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両思想とアサリとタケノコの酒蒸し
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「ただいまー……」
「おや、どうしましたか秋人さん」
帰って来た秋人の声色がいつもより疲れているような気がした雪白は、秋人のいる玄関へと近づく。
その手には白いビニール袋がぶら下げられていた。
「何か買ってきたんですか」
「買いたいのが高かったから、コレ……」
秋人は袋の中を見せる。
それはぷっくりとした殻付きのアサリ。
「アサリですか!しかも砂抜きしてあるやつ。ありがとうございます秋人さん!」
雪白が元気よくお礼を言っても、目的の物が買えなかったショックなのか「うん……」としか帰ってこない。
「悲しい事はお酒で忘れちゃいましょう!今熱燗作りますね!」
秋人の背広をかけると、雪白は急いでコンロに火をかけた。
熱燗は湯煎で作る。ポットに残っていたお湯を使い時短は出来るが、やはり今の秋人を待たせるのはよろしくない。
雪白はすかさずある物を出した。
「これ……タケノコ?」
「白鳥さんのお宅から許可をもらって採ってきました!採れたての出来立てですよ!」
秋人の目の前に置かれたのはタケノコのおかか和え。
上には山椒の葉が乗っかっており、それだけでも料亭の小鉢の雰囲気を醸し出している。
秋人は手を合わせ「いただきます」と言うとゆっくりとタケノコを口に運ぶ。
「ザク」とした端切れのいい食感に、雪白お手製の出汁がこれでもかというくらいタケノコからあふれ出す。
最初は甘いと感じるが、噛めば噛むほど鰹節の奥ゆかしい香りと味がじんわりと口の中を満たす。
「ありがとう、雪白」
心のこもった秋人の「ありがとう」に「どういたしましてー?」とよくわからずも返事を返す雪白は「はっ!」と気づいた。
「もしかしてタケノコが食べたかったんですか?」
「うん、凄いね雪白」
「私も食べたかったんです」
「ふふっ」と嬉しそうに微笑み雪白は秋人の目の前にお酒を置く。
「雪白も一緒に飲もう」
「もう少しで出来ますので先に飲んでてください」
そう言われて1人で飲むのは味気ない。
秋人は雪白の隣に立った。
見るとコンロに1人用土鍋が二つ火に掛かっている。
「今日はアサリを使っておつまみを作っちゃいますよ!生きているうちに使わないといけませんからね」
「ふふふ」と悪そうな笑みを浮かべる雪白に反応したのかアサリの出ていた目のような物が全部殻に引っ込む。
「まずはアサリ同士の殻をこするようにぶつけ汚れを取ります。砂抜きをする場合は塩水かぬるま湯を使うと早いですよ」
雪白の説明を「へー」と興味深そうに聞く秋人。
「塩水はわかるけど、なんでぬるま湯?」
「それは私もわかりません!ご近所さんが言ってたので」
わからないことを元気よく言う雪白を秋人は微笑ましく見つめ頭を撫でる。
「うん、わからないよね。俺もだし」
「あとで調べておきますね」と雪白は言いながら洗ったアサリと、熱燗に使ったものと同じ酒。そしてタケノコを土鍋に入れた。
「酒蒸し。いいね」
「少し寒いですからピッタシでしょ?あとは蓋をしてアサリが開くまで待ちます!すぐに開きますよ」
そう雪白が言ったと同時に「パク」っと次々とアサリの口が開いていく。
「これ何か見るの気持ちいいよね」
秋人の言葉に「わかります」と心底うなずく雪白はミトンをつけ土鍋を持ち上げた。
「さあ、ご飯……じゃなかった晩酌にしましょうか」
―――
「いくよ雪白」
「いつでもどうぞ!」
2人は「せーの」の掛け声で土鍋の蓋を開ける。
ふわりと先に香るのはアサリ。二枚貝の出汁の匂いが優しく湯気に乗って顔に向かってくる。その奥にタケノコの甘い香り。そして――
