姫君の憂鬱と七人の自称聖女達

チャイムン

文字の大きさ
5 / 36

5.稀人ホノカ

しおりを挟む
 ホノカはこの世界に有り得ない青い髪の娘だ。

 瞳はグリーン。
 髪と目の色の対比に、見る人の目がチカチカするような黄色に黒のレースをあしらったドレスを纏っている。オーバースカートの後ろ側が長いタイプだ。胸元が大きく開いている。

 オーバースカートの余分な部分を取って、それで襟元を覆う飾りを作って付ければいいかもしれない。我が王城の針子達の腕はよろしいのよ。

「ご機嫌いかがでしょうか?ホノカ嬢」

 挨拶をするがホノカはソファに座ったまま動かない。無礼な娘だこと。もうわたくしを忘れたのだろうか?ならばもう一度名乗らなければ。

「第一王女のシャイロです。稀人であるあなた方の当面の相談役とお考え下さい。
 タルトを作らせましたので、後ほどお召し上がりください」

 もうゆっくり茶話をする気は失せているので、持ってきた菓子を侍女に渡すよう、エイベルに目配せする。

「さっそくですが、ご不便は待遇と誰かとの面会希望でいらっしゃいますか?」

 もはや婉曲に取り繕うのをやめ、事務的に話を進めることにした。

「あ…あっ…」

 ホノカが言いよどむ。黙ってしばし待つとはじかれたように立ち上がりまくしたて始めた。

「あんたがジウン様やダイル様やザイディー様に会わせないようにしているんでしょう!?」

 実はこのホノカは、何度も神殿を抜け出そうと騒ぎを起こし、離宮に移っても脱走を試みては警備をてんてこ舞いさせたと報告が上がっている。

 ホノカの主張ではこの青い髪は神からもらったもので、だから自分は聖女であるという。

 しかし、全員が自分の容姿を召喚の際に神から賜ったと主張している。その神はシェンリン神という、様々な境界や門をすべる神なのだが、少々いたずら好きの軽い性格の神様なのだ。
 例えば、迷子や方向がわからなくなるのはこのシェンリン神のいたずらだと考えられている。神隠しや取り換えっ子もこの神のいたずらだ。

 だからこそ、最も気軽に人に接し、召喚という御業を行えるのだが。

 すでに無礼な態度や発言に食傷気味なわたくしは、やや投げやりになり、事務的に後をこなすことに決めていた。

 エイベルに目配せし

「お召し替え願います」
 もはや問答無用だ。
 こんなみっともないドレスを、年頃の美しい娘、しかも異界より神の力で召喚した稀人に着せたままでいるなどわたくしの沽券に関わる由々しき事態だ。どうしてもこの艶のある黄色がいいのなら、柔らかな色、そうね、淡いグレイやベージュのシフォンかレースの飾りで和らげて、このばかみたいに細くしぼったウェストをふんわりさせればいいかしら?

 後は喚き散らす声を無視して、エイベルと侍女に着替えをまかせる。
 衝立から侍女の一人が出て来て何かを、ゴトンと重たげな音を立ててサイドテーブルに置く。それはコルセットだった。驚いたことに、甲冑のような金属のボーンが剥き出しだ。まるで金属の檻のようなコルセットだ。
 金属を使ったコルセットは、やはり流行が廃れてから百年以上経つ。クリノリン・ドレスの禁止と共に廃れたのだ。しかし当時でさえ、布で包まれたものだったはずだ。
 服飾職人はおそらく知識として知っていても、正確な作り方を知らなかったのだろう。まるで罠か拷問道具のように開閉式の金属の檻だ。これをつけていたとは…さぞかし苦しく痛かっただろう。可哀想に。

 淡いグリーンのドレスに着替え終わる頃には、さすがに疲れたのだろう。息があがっていた。

 茶菓を侍女に並べさせたティー・テーブルに着かせると、マリにも申し渡したことを事務的に述べる。

「お召し物は流行遅れなので、おあずかりして仕立て直してお届けいたします」

「今以上の待遇は当面認められません。今の待遇は一般的なものより遥かに厚遇なのです。どうかお聞き入れください」

「初対面の異性との面談は出来かねます。理由はあなたがはしたないと後ろ指を指されますし、お相手も面喰います。また面会の必要もありません」

「あなたを異界よりの稀人として出来得る限り優遇いたしますが、これ以上はできかねます。どうか学園入学に向けて勉学に励み、作法を身に着けてくださいませ。
 学園入学は早くて来年の秋になります。
 ご不便なことがあれば侍女を通して申し付けてくださいませ。快適に過ごされるよう助力いたします」

 ああ、これを聞かなければならなかったわ。

「ホノカ嬢、この黄色と黒の組み合わせですが」
「なによ!?」
 まだ落ち着かぬ息のままホノカが噛みつくように答える。
「この色の取り合わせでなくてはなりませんか?」
 ホノカはポカンと口を開ける。
「ありていに申し上げるとこの取り合わせは今の流行では少々下品に思われかねないので、よろしければ違う組み合わせで仕立て直してもよろしいでしょうか?」

 ホノカは真っ赤になって反論した。
「下品って何よ!!ザイディー様は黄色がお好きなのよ!!ジウン様の髪は黒だし、ダイル様はグリーンの目でしょ!!」

 確かにザイディーは黄色が好きだ。しかしこんなギラギラした黄色ではなく、ティーローズの淡い黄色だ。そしてわたくしの婚約者の好みをなぜご存じなのかしら?会ったこともないはずの兄達の容姿も。これも神の御業の稀人所以かしら?
 頭痛がするわ。

 侍女が回収したドレスを見ると、確かに黄色の他に黒と緑がある。どのドレスにも飾りに他二色があしらわれ、単色ではどうにかなるものがなんとも下品な取り合わせになってしまい、台無しだ。
 これを仕立てた職人の、視力の検査が必要かもしれない。

「ホノカ嬢、お気を悪くさせてしまったことは謝罪いたします。しかしこのままではどうしても見栄えがよろしくないので、あなたに似合うドレスに仕上げさせますのでご期待くださいませ」

 ホノカはまだ何か言いたげだったが
「なっ…あっ…くっ…」と言いよどんでいるので、見ない聞かないで退出する。
 エイベルの手で背後のドアが閉まる寸前に何かが割れる音がする。何を割ったのかしら?

