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Banana Splits

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「なんだよ、また完売かよ」

 11時の販売開始時刻前にログインを済まし、支払方法も納品場所も全て登録してある。あとは1クリックで購入となるはずだった。

 なのに、クリックした後、少し待たされて切り替わった画面に現れたのは、「売り切れ」という赤文字だった。

 限定生産のフィギュアが、全くと言っていいくらい買えなくなった。

 原因はわかっている。ここ最近ニュースになることが多い、転売屋の買い占めのせいだ。

 ミナミデには転売なんてするやつの気が知れない。

 即開封のミナミデには、手に入れたばかりのフィギュアを未開封で保管しておくことは難しかったし、そもそも、自分の分以上に購入する金銭的余裕なんてないから、転売用にも買っておくなどという考えが浮かんだことすらなかった。

 自分の分を自分で買う。そして心行くまで眺め、遊ぶ。大人の遊びとはそういうものだと、ミナミデは思っていた。


 大人になってする遊びは自由度が高い。誰かの許可を得る必要もなく自分の意思と力で始めることができるし、欲しいものを買えるだけ買うことが許される。もう十分大人になったミナミデも、思う存分、好き放題、遊びを楽しんでいる。

 ミナミデの好きな遊びの一つはブンドドだった。

 子供のころ、なかなか買ってもらうことのできなかったソフビやフィギュアや、そういうおもちゃを、大人になった今、思うままに購入し、遊ぶ。なんと幸せなことだろうか!

 ブーン、ドドドと数少ないおもちゃを動かして遊んでいた頃を思い出すたびに、ミナミデは今の幸せを噛みしめている。

 ブンドドという遊びは、しようと決めてするというよりは、気が付くと始めている場合が多い。フィギュアを手にし、表情や筋肉のリアルさを見て実感すると、つい彼が佇むにふさわしいシチュエーションを考えてしまう。ポージングを考え、決め、場合によっては他のキャラクターとの絡みを考えて、気が付くとブンドドしているという具合だ。

 ゲットしたのがアクションフィギュアだったときはとくに、キャラクターのキメポーズを再現しようと夢中になる。マンガやアニメで見た名場面をそっくり目の前に作り出すことができるか、あのシーンの続きはこんなだったのではないか、もし仮にこのキャラとこのキャラが出会ったら。再現したいと思い浮かぶ場面は無限だった。

 フィギュアをただまっすぐに、気を付けのポーズで立たせるのは簡単だが、かっこいいポーズは往々にして無理のある体勢なものだから再現するのが難しい。ポーズを決めても転んでしまうフィギュアを、なんとか立たせようと苦心する。

 ときには自分で同じポーズをとり、重心を探ってから、それをフィギュアに応用したりもする。ほんの一ミリ、傾斜を付けたり、身体を伸ばしたり、微妙なバランス調整を続け、かろうじて転ばずに立つ、貴重な神バランスを探していく。

 達人の域に達する人は、そのフィギュアの腰の位置と重心のコツが掴めれば稼働域の許す限り、回し蹴りだろうがヨガのポーズだろうが、どんな体勢も取らせることができるというが、ミナミデの腕はまだまだそこには及ばない。

「よしっ!」

 できたときには気合いの雄叫びをあげてしまう。

 何十分も格闘を続け、なんとか神バランスを得たら、その貴重な成果を写真に収めておきたいと思うのも自然なことだった。

 これを逃したら二度とおなじポーズで立たせることはできないかもしれない。そう考えると、初めはただそのまま撮影すれば満足だったものが、フィギュアの後ろに写り込む生活感溢れる部屋にがっかりすることがないよう、周辺を片付け、壁の前にフィギュアを設置してみたり、三方を取り囲む背景ボードを作ってまわりを目隠ししてみたり、そういうことをしなければ気が済まなくなった。最終的には箱庭状の簡易スタジオまで作成した。


 ミナミデは今日も、絶妙なバランスで立つキャラクターをスタジオの中に配置し、上下左右、前から後ろから写真を撮っては、よりかっこいい一枚を見つけにかかった。

 映画のワンシーンを切り取ったかのような写真が撮りたい。宣伝ポスターに使えそうな写真が撮りたい。人間を撮るときとおなじような現実味のある写真が撮りたい。そんな奇跡の一枚を求めて、何枚も何枚も撮影してはチェックを繰り返す。

 そうやって、「これだ!」と、作品とも呼べるくらい納得のいく写真が撮れたころには、すっかり日が暮れていた。

「やべー」

 休日をまるまる遊んで過ごした罪悪感に、ずどんと胸にのしかかって来るものはあるけれど、まあ仕方がない。なにより、楽しかったし。

 目の前のフィギュアを改めて眺めると、ミナミデは幸せな休日に満足する。

「けど待てよ……」

 たった今、満足したはずが、ほんの少し距離を置いて見ると、さっきは納得の出来栄えだと思ったポーズや配置がどことなく物足りないような気がしてきた。

「この場合にはやっぱり隣に……」

 買えなかったフィギュアのことを思ってしまう。

 ここにあいつを並ばせることができたらどんなによかったか。悔しい思いは怒りに変わる。

「まったく、転売なんてしやがって!」

 大きすぎるひとりごとをつぶやいたところで、ミナミデのスマホがぶるっと震えた。メールだ。画面に触れてメールを開く。

「お! いよいよ発売か! いつだよ?」

 会員になっているホビーショップからの新発売情報が届いていた。

「今度こそ、買い占めなんかには負けねぇ!」

 目の前のフィギュアに言い聞かせるようにして、堅い決意を聞かせるミナミデであった。

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