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12.ステファニーの忠告
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「アビリル・ゲイジーは男爵家から伯爵家へ嫁いで得意満面ですが、社交界からは嫌煙されるようになりました。アンナ・スライも男爵家ですが、このブロンを狙っていたのです。スティンキー・ガールズは皆、昔のオリヴィアのように、親に決められた婚約者で満足してはいけない。自分が好きになった殿方を得るものだ。恋愛は自由だとのたまうのですよ」
恋愛は自由。
確かにそうかもしれないけれど、婚約している二人を引き裂くことが自由だというのだろうか?
そもそも貴族同士の家の結びつきを否定したら、貴族社会が混乱する。自分の受けている特権階級の恩恵を否定することになる。
「スティンキー・ガールズは下位貴族の娘達なのですよ。身の程に合ったお相手には満足できず、成り上がろうとやっきになっているのです」
ステファニー・マッカリスターが言う。
「アビリル・ゲイジーがレベッカから婚約者を奪ったくせに、その弟のブロンにアンナ・スライと二人がかりで、シャーロットとの仲をかきまわそうとして。それに乗りかけたブロンもブロンです。そうさせてしまうほどのモノとは、問題ですよね、まったく」
さらに声を顰める。
「クローディアの時に使った香水は、もっと濃かったのです。もっと多くの男性を巻き込むほど」
「まあ…」
アレクサは息を呑んだ。ステファニー・マッカリスターは、原因はその香水だと決めつけている。本当に香水にそんな効果があるのだろうか。
「あの二人に囲まれているとくらくらして…段々シャーロットではなく、アンナ・スライを手に入れたいような気持になってしまったんです。僕をシャーロットに引き戻したのは、僕の手を握った彼女の手の冷たさとライラックの香りでした。だから…」
ブロン・リーカーが続ける。
「あの香りは特殊なものなのだと、僕は確信しています」
それが本当だとしたら…
当時のブラッツ・バッケスや当時の国王や王太子の反応も納得できる。
「そんな大変な物、問題にならないのですか?」
「問題になりました」
ステファニー・マッカリスターは、首を振った。
「でもモノは香水ですからね。スティンキー・ガールズもオリヴィアも、たかが嗜好品に文句をつけるのかと抵抗しているのです。たしかに安物の香水ですしね。でも…」
ため息をつくステファニー・マッカリスター。
「王室はなぜか、現物を手に入れられないのです。流通ルートはオリヴィアから直接買うしかないのです。オリヴィアは売る人を厳選していますし、安くても少量ずつしか出さないのですよ」
「それでは王室が調査に乗り出しているのですか?」
「そうなの。オリヴィアとスティンキー・ガールズの起こした醜聞は、ここ数年、社交界の秩序を乱しています。王室は秩序をたもとうと、軽はずみな言動を慎むようにと諭しています。それでもスティンキー・ガールズは、昔のオリヴィアの真似をやめません」
ステファニー・マッカリスターは、首を振った。
「僕の様に、からくも彼女達から逃れた者の聞き取りも進んでいます。全員があの香りで幻惑された自覚があります。あの香水は危険です」
ブロン・リーカーが言う。
「それにね」
ステファニー・マッカリスターは、表情を作った。剣呑な話をしていない風で続ける。
「十五年前にオリヴィアを信じてしまった国王陛下は、確かに同じ香りだったと覚えているのです。スティンキー・ガールズのものより、ずっと濃い香りだったと」
そこまでわかっているのに、香水を取り締まれないのはなぜだろう?
「なぜ香水を分析しないのですか?」
アレクサは問う。
「オリヴィアが渡さないのです。お得意の悲劇のヒロインぶった調子で、たかが香水でわたくしを責めるのですか?店には殿方を虜にすると銘打った商品が、たくさんあるではないですか。わたくし達のほんのささやかなお守りをお疑いですか。とかなんとか言って煙に巻いてしまっているのですよ」
ステファニー・マッカリスターは、ブロン・リーカーの眉間の皺に指で触れて言外に注意しながら言った。
「実際、そういった商品は多くあります。だから依然、野放し状態です」
パタパタと扇を使う。まるで嫌な臭いを追い出したいと言わんばかりだ。
「このお話をしたのは、あなたへの忠告です」
ステファニー・マッカリスターは、にっこりとした顔を作って言った。
「オリヴィアとスティンキー・ガールズには近寄ってはいけませんよ」
アレクサはパチパチと目を瞬いてしまった。
「オリヴィアはもしかしたら、クローディアの姪のあなたを苦しめようとするかもしれません。近づかないのが安全です」
過去にオリヴィアは、クローディア叔母を修道院へ送るまで追い詰めた。果たして姪のわたくしにまで執着するかしら?
