偽りの悪女

チャイムン

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14.人気と流行

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 アレクサは、兄のフレデリクに頼みこまれて、リーカー伯爵家のお茶会やガーデンパーティーや夜会に引っ張り出された。
 リーカー家の催しでは、もっぱらアレクサは放っておかれた。
 兄がレベッカ・リーカーに夢中だったからだ。

 あの夜、ダンスに誘ったのがきっかけで、二人はほどよい距離で親密になっていた。どちらも今は婚約者がいない身同士だ。うまくまとまればいいのにと、アレクサは応援していた。

 しかし、放っておかれるのには参った。
 アレクサに婚約者がいないことは知れ渡っているので、独身の殿方からのお誘いが引きも切らなかった。アレクサは失礼にならない程度に、あしらうのが大変だった。

 それでもシャーロットやレベッカとは親しくなり、他の令嬢も紹介された。

 王家主催の夜会で、その令嬢達や令嬢についている母親やシャペロンと歓談している時、ふとアレクサのアクセサリーが話題になった。

「とても豪華ね。わたしもそんなイヤリングが欲しいけれど、とても無理だわ」

 アレクサは輝くカットを施したシャンデリア・イヤリングと揃いのネックレスを身に着けていた。
「あら」
 アレクサは笑って首を振って、イヤリングが灯火を受けて輝くのを見せた。

「これは特殊なカットを施したガラスですのよ」
「ガラスですって?」
 みな、驚いたようだ。

「うちの領地は良質なクリスタル・ガラスの材量の産地ですの。それで腕のいい工房が多く集まっているのです。母が身に着けるには軽々しいですが、わたくしのような若輩者にはこれで十分ですわ」
 アレクサはくるりと回って、髪飾りも見せた。
「これも同じですわ。豪華に見えますが、割と手ごろなお値段ですのよ」
 アレクサの周りが、さわさわとざわめく。

「わたくしも欲しいわ」
「わたくしも」
 令嬢達が自分の保護者を見て、ねだるように言う。
 それを受けてアレクサは
「カタログをお送りしましょうか?」
 と言うと、何人もの希望者が集まった。

 カタログを送った数日後には注文が殺到し、翌月にはオールディス侯爵領の工房のガラスのアクセサリーが、若い令嬢だけではなく、多くの女性を飾った。
 さらにアレクサが好んで着ている、柔らかな絹地と軽やかなオーガンザの組み合わせのドレスも流行した。

 アレクサの朗らかで優しく、嫌味や当てこすりを軽くかわすその様子に人気が集まった。

「オリヴィア・バッケスとスティンキー・ガールズにお気をつけあそばせ」
 愉快そうにステファニー・マッカリスターが、耳元で囁いた。
「あんな汚らしいボロ布の塊みたいなドレスは、当然不発に終わっていますからね。それにしても…」
 くすくす笑いながら続ける。
「自分やスティンキー・ガールズに、流行を発信するほどの魅力があるなんて、どうして思えるのかしらね。幸せなおつむの持ち主よね」

 オリヴィア・バッケスやスティンキー・ガールズは、誰もアレクサに紹介しないので、接点がないままシーズンが過ぎて行った。スティンキー・ガールズの何人かは、物欲しそうに近くに寄って来ようとしていた。確かに彼女達はスティンキー(臭い)だとアレクサも思った。
 その甘ったるくて重たい匂いは、アレクサには悪臭に感じられた。
 その匂いが近づくと、アレクサはそこから遠ざかった。アレクサの周囲に集まる人々も同様で、なにかしら理由をつけてその場から移動した。

「南国の森の中にね、大きな花が咲くんですって」
 ステファニー・マッカリスターが言った。
「なんでも動物の死体を苗床に、葉も茎もない花なんですって。その花からは腐ったゴミのような臭いがするそうよ。そこに薄汚いハエのような虫が集まるんですって」
 辛辣な言いようだ。
 つまりはスティンキー・ガールズがその花で、彼女達に骨抜きになっている男達がハエと言っているのだ。

 ところでアレックス殿下は、めったに社交の場に出てこなかった。
 ある夜、珍しく彼が夜会に出た時、アレクサはオリヴィア・バッケスが「秋波を送る」現場を見た。

「夫は商売が忙しくて、わたくしは放っておかれているのですよ」
 大きな声でぼやきながら、アレックス殿下にオリヴィア・バッケスはどんどん近づいて行った。

 なんて無礼な。
 アレクサはぎょっとした。

 遠目にも厚化粧のオリヴィア・バッケスは、ステファニー・マッカリスターが言ったようにボロ布の塊から、にょっきり黒い上半身を出しているように見える。その上半身も二段の膨らんだ袖で、大きく見える。

「どなたかわたくしのお相手になってくださらないかしら?」
 そう言って、アレックス殿下をあからさまに見つめる。アレックス殿下は気づかない風で、実は気づいているのだが、すっとかわして去って行く。追いすがるオリヴィア・バッケス。
「お待ちになって、アレックス様」
 再びアレクサはぎょっとした。無礼も極まっているわ。
「ねえ、踊ってくださらない?」
 アレクサは驚きを通り越してぞっとした。
 王族に対しての礼儀もなにもない。

 さすがに周囲がざわめいた。
 アレックス殿下は、聞こえない風でホールを出て行った。

 オリヴィア・バッケスは扇を床に叩きつけた。
「昔の行き違いで、ちょっとつれないわ!!」
 人目も気にせずわめいた。

 この人、頭がおかしいのじゃない?
 アレクサは思った。

 もし、クローディア叔母がこの場にいたら…
 実は修道院から戻ってから、クローディア叔母にも毎回王家からの招待状が来ているのだ。しかしクローディア叔母はそれに応じたことはない。

 もしクローディア叔母が社交界に出ていたら、あの図々しく無作法なオリヴィア・バッケスはどうしただろう?その辺も、クローディア叔母が家に引きこもっている理由なのだろう。
 おそらくオリヴィア・バッケスは、大騒ぎして混乱をもたらすのだろう。

 そんなことをアレクサが考えていたその時、オリヴィア・バッケスはくるっとこちらを向いた。ぎっとアレクサを睨みつけた。そしてツカツカとこちらへ寄ってきた。

 どうしよう。
 一瞬、アレクサは迷った。
 しかし、オリヴィア・バッケスはアレクサに紹介されていない。まさか侯爵家の娘にいきなり話しかけまいと思ったが、オリヴィア・バッケスにはそんな礼儀は関係ないらしかった。

「クローディアはどうしているの?」
 まあ、なんて無礼な。
 答えを探す間もなく、アレクサは誰かに手をとられていた。
「レディ・アレクサ、私とダンスの約束だ」
 ジェイムズ殿下がそのまま、アレクサを踊りの輪へと連れ去った。

「ありがとう存じます、殿下」
「よしてくれ、レキシー。オリヴィア・バッケスには礼儀なんかないんだから、気を付けて」
「胸が悪くなるほどの臭いだったわ」
「確かにね。ほら、君を睨んでいる。気づかないふりをして。ダンスが終わったら帰った方がいい」

 ジェイムズ殿下はそのままアレクサを家族の元へ連れて行ってくれた。
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