「三つ葉だ。いつの間に入れたの?」
「秋人さんの目を離した隙にです」
いたずらが成功したような清々しい笑みで雪白は言う。
「見逃した……」
「そんなに落ち込みます?」
表情こそ変わらないが雪白から見た秋人はかなり落ち込んでいるようで、雪白は「わたわた」と焦る。
「それよりも冷めないうちに食べましょう?」
「うん、いただきます」
そう言って秋人がまず箸で挟んだのは、やはり念願のタケノコ。
「シャクリ」とおかか和えと同じ食感。しかし―――
「出汁や調味料が違うだけでこんなに変わるんだ……」
「そうなんですよねー、不思議です」
お互い酒蒸しを「まじまじ」と見つめ次はスープを飲む。
アサリの塩気と三つ葉独特の香りと「シャキシャキ」としたみずみずしい食感に舌鼓を打つ。
そして合間に飲む辛口の熱燗。
咽るような酒気を喉に流し、また酒蒸しを食べる。
これ以上の至福はないだろう。
「あっ、秋人さんスープは残してくださいね」
食べ終わりそうな秋人に雪白はストップをかけ立ち上がる。
そしてまた2つの土鍋をコンロにかけた。
「温め直すの?」
「いいえ、お酒も飲み終えましたし、今度はシメです」
そう言って雪白は冷や飯を冷蔵庫から取り出し2つの土鍋にいれる。
「クツクツ」と煮えたところで醤油を一回しし、溶き卵を「トロー」っと流し入れる。
「秋人さん、三つ葉は?」
「入れられるだけお願い」
「はらはら」と三つ葉を入れ完成したのは
「シメ雑炊です!」
「美味しいやつだ」
席につき2度目の「いただきます」をする。
米が惜しげもなく吸った出汁、それを口に入れる。
火傷するくらい熱い熱気を口から逃がしつつ噛み締める。
半熟「トロトロ」の卵に追加の三つ葉のアクセント。
そして、
「タケノコ発見」
「宝探しみたいで楽しいですよね」
雪白の言葉に「うん」とうなずき秋人は雑炊を口に運ぶ。
幸せな優しい味が腹と心を満たすのだった。
「おや、どうしましたか秋人さん」
帰って来た秋人の声色がいつもより疲れているような気がした雪白は、秋人のいる玄関へと近づく。
その手には白いビニール袋がぶら下げられていた。
「何か買ってきたんですか」
「買いたいのが高かったから、コレ……」
秋人は袋の中を見せる。
それはぷっくりとした殻付きのアサリ。
「アサリですか!しかも砂抜きしてあるやつ。ありがとうございます秋人さん!」
雪白が元気よくお礼を言っても、目的の物が買えなかったショックなのか「うん……」としか帰ってこない。
「悲しい事はお酒で忘れちゃいましょう!今熱燗作りますね!」
秋人の背広をかけると、雪白は急いでコンロに火をかけた。
熱燗は湯煎で作る。ポットに残っていたお湯を使い時短は出来るが、やはり今の秋人を待たせるのはよろしくない。
雪白はすかさずある物を出した。
「これ……タケノコ?」
「白鳥さんのお宅から許可をもらって採ってきました!採れたての出来立てですよ!」
秋人の目の前に置かれたのはタケノコのおかか和え。
上には山椒の葉が乗っかっており、それだけでも料亭の小鉢の雰囲気を醸し出している。
秋人は手を合わせ「いただきます」と言うとゆっくりとタケノコを口に運ぶ。
「ザク」とした端切れのいい食感に、雪白お手製の出汁がこれでもかというくらいタケノコからあふれ出す。
最初は甘いと感じるが、噛めば噛むほど鰹節の奥ゆかしい香りと味がじんわりと口の中を満たす。
「ありがとう、雪白」
心のこもった秋人の「ありがとう」に「どういたしましてー?」とよくわからずも返事を返す雪白は「はっ!」と気づいた。
「もしかしてタケノコが食べたかったんですか?」
「うん、凄いね雪白」
「私も食べたかったんです」
「ふふっ」と嬉しそうに微笑み雪白は秋人の目の前にお酒を置く。