「オリヴィアは他人の大切な物を奪ったり、壊したりすることが、根っから大好きなのです。クローディアを苦しめるためならば、あなたをも利用するでしょう」
…ステファニー夫人の人形のティフィーのように?未だに執念深く?クローディア叔母のアリーにも執着しているのかしら?
「あの…」
少しためらってから、思い切って言ってみる。
「オリヴィア・バッケスは未だにアレックス殿下にご執心なのですか」
ステファニー・マッカリスターとブロン・リーカーの目が見開く。
「クローディアはそこまであなたに話したのですね」
「はい」
ブロン・リーカーは驚いたらしい。
「未だに隙あれば、秋波を送っていますよ。自由恋愛と言ってね。でもアレックス殿下が無視しているのは小気味いいわ」
夫のある身でなんてこと…
「いいですか。決して近寄ってはいけません。もちろんホーン家でもマッカリスター家でも、絶対にオリヴィアもスティンキー・ガールズも招待しません。でも王宮主催の催しでは、出席するでしょう。用心して、あの香りからは逃げてください」
「はい。重々心に刻みました」
にこっとステファニー・マッカリスターは微笑んだ。
「さあ、ブロン坊や。婚約者のシャーロット・アンブローズをエスコートしていらっしゃい。きっとやきもきしているわ。レディ・アレクサを紹介して差し上げて」
ブロン・リーカーは席を立って、家族と一緒にいるのだろう、他のテーブルから華奢で可愛い女性を連れてきた。
「シャーロット、こちらはオールディス侯爵家のレディ・アレクサ。レディ・アレクサ、こちらはアンブローズ伯爵家のシャーロットです」
「アレクサです。レディ・シャーロット、どうぞよろしく」
挨拶を交わすと、シャーロットは一瞬はっとした表情をした。おそらくオールディス侯爵家の過去の騒ぎを知っているのだろう。そして警戒心が漂っていた表情が和らいだ。
可哀想に。婚約破棄されかけて、どんなに心細かっただろう。
それからは給仕のメイドを呼び寄せ、和やかに当たり障りのない愉快な話が弾んだ。
恋愛は自由。
確かにそうかもしれないけれど、婚約している二人を引き裂くことが自由だというのだろうか?
そもそも貴族同士の家の結びつきを否定したら、貴族社会が混乱する。自分の受けている特権階級の恩恵を否定することになる。
「スティンキー・ガールズは下位貴族の娘達なのですよ。身の程に合ったお相手には満足できず、成り上がろうとやっきになっているのです」
ステファニー・マッカリスターが言う。
「アビリル・ゲイジーがレベッカから婚約者を奪ったくせに、その弟のブロンにアンナ・スライと二人がかりで、シャーロットとの仲をかきまわそうとして。それに乗りかけたブロンもブロンです。そうさせてしまうほどのモノとは、問題ですよね、まったく」
さらに声を顰める。
「クローディアの時に使った香水は、もっと濃かったのです。もっと多くの男性を巻き込むほど」
「まあ…」
アレクサは息を呑んだ。ステファニー・マッカリスターは、原因はその香水だと決めつけている。本当に香水にそんな効果があるのだろうか。
「あの二人に囲まれているとくらくらして…段々シャーロットではなく、アンナ・スライを手に入れたいような気持になってしまったんです。僕をシャーロットに引き戻したのは、僕の手を握った彼女の手の冷たさとライラックの香りでした。だから…」
ブロン・リーカーが続ける。
「あの香りは特殊なものなのだと、僕は確信しています」
それが本当だとしたら…
当時のブラッツ・バッケスや当時の国王や王太子の反応も納得できる。
「そんな大変な物、問題にならないのですか?」
「問題になりました」
ステファニー・マッカリスターは、首を振った。
「でもモノは香水ですからね。スティンキー・ガールズもオリヴィアも、たかが嗜好品に文句をつけるのかと抵抗しているのです。たしかに安物の香水ですしね。でも…」
ため息をつくステファニー・マッカリスター。
「王室はなぜか、現物を手に入れられないのです。流通ルートはオリヴィアから直接買うしかないのです。オリヴィアは売る人を厳選していますし、安くても少量ずつしか出さないのですよ」
「それでは王室が調査に乗り出しているのですか?」
「そうなの。オリヴィアとスティンキー・ガールズの起こした醜聞は、ここ数年、社交界の秩序を乱しています。王室は秩序をたもとうと、軽はずみな言動を慎むようにと諭しています。それでもスティンキー・ガールズは、昔のオリヴィアの真似をやめません」
ステファニー・マッカリスターは、首を振った。
「僕の様に、からくも彼女達から逃れた者の聞き取りも進んでいます。全員があの香りで幻惑された自覚があります。あの香水は危険です」
ブロン・リーカーが言う。
「それにね」
ステファニー・マッカリスターは、表情を作った。剣呑な話をしていない風で続ける。
「十五年前にオリヴィアを信じてしまった国王陛下は、確かに同じ香りだったと覚えているのです。スティンキー・ガールズのものより、ずっと濃い香りだったと」
そこまでわかっているのに、香水を取り締まれないのはなぜだろう?
