9 / 12
9.デーティア、狐を捕まえる
しおりを挟む
西の離宮は埃っぽかった。
使用人は何をしているのだろう?
デーティアは訝しんだ。
この離宮は長い間使われていなかった。愛妾を迎えるに当たって国王ジルリアは国費を使うことを禁じ、その代わりこの西の離宮を王太子に与えて、
「自分の経費でどうにかするように」
と厳しく言い渡したのだ。
だから三人の愛妾は自分の家から連れてきた侍女とメイド以外は、王太子に頼るしかなかった。
王太子がここに留まれば、彼についている召使を使えるからだ。
しかし魅了の魔法に支配されたこの離宮では、入った者は三人の言いなりになるものの、貴族令嬢である彼女達に邸宅の維持の詳細はわからなかった。そのため、三人の居室以外の手入れはなされず放っておかれて荒れていた。
デーティアは三人の愛妾と対面して驚いた。
キャリシア子爵令嬢エヴリーヌ、ピアン男爵令嬢リリアナ、サイアンス男爵令嬢シシィ。
全員が魅了の魔法にかかっていたのだ。
魔法のかかりかたは限定的で、王太子に向けてではない。
大きな欲を人参のようにぶら下げられた魅了だ。
王太子を手に入れれば満たされる。
何を手に入れたいのかさえわからない、圧倒的な大きな欲望の暗示をかけられている。
強力で邪な魔法だ。
自分のものではないのに欲しがる醜い欲望。
愛妾たちは満たされぬ大きな欲望を抱えて、あれもこれも欲しがった。
驚いたね。
愛妾たちを視て、デーティアは更に驚いた。
この娘達は生娘じゃないか。妊娠や流産どころか男も知らない15か16の娘達。恋すら知らず大きな満たされぬ欲望を抱え込まされている。
ああ、親が王家の権力欲しさにこの子達を売ったんだ。
可哀想に。この子達も被害者なんだね。
操られて痛い目に遭って。
明日はもっと商品を持ってくると言って離宮を去った。
娘達の目は欲でギラギラと燃えていたが、去り際に横目で見ると、まるで糸が切れた操り人形のようにぼんやりと座っていた。
デーティアは愛妾たちに化粧品の使い方を教えながら、魔法の源を探っていた。
一人の男が、去勢された男が像を結ぶ。
醜い嫉妬にドロドロと苛まれた魔導士。
ヨーハンと言う名の宮廷魔導士だ。
まだ三十前のハンサムな魔導士は優秀だが、大きな劣等感を抱えている。
この劣等感が魔法と謀略の動機だ。
なんと彼はデーティアが学園に居た頃魔法の扱いを教えてくれた、今は亡き魔導士シルアの孫弟子だった。
さてと。
次は妊娠と流産を告げ、王妃の死を「頭の血管が切れた」と見立てた医者をみつけないとね。
翌日デーティアは、自宅で穫れた薬草を詰めて医局へ向かった。
「王太子妃殿下から話は聞いています」
若い医師が迎えてくれた。
「よく効く薬草をお持ちだそうで」
感じのいい若者だ。
薬草を並べて効能と処方を説明しながら探ると、王太子や西の離宮と同じ魔法の素を見つける。
医局長の座にいる医師だ。虚空を見てぼんやりしている。
「あの医者は気分が悪いのかい?」
若い医師に何気なく尋ねた。
「なんだかぼんやりして。頭痛ならこの処方が利くし、風邪ならこれを煎じるといいよ」
「医局長は最近ああいう様子になることが多くて心配しているのです。高齢だし、お疲れなのかもしれんません」
声を顰めて若い医師が言う。
「じゃあ、このお茶はどうだい?淹れてあげるよ、あんたにもね」
そう言ってデーティアはお茶道具を借りて薬草茶を淹れ、自分で毒見してみせた。
実際にカモミールとセージにローズヒップをブレンドした疲労回復のお茶だった。
「ああ、いい香りですね。医局長にお出ししてきます」
若い医師はデーティアからカップを受け取って、医局長の元へ向かった。
お茶にデーティアの魔法の素を絡めて、医局長を縛る魔法の網の中に侵入した。
医者もヨーハンの服従の魔法にかかっていた。
さあ、医者は絡め取った。
ここから魔導士を探らなきゃね。
医局を去ったデーティアは居場所を探った。
魔導士は謁見の間に居た。
そこでは国王ジルリアと魔導士、大臣が居並んでいた。
大臣たちは騒動の源の魔導士に操られて、愛妾達を側室にするよう迫っていた。その癖、自分の家の養女にすると申し出るものはいなかった。
世間知らずの魔導士のやりそうなことだよ。
そうしてどうするつもりだい?国を乗っ取る?
デーティアは魔導士の心を探った。
驚いたことにその魔導士ヨーハンの目的は国一番の魔導士の座、魔導士長になることだった。
デーティアは鼻白んだ。
それだけかい?
それだけのために四人の女と子供が踏みつけられたのかい?
しばし呆然とした後、猛烈に腹が立ってきた。
おふざけでないよ!!
そんなことのために女子供を軽んじて踏みつけにしたなんて!!
デーティアの怒りは燃え上がり、赤い髪が逆立つようだった。
怒りに任せてデーティアは魔法の網で関係者達、三人の愛妾達とその親と医局長を絡め取って引き連れて、会議中の謁見の間に乗り込んだ。
そして怒りを爆発させた。
「まったく!とんだぼんくらどもだね!あんた達は!!」
デーティアの激高した声が謁見の間に響き渡った。
使用人は何をしているのだろう?
