2 / 29
入社当日の幸せ弁当
しおりを挟む
―――あれから14年。秋人はサラリーマンになった。
地元の田舎を離れ東京に。
サラリーマンとして初の出社である。
「黄昏君、これお願いできる?」
先輩の佐藤律子さんの言葉に「はい」と短く返事をし俺はコピー機へと向かった。
「ねえ、あの子愛想悪くない?」
「緊張してるのよ。それに表情変わらないって、何かミステリアスって感じで良くない?」
女性陣の話題にされているとはつゆ知らず秋人は淡々とコピーを刷っていくのだった。
―――
昼休憩。これが待ち遠しいのは子供も大人も同じだろう。
秋人は表情こそ変わらないが心情はワクワクとバッグに手を入れた。
「あれ?―――ない……」
「どうした黄昏」
パンをかじりながら聞いてきたのは同期の遠藤武。
「俺の弁当がない……」
肩を落とす秋人に遠藤はビニール袋をかかげた。
「ほれ、好きな飲みもんとパン1個ずつとれ」
突然の差し入れに「いいの?」と不思議そうに首をかしげる。
「そのかわりお前の嫁さんに会わせてくれ」
「どうして??」
趣旨も意味も分からない秋人はさらに首をかしげる角度を深くした。
「いやさー、そんな無表情なのについていく嫁が気になって」
遠藤は秋人の手を指差す。
その左手の薬指には木で作られた指輪がはめ込まれていた。
「知り合って3日もしてないのに会わせるのはちょっと……」
その言葉に納得した遠藤は「だよな」とうなずく。
「しゃーない、でもいつか顔くらいは見せてくれ―――」
と遠藤が言い切る前に「ガア!」「ガーッ!」とカラスの鳴き声が近くで聞こえ、オフィスにいる社員全員の視線は窓に向かった。
「やだ、カラスぶつかったの?」
「なんか飛び方おかしくない?」
各々、不気味そうに、不思議そうに見る。
そんな中秋人は立ち上がりもらったばかりの飲み物とパンを遠藤に返した。
「えっ、いらないのか?」
「弁当届けに来てくれたみたいだから」
そう言って秋人は躊躇なく上へ向かう矢印ボタンを押す。
「届けに来たってなら下だろ」
「ううん、これであってる……遠藤も来る?」
「嫁来てんなら行く」
休み時間が削られるよりも好奇心が勝ち遠藤は秋人について行った。
―――
ついたのは屋上。
春だというのに寒い風が肌に刺さる。
「秋人さーん!!」
聞こえた声の方向を見た遠藤は「えっ、」と思わず声が出た。
それはそうだ。ビルの壁を蹴りまるで空を飛んでいるかのような1人の頭巾で顔を隠した忍者装束の男が弁当を片手に手を振って近づいて来るのだから。
忍者、男、弁当……
「情報量が多いっ!!」
「弁当届けてもらって情報量多いってなに??」
遠藤のツッコミ虚しく不思議そうな表情を向ける秋人。
「もー、秋人さんったらせっかく作ったのになんで忘れてっちゃうんですか」
「ぷんぷん」と効果音が聞こえてきそうな怒り方の忍者の頭を秋人は撫でる。
「ごめん……初仕事だから緊張してて。届けてくれてありがとう雪白」
「今日も張り切って作りましたから!自信作です。あっ、こんな時間っ!スーパーの特売なんで帰ったらまた!」
そう言って流れるようにビルから飛び降りる雪白に、秋人は手を振る。
「お弁当何かな」
「ほくほく」と嬉しそうに仕事場に戻っていく秋人に遠藤はツッコミを入れた。
「いや、どんな仲なのっ?!」
―――
弁当を開くと、まず「ほわり」といい匂いが鼻腔をくすぐる。
金平ごぼう、卵焼き、ブロッコリーの出汁煮、ハンバーグと色とりどりな弁当に秋人は分かりにくくはあるが嬉しそうに箸を持つ。
「いただきま―――」
手を合わせ食べようとする秋人の肩を遠藤は掴む。
「なあ、あの人誰?」
「誰もなにも、あの人は俺の嫁だよ」
その一言で「ザワッ」とした空気が漂い、聞き耳を立てる者も出てきた。
「僕には勿体ないくらいできたお嫁さんでね」
「ちなみに出会いは?」
「拾った」
「そんな捨て猫拾う感じで言わんで??」
「捨てられてたんじゃないよ。落ちてたんだ」
そう言いながら黙々と食べ進める秋人。
ごま油風味のシャキシャキとした甘辛の金平ごぼう。
それに負けないくらいのふんわり出汁の風味と旨味の閉じ込められた卵焼き。
口にいれるたびにじんわりと出てくる出汁のうま味が何とも言えない。
同じく出汁を使ったブロッコリーは、味を変えて鷹の爪が入っている。
ピリ辛のパンチが食欲をそそった。
そしてハンバーグ。一見普通のハンバーグだが、これは魚の血合いで作られたもの。
脂っぽさはあまり感じられないが魚独特の風味と細く刻まれた生姜が混ざり合い満足感を与えてくれる。
「料理スキル凄いな」
「拾った時から随分練習してくれたからね」
「なあ、その話マジなの?」と聞いてくる遠藤。
しかし秋人の耳に届くことはない。
なにせ好きな人の作った弁当を食べるのに夢中なのだから。
地元の田舎を離れ東京に。
サラリーマンとして初の出社である。