「雪白も一緒に飲もう」
「もう少しで出来ますので先に飲んでてください」
そう言われて1人で飲むのは味気ない。
秋人は雪白の隣に立った。
見るとコンロに1人用土鍋が二つ火に掛かっている。
「今日はアサリを使っておつまみを作っちゃいますよ!生きているうちに使わないといけませんからね」
「ふふふ」と悪そうな笑みを浮かべる雪白に反応したのかアサリの出ていた目のような物が全部殻に引っ込む。
「まずはアサリ同士の殻をこするようにぶつけ汚れを取ります。砂抜きをする場合は塩水かぬるま湯を使うと早いですよ」
雪白の説明を「へー」と興味深そうに聞く秋人。
「塩水はわかるけど、なんでぬるま湯?」
「それは私もわかりません!ご近所さんが言ってたので」
わからないことを元気よく言う雪白を秋人は微笑ましく見つめ頭を撫でる。
「うん、わからないよね。俺もだし」
「あとで調べておきますね」と雪白は言いながら洗ったアサリと、熱燗に使ったものと同じ酒。そしてタケノコを土鍋に入れた。
「酒蒸し。いいね」
「少し寒いですからピッタシでしょ?あとは蓋をしてアサリが開くまで待ちます!すぐに開きますよ」
そう雪白が言ったと同時に「パク」っと次々とアサリの口が開いていく。
「これ何か見るの気持ちいいよね」
秋人の言葉に「わかります」と心底うなずく雪白はミトンをつけ土鍋を持ち上げた。
「さあ、ご飯……じゃなかった晩酌にしましょうか」
―――
「いくよ雪白」
「いつでもどうぞ!」
2人は「せーの」の掛け声で土鍋の蓋を開ける。
ふわりと先に香るのはアサリ。二枚貝の出汁の匂いが優しく湯気に乗って顔に向かってくる。その奥にタケノコの甘い香り。そして――
「三つ葉だ。いつの間に入れたの?」
「秋人さんの目を離した隙にです」
いたずらが成功したような清々しい笑みで雪白は言う。
「見逃した……」
「そんなに落ち込みます?」
表情こそ変わらないが雪白から見た秋人はかなり落ち込んでいるようで、雪白は「わたわた」と焦る。
「それよりも冷めないうちに食べましょう?」
「うん、いただきます」
そう言って秋人がまず箸で挟んだのは、やはり念願のタケノコ。
「シャクリ」とおかか和えと同じ食感。しかし―――
「出汁や調味料が違うだけでこんなに変わるんだ……」
「そうなんですよねー、不思議です」
お互い酒蒸しを「まじまじ」と見つめ次はスープを飲む。
アサリの塩気と三つ葉独特の香りと「シャキシャキ」としたみずみずしい食感に舌鼓を打つ。
そして合間に飲む辛口の熱燗。
咽るような酒気を喉に流し、また酒蒸しを食べる。
これ以上の至福はないだろう。
「あっ、秋人さんスープは残してくださいね」
食べ終わりそうな秋人に雪白はストップをかけ立ち上がる。
そしてまた2つの土鍋をコンロにかけた。
「温め直すの?」
「いいえ、お酒も飲み終えましたし、今度はシメです」
そう言って雪白は冷や飯を冷蔵庫から取り出し2つの土鍋にいれる。
「クツクツ」と煮えたところで醤油を一回しし、溶き卵を「トロー」っと流し入れる。
「秋人さん、三つ葉は?」
「入れられるだけお願い」
「はらはら」と三つ葉を入れ完成したのは
「シメ雑炊です!」
「美味しいやつだ」
席につき2度目の「いただきます」をする。
米が惜しげもなく吸った出汁、それを口に入れる。
火傷するくらい熱い熱気を口から逃がしつつ噛み締める。
半熟「トロトロ」の卵に追加の三つ葉のアクセント。
そして、
「タケノコ発見」
「宝探しみたいで楽しいですよね」
雪白の言葉に「うん」とうなずき秋人は雑炊を口に運ぶ。
幸せな優しい味が腹と心を満たすのだった。
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