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*自称ネット俳優*
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もしかして他にもおなじような申し出があるのでは?
迷っているのならぜひ、条件提示をしてください。
条件とか、そういうのはないです!
そんなこと考えてないです!
遠慮せず言ってくださって平気ですよ。
こちらは最大限、先生のご希望に沿えるよう努力します。
先生だなんて!
先生が余計なことに煩わされず作品に没頭できるようにしたい。
それが私の願いです。
どうかぜひ、私にお手伝いをさせてください!
*自称ネット俳優*
あと1、2回押したら、いけるんじゃねえか、これ。けっこうその気だと思うんだよな。
DMのやりとりを読み返して考える。
次に言うべきセリフはなんだ? あともうひと押しするのに効果的な言葉は?
頭をフル回転させる。そうしてジッと睨むように見ている画面の右下に、小さな吹き出しが出現した。SNSの通知機能だ。別のダイレクトメールが届いたことを知らせてくれている。吹き出しの中に小さな窓として表示されたアイコンが目に入る。
なんだよ、ほんとせっかちだな。
私は若干うんざりしながら画面を切り替える。
「まだなの?」
一言だけ書かれた短いメッセージに依頼主の苛立ちを感じる。
「あともうひと押しというところまで来ています。もう少しお時間をください」
キーボードの上にさらっと指を走らせてメッセージを書き込む。送信ボタンを押したか押さないかのうちにもう、返信が入った。
「さっさと頼むわよ」
また一言だけのメッセージだった。ふーっと長い息が思わず鼻から漏れる。しばらく画面を眺めていてみたけれど、それ以上、依頼人の書き込みは続かなかった。
今回はこれだけらしい。修飾も労いもなかったが叱責もなかったから、まあよしとしよう。画面はそのままに立ち上がり、私はパソコンの前を離れた。
キッチンと呼ぶまでもない続き間の隅の冷蔵庫からお茶を取る。ずしりと重い紙パックがなんとなく気に障った。若干持ち上がった眉を感じながら紙パックに直接口を付け、ごくごくと、できる限りたくさんお茶を飲むと、ぷはーっと長い息を吐いた。まだまだ重い紙パックを憎々しく思う。さすがに飲み切ることはできなかった。
さっさと終わらせたいのはこちらもおなじだ。あまりいい印象のないやりとりに辟易する。お茶以上に憎々しい依頼人のことが頭に浮かび、私の眉は再びあがる。
「わたしの小説を盗んだ犯人を特定してほしい」
そんな依頼をされたのは先週のことだった。なんで私が選ばれたのかはわからない。そもそも私は俳優であって探偵ではない。まあ、俳優といってもネット俳優で、エージェントがいるわけではないし、どこかに看板を出して活動しているわけでもない。自分は俳優であるとSNSで宣言して、仕事になりそうな投稿を見つけては連絡し働いているだけだ。まあ、だからこそ選ばれたのか、間違われたのか、したのだろう。
もちろん断ろうと思った。畑違いの仕事だった。けれど、返事をしないうちに送られてきた二通目のメールを見て、私の気は変わった。今の私の収入の三か月分を超える金額を、着手金として振り込みたい。すみやかに振込先を返信すべし、と、そのメールには書かれていた。
「犯人の住所、氏名、電話番号、すべてが得られたら、着手金とおなじ額をもう一度、追加でお支払いします」
そう書かれてもいた。
報酬は多額だった。半年分の収入が一度に得られることになる。それならばやってみてもいいんじゃないか。そう思った。私にオファーしてきたのだから、私にできそうだということだ。
でもどうやって? 私は俳優だぞ? そうか、俳優だ。演技しろってことだ。連絡先を教えたくなるような人物として犯人に近づけばいい。調べるのではなく、訊けばいいのだ。それならやれる気がした。やれる気がする。やってやろうじゃないか。そう思って引き受けた。
状況はまあ、楽じゃない。けどあと少しだって気もしている。あと少し、あと1、2回押したら、行けるんじゃねえか。一度信用させてしまえば簡単なことなのだ。名前だろうが、住所だろうが、私の望むまま、すべて話してくれるだろう。これからの私たちに必要なことなのだと言えばいい。たったそれだけのこと。そう考えると、人はなんと騙されやすいんだろう。我ながら恐ろしくなる。
と同時に、気を付けなければいけないな。自分の行動とはまるで真逆なことが頭に浮かんだ。騙す側がいれば騙される側もいる。
そうだ、気を付けなければ。紙パックを冷蔵庫に戻し、私はまたパソコンの前に座る。依頼主の短いメールにもう一度目を通す。そうだ、気を付けなければ。
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