「エイベル、すぐに稀人全員の部屋に使用人をやって、割れやすいものと高価なものを撤去するように通達して。わたくし、少し休みます。お祖母様の部屋にメイダと行きますから」
 それから思いついて付け足した。
「今日から稀人のお食事のカトラリーは、陶器やガラスではなく銀器か銅器にして」
 陶器やガラスは割れやすいのよ。

 わたくしの腹の中をわかっているエイベルは少し笑って指示を出しに向かった。

 兄達には「倹約姫」と言われているわたくしですもの。

 祖母の部屋に落ち着いて考えを巡らせ始めたわたくしは、突然自分の見落としに気づいて愕然とした。

 神殿!!

 神殿から報告を受けていないわ!!
 なぜこんなことを見落としてしまったの?

 有力神官が一人亡くなっていたじゃない!
 神殿もわたくし達も慌てていたのだわ。

 わたくしは急いでメイダに命じた。
「今日の稀人との面談は終わりです。伝令を呼んでください」

 伝令に午後に神殿訪問する旨の前触れを命じ、わたくしは訪問着に着替えるために自室へ急ぎ戻る。
 昼食は…食欲などないわ。
 エイベルとメイダに昼食休憩を言い渡し、少々の雑務を片付けながら神殿からの返事を待つことにした。

 出来得るならば、シェンリン神との交信もしなければ。
 ついでのようで申し訳ないが、非常事態なのでお許し願おう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

私、魅了魔法なんて使ってません! なのに冷徹魔道士様の視線が熱すぎるんですけど

紗幸
恋愛
社畜女子だったユイは、気づけば異世界に召喚されていた。 慣れない魔法の世界と貴族社会の中で右往左往しながらも、なんとか穏やかに暮らし始めたある日。 なぜか王立魔道士団の団長カイルが、やたらと家に顔を出すようになる。 氷のように冷静で、美しく、周囲の誰もが一目置く男。 そんな彼が、ある日突然ユイの前で言い放った。 「……俺にかけた魅了魔法を解け」 私、そんな魔法かけてないんですけど!? 穏やかなはずの日々に彼の存在が、ユイの心を少しずつ波立たせていく。 まったりとした日常の中に、時折起こる小さな事件。 人との絆、魔法の力、そして胸の奥に芽生え始めた“想い” 異世界で、ユイは少しずつ——この世界で生きる力と、誰かを想う心を知っていく。 ※タイトルのシーンは7話辺りからになります。 ゆったりと話が進みますが、よろしければお付き合いください。 ※カクヨム様にも投稿しています。

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

【短編】記憶を失っていても

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
 7年以上前の記憶のない平民出身のラチェルは、6年前に娘のハリエットを生んでからグリオス国のアンギュロスの森付近の修道院で働きながら暮らしていた。  そんなある日ハリエットは見たことのない白銀色の大樹を見つけたと、母ラチェルに話すのだが……。  これは記憶の全てを失ったラチェル──シェシュティナが全てを取り戻すまでのお話。 ※氷雨そら先生、キムラましゅろう先生のシークレットベビー企画開催作品です( ´艸`)

義妹に苛められているらしいのですが・・・

天海月
恋愛
穏やかだった男爵令嬢エレーヌの日常は、崩れ去ってしまった。 その原因は、最近屋敷にやってきた義妹のカノンだった。 彼女は遠縁の娘で、両親を亡くした後、親類中をたらい回しにされていたという。 それを不憫に思ったエレーヌの父が、彼女を引き取ると申し出たらしい。 儚げな美しさを持ち、常に柔和な笑みを湛えているカノンに、いつしか皆エレーヌのことなど忘れ、夢中になってしまい、気が付くと、婚約者までも彼女の虜だった。 そして、エレーヌが持っていた高価なドレスや宝飾品の殆どもカノンのものになってしまい、彼女の侍女だけはあんな義妹は許せないと憤慨するが・・・。

異世界召喚されたアラサー聖女、王弟の愛人になるそうです

籠の中のうさぎ
恋愛
 日々の生活に疲れたOL如月茉莉は、帰宅ラッシュの時間から大幅にずれた電車の中でつぶやいた。 「はー、何もかも投げだしたぁい……」  直後電車の座席部分が光輝き、気づけば見知らぬ異世界に聖女として召喚されていた。  十六歳の王子と結婚?未成年淫行罪というものがありまして。  王様の側妃?三十年間一夫一妻の国で生きてきたので、それもちょっと……。  聖女の後ろ盾となる大義名分が欲しい王家と、王家の一員になるのは荷が勝ちすぎるので遠慮したい茉莉。  そんな中、王弟陛下が名案と言わんばかりに声をあげた。 「では、私の愛人はいかがでしょう」

処理中です...