「黄昏君、これお願いできる?」
先輩の佐藤律子さんの言葉に「はい」と短く返事をし俺はコピー機へと向かった。
「ねえ、あの子愛想悪くない?」
「緊張してるのよ。それに表情変わらないって、何かミステリアスって感じで良くない?」
女性陣の話題にされているとはつゆ知らず秋人は淡々とコピーを刷っていくのだった。
―――
昼休憩。これが待ち遠しいのは子供も大人も同じだろう。
秋人は表情こそ変わらないが心情はワクワクとバッグに手を入れた。
「あれ?―――ない……」
「どうした黄昏」
パンをかじりながら聞いてきたのは同期の遠藤武。
「俺の弁当がない……」
肩を落とす秋人に遠藤はビニール袋をかかげた。
「ほれ、好きな飲みもんとパン1個ずつとれ」
突然の差し入れに「いいの?」と不思議そうに首をかしげる。
「そのかわりお前の嫁さんに会わせてくれ」
「どうして??」
趣旨も意味も分からない秋人はさらに首をかしげる角度を深くした。
「いやさー、そんな無表情なのについていく嫁が気になって」
遠藤は秋人の手を指差す。
その左手の薬指には木で作られた指輪がはめ込まれていた。
「知り合って3日もしてないのに会わせるのはちょっと……」
その言葉に納得した遠藤は「だよな」とうなずく。
「しゃーない、でもいつか顔くらいは見せてくれ―――」
と遠藤が言い切る前に「ガア!」「ガーッ!」とカラスの鳴き声が近くで聞こえ、オフィスにいる社員全員の視線は窓に向かった。
「やだ、カラスぶつかったの?」
「なんか飛び方おかしくない?」
各々、不気味そうに、不思議そうに見る。
そんな中秋人は立ち上がりもらったばかりの飲み物とパンを遠藤に返した。
「えっ、いらないのか?」
「弁当届けに来てくれたみたいだから」
そう言って秋人は躊躇なく上へ向かう矢印ボタンを押す。
「届けに来たってなら下だろ」
「ううん、これであってる……遠藤も来る?」
「嫁来てんなら行く」
休み時間が削られるよりも好奇心が勝ち遠藤は秋人について行った。
―――
ついたのは屋上。
春だというのに寒い風が肌に刺さる。
「秋人さーん!!」
聞こえた声の方向を見た遠藤は「えっ、」と思わず声が出た。
それはそうだ。ビルの壁を蹴りまるで空を飛んでいるかのような1人の頭巾で顔を隠した忍者装束の男が弁当を片手に手を振って近づいて来るのだから。
忍者、男、弁当……
「情報量が多いっ!!」
「弁当届けてもらって情報量多いってなに??」
遠藤のツッコミ虚しく不思議そうな表情を向ける秋人。
「もー、秋人さんったらせっかく作ったのになんで忘れてっちゃうんですか」
「ぷんぷん」と効果音が聞こえてきそうな怒り方の忍者の頭を秋人は撫でる。
「ごめん……初仕事だから緊張してて。届けてくれてありがとう雪白」
「今日も張り切って作りましたから!自信作です。あっ、こんな時間っ!スーパーの特売なんで帰ったらまた!」
そう言って流れるようにビルから飛び降りる雪白に、秋人は手を振る。
「お弁当何かな」
「ほくほく」と嬉しそうに仕事場に戻っていく秋人に遠藤はツッコミを入れた。
「いや、どんな仲なのっ?!」
―――
弁当を開くと、まず「ほわり」といい匂いが鼻腔をくすぐる。
金平ごぼう、卵焼き、ブロッコリーの出汁煮、ハンバーグと色とりどりな弁当に秋人は分かりにくくはあるが嬉しそうに箸を持つ。
「いただきま―――」
手を合わせ食べようとする秋人の肩を遠藤は掴む。
「なあ、あの人誰?」
「誰もなにも、あの人は俺の嫁だよ」
その一言で「ザワッ」とした空気が漂い、聞き耳を立てる者も出てきた。
「僕には勿体ないくらいできたお嫁さんでね」
「ちなみに出会いは?」
「拾った」
「そんな捨て猫拾う感じで言わんで??」
「捨てられてたんじゃないよ。落ちてたんだ」
そう言いながら黙々と食べ進める秋人。
ごま油風味のシャキシャキとした甘辛の金平ごぼう。
それに負けないくらいのふんわり出汁の風味と旨味の閉じ込められた卵焼き。
口にいれるたびにじんわりと出てくる出汁のうま味が何とも言えない。
同じく出汁を使ったブロッコリーは、味を変えて鷹の爪が入っている。
ピリ辛のパンチが食欲をそそった。
そしてハンバーグ。一見普通のハンバーグだが、これは魚の血合いで作られたもの。
脂っぽさはあまり感じられないが魚独特の風味と細く刻まれた生姜が混ざり合い満足感を与えてくれる。
「料理スキル凄いな」
「拾った時から随分練習してくれたからね」
「なあ、その話マジなの?」と聞いてくる遠藤。
しかし秋人の耳に届くことはない。
なにせ好きな人の作った弁当を食べるのに夢中なのだから。
10
あなたにおすすめの小説
オークとなった俺はスローライフを送りたい
モト
BL
転生したらオークでした。豚の顔とかマジないわ~とか思ったけど、力も強くてイージーモードじゃん。イージーイージー!ははは。俺、これからスローライフを満喫するよ!