デーティアは訝しんだ。
この離宮は長い間使われていなかった。愛妾を迎えるに当たって国王ジルリアは国費を使うことを禁じ、その代わりこの西の離宮を王太子に与えて、
「自分の経費でどうにかするように」
と厳しく言い渡したのだ。
だから三人の愛妾は自分の家から連れてきた侍女とメイド以外は、王太子に頼るしかなかった。
王太子がここに留まれば、彼についている召使を使えるからだ。
しかし魅了の魔法に支配されたこの離宮では、入った者は三人の言いなりになるものの、貴族令嬢である彼女達に邸宅の維持の詳細はわからなかった。そのため、三人の居室以外の手入れはなされず放っておかれて荒れていた。
デーティアは三人の愛妾と対面して驚いた。
キャリシア子爵令嬢エヴリーヌ、ピアン男爵令嬢リリアナ、サイアンス男爵令嬢シシィ。
全員が魅了の魔法にかかっていたのだ。
魔法のかかりかたは限定的で、王太子に向けてではない。
大きな欲を人参のようにぶら下げられた魅了だ。
王太子を手に入れれば満たされる。
何を手に入れたいのかさえわからない、圧倒的な大きな欲望の暗示をかけられている。
強力で邪な魔法だ。
自分のものではないのに欲しがる醜い欲望。
愛妾たちは満たされぬ大きな欲望を抱えて、あれもこれも欲しがった。
驚いたね。
愛妾たちを視て、デーティアは更に驚いた。
この娘達は生娘じゃないか。妊娠や流産どころか男も知らない15か16の娘達。恋すら知らず大きな満たされぬ欲望を抱え込まされている。
ああ、親が王家の権力欲しさにこの子達を売ったんだ。
可哀想に。この子達も被害者なんだね。
操られて痛い目に遭って。
明日はもっと商品を持ってくると言って離宮を去った。
娘達の目は欲でギラギラと燃えていたが、去り際に横目で見ると、まるで糸が切れた操り人形のようにぼんやりと座っていた。
デーティアは愛妾たちに化粧品の使い方を教えながら、魔法の源を探っていた。
一人の男が、去勢された男が像を結ぶ。
醜い嫉妬にドロドロと苛まれた魔導士。
ヨーハンと言う名の宮廷魔導士だ。
まだ三十前のハンサムな魔導士は優秀だが、大きな劣等感を抱えている。
この劣等感が魔法と謀略の動機だ。
なんと彼はデーティアが学園に居た頃魔法の扱いを教えてくれた、今は亡き魔導士シルアの孫弟子だった。
さてと。
次は妊娠と流産を告げ、王妃の死を「頭の血管が切れた」と見立てた医者をみつけないとね。
翌日デーティアは、自宅で穫れた薬草を詰めて医局へ向かった。
「王太子妃殿下から話は聞いています」
若い医師が迎えてくれた。
「よく効く薬草をお持ちだそうで」
感じのいい若者だ。
薬草を並べて効能と処方を説明しながら探ると、王太子や西の離宮と同じ魔法の素を見つける。
医局長の座にいる医師だ。虚空を見てぼんやりしている。
「あの医者は気分が悪いのかい?」
若い医師に何気なく尋ねた。
「なんだかぼんやりして。頭痛ならこの処方が利くし、風邪ならこれを煎じるといいよ」
「医局長は最近ああいう様子になることが多くて心配しているのです。高齢だし、お疲れなのかもしれんません」
声を顰めて若い医師が言う。
「じゃあ、このお茶はどうだい?淹れてあげるよ、あんたにもね」
そう言ってデーティアはお茶道具を借りて薬草茶を淹れ、自分で毒見してみせた。
実際にカモミールとセージにローズヒップをブレンドした疲労回復のお茶だった。
「ああ、いい香りですね。医局長にお出ししてきます」
若い医師はデーティアからカップを受け取って、医局長の元へ向かった。
お茶にデーティアの魔法の素を絡めて、医局長を縛る魔法の網の中に侵入した。
医者もヨーハンの服従の魔法にかかっていた。
さあ、医者は絡め取った。
ここから魔導士を探らなきゃね。
医局を去ったデーティアは居場所を探った。
魔導士は謁見の間に居た。
そこでは国王ジルリアと魔導士、大臣が居並んでいた。
大臣たちは騒動の源の魔導士に操られて、愛妾達を側室にするよう迫っていた。その癖、自分の家の養女にすると申し出るものはいなかった。
世間知らずの魔導士のやりそうなことだよ。
そうしてどうするつもりだい?国を乗っ取る?
デーティアは魔導士の心を探った。
驚いたことにその魔導士ヨーハンの目的は国一番の魔導士の座、魔導士長になることだった。
デーティアは鼻白んだ。
それだけかい?
それだけのために四人の女と子供が踏みつけられたのかい?
しばし呆然とした後、猛烈に腹が立ってきた。
おふざけでないよ!!
そんなことのために女子供を軽んじて踏みつけにしたなんて!!
デーティアの怒りは燃え上がり、赤い髪が逆立つようだった。
怒りに任せてデーティアは魔法の網で関係者達、三人の愛妾達とその親と医局長を絡め取って引き連れて、会議中の謁見の間に乗り込んだ。
そして怒りを爆発させた。
「まったく!とんだぼんくらどもだね!あんた達は!!」
デーティアの激高した声が謁見の間に響き渡った。
10
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する
ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。
夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。
社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。
ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。
「私たち、離婚しましょう」
アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。
どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。
彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。
アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。
こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。
【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――
ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。
魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。
ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。
誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。
どうぞお好きに
音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。
王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる