなかった。
だが、Sora2というバージョンが発表された瞬間、俺の冷めていた好奇心は再び激しく揺さぶられた。これまでの動画AIに漂っていた「生理的な違和感」が、魔法のように払拭されていたからだ。水の波紋、風にそよぐ髪、そして重力を感じさせる物体の動き。確かに、以前のバージョンに比べれば、そのクオリティは隔世の感がある。
とはいえ、冷静なアーキテクトとしての視点で見れば、動画生成という分野はまだまだ発展途上だと言わざるを得ない。画像生成が到達したあの神々しいまでの完成度に比べれば、どうしても見劣りする。
確かに、ラーメンを啜る描写や、雨に濡れる路地といった一般的なシチュエーションは、驚くほどまともになった。しかし、そこに「日本」という文脈が加わると、途端にAIはその無知を露呈させる。日本語の発音、そして映像内での日本語表記。これに関しては、2026年の今をもってしても、未だに壊滅的な状況だ。
これを解決し、完璧な作品に仕上げようと思えば、一般的には別の動画加工ソフトを持ち出し、アフターエフェクトで一コマずつ修正し、日本語表記を後から合成するといった、気が遠くなるほど原始的で根気の要る作業が必要になる。
だが、そこで俺の目の前には、物理的、そして精神的な巨大な壁が立ちはだかる。
まず、物理的な問題だ。最新の動画加工やレンダリングには、当然ながら怪物のようなスペックを持つPCが必要になる。だが、俺が今この瞬間も戦友として愛用しているPCたちは、どれも数年前の型落ちだ。古いものに至っては、10年以上も前の骨董品に近い個体すら現役で回っている。そんなマシンで最新の動画編集ソフトを走らせようものなら、基板が火を噴いて物理的に「試合終了」となるのが関の山だ。
そして何より、精神的な、あるいは資質的な問題だ。俺には動画加工の知識など微塵もない。もっと言えば、色彩のバランスや構図をミリ単位で調整するような「芸術的センス」など、俺に求めるのは酷な話だ。
俺は自覚している。自分の芸術的センスは、客観的に見て壊滅的だ。これは俺という人間の、修正不可能な欠点と言い切っていい。
だが、俺はこの欠点を克服しようなどとは、一ミリも思わない。なぜなら、俺にはその分野の「才能」がないからだ。
世の中には「努力すれば報われる」「弱点を克服してこそ一人前だ」などという、反吐が出るほど甘ったるい精神論を垂れ流す連中が溢れている。だが、俺はそいつらに冷徹な真実を突きつけてやる。才能がない分野で、血の滲むような努力を積み重ねたところで、その道に天性の才を持って生まれた人間に勝てる道理がないのだ。
そんな無駄なことに貴重な時間を費やすくらいなら、自分の才能の可能性を信じられる分野――俺なら「論理の構築」や「アイデアの爆発」といった領域に、全精力を注ぎ込むほうがよっぽど効率的であり、理に適っている。
「なんとか努力して、ここまで形にできました!」などと、中途半端な完成度を誇らしげに掲げて自己満足に浸る連中もいるが、俺に言わせれば時間の無駄だ。上には上がいる。その頂点にいる天才たちと、お前のような凡夫が並ぶほどの伸びしろが、果たしてその分野にあるというのか?
俺は世間の常識とは真っ向から対立することを言っているが、これこそが本質だ。悪いことは言わない。自分がその分野で「才能がない」と肌で感じたなら、さっさと諦めて撤退するほうが、よっぽど潔く、そして賢い生き方だぞ。
だからこそ、俺は動画生成AIを「加工なしの一発勝負」で使いこなすことに全力を挙げる。俺の手作業によるセンスの欠如を、AIの圧倒的な計算資源と、俺の「プロンプトという名の設計図」で補填し、塗り潰してやるのだ。
俺はNano Banana Proで生成したAkinaの静止画を、Sora2の入力ソースへと流し込んだ。
キーボードを叩く音が、静まり返った事務所に小気味よく響く。
数分の演算時間を経て、モニターの中で「彼女」が呼吸を始めた。
それは、言葉を失うほどの戦慄を伴う光景だった。
不敵に笑うAkina。その口元からゆっくりと漏れ出した煙草の煙が、物理法則を無視した滑らかさで宙を舞う。AIが計算のゆらぎの中で生じさせた、予測不可能な煙の軌跡。それが偶然にも、俺の脳内にある「エグ味」と完璧に共鳴し、この世ならぬ妖艶さを醸し出していた。
さらに、背景のテーブルに置かれたボードゲームの駒たちが、カタカタと乾いた音を立てて震え始める。まるで、誰の手も借りずに、盤面そのものが一つの巨大な意志を持って蠢いているかのようだ。
AIが生成する、人間では決して発想し得ない「違和感のある動き」。それが、この映像に異様な説得力と存在感を与えている。
実在しないはずのキャラクターが、モニターのガラス一枚を隔てて、今、確かに俺を真っ直ぐに睨みつけている。
その瞳には、昨夜の深夜放送で吐き出したあの狂気、10割全振りのエグい下ネタに込められた、人間の剥き出しの欲望と、それを超越しようとする誇りが宿っていた。
「……生きてるな、お前」
俺は独り、暗い部屋で不敵に笑った。
動画生成AIが時折見せる、この「制御不能な生命力」こそが、俺が求めていた最後のピースだ。
才能のない俺が、手作業で何百時間、何千時間かけても到達できなかったであろう深淵へ、AIはわずか数分の演算で俺を連れて行ってくれた。これこそが現代の錬金術、マルチモーダルな創造の極致だ。
