姫君の憂鬱と七人の自称聖女達

チャイムン

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18.ランとの語らい~『ハナシュゴ』情報収集

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 ジウン達が稀人との接触で「生餌」となる男性を選別をしている間、わたくしはランと穏やかな語らいの時間を楽しんでいた。
 一応情報収集もかねていたのだが、話すほどわたくしはランに好意を増していった。

 派遣した教師達からの報告も上々で、ランは向上心の有る学問好きでおとなしやかな少女だった。

 午後のお茶の時間、わたくしはランから『エルダー王国の花聖女と十二人の守護者』の内容を聞いた。

「基本的に恋愛を楽しむものなんです」
 ランははじめはおずおずと言った。「恋愛」はランには気恥ずかしいものらしかった。
「狙った攻略対象を、うまく選択肢を選んだりプレゼントをしたりおまじないやアイテムを使って好感度を上げていくんです。好感度が上がるとイベントが起きて、それをうまくこなすとスチルや新しいステージに行けるんです」
 イベントとは事件のようなものと考えればいいらしい。スチルはそのイベントのクライマックスを絵にしたもので、ステージは今までできなかったことができるようになることをさすらしい。

「日常でも小さなイベントがあって、そこで"悪役令嬢"が出てきます。大抵、攻略対象の婚約者です」
 ランのこの発言には驚いた。
「ということはヒロインと呼ばれる方は、婚約者のいる殿方と恋愛をするの?そして婚約者から略奪するのが目的なの?」
「そう言われるとヒロインの方が悪女ですね」
 ランは少し笑った。
「私も最初はステキだなと思う男性を攻略するルートを、いくつかやったんですが…」
 少し口ごもる。
「なんだか段々とヒロインのあざとさが鼻について、"ホーリー・エンド"が一番好きです」
「ホーリー・エンド?」
「ヒロインが全ての男性を選ばず、神殿で修業を積んで真の聖女になるルートです。誰とも恋愛展開ないのですが、みんなに大切にされて国の危機を救って守って行くんです。一番好感度が高い人が守護騎士になってくれます。真っ白な神秘的なドレスを着て大きな翼を持つヒロインに攻略対象全員が感謝と忠誠を誓うスチルが個別に十二枚と集合スチルが一枚、守護騎士とのスチルが一枚ゲットできるので、みんな一度はやると思います。裏逆ハー・エンドとも呼ばれています」
 ランの目がキラキラ輝く。
「ホーリー・エンドは誰も結婚しないので、そこだけは不満の声があったようですが、私はそこが好きでした。ただ、聖女のために捨てられる悪役令嬢の断罪イベントは一度に十二人まとめてやって、残酷な内容なので…そこはスキップ機能が欲しかったです」

「逆ハー・エンドとはどういうものなの?」
 わたくしの問いにランは少し口ごもった。
「あの…十二人全員と結婚するんです」
 思わず目をしばたたく。
「十二人全員と?」
「はい。これはプレミアム・エンドと言って十二人それぞれとのウェディングドレス姿のスチルと、集合ウェディングスチルがゲットできるそうです。課金すると特別ストーリーとスチルがあるのですが…私は課金する余裕がなくて」
「イース帝国には皇妃と側室の他に、側室候補として若い女性を複数留め置く宮があるそうだけど、その男性版と言うところかしら?」
「あの…ゲームは結婚式で終わりなのでよくわかりませんが、そういう感じではなく全員が夫になるんだと思います」
 ランは俯いてやや赤面して答える。
「一人の妻に十二人の夫…」
 ぞわっと背筋が寒くなる。

「それで何人もの殿方の名前を挙げて執着を見せる人がいたのね」
「多分、逆ハー・エンド狙いだと思います」
 気まずそうに俯くラン。

 十二人の女性を不幸に落とすことをランは好ましく思わないようだった。というよりも、「攻略」することで誰かを蹴落とすことに気づき、罪悪感を持っているように見える。

「誰かを手に入れるにはその人の婚約者が悪役なのね?そして断罪ということは何か悪事をはたらくのかしら?」
「はい。彼女達は"悪役令嬢"と呼ばれて、ヒロインに意地悪や嫌がらせをするんです」
 言われたわ。わたくしも「悪役令嬢」と。それに「意地悪」に「嫌がらせ」も。

