姫君の憂鬱と七人の自称聖女達

チャイムン

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4.稀人マリ

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 面談が終わり、わたくしは自室でぐったりしてしまった。
 あと少しだけ休ませていただきたい。せめて今夜はぐっすり眠らせていただきたい。
 わたくし一人に七人は…しかし今、事に向かうことができるのはわたくししかいないのも事実。
 言うべきことは告げ、やるべきことは行った。

 まずはマリ。
 金色の巻き毛に青い瞳。小柄で儚げな美少女だった。

「待遇にご不満がおありになるとうがかいました」と告げると、マリはわたくしを睨みすえ、次いで高い悲鳴を上げた。

「私が気に入らないからってどうして意地悪するんですか!?」

 気に入らない?意地悪?
 初対面でも感じたが明らかな敵意がある。
 そして…「気に入らない」のは事実である。この三日で国庫の経費がゴリゴリと削られたのだ。同様にわたくしはじめ首脳部や離宮の侍女や使用人及び警備人員の神経も。

 マリはわたくしが用意した流行を取り入れた普段着用の楽なドレスではなく、神殿であつらえたピンクのゴテゴテと飾りのついた、スカート部分が風船のように膨らんだドレスを着ていた。確か百年ほど前に流行した形だ。
 お祖母様のさらにお祖母様の娘時代に流行したらしく、肖像画に残されている。
 当時は軽量化のためにスカートの中に滑らかに削った木製の籠のようなもの、クリノリンを入れて、ウェストでつったと言う。木製のクリノリンは割れやすかったので金属の針金製ものが出来たが、ぶつかった際に壊れて自分や相手を刺す事故や、物をひっかける事故、果てにはスカートに火がつく事故が起き、国法で禁止措置になったものだ。

 マリのドレスはクリノリンではなくパニエやアンダースカートを重ねているらしく、ひどく重そうだ。
 これは危ない。転倒や衝突もだが、万が一火がついたらマリは抜け出せずに焼けてしまう。

 わたくしはベルを鳴らし侍女を呼んだ。

「マリ嬢はまずはお召替えを。このタイプのドレスは他にありますか?そうですか。全て運び出してください」
 事務的に申し付けるとマリは叫んだ。
「やめて!どうしてこんな嫌がらせをするの!?誰か助けて!!」

 わたくしは控えていた自分の侍女エイベルに目配せした。わたくしの侍女は護衛を兼ねていて力も強いのだ。

「マリ嬢、落ち着いてください。これは意地悪でもいやがらせでもないのです。そのタイプのドレスは危険なので、国法で禁じられているのです」
 マリは抵抗をやめてポカンと口をあけた。

「そのドレスも他の同じタイプのドレスも、取り上げはいたしません」
 マリは涙が溜まった目を見開いている。
「流行の型に直してからお届けいたしますのでご安心ください」

 マリはわたくしの侍女エイベルに衝立の陰に連れられて行った。マリ付きの侍女に代わりのドレスを用意させ、着替えさせた。
 衝立にはまず脱がされたドレスが掛けられ、次いでアンダースカートが1、2、3、4…4枚!!まだ続くの?
 華奢な体でよくこんな重たげなアンダースカートを何枚も!!

 切れ切れにマリの不満たらしい呟きが聞こえる。

「国法ってなによ?」
「意地悪にきまってる」
「みんなしてアントワネットとか呼んで…」

 泣いているようだ。そんなにこのドレスが気に入っていたのだろうか?
 ごめんあそばせ?国法なのですよ。

 それにしても国法に背くドレスを作るなんて、神殿はどうなっているのかしら?
 いえ、世情に疎い神殿だから、百年前のドレスの流行やそれによって定められた法など気が付かなかったのね。
 服飾職人はさすがに知っていたはず。しかし神殿の意向に反論できなかったのだろう。さすがにクリノリンは使っていないから。
 この件は商会や職人へには注意に留めましょう。
 マリは当然不問としましょう。知らなかったのだから。

 それにしても下品な文句をおっしゃるお口だこと…

 着替えが終わって衝立から出てきたマリは、薄紅色のおとなしやかなドレスがよく似合っている。胸元の赤い薔薇の飾りを囲む純白のレースや裾のフリルが可愛らしい。

 わたくしはマリに新しくお茶を淹れ変えてすすめた。
「甘いものがお好きとうかがったので、フルーツタルトをお持ちしましたのよ?」
 タルトもすすめる。
 マリはお茶をすすり、タルトをフォークでブスっと刺した。

 微笑みながらその様子を見て、わたくしは驚いた。
 マナーがよろしくない…
 学園に入学する庶民でさえ、こんなマナーは家で習う。孤児院でも教える基本所作だ。
 他国から流れ着いた移民の査察で見たような…

 しかし紅茶も飲み慣れ、お菓子も食べなれている様子。
 マリが来た異界はどんなところなのか。

 いえ、今は好奇心よりマリへの面談と説明が優先。

「マリ嬢、単刀直入に申し上げます。今以上の待遇は当面認められません」
「なによ!なんでよ!?私はあんたなんかに負けないわよ!いつか見ていらっしゃい!!」

 なんでしょう?この娘は。
 無礼打ちに…いえ、いけません。押さえて。わたくしの立場や権威を振りかざすのは短慮というもの。

「マリ嬢、今の待遇は一般的なものより遥かに厚遇なのです。どうかお聞き入れください」
 マリは立ち上がり叫んだ。
「ジウン様に会わせて!ザイディー様でもいいわ!!」
「出来かねます」
「なんでよ!?」

 …この娘は…
 無礼という言葉を知らないのだろうか?
 わたくしが第一王女でないにしても、誰に対しても無礼な態度だ。

「初対面の異性との面談は出来かねます」
「なんでよ!?」

 ああ、頭が痛い。
「はしたないと後ろ指を指されますし、お相手も面喰います。また面会の必要もありません」
 わたくしの答えにマリは一瞬カッと睨んだかと思うと、すぐに泣き崩れた。
「どうして意地悪をするの?私の何が気に入らないの?」
 すすりあげるマリにわたくしはため息をつきたいのを堪え告げる。

「あなたを異界よりの稀人として出来得る限り優遇いたしますが、これ以上はできかねます。どうか学園入学に向けて勉学に励み、作法を身に着けてくださいませ。
 学園入学は早くて来年の秋になります。
 ご不便なことがあれば侍女を通して申し付けてくださいませ。快適に過ごされるよう助力いたします」

 これだけ告げて退出したが、閉められたドアの向こうから何やらがなる声が聞こえる。
 厚い壁やドアから聞こえるのだ。神殿から漏れ聞こえた声とはいかばかりか。

 次は、あと六人はマリほどではありませんように。祈らずにはいられない。

 わたくしの足は重く憂鬱に沈み込みそうだった。
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