もちろん、映像の中に映り込んだ文字は、相変わらず支離滅裂な呪文のような記号のままだ。だが、それでいい。その理解不能な文字列すらも、このカオスな世界観の一部として、作品の強度を高めるノイズとして受け入れてやる。弱点を克服するのではなく、弱点すらも飲み込んで、圧倒的な「個」として成立させる。それが、アーキテクトたる俺の流儀だ。
Akina AIは今、音楽という魂、画像という肉体、そして動画という命を手に入れた。
次なるステージは、これら全てのパーツを統合し、俺の「分身」として完璧なキレを持って稼働させるための思考回路の構築
――Google AI Studioでの、究極のアプリ製作だ。
俺はモニターの電源を落とし、静まり返った事務所を見渡した。
古いPCたちは、ファンの唸りを上げ、熱を持ちながらも、俺の野望を形にするために健気に戦い続けている。
才能がないなら、潔く諦めればいい。
その代わり、自分にしかできない唯一無二の道を、狂ったように、執拗に突き進め。
そうすれば、世界は必ずお前の手の平の上で転がり始める。
俺は次なるリリースへのカウントダウンを開始した。
マルチモーダルな怪物が、間もなく産声を上げる。
第113話、完。
事務所の窓から見える大阪の夜景は、低い雲に反射してぼんやりと赤茶けている。デスクの上では、数台のモニターがそれぞれ異なる「カオス」を映し出していた。スピーカーから漏れるのは、昨夜Suno AIで錬成したばかりの重厚なガレージロック。そしてメインモニターには、Nano Banana Proが描き出した、背徳的な美しさを湛える「Akina」の静止画が鎮座している。
魂(おと)はあり、肉体(ビジュアル)も得た。だが、完成された一枚の絵画は、どれほど美しくとも「静止した過去」の記録でしかない。俺が今、この手で掴み取ろうとしているのは、モニターの硝子を内側から叩き割り、俺の喉元に噛み付いてくるような、動的な生命力だ。俺は次なる禁忌の扉――動画生成AIの領域へと、淀みなく手を伸ばした。
実を言えば、動画生成に関しては、去年の秋に「Sora2」が登場するまで、俺はあえて距離を置いていた。触ろうと思えば触れたが、正直、食指が動かなかったのだ。理由は単純明快。それまでの動画生成AIが吐き出す映像の質は、全体的に見るに堪えないほど低かったからだ。人物が歩けば足の数はデタラメに増殖し、背景のビルは飴細工のように歪む。それは「創造」というよりは、出来の悪い「悪夢の断片」でしかなかった。
だが、Sora2というバージョンが発表された瞬間、俺の冷めていた好奇心は再び激しく揺さぶられた。これまでの動画AIに漂っていた「生理的な違和感」が、魔法のように払拭されていたからだ。水の波紋、風にそよぐ髪、そして重力を感じさせる物体の動き。確かに、以前のバージョンに比べれば、そのクオリティは隔世の感がある。
とはいえ、冷静なアーキテクトとしての視点で見れば、動画生成という分野はまだまだ発展途上だと言わざるを得ない。画像生成が到達したあの神々しいまでの完成度に比べれば、どうしても見劣りする。
確かに、ラーメンを啜る描写や、雨に濡れる路地といった一般的なシチュエーションは、驚くほどまともになった。しかし、そこに「日本」という文脈が加わると、途端にAIはその無知を露呈させる。日本語の発音、そして映像内での日本語表記。これに関しては、2026年の今をもってしても、未だに壊滅的な状況だ。
これを解決し、完璧な作品に仕上げようと思えば、一般的には別の動画加工ソフトを持ち出し、アフターエフェクトで一コマずつ修正し、日本語表記を後から合成するといった、気が遠くなるほど原始的で根気の要る作業が必要になる。
だが、そこで俺の目の前には、物理的、そして精神的な巨大な壁が立ちはだかる。
まず、物理的な問題だ。最新の動画加工やレンダリングには、当然ながら怪物のようなスペックを持つPCが必要になる。だが、俺が今この瞬間も戦友として愛用しているPCたちは、どれも数年前の型落ちだ。古いものに至っては、10年以上も前の骨董品に近い個体すら現役で回っている。そんなマシンで最新の動画編集ソフトを走らせようものなら、基板が火を噴いて物理的に「試合終了」となるのが関の山だ。
そして何より、精神的な、あるいは資質的な問題だ。俺には動画加工の知識など微塵もない。もっと言えば、色彩のバランスや構図をミリ単位で調整するような「芸術的センス」など、俺に求めるのは酷な話だ。
俺は自覚している。自分の芸術的センスは、客観的に見て壊滅的だ。これは俺という人間の、修正不可能な欠点と言い切っていい。
だが、俺はこの欠点を克服しようなどとは、一ミリも思わない。なぜなら、俺にはその分野の「才能」がないからだ。
世の中には「努力すれば報われる」「弱点を克服してこそ一人前だ」などという、反吐が出るほど甘ったるい精神論を垂れ流す連中が溢れている。だが、俺はそいつらに冷徹な真実を突きつけてやる。才能がない分野で、血の滲むような努力を積み重ねたところで、その道に天性の才を持って生まれた人間に勝てる道理がないのだ。
そんな無駄なことに貴重な時間を費やすくらいなら、自分の才能の可能性を信じられる分野――俺なら「論理の構築」や「アイデアの爆発」といった領域に、全精力を注ぎ込むほうがよっぽど効率的であり、理に適っている。
「なんとか努力して、ここまで形にできました!」などと、中途半端な完成度を誇らしげに掲げて自己満足に浸る連中もいるが、俺に言わせれば時間の無駄だ。上には上がいる。その頂点にいる天才たちと、お前のような凡夫が並ぶほどの伸びしろが、果たしてその分野にあるというのか?