「"悪役令嬢"はどんな嫌がらせをするのかしら?」
「私はジウン・ルートとジグムンド・ルートと、ホーリー・エンド・ルートしかしていないのですが、大体同じだと思います。人前で庶民だとばかにされたり笑われたり、持ち物を…ノートとか教科書とかを破られたり、服を破られたり汚されたり、池や噴水に落とされたり足をかけて転ばされたり…」
「あらあら、随分と下世話で細々したしたことなのね。それで断罪されるのね。断罪ということは処罰されるのよね?」
「はい。婚約破棄されて、よくて国外追放や幽閉、ジウン様ルートでは処刑でした」
「処刑?第一王子の婚約者がそれごときで処刑?婚約者のいる殿方と恋愛したのに婚約者の方が処罰されるのがそもそもおかしいわ」
 思わず声が大きくなる。婚約破棄でさえ重すぎるのに。
「そうですよね。だから最近は悪役令嬢側が勝つ二次創作や作品も多いんです。私も無料の作品を読んでいました」

「わたくしも"悪役令嬢"よね?どんな悪い女なの?」
「あの…あの、私、公式設定しか知らないんですが…」
 言いにくそうにランは話す。
「お金に汚くて、税金も国費も自分のために遣うケチ王女でした…」
 ああ…ある方面から見れば当たっているかもしれない。「倹約姫」は好意的な言い方で、女王反対派からは「ケチ王女」と呼ばれているのを知っているわ。
 わざわざ「ここで節約したものはこれに遣います」というような公言はしていなものが多いわ。これからは詳らかにした方がいいのかしら?身につまされるわ。

「あの!私!!」
 急にランが身を乗り出す。
「私、誰と結婚したいとか狙っていません!誰かを不幸にして幸せになれるわけないんです!」
 真剣な顔のランだが、少し痛みが垣間見える。
「だから私、聖女にはなれないって聞いてから考えていました。神殿の孤児院で働こうって。お願いします。元の世界に返さず、孤児院で働かせてください」
 ランの表情にも声にも痛ましさが増す。
「誰かと結婚なんて考えません。一生神殿で働きます」

 思いつめたようなランにわたくしは少し不安になる。
「どうして一生とか結婚しないとか思いつめるの?」
「だって私にはそれしかできません。神殿で神様に仕えて…」
「神殿で神に仕えても結婚はできるのよ?」
「えっ?」
 ランは心底驚いた顔になる。

「落ち着いて考えてみて?わたくしは聖女だけど女王になるし、結婚もするのよ?」
「それは王女様だからじゃ…」
「そこから話が違っているのね。神殿に仕えていても結婚はできるの。神殿から出ることにはなるけれど」
 ランは驚いた顔で見返す。
「特に聖女は出来る限り王家と婚姻を結ぶように奨励されるの。同じく神聖力の強い者は王家や王家に近い者との婚姻を望まれるのよ。ホーリー・エンドのように結婚しないなんてほとんどないのよ」

 わたくしはにっこり笑って言葉を続けた。
「だからあなたは安心して学問を続けて。できたらしかるべき養い親の元で幸せな娘になることを考えて欲しいの」
「え…?」
 ランは呑み込めないようだ。
「私はあなたが気に入ったのよ。だから将来の義妹になっていただきたいの。ジンダール侯爵家の養女になることを考えてみてくださらない?」
 ランはへたへたと椅子に沈みこんだ。

 人材の囲い込みも、わたくしの趣味のひとつなのよね。
「いつかあなたが結婚する時に、ホーリー・エンドの聖女のようなドレスを贈るわ」
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