過去から来た忍者を拾ったら、料理上手すぎる完璧奥さんでした

及川証 (アカシ)

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入社当日の幸せ弁当

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 ―――あれから14年。秋人はサラリーマンになった。

 地元の田舎を離れ東京に。

 サラリーマンとして初の出社である。

「黄昏君、これお願いできる?」

 先輩の佐藤律子さんの言葉に「はい」と短く返事をし俺はコピー機へと向かった。

「ねえ、あの子愛想悪くない?」

「緊張してるのよ。それに表情変わらないって、何かミステリアスって感じで良くない?」

 女性陣の話題にされているとはつゆ知らず秋人は淡々とコピーを刷っていくのだった。

 ―――

 昼休憩。これが待ち遠しいのは子供も大人も同じだろう。

 秋人は表情こそ変わらないが心情はワクワクとバッグに手を入れた。

「あれ?―――ない……」

「どうした黄昏」

 パンをかじりながら聞いてきたのは同期の遠藤武。

「俺の弁当がない……」

 肩を落とす秋人に遠藤はビニール袋をかかげた。

「ほれ、好きな飲みもんとパン1個ずつとれ」

 突然の差し入れに「いいの?」と不思議そうに首をかしげる。

「そのかわりお前の嫁さんに会わせてくれ」

「どうして??」

 趣旨も意味も分からない秋人はさらに首をかしげる角度を深くした。

「いやさー、そんな無表情なのについていく嫁が気になって」

 遠藤は秋人の手を指差す。

 その左手の薬指には木で作られた指輪がはめ込まれていた。

「知り合って3日もしてないのに会わせるのはちょっと……」

 その言葉に納得した遠藤は「だよな」とうなずく。

「しゃーない、でもいつか顔くらいは見せてくれ―――」

 と遠藤が言い切る前に「ガア!」「ガーッ!」とカラスの鳴き声が近くで聞こえ、オフィスにいる社員全員の視線は窓に向かった。

「やだ、カラスぶつかったの?」

「なんか飛び方おかしくない?」

 各々、不気味そうに、不思議そうに見る。

 そんな中秋人は立ち上がりもらったばかりの飲み物とパンを遠藤に返した。

「えっ、いらないのか?」

「弁当届けに来てくれたみたいだから」

 そう言って秋人は躊躇なく上へ向かう矢印ボタンを押す。

「届けに来たってなら下だろ」

「ううん、これであってる……遠藤も来る?」

「嫁来てんなら行く」

 休み時間が削られるよりも好奇心が勝ち遠藤は秋人について行った。

 ―――

 ついたのは屋上。

 春だというのに寒い風が肌に刺さる。

「秋人さーん!!」

 聞こえた声の方向を見た遠藤は「えっ、」と思わず声が出た。

 それはそうだ。ビルの壁を蹴りまるで空を飛んでいるかのような1人の頭巾で顔を隠した忍者装束の男が弁当を片手に手を振って近づいて来るのだから。

 忍者、男、弁当……

「情報量が多いっ!!」

「弁当届けてもらって情報量多いってなに??」

 遠藤のツッコミ虚しく不思議そうな表情を向ける秋人。

「もー、秋人さんったらせっかく作ったのになんで忘れてっちゃうんですか」

 「ぷんぷん」と効果音が聞こえてきそうな怒り方の忍者の頭を秋人は撫でる。

「ごめん……初仕事だから緊張してて。届けてくれてありがとう雪白ゆきしろ

「今日も張り切って作りましたから!自信作です。あっ、こんな時間っ!スーパーの特売なんで帰ったらまた!」

 そう言って流れるようにビルから飛び降りる雪白に、秋人は手を振る。

「お弁当何かな」

 「ほくほく」と嬉しそうに仕事場に戻っていく秋人に遠藤はツッコミを入れた。

「いや、どんな仲なのっ?!」


 ―――

 弁当を開くと、まず「ほわり」といい匂いが鼻腔をくすぐる。

 金平ごぼう、卵焼き、ブロッコリーの出汁煮、ハンバーグと色とりどりな弁当に秋人は分かりにくくはあるが嬉しそうに箸を持つ。

「いただきま―――」

 手を合わせ食べようとする秋人の肩を遠藤は掴む。

「なあ、あの人誰?」

「誰もなにも、あの人は俺の嫁だよ」

 その一言で「ザワッ」とした空気が漂い、聞き耳を立てる者も出てきた。

「僕には勿体ないくらいできたお嫁さんでね」

「ちなみに出会いは?」

「拾った」

「そんな捨て猫拾う感じで言わんで??」

「捨てられてたんじゃないよ。落ちてたんだ」

 そう言いながら黙々と食べ進める秋人。

 ごま油風味のシャキシャキとした甘辛の金平ごぼう。

それに負けないくらいのふんわり出汁の風味と旨味の閉じ込められた卵焼き。
 口にいれるたびにじんわりと出てくる出汁のうま味が何とも言えない。

 同じく出汁を使ったブロッコリーは、味を変えて鷹の爪が入っている。

 ピリ辛のパンチが食欲をそそった。

 そしてハンバーグ。一見普通のハンバーグだが、これは魚の血合いで作られたもの。
 脂っぽさはあまり感じられないが魚独特の風味と細く刻まれた生姜が混ざり合い満足感を与えてくれる。

「料理スキル凄いな」

「拾った時から随分練習してくれたからね」

 「なあ、その話マジなの?」と聞いてくる遠藤。

 しかし秋人の耳に届くことはない。

 なにせ好きな人の作った弁当を食べるのに夢中なのだから。
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