死にゲーの世界のキャラに憑依したと思ったら、BL版の世界でした。 ~最悪領主になりきろうとしたが、日本人気質の所為でばれそうです~

番傘と折りたたみ傘

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新しいイベント

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 あれから数日、俺は平和な日々を過ごしている。最初の二、三日は緊張していたが、あの時以来、扇情的な表情をグランデはしてこなかった。どっちかというと、大いに優しくなった。時折、見せる氷の王子は、執務に失敗した時か、ライトから変に絡まれている時しか現れなくなったのだ。これってどういう心境変化なのだろう。もしかして、また知らない内に好感度が上がったのだろうか。そうであって欲しいと祈るしかない。

 徐々にリハビリがレベルアップし、体力も段々と戻ってきて、今では普通に生活できる範囲までに動ける様になった。

 穏やかな午前中、執務室にて印を押す作業をしていると、グランデがある事を言ってきた。

「庭に出て、おやつ休憩しませんか?」

「は?」

 急な提案に唖然とした。あの仕事真面目怪人グランデが、サボらないかと言ってきたのだ。雨、いや台風が来るのかもしれない。

「嫌ですか?」

「い、嫌じゃないけど……何で?」

「偶には、陽に当たらないといけません。気分転換も大事ですから」

「そうか。分かった」

 顔は笑っているのに、嫌ですか? の言葉が冷たく感じた。拒否れば氷の王子様を召喚しそうなので、従っておこう。



 果たして、これは何のイベントなのだろう。執務室から外へ連れてこられた俺は、今真っ白な木製の椅子に座っている。お茶とお菓子が乗ったテーブルを挟んで目の前にいるグランデはニコニコと口角を上げて眩しい位に笑顔だ。ゲーム内でグランデと主人公がお庭ほのぼのデートなんてあっただろうか。いや、レイルの絵や物語の中ですら、こんな庭でのんびりとティータイムなんて無かったと思う。どちらかというと夜会や舞踏会の方でのやりとりが多かった気がする。

「外でこうお茶するの久しぶりですね。冬もやっと終わり、春の訪れに喜んでいるのは人だけではない様です」

「そうだな」

 そう言うグランデが、庭に視線を向けている。確かに、庭にたくさんの花々が咲いている。俺の世界でみたことのある花もあれば、全くみたことの無いものまである。その花々の合間を綺麗な蝶が飛び回っている。

「庭師がレイル様の為に、沢山の時間と労力を掛けて育てているのですから、きちんと見て頂かないと不憫です」

「そ、そうか」

 その通りかもしれない。この庭の持ち主をレイルなのだから。

「それに、このお茶やお菓子に使われているハーブもこの庭から採取し、調理しているんですよ」

「そういえば、前もそう言っていたな。お茶だけじゃないんだなぁ」

「ハーブを乾燥させたものを使って、生地に練り込んだりして作るんですよ。香りがとても上品なお菓子になるんです」

 確かに、テーブルの上に置かれたお菓子は、上流階級のお方が食べそうな感じだ。焼かれたお菓子を一つ摘み、口の中に放り込む。俺の世界でいうクッキーだと思う。サクサクとした食感と優しい甘味、仄か香る花の香りが上品さを醸し出している。

「うん。美味しい」

「甘いのはお好きですか?」

「う、うん。好きだが、急にどうした?」

「いえ、別に何でもないですよ」

 今の質問は何だ。グランデならレイルの好みなんて把握済みだろう。それなのに、聞いてくるって……。もしかして、レイルじゃないって……バレた? いや、それはないはずだ。レイルは甘党な筈。詳しいことは、説明書にも書かれていなかったが、間違っていない筈だ。

「新しく作ったお菓子でしたので、お口に合うかと思いまして」

「そうか……作ったって、グランデが作ったのか!?」

「えぇ、そうです。レイル様の料理を作りたがらない者が多いですので、仕方なく私が作っています」

「そ、そうですか。でも、ありがとう」

 優しくなったと言っても毒舌は健在だ。そうか、レイルの料理は今までグランデが作ってくれていたのか。護衛といい、執務といい、全てをレイル……いや、俺はグランデに頼りきっているんだ。何かお礼をできないだろうか。それに、何かと元気付けてくれるライトにも何かお礼をしたい。だが、何をすれば良いのだろう。確か、設定上では、グランデは紅茶。ライトは、酒が好きと記載されていた。紅茶と酒を使って何か作れないだろうか。
キッチンに行って、コックさんに相談するのもありかな。

「レイル様、もうすぐ春」

「エトワール様!!」

 グランデの言葉を遮る大声に驚き、その方を見ると風邪で寝込んでいた時に、看病してくれていた年配の女の人が駆け寄ってきていた。

「グレア様、どうか致しましたか?」

 グレアと呼ばれた女性は、息を整えている。グレアって、確かメイド長設定のキャラクターの名前だ。ゲーム内では後ろ姿とかで登場したキャラで、あまり詳しく顔など描写されていなかった。今は、焦っている様子だが、笑ったら優しそうな顔つきをしている。

「例のお客様です」

「今……ですか。待たせて置いてください。今は手が離せませんので」

「ですが……」

 困った様子のグレアに、助け舟を出すことにした。お年寄りの方には優しくするが俺の信念だ。

「グランデ、行ってきても良いよ。グレアも困ってる」

「そういう訳にはいきません。貴方の護衛を誰がするんです? 今の時間はライトは会議ですし、マルバール医師もすぐには来れません」

「子供じゃあるまし、短時間位一人でも大丈夫だ」

「命を狙われているんですよ。犯人だって分かっていないこの状況で、一人にするなんて」

「それじゃ、俺もグランデと一緒に」

「それはできません!! あんな奴に今のあな……。いえ、兎に角、レイル様。一人は危険すぎます」

 今、あからさまに、嫌そうな顔をしたな。それに、客人相手にあんな奴呼びするなんてグランデらしくない。一体、どんな客なのだろう。それでも、客人は客人だ。直ぐに応対するが、マナーってものだろ。

「グランデ、大丈夫。俺を信じてくれ」

「……分かりました。何かあれば直ぐに呼ん……いえ、三分で戻ります」

「それ流石に、厳しくないか」

「必ず、戻ってきますから、ここで待っていて下さい」

 そう言ってグランデとグレアは、駆けて行った。砂煙が巻き上がるあの速さだったら、三分も夢ではないのかもしれない。

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