死にゲーの世界のキャラに憑依したと思ったら、BL版の世界でした。 ~最悪領主になりきろうとしたが、日本人気質の所為でばれそうです~

番傘と折りたたみ傘

文字の大きさ
75 / 98
1

グランデ・エトワールの視点『兄と医師の報告』

 自室に入り、私服に着替えてから椅子に腰掛ける。テーブルに肘をつき両手を組んで、額に当てた。考え事を、それもどうすれば良いのか分からない時、この姿勢をとる。

 あの男が来るなんて思っても見なかった。リベルテ・エトワール。
 貴族であり、私の兄であり、略奪者だ。何が邪魔をするだ。あの男こそ私の邪魔ばかりする。

 兄が来なければ、今頃彼とどうなっていただろう。穏やかに食事をして、話をして、踊って、そして……。

 それもこれも、兄が来なければの話だ。

 それよりも、彼に私の見て欲しくない所を彼に見られてしまった。怒りに任せて怒鳴り散らすなんて……。抑えられなかった。お前は使えない。お前は自分の劣化品だと言われている様で、苦しかった。性格は最悪だとしても、能力的には、兄の方が断然上だ。仕事や体調管理もこなし、安全面でも兄は、完璧にレイル様を支えられるだろう。湯あたりをさせたり、風邪を引かせたり、毒を盛られたりもしない。完璧な兄を見て彼はどう思ったのだろう。レイル様に、捨てられてもどうも思わないし、構わない。次の仕事を探せば良いだけだ。だが、彼にいらないって言われたら、その時、私はどう思うのだろう。

 いつの間にか力が入っていた様だ。組んでいた両手に疲れを感じる。そっと力を抜き、両手を外した。顔を上げ、窓の外を見れば漆黒の闇の中、輝く星空が見えた。

 この苦しい胸の内をどう説明して良いのか分からない。だが、わかっている事もある。捨てないで欲しいと思ったのは初めてだった。彼の事をまだ何もわかっていない。彼の目的を見極めたい。いや、知りたい。その為には、側に居なければならない。居させて欲しいと思うのに、そう彼に言う事も聞く事もできない。いらないと言われたら……こわい。その所為で、夜会からの帰りは彼を見る事ができなかった。

「お前なんていらない」

「なんで、居るの」

「どうして、お前なんか生まれてきたんだ」

 そう言われた訳じゃない。しかし、皆の態度や行動がそう言っていたんだ。私は、どうすれば良かったのだ。お願いだから……捨てないで。 

 そう願った時、扉の開く音が聞こえた。


「失礼する」

 声で訪問者が分かり、期待していた人物じゃなくて落胆した。渋々、こちらへと向かってくる人へと視線を向ける。

「マルバール殿。こんな時間に何用でしょう」

「何用とはなんだ。調べた事を伝えにきてやったと言うのに」

 マルバールに頼んだことと言えば、レイル様の暗殺者が使った薬の入手ルートについてだ。

「何かわかったのですか?」

「あぁ、闇ルートだが比較的浅いルートで助かった。おかげで、購入者まで突き止めることが出来た。ほら、こいつだ」

 マルバールが、差し出してきた紙を受け取る。描かれた似顔絵はどこかで見たことがある。

「この男は……」

「あぁ、レイル様の所為で全てを失った男だ」

「あの事ですね」

 あの出来事の所為で、彼が苦しむ事になったんだ。レイル様にとっては、何気ない事でも、領民にとっては一大事の出来事だった。

「自業自得さぁ。奴からすれば、憎き男が標的になったんだ。さぞ、嬉しかっただろうなぁ」

「自業自得ではありません! 彼のせいでは……」

 彼の所為ではない。彼が来る前の出来事だ。

「……何か、分かったか」

「何も……いえ、多分ですが、レイル様の中には何者かがいると思うのです」

「エトワール殿……まさか、霊的な奴とか言うつもりか。俺は、そういうの信じてないんだが」

 こいつ大丈夫かと、視線で語る彼の言いたい事も分かる。だが、別人格がいる。これが一番近い答えだと私は思うのだ。今日、兄が居る前でレイル様は、誰だろう的な態度を取っていた。いつもであれば、上手くあしらう所を不安気な様子だった。いつも中央会議で会う相手。知らない筈がない。

「えぇ、私も信じていません。ですが、レイル様の変わり様と言い、そう考えるのが一番近い気がするんです。私は、別人格がいると考えています」

「……それで、そいつは何をしようとしているのか。わかったのか?」

「いえ、それはまだです」

「そうか。取り敢えずは、現状維持で様子を見ていく方向でいいんだな」

「はい。お願いします」

 マルバールはすぐに理解してくれるから助かる。ライトも同じく理解してくれれば良いのにと何度も思ってしまう。

「……あと、あまり無理するなよ。顔色が悪いぞ」

「医者である貴方に言われるという事は、それほど酷いんですね」

「噂になっていたぞ。あいつがいたと」

「そう……ですか」

「何か悩み事があったら、聞いてやるぞ」

「いいえ、大丈夫です。こんな事で潰れる私ではありませんので」

「まぁ、そう言うだろうと思ったけどな。何かあれば、俺の所こいよ。茶くらい出してやる」

 マルバールが私に気を使うなんて珍しい。それ程、心身ともに堪えたということか。

「雪でも降ってきそうですね」

 笑顔を作った。潰れてしまわない様に、自分を騙す。

「笑えねぇな。じゃあな」

 そう言ったマルバールは、私に背を向け部屋を出て行った。

「無理にでも、笑わないとやっていけない事もあるんですよ」

 苦しい胸の内から出た独り言は、静かな部屋の中に消えていった。
感想 3

あなたにおすすめの小説

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL要素までとても遠いです。前半日常会多め。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます

ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。 しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。 ——このままじゃ、王太子に処刑される。 前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。 中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。 囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。 ところが動くほど状況は悪化していく。 レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、 カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、 隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。 しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。 周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり—— 自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。 誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う—— ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

囚われた元王は逃げ出せない

スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた そうあの日までは 忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに なんで俺にこんな事を 「国王でないならもう俺のものだ」 「僕をあなたの側にずっといさせて」 「君のいない人生は生きられない」 「私の国の王妃にならないか」 いやいや、みんな何いってんの?