死にゲーの世界のキャラに憑依したと思ったら、BL版の世界でした。 ~最悪領主になりきろうとしたが、日本人気質の所為でばれそうです~

番傘と折りたたみ傘

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暗殺者の名

 夕日が地平線に落ち、夜になる様に、紅から黒く視界が染まる。自身すら見えない暗闇の中、ぼんやりと立っている。

「お……!」

 何があったんだっけ。

「……い!!」

 あぁ、俺……死んだんだっけ。いや、殺されたんだ。と言う事は、此処は元の世界だろうか。それとも、死の世界?

「おい!」

 肩を叩かれて、ぼんやりとしていた意識が覚醒した。暗闇の世界は、いつの間にか、色とりどり光の世界に変わっていた。目の前にいた人物を見て俺は元の世界に戻れなかったのを理解した。死んでも戻れないってことか。

「レイル様、大丈夫か?」

 ライトが俺の両肩を叩いていた。力加減をしてくれているのか、あまり痛くない。

「あぁ、ライトがいるって事は、此処は天国なのか。てっきり、俺は地獄行きだと思っていたんだけど」

「レイル様、大丈夫じゃ……ないな。此処はレイル様の部屋だ」

「え?」

 部屋だって? 周りを見渡してみると、ライトの言った通りレイルの部屋だった。クローゼットの隣にグランデとライトは取ってくれた猫と犬のぬいぐるみがある。

「あ、あれ?」

 白昼夢なのか? いや、以前の夢と違って現実味がありすぎて、とても夢とは思えない。もしかして、死に戻りとかの力があるとか……。いや、それはあり得ない。レイルにそんな力の設定はなかった筈だ。それなら、これはどう言う現象なのだろう。そういえば、さっき見たレイルが出てくる夢。あれは、夢? それとも、本物のレイルなのか。レイルが言っていた言葉を思い出そう。確か、俺が夢を感じるものになったと言っていた。それに、死の予言夢を感じる為の条件を見つけろとか。あぁ、一度に沢山のことが起こって何が何だが分からない。

「レイル様、疲れたのか? 少し休むか?」

「いや、大丈夫。ライト、ありがとう」

「気にするな。疲れた時は、もっと寄りかかったって良いんだぜ」

「そうだな」

 あれ? なんだか身に覚えのあるセリフにぞくっとした寒気がした。それに、部屋の真ん中でライトと一緒に立っていて、腰に回されたライトの手。この状況に不安と恐怖が蘇る。この後って、どうなったんだっけ。確か、ライトが……。考えたくもないのに、思考がこの後に起きた出来事を思い出そうとする。いや、あれは夢だ。そんなことありえない……。それなのに、現実は牙を剥き出しにし、俺へと襲いかかってくる。

 向かい合っていたライトが視界から消えた。いや、そうじゃない。崩れ落ちていくライトを俺は見つめていた。時間がゆったりと流れているかの様に、ゆっくりとライトは倒れた。

「ライト!」

 倒れたライトに近寄り、首筋に指をあて脈をとる。良かった。生きてる。

「くそ! 動けない……れ、レイル様、逃げろ!」

 同じだ。夢と何かも同じ。ここから、逃げなければならない!

「ら、ライト。俺に掴まって、逃げ」

「悪運が強いとは、こう言う事か」

 ライトの体を抱え起こそうと手を伸ばした。その時、背後から聞こえてくる声に身体が震えた。ひたひたと死が近づいてくる。

「あの毒から、よく復活したのもだな。ブレイド様よ」

 振り返ると、そこには俺に毒を注射してきた傷の男がいた。その右手に持つ長剣の刃が俺の首筋にあった。殺される。死にたくない。夢と同じ状況に、バクバクと心臓が打ちつけて、苦しい。焦りが思考を鈍らせ、考えられなくなっていく。落ち着くんだ。深く呼吸をして落ち着かせようした。状況を変えなければならない。どうすれば良い。夢の俺は、この男になぜ俺を狙うのかを聞き、男を怒らせてしまっていた。それから、犯されて殺された。それならば、違う事を聞かなければならない。何を聞けば良いのだ。

 そういえば……俺はこの男のこと、何も知らない。ゲームでは出てこなかった男。お前は誰なんだ。

「お前は、誰だ」

「なに? 死の際に聞きたい事がそれか」

 思ったことが口から出てしまった。だが、間違っていないのかもしれない。ゲームの中で殺し屋もいたがこんなキャラクターではなかった。名前を聞ければ何か思い出すかもしれないし、対処方法が見つかるかもしれない。

「あぁ、お前のことが知りたい」

 傷の男が苦々しい顔をしている。選択肢を誤っただろうか。

「ただの殺し屋だ。それ以上でも以下でもない」

 首筋が痛い。少し切られた様だ。それでも、俺は話をやめない。やめる訳にはいかないんだ。死の恐怖もあるが、知識欲、好奇心が溢れ出して止められない。

「お願いだ。俺はどうしても、お前の名前を知りたいんだ」

 自分でも分からない。胸の内がこんなにも苦しいのは何故だろう。どうしても、知りたい。苦々しい顔していた男が、ため息を吐き呆れたような表情に変わった。

「……ロッド・ブラッドだ」

 ロッド・ブラッドだって、嘘だ。ロッド・ブラッドといえば、武器屋のブラッドの筈だ。主人公の領地で武器屋を経営していた。とてもお人好しの優しいキャラクターで主人公に格安で武器を提供してくれるロッド。髪の色も綺麗な銀髪だったのに、今では、黒く焦げた様な茶色の髪になって、顔には傷ができてしまっている。なぜ殺し屋になんかなってしまったんだ。

「ロッド、武器屋はどうしたんだ。あんなに繁盛していたのに」

 俺は、ロッドの事を好きなキャラクターの上位に入ると言える程、好きだった。お人好しで優しくて、心が広くて、包容力抜群の男。誰にも優しすぎるのが、たまに傷で八方美人と呼ばれてしまう程。

「……! お前、なぜそれを……」

「綺麗だった銀髪をなぜ茶色にしてしまったんだ」

「な!」

「何故、殺し屋なんてなってしまったんだ」

「くぅ! 金持ちのお前になにがわかる!! 生きる為には金がいるんだ!! お前を殺せば、俺は何もかも成功する。幸せになれるんだ。お前を殺して、俺は元に戻るんだ!」

 荒々しかったロッドの声が段々と嬉々になっていく。
 それなのに、ロッド……。どうしてそんなにも、苦しそうに泣いているんだ。ボロボロと落ちる涙と振り上がった剣が振り下ろされるのを俺は見つめる。ロッドはレイルの所為で苦しい思いをしたのだろうか? レイルの所為なら、死んでも構わない。レイルには申し訳ないが、ロッドには幸せになって欲しい。
 だけど、まだレイルの所為だとは決まっていない! レイルの可能性が高いかもしれないが……それでも、死ぬ訳にはいかない! 死ぬ訳にはいけないのに……それなのに、俺にはどうしようもできない。剣を避けるには遅すぎる。殺される訳にはいかないのに……。レイルにもロッドにも悪い結果にしかならない。

 最後に、思い浮かぶ二人の顔。この場にいないグランデ。身動きが取れず苦しそうにしているライト。

「グランデ……ライト……助けて」

 助けを求めてもどうしようもないのに、心から溢れた思いは口からこぼれ落ちた。
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