姫君の憂鬱と七人の自称聖女達

チャイムン

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20.倹約姫シャイロ

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 近隣より栄えているエルダン王国の近い将来の女王、齢十七にして国の財政の一部を任され、聖女として神殿の経営管理を実質握っているわたくしシャイロは、傑物であると言われている。清廉潔白で質素堅実。
 王立学園では礼儀だたしく品行方正で自分に厳しい秀才だとも。
 また流民や孤児への慈愛も褒め称えられている。
 敵には、隙のないケチ王女と。

 しかしその素地を作ったのは祖母である亡き王太后だ。

 元々わたくしは感情の起伏の激しい利ん気で怒りっぽい我儘者だ。

 祖母はそんなわたくしを七歳の時、神殿の孤児院に入れた。孤児の一人として。
 孤児院に放り込まれた当初は驚きと物珍しさでいっぱいだった。

 そしてわたくしは貧富の有り様を身をもって学ばされたのだ。

 孤児は古着を自分の好みや体形など顧みられず、清潔であり、窮屈でなければよしとして着せられる。食事はお腹が膨れればいい。身の回りのことはよほど幼い子供以外は自分でするし、院内の掃除や細々とした手伝いを行わなければならない。
 神殿の神女や巫女達が最低限の世話をしてくれるが、特別の愛情を注いで可愛がってくれる人はいない。

 わたくしはすでに初期教育を施されており、ある程度の読み書きはできたが、当時の孤児院では教育まで手は回っていなかった。

 孤児達はただ今日を生きている。明日も生きて食事ができる希望がある。
 反抗したり勤めを怠ったり諍いを起こしたりすれば罰が与えられる。反省房入りや食事抜きや、院を追い出すと脅される。

 孤児院に入れられて数日は、ただただ驚くばかりだった。

 わたくしは大人の中で育ったので、すこし、いやかなり狡いところのある子供だった。
 大人の機嫌や顔色を読むことに長けていたので、自分の身分をここで表すことは悪手だとすぐ悟ったので、とにかくおとなしく過ごし待った。必ず孤児院から出られることを確信していたからだ。
 では、なぜ孤児院に入れられたのか。
 ここで何かを学べと言うことだとすぐに悟った。

 本当に可愛くない子供だ。

 一年の間孤児院で過ごし、王宮に帰ったわたくしに祖母は聞いた。
「いかがでしたか、シャイロ。ここに帰ってあなたは何をしますか?」
 決まっている。もちろん孤児院の改革だ。
 自尊心を砕くあの服装。そこそこ満たされればいい食事。放置された境遇。それでいながら子供には辛い労働。
 たった八歳の幼稚な訴えを祖母は黙って聞いた。

「それではシャイロ、どうやってそれらを行いますか?」
 わたくしは驚いた。当然、祖母がやってくれると思っていたからだ。

「シャイロ、それらを行うのは時期女王であり聖女であるあなたです」
 祖母は厳しく言い渡した。
「考えなさい。今のあなたに何ができるか」

 わたくしは必死に考えた。
 孤児院で仲良くなった友の顔がいつも浮かんだ。

 豪華な食べきれない食事を運ばれれば、ただ腹を満たせばいい孤児院の食事が思い出される。お茶の時間の菓子を見ればとても手を出す気になれない。毎日の着替えのたびに色が褪せて継ぎがあたり何度も何か所も繕われただぶだぶの手触りの悪い服を思った。眠る時は身を寄せて暖をとった冬の夜を思い出す。

「おばあさま、わたくしの食事や服を孤児院に届けてもよろしいですか?」
 祖母に尋ねれば一蹴される。
「それはふさわしくありません。あなた一人のものでは幾人にしか行き渡りません」
 わたくしは泣きだしたかった。なんと自分は無力なのだろう。
 その時わたくしは実際に泣きべそをかいていたのだろう。祖母は微笑んでわたくしの頬に手を当てて言った。
「学びなさい、シャイロ。孤児院で学んだことを生かせる方法を探しなさい」
「誰が教えてくれるのですか?」
「全てですよ」

 きっとこの時わたくしはとんでもない間抜け面をしていたに違いない。
 祖母は笑って言った。
「なぜ孤児がいるのか、なぜ恵まれないのか、どうしたらいいのか」
 祖母は真面目な顔になった。
「歴史にも文学にも、あなたの嫌いな算術にも手掛かりが多くあります」
 わたくしを傍に引き寄せて目線を合わせた祖母は続けた。
「あなたの笑顔も涙も怒りも、あなたの望みを叶えるでしょう。可愛い我儘をあなたの父上は聞いてくださるでしょう」
 わたくしは嬉しくなったが祖母の厳しい顔を見てすぅっと鳩尾が冷たくなった。
「しかしそれではいけません。全てのことに冷静な目を持って、大人を説得する術をみつけなさい。時間はかかりますが、その時こそあなたの笑顔も涙も怒りも効果を最大に発揮するのです」

 これがわたくしの素地だ。
 2年後にはわたくしは「倹約姫」の二つ名を獲得する。
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