俺は世間の常識とは真っ向から対立することを言っているが、これこそが本質だ。悪いことは言わない。自分がその分野で「才能がない」と肌で感じたなら、さっさと諦めて撤退するほうが、よっぽど潔く、そして賢い生き方だぞ。
だからこそ、俺は動画生成AIを「加工なしの一発勝負」で使いこなすことに全力を挙げる。俺の手作業によるセンスの欠如を、AIの圧倒的な計算資源と、俺の「プロンプトという名の設計図」で補填し、塗り潰してやるのだ。
俺はNano Banana Proで生成したAkinaの静止画を、Sora2の入力ソースへと流し込んだ。
キーボードを叩く音が、静まり返った事務所に小気味よく響く。
数分の演算時間を経て、モニターの中で「彼女」が呼吸を始めた。
それは、言葉を失うほどの戦慄を伴う光景だった。
不敵に笑うAkina。その口元からゆっくりと漏れ出した煙草の煙が、物理法則を無視した滑らかさで宙を舞う。AIが計算のゆらぎの中で生じさせた、予測不可能な煙の軌跡。それが偶然にも、俺の脳内にある「エグ味」と完璧に共鳴し、この世ならぬ妖艶さを醸し出していた。
さらに、背景のテーブルに置かれたボードゲームの駒たちが、カタカタと乾いた音を立てて震え始める。まるで、誰の手も借りずに、盤面そのものが一つの巨大な意志を持って蠢いているかのようだ。
AIが生成する、人間では決して発想し得ない「違和感のある動き」。それが、この映像に異様な説得力と存在感を与えている。
実在しないはずのキャラクターが、モニターのガラス一枚を隔てて、今、確かに俺を真っ直ぐに睨みつけている。
その瞳には、昨夜の深夜放送で吐き出したあの狂気、10割全振りのエグい下ネタに込められた、人間の剥き出しの欲望と、それを超越しようとする誇りが宿っていた。
「……生きてるな、お前」
俺は独り、暗い部屋で不敵に笑った。
動画生成AIが時折見せる、この「制御不能な生命力」こそが、俺が求めていた最後のピースだ。
才能のない俺が、手作業で何百時間、何千時間かけても到達できなかったであろう深淵へ、AIはわずか数分の演算で俺を連れて行ってくれた。これこそが現代の錬金術、マルチモーダルな創造の極致だ。
もちろん、映像の中に映り込んだ文字は、相変わらず支離滅裂な呪文のような記号のままだ。だが、それでいい。その理解不能な文字列すらも、このカオスな世界観の一部として、作品の強度を高めるノイズとして受け入れてやる。弱点を克服するのではなく、弱点すらも飲み込んで、圧倒的な「個」として成立させる。それが、アーキテクトたる俺の流儀だ。
Akina AIは今、音楽という魂、画像という肉体、そして動画という命を手に入れた。
次なるステージは、これら全てのパーツを統合し、俺の「分身」として完璧なキレを持って稼働させるための思考回路の構築
――Google AI Studioでの、究極のアプリ製作だ。
俺はモニターの電源を落とし、静まり返った事務所を見渡した。
古いPCたちは、ファンの唸りを上げ、熱を持ちながらも、俺の野望を形にするために健気に戦い続けている。
才能がないなら、潔く諦めればいい。
その代わり、自分にしかできない唯一無二の道を、狂ったように、執拗に突き進め。
そうすれば、世界は必ずお前の手の平の上で転がり始める。
俺は次なるリリースへのカウントダウンを開始した。
マルチモーダルな怪物が、間もなく産声を上げる。
第113話、完。
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