「なぜ香水を分析しないのですか?」
アレクサは問う。
「オリヴィアが渡さないのです。お得意の悲劇のヒロインぶった調子で、たかが香水でわたくしを責めるのですか?店には殿方を虜にすると銘打った商品が、たくさんあるではないですか。わたくし達のほんのささやかなお守りをお疑いですか。とかなんとか言って煙に巻いてしまっているのですよ」
ステファニー・マッカリスターは、ブロン・リーカーの眉間の皺に指で触れて言外に注意しながら言った。
「実際、そういった商品は多くあります。だから依然、野放し状態です」
パタパタと扇を使う。まるで嫌な臭いを追い出したいと言わんばかりだ。
「このお話をしたのは、あなたへの忠告です」
ステファニー・マッカリスターは、にっこりとした顔を作って言った。
「オリヴィアとスティンキー・ガールズには近寄ってはいけませんよ」
アレクサはパチパチと目を瞬いてしまった。
「オリヴィアはもしかしたら、クローディアの姪のあなたを苦しめようとするかもしれません。近づかないのが安全です」
過去にオリヴィアは、クローディア叔母を修道院へ送るまで追い詰めた。果たして姪のわたくしにまで執着するかしら?
「オリヴィアは他人の大切な物を奪ったり、壊したりすることが、根っから大好きなのです。クローディアを苦しめるためならば、あなたをも利用するでしょう」
…ステファニー夫人の人形のティフィーのように?未だに執念深く?クローディア叔母のアリーにも執着しているのかしら?
「あの…」
少しためらってから、思い切って言ってみる。
「オリヴィア・バッケスは未だにアレックス殿下にご執心なのですか」
ステファニー・マッカリスターとブロン・リーカーの目が見開く。
「クローディアはそこまであなたに話したのですね」
「はい」
ブロン・リーカーは驚いたらしい。
「未だに隙あれば、秋波を送っていますよ。自由恋愛と言ってね。でもアレックス殿下が無視しているのは小気味いいわ」
夫のある身でなんてこと…
「いいですか。決して近寄ってはいけません。もちろんホーン家でもマッカリスター家でも、絶対にオリヴィアもスティンキー・ガールズも招待しません。でも王宮主催の催しでは、出席するでしょう。用心して、あの香りからは逃げてください」
「はい。重々心に刻みました」
にこっとステファニー・マッカリスターは微笑んだ。
「さあ、ブロン坊や。婚約者のシャーロット・アンブローズをエスコートしていらっしゃい。きっとやきもきしているわ。レディ・アレクサを紹介して差し上げて」
ブロン・リーカーは席を立って、家族と一緒にいるのだろう、他のテーブルから華奢で可愛い女性を連れてきた。
「シャーロット、こちらはオールディス侯爵家のレディ・アレクサ。レディ・アレクサ、こちらはアンブローズ伯爵家のシャーロットです」
「アレクサです。レディ・シャーロット、どうぞよろしく」
挨拶を交わすと、シャーロットは一瞬はっとした表情をした。おそらくオールディス侯爵家の過去の騒ぎを知っているのだろう。そして警戒心が漂っていた表情が和らいだ。
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