デーティアと白い猫≪赤の魔女は恋をしない3≫

チャイムン

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9.デーティア、狐を捕まえる

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 西の離宮は埃っぽかった。
 使用人は何をしているのだろう?
 デーティアは訝しんだ。

 この離宮は長い間使われていなかった。愛妾を迎えるに当たって国王ジルリアは国費を使うことを禁じ、その代わりこの西の離宮を王太子に与えて、
「自分の経費でどうにかするように」
 と厳しく言い渡したのだ。

 だから三人の愛妾は自分の家から連れてきた侍女とメイド以外は、王太子に頼るしかなかった。
 王太子がここに留まれば、彼についている召使を使えるからだ。

 しかし魅了の魔法に支配されたこの離宮では、入った者は三人の言いなりになるものの、貴族令嬢である彼女達に邸宅の維持の詳細はわからなかった。そのため、三人の居室以外の手入れはなされず放っておかれて荒れていた。

 デーティアは三人の愛妾と対面して驚いた。

 キャリシア子爵令嬢エヴリーヌ、ピアン男爵令嬢リリアナ、サイアンス男爵令嬢シシィ。
 全員が魅了の魔法にかかっていたのだ。
 魔法のかかりかたは限定的で、王太子に向けてではない。
 大きな欲を人参のようにぶら下げられた魅了だ。

 

 何を手に入れたいのかさえわからない、圧倒的な大きな欲望の暗示をかけられている。
 強力で邪な魔法だ。

 自分のものではないのに欲しがる醜い欲望。

 愛妾たちは満たされぬ大きな欲望を抱えて、あれもこれも欲しがった。

 驚いたね。
 愛妾たちを視て、デーティアは更に驚いた。
 この娘達は生娘じゃないか。妊娠や流産どころか男も知らない15か16の娘達。恋すら知らず大きな満たされぬ欲望を抱え込まされている。

 ああ、親が王家の権力欲しさにこの子達を売ったんだ。

 可哀想に。この子達も被害者なんだね。
 操られて痛い目に遭って。

 明日はもっと商品を持ってくると言って離宮を去った。
 娘達の目は欲でギラギラと燃えていたが、去り際に横目で見ると、まるで糸が切れた操り人形のようにぼんやりと座っていた。

 デーティアは愛妾たちに化粧品の使い方を教えながら、魔法の源を探っていた。

 一人の男が、去勢された男が像を結ぶ。

 醜い嫉妬にドロドロと苛まれた魔導士。
 ヨーハンと言う名の宮廷魔導士だ。
 まだ三十前のハンサムな魔導士は優秀だが、大きな劣等感を抱えている。
 この劣等感が魔法と謀略の動機だ。

 なんと彼はデーティアが学園に居た頃魔法の扱いを教えてくれた、今は亡き魔導士シルアの孫弟子だった。

 さてと。
 次は妊娠と流産を告げ、王妃の死を「頭の血管が切れた」と見立てた医者をみつけないとね。

 翌日デーティアは、自宅で穫れた薬草を詰めて医局へ向かった。

「王太子妃殿下から話は聞いています」
 若い医師が迎えてくれた。
「よく効く薬草をお持ちだそうで」
 感じのいい若者だ。

 薬草を並べて効能と処方を説明しながら探ると、王太子や西の離宮と同じ魔法の素を見つける。
 医局長の座にいる医師だ。虚空を見てぼんやりしている。

「あの医者は気分が悪いのかい?」
 若い医師に何気なく尋ねた。
「なんだかぼんやりして。頭痛ならこの処方が利くし、風邪ならこれを煎じるといいよ」
「医局長は最近ああいう様子になることが多くて心配しているのです。高齢だし、お疲れなのかもしれんません」
 声を顰めて若い医師が言う。

「じゃあ、このお茶はどうだい?淹れてあげるよ、あんたにもね」
 そう言ってデーティアはお茶道具を借りて薬草茶を淹れ、自分で毒見してみせた。
 実際にカモミールとセージにローズヒップをブレンドした疲労回復のお茶だった。

「ああ、いい香りですね。医局長にお出ししてきます」
 若い医師はデーティアからカップを受け取って、医局長の元へ向かった。

 お茶にデーティアの魔法の素を絡めて、医局長を縛る魔法の網の中に侵入した。
 医者もヨーハンの服従の魔法にかかっていた。
 さあ、医者は絡め取った。

 ここから魔導士を探らなきゃね。

 医局を去ったデーティアは居場所を探った。

 魔導士は謁見の間に居た。

 そこでは国王ジルリアと魔導士、大臣が居並んでいた。
 大臣たちは騒動の源の魔導士に操られて、愛妾達を側室にするよう迫っていた。その癖、自分の家の養女にすると申し出るものはいなかった。

 世間知らずの魔導士のやりそうなことだよ。

 そうしてどうするつもりだい?国を乗っ取る?
 デーティアは魔導士の心を探った。

 驚いたことにその魔導士ヨーハンの目的は国一番の魔導士の座、魔導士長になることだった。

 デーティアは鼻白んだ。
 それだけかい?
 それだけのために四人の女と子供が踏みつけられたのかい?

 しばし呆然とした後、猛烈に腹が立ってきた。

 おふざけでないよ!!
 そんなことのために女子供を軽んじて踏みつけにしたなんて!!

 デーティアの怒りは燃え上がり、赤い髪が逆立つようだった。

 怒りに任せてデーティアは魔法の網で関係者達、三人の愛妾達とその親と医局長を絡め取って引き連れて、会議中の謁見の間に乗り込んだ。

 そして怒りを爆発させた。

「まったく!とんだぼんくらどもだね!あんた達は!!」
 デーティアの激高した声が謁見の間に響き渡った。
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