そう思っていたら、住んでいる山が火事になりました。人間の子供を助けたら、一緒に暮らすことになりました。
子供、俺のこと、好きすぎるのやめろ。
前半ファンタジーっぽいですが、攻めの思考がヤバめです。オークが受けでも別に大丈夫という方のみお読みください。
不憫オークですが、前向きすぎるので不憫さは全くありません。
ムーンライトノベルズでも投稿しております。
果たして君はこの手紙を読んで何を思うだろう?
エスミ
BL
ある時、心優しい領主が近隣の子供たちを募って十日間に及ぶバケーションの集いを催した。
貴族に限らず裕福な平民の子らも選ばれ、身分関係なく友情を深めるようにと領主は子供たちに告げた。
滞りなく期間が過ぎ、領主の願い通りさまざまな階級の子らが友人となり手を振って別れる中、フレッドとティムは生涯の友情を誓い合った。
たった十日の友人だった二人の十年を超える手紙。
------
・ゆるっとした設定です。何気なくお読みください。
・手紙形式の短い文だけが続きます。
・ところどころ文章が途切れた部分がありますが演出です。
・外国語の手紙を翻訳したような読み心地を心がけています。
・番号を振っていますが便宜上の連番であり内容は数年飛んでいる場合があります。
・友情過多でBLは読後の余韻で感じられる程度かもしれません。
・戦争の表現がありますが、手紙の中で語られる程度です。
・魔術がある世界ですが、前面に出てくることはありません。
・1日3回、1回に付きティムとフレッドの手紙を1通ずつ、定期的に更新します。全51通。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
シスルの花束を
碧月 晶
BL
年下俺様モデル×年上訳あり青年
~人物紹介~
○氷室 三門(ひむろ みかど)
・攻め(主人公)
・23歳、身長178cm
・モデル
・俺様な性格、短気
・訳あって、雨月の所に転がり込んだ
○寒河江 雨月(さがえ うげつ)
・受け
・26歳、身長170cm
・常に無表情で、人形のように顔が整っている
・童顔
※作中に英会話が出てきますが、翻訳アプリで訳したため正しいとは限りません。
※濡れ場があるシーンはタイトルに*マークが付きます。
※基本、三門視点で進みます。
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
あの部屋でまだ待ってる
名雪
BL
アパートの一室。
どんなに遅くなっても、帰りを待つ習慣だけが残っている。
始まりは、ほんの気まぐれ。
終わる理由もないまま、十年が過ぎた。
与え続けることも、受け取るだけでいることも、いつしか当たり前になっていく。
――あの部屋で、まだ待ってる。
黒獅子の愛でる花
なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。
中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。
深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。
サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。
しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。
毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。
そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。
王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。
王妃は現在、病で療養中だという。
幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。
サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…
祖国に棄てられた少年は賢者に愛される
結衣可
BL
祖国に棄てられた少年――ユリアン。
彼は王家の反逆を疑われ、追放された身だと信じていた。
その真実は、前王の庶子。王位継承権を持ち、権力争いの渦中で邪魔者として葬られようとしていたのだった。
絶望の中、彼を救ったのは、森に隠棲する冷徹な賢者ヴァルター。
誰も寄せつけない彼が、なぜかユリアンを庇護し、結界に守られた森の家で共に過ごすことになるが、王都の陰謀は止まらず、幾度も追っ手が迫る。
棄てられた少年と、孤独な賢者。
陰謀に覆われた王国の中で二人が選ぶ道は――。
執着騎士団長と、筋肉中毒の治癒師
マンスーン
BL
現代日本から異世界へ転生した治癒師のレオには、誰にも言えない秘密がある。
それは「定期的に極上の筋肉に触れて生命力を摂取しないと、魔力欠乏で死んでしまう」という特異体質であること!
命をつなぐため、そして何より己のフェティシズムを満たすため、レオがターゲットに選んだのは「氷の騎士団長」と恐れられる英雄ガドリエル。
「あぁっ、すごい……硬いですガドリエル様ッ!(大胸筋が)」
「……っ、治療中にそんな熱っぽい声を出すなッ」
生きるために必死で揉みしだくレオを、ガドリエルは「これほど俺の身を案じてくれるとは」と都合よく勘違い
触られたいムッツリ攻め×触りたい変態受け
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる