毒家族から逃亡、のち側妃

チャイムン

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17.婚儀の支度は大急ぎで

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 急ぎ、王妃殿下にオティーリエ王女の状況を伝える。

「なんてことでしょう。カテーナ王国は何を考えているのでしょう。婚儀まで一か月だというのに、全部我が国丸投げとは。せめて前もって知らせてくれればいいのに」
 ため息を吐かれる。

「ベルナデット、ご存じでしょう。カテーナ王国は少々きな臭い状況なのです。隣国のフェディリア王国と国境線で揉めていて、我が国が後ろ盾になっているのです」
 その状況はバシュロ殿下との執務で知っていたが、王女の婚礼支度も満足にできないほどなのだろうか。
「経済状態がよろしくないのでしょうか」
「ええ。かなり逼迫しているようです。実は…」
 王妃殿下は口ごもる。

「カテーナ王国との婚姻は、謂わば人質なのです」

 オティーリエ王女は、最初はごく普通の可愛らしい王女だったらしい。それで七歳の時に婚約が交わされた。内実はインジャル王国がカテーナ王国を庇護する証の人質として。
 バシュロ様はその身の上に同情して、優しくするつもりだったそうだ。

 しかし、インジャル王国の王妃になる未来に目がくらみ、オティーリエ王女は変わってしまった。
 十歳を過ぎた頃から、二言目には「わたくしは未来の王妃なのよ」と言うようになり、気に入らないものを「首を斬りなさい」と言うようになった。もちろん、そんなことにはならないが、オティーリエ王女の不興を買って「斬首」を言い渡された者は百人を超えた。そのため、周りには顔色を窺う使用人しか配置されず、ますます増長していったのだ。

 勉学は初期教育で頓挫したまま。
 好きな科目は歌にダンス。

 カテーナ王国在住の大使がその様子を知らせて来て、国王陛下や王妃殿下はもちろん、バシュロ様も危機感を覚えた。
 そこで何人かの側妃を迎えて、万全の体制をとることにしたが、人材がなかなかみつからなかった。

 側妃と言う立場に、栄華や華やかさや親族の重用を求める者ばかりだった。

 十二歳の私の境遇は願ったり叶ったりだったらしい。

 その時は他にも一人か二人の側妃を加えるつもりだったが、バシュロ殿下が受け付けない。国王陛下も王妃殿下も、私を過ごすうちに一人で十分だと思うようになり、結局私だけが側妃になった。

「とにかく急いで婚礼衣装を仕立てましょう。他の物はあなたが事前に準備したもので間に合わせて、おいおい調えましょう」

 翌日、さっそく仕立て屋を王宮に呼んで、オティーリエ王女の婚礼衣装にとりかかる。
 オティーリエ王女はご機嫌だ。
 その場には王妃殿下と私も立ち会った。

 オティーリエ王女は派手好みで、様々な要求を出すが、王妃殿下が宥める。
「婚儀は伝統に則ったものです。落ち着いたものになさい。色は白です」
 オティーリエ王女はふくれた。
「じゃあ、宝石を散りばめてください」
「それでは間に合いませんし、たった一度きりのドレスですよ。諦めなさい」

 オティーリエ王女は、ダンと足を踏み鳴らす。

「その癖も直しなさい。淑女として恥ずかしいですから」

 オティーリエ王女は侍女やメイドを呼ぶときにベルを使わない。足をダンダン踏み鳴らして人を呼ぶ。

 ふくれかえったオティーリエ王女を半ば無視するように、婚礼衣装は調えられた。

 婚儀までの間オティーリエ王女は何度も、バシュロ殿下を呼ぶように求めたが、当人が乗り気ではない。
 とうとう私がバシュロ殿下に進言する。
「どうかオティーリエ王女殿下の元に行ってさしあげてください」
「それを君が言うの?ベル」
 バシュロ殿下は不満顔だ。
「婚約者と親交を深めるのも公務でございます」
「…わかったよ」

 バシュロ殿下はしぶしぶと言った調子を隠さない。
「オティーリエ王女の元へ行く代わりに、ベルは私を呼ぶときに『殿下』を外して」
「恐れ多いことでございます」
「側妃なんだから、当然でしょ。さ、言って」
 仕方がない。
「バシュロ様、お願いでございます。オティーリエ王女殿下はご機嫌が麗しくないのです。どうぞ優しくお慰めください」
「わかった。君のために行くよ」

 なかなかに頑固な方なのだ。
 優秀な方なので、子供っぽく我儘なオティーリエ王女のことを嫌っている。

 しかしバシュロ様のなさりようは、たった二人の侍女しか連れていないオティーリエ王女には酷だと思う。
 銀星宮には多くの人員を配したが、きっと孤独で心細いことだろう。

 バシュロ様は一時間もせずに執務室に帰ってきてしまった。大変不機嫌だ。
「まったく、おねだり、おねだり、おねだりの嵐だ。贅沢で我儘なな女は嫌いだ」
「そんなことをおっしゃらないで。オティーリエ王女殿下はきっと心細いのですわ」
 きっと持参金を用意しない、王宮のメイドとして働けと言われた時の私と同じくらい傷ついているのかもしれない。

 王太子妃になることが大きな希望で縋りつきたいものなのだろう。

「カテーナ王国のオティーリエ王女殿下への仕打ちは、まるでわたくしの元両親のようですわ。あの時の気持ちを、わたくしは忘れられません」

 バシュロ様は、少し優しい顔になり私の頬を撫でた。
「君があんな風にならなくて、本当によかった」
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