デーティアと白い猫≪赤の魔女は恋をしない3≫

チャイムン

文字の大きさ
8 / 12

8.白鳥は舞い降りる

しおりを挟む
 翌日からデーティアはシャロンを磨き始めた。

 気苦労で荒れた肌や髪を調え、やつれた体に栄養を与える。
 シャロンは再び身籠っていたのだ。

 去年のジルリアの異変以来、王太子の足は遠のいていたが、月に数度は訪れていた。
 しかしシャロンは自分の懐妊を疑った日から、自ら王太子を遠ざけていた。
 建前ではを看るために王子の部屋で過ごしていた。

 賢い子だよ。もう半年になるね。
 デーティアは感心すると共に守りを固め、強い加護を与えた。もちろんジルリアとジルにも。

 十日もすると、シャロンは元の美貌を取り戻した。輝くばかりの美しさだ。
 フィリパよりも淡い金の髪、青い目は深い湖のよう。ほっそりした首は白鳥を思わせる。

 王子ジルリアはシャロンに似た金髪で、ロイヤル・パープルの瞳だ。
 国王ジルリアによく似ている。

「そろそろ腹の子のを紹介していい頃だよ」
 デーティアの言葉にシャロンの体が強張るのがわかった。
「心配しなさんな。王宮魔導士全員が束になってかかっきても、あんたには何の害も及ばないよ。ましてや胡散臭い魔術師だか魔女だかなんかに、なんにもできやしない」

 シャロンは静かに頷いて耳を傾けた。

「あんたは綺麗にして堂々と振舞えばいいのさ。まずは国王に懐妊の報告に行こうじゃないか」

 デーティアは国王ジルリアに伝言鳥を飛ばした。

 ほどなく国王から、私的なお茶会の招待状が届いた。出席者は国王と王太子、そしてシャロンだ。

「心配しないでソフィーと行っておいで。あたしはここでジル達のお守りをしながら視ているからね」

 当日、デーティアはソフィーと一緒にシャロンを美しく仕立て上げた。
 白と淡い青の胸下から緩やかに襞を取って落ちるようなドレス姿は、冬の湖に浮かぶ白鳥のようにシャロンを装わせた。
 秋なので、柔らかな鳩羽色のショールを纏わせる。

「おばあさま、どうかジルをお願いします」
 不安げなシャロンの頬を突いてデーティアは笑う。
「ほら笑って。その美しさを見せつけるのがあんたの役目だよ。あの女どもを悋気の火の玉にしておやり。そして…」
 ニヤっとわらって付け加える。
の話を忘れずにね」

 デーティアは水鏡で見守る。

 テーブルについたシャロンを、王太子が魂が抜けたように見蕩れている。
 これは魅了の魔法だね。あんたのじいさんの二の舞じゃないか。
 女狐どもから離れた王の居城にかけ直した加護と結界のおかげで遮断されて、今は目の前のシャロンに魅了されている。
 今頃、女達の後ろにいる奴はは焦っているだろうよ。様子が全く見えなくなったんだからね。

 水鏡を通して王太子に絆を結ぶ。血が繋がっているから簡単だ。これで王太子が女どものところに行っても様子を覗き見できるようになった。

 シャロンは給仕がお茶を注ごうとするのを押し留めた。
「お茶ではなく果実水を」
 シャロンは慎ましやかに目を伏せて告げた。
「懐妊したようなのです」
 その言葉に、王太子は目が覚めたような顔になった。
「誠か!なんと!」
 前もって知らせていた国王ジルリアが堅苦しい祝いの言葉を述べる。
「それはめでたい。体を労わるように」

 まったく、三文役者が。下手くそめ。
 デーティアは心の中で毒づく。

「ただ王子は相変わらずで…ですからまだ公にするのはお許しください」
 シャロンの言葉に国王ジルリアが応える。
「王子は心配だが」
 だから下手くそが!デーティアは舌打ちした。
「シャロンは輝くばかりに美しいな」
 これは真実なので心が籠っている。シャロンは薄く頬を染めた。

「国王陛下が遣わしてくださった魔女のお陰ですわ。魔導士達は化粧品や健康や美容にいいものは扱っていないので、嬉しゅうございました」
 さあ、ばか王太子、今の言葉を心に刻むんだよ。
 デーティアはまじないをかける。

 

 ちゃんと女達に伝えるんだよ。

 ぼんやりしたぎこちないお茶会は終わった。

 王太子はシャロンを部屋まで送ろうとした。
「今宵行ってもいいだろうか」
 シャロンは慎ましやかに断る。
「お腹の御子が心配ですし、まだジルリアの部屋に詰めて居りますので…」
「久しぶりに王子の顔を見たい」
「それはご容赦ください。見苦しゅうございますので。もう少し落ち着いてから…」
「そうか」
 王太子はシャロンの手を取って口づけた。
「近いうちにまた茶でも」
「はい。是非に」

 二人はドアの前で別れた。

「お疲れさん」
 デーティアはシャロンとソフィーを出迎えて労わった。

 ******

 目論み通り王太子は操られたように王城から出ると、西の離宮に向かった。
 目に霞がかかったように虚ろになっている。

 王太子を待ち構えていた三人の女達は、彼の異変よりブツブツ言う言葉に目を剥いた。
 
「シャロンは美しい」
「魔女の化粧品」
「美容にいいもの」

 だらしないね!!
 デーティアはすっかり魔法にかけられた王太子の様にイライラしたが、翌日早速いい知らせを受け取った。
 王太子が国王に腕のいい魔女を紹介してくれと打診してきたのだ。

 三日待たせて、デーティアはもったいぶって西の離宮を訪ねた。
 老獪な魔女の姿を被って。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

令嬢失格な私なので

あんど もあ
ファンタジー
貴族の令息令嬢が学ぶ王都学園。 そこのカースト最下位と思われている寮生の中でも、最も令嬢らしからぬディアナ。 しかしその正体は……。

どうぞお好きに

音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。 王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。

処理中です...