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アスティア国
4 アイザック王太子
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簡単に身支度をして、貴重品のみ手に持つと、ウルキラ近衛大尉は早速、王都に戻りたいとせかした。残りの荷物はウルキラ近衛大尉の部下に命じ、整理して、後日運んでくる手筈となった。
用意された馬車にヒルダとアイザックは乗り込んだ。王都に着いたら、忙しくなるので少しでも仮眠をとるようにウルキラ近衛大尉に勧められ、毛布にくるまり目を閉じた。馬車は早駆けさせているので、とても揺れており眠るどころではなかったが、少しでも休憩をとろうとした。
未明に王都に到着し、そのまま王宮に入る。正門は閉じている時間なので、ウルキラ近衛大尉は裏の関係者のみ使える通用門に馬車をつけ、ヒルダとアイザックを中に入れた。
そのまま、昔、ヒルダが使用していた王太子妃の部屋へ2人を連れていく。ヒルダと離縁した後、誰も使っていなかったようだ。簡単に掃除はされていた。
部屋に入ると侍女が衣装を持ってやってきた。長旅の後だったので、先にヒルダが湯を使い、その後にアイザックが湯を使って体を清めた。侍女が手際よく2人の身なりを整えていく。ヒルダはシンプルなグレーのドレスだった。絹の光沢が美しく、上等な衣装であったが、フリルやレースの飾りは無かった。髪もシンプルに結い上げられ、黒い櫛が飾られた。櫛の素材はべっ甲で高級品であった。首には一連の真珠の首飾りが飾られた。
全て高級品なのに、地味な装いにされているということは……。これから会うサリエル5世の状態が予測された。
アイザックは濃紺に白で家紋が刺繍された正装であった。アイザックの若々しさにシンプルな服が映えた。侍女が思わず顔を赤らめてしまう美男子ぶりであった。
用意のできた2人を引き連れ、ウルキラ近衛大尉はサリエル5世の部屋に入った。
部屋には死の匂いが充満していた。
サリエル5世は青白い顔でベッドに横たわっていた。ウルキラ近衛大尉に誘導され、アイザックはサリエル5世の枕元に行く。サリエル5世は青白い顔のまま、「アイザック伯爵を王太子とする」と言った。話をする力もかなり損なわれているようだ。
「謹んで、お受けします」
アイザックが答え、質素な任命式は終了した。
サリエル5世は後ろに立っているヒルダを見つめる。
「……アスティアを頼んだ……」
政略結婚であった。ヒルダの祖国のヤマタイ国の国力が落ちた途端に離縁され、息子もろとも辺境地に追いやられた。それを恨んだ日もあったが、今の病み衰えたサリエルを見た途端、哀れと思い、恨み心は払拭された。
王都に残ったため闇魔術の犠牲になった。私達は難を逃れた。
2人は深々とお辞儀しサリエル5世の部屋を辞した。
「王は……サリエル5世は、後、どれくらい?」
ウルキラ近衛大尉は眉をひそめて言う。
「医師の診たてでは……王妃様や王子様と同じ経緯をたどっているので後、1週間位ではないか、と」
「……1週間……」
ヒルダは唇を噛みしめる。
「大至急、チカット国と友好を結ばなくては」
ウルキラ近衛大尉は深く頷いてヒルダを見つめる。
「アイザック、これから親書を書いてもらうわ。私があなたの代理でチカット国に行きます」
アイザックは驚いてヒルダを見つめる。ウルキラ近衛大尉もヒルダを見つめた。
「ウルキラ、明日チカット国に出発できるよう準備をお願い」
「はっ」
ウルキラ近衛大尉は深々と頭を下げ、急いで立ち去った。
「母上……」
アイザックはヒルダに声をかける。ヒルダはアイザックに微笑む。
「大丈夫。チカット国には昔、結婚前に留学したことがあるの。前の女王とは文通もしていたのよ。私、結婚して力を失ってしまったけど、ヤマタイ国で巫女をしていたの。結婚前に同じく巫女だった母が王をしていた父に頼んでくれて、聖魔術で有名なチカット国に留学に行かせてくれたの。宗教で国を治めるお手本として勉強させていただいたわ。ヤマタイ国は小さな国だったけど、チカット国は私を一国の王女として迎えて下さったの。今の女王のお母さま、前の女王とは年も近いので仲良くさせていただいていたわ」
ヒルダは娘時代を思い出すように目を細めた。微笑みが浮かぶ。
「前の女王様は今は隠居されているのですか? 母上と同年代なのですよね」
ヒルダは唇を噛みしめる。
「巫女としての力を使うということは、自分の命を削ることなのかもしれない。チカット国の女王はあまり長生きしないの。だいたい40歳位で亡くなるのよ。前の女王は私と同じくらいの年だけど、もう崩御されて、その娘が今の女王になっているわ。私は結婚して巫女の力を失ったわ。当時は残念に思ったけど、長生きはできているから巫女の力を失って良かったのかもしれないわ」
「母上が私をお産みになったせいで巫女の力を失ってしまい御いたわしいと思っておりましたが、母上が長生きできるようになったのなら、私にとって喜ばしい事です」
アイザックはヒルダに微笑みかけた。
「直接、私がチカット国に行って、同盟を結んでくるわ。その間、あなたは王太子として、アスティア国の現状を把握しておいてちょうだい」
「はい」
ヒルダとアイザックは侍女の手伝いで衣服を改めた。朝食が用意されたので、2人で食べた。2人とも、これからの事を思い、胸がいっぱいであったが、倒れている暇すらない。仕事のように食事をすませた。
用意された馬車にヒルダとアイザックは乗り込んだ。王都に着いたら、忙しくなるので少しでも仮眠をとるようにウルキラ近衛大尉に勧められ、毛布にくるまり目を閉じた。馬車は早駆けさせているので、とても揺れており眠るどころではなかったが、少しでも休憩をとろうとした。
未明に王都に到着し、そのまま王宮に入る。正門は閉じている時間なので、ウルキラ近衛大尉は裏の関係者のみ使える通用門に馬車をつけ、ヒルダとアイザックを中に入れた。
そのまま、昔、ヒルダが使用していた王太子妃の部屋へ2人を連れていく。ヒルダと離縁した後、誰も使っていなかったようだ。簡単に掃除はされていた。
部屋に入ると侍女が衣装を持ってやってきた。長旅の後だったので、先にヒルダが湯を使い、その後にアイザックが湯を使って体を清めた。侍女が手際よく2人の身なりを整えていく。ヒルダはシンプルなグレーのドレスだった。絹の光沢が美しく、上等な衣装であったが、フリルやレースの飾りは無かった。髪もシンプルに結い上げられ、黒い櫛が飾られた。櫛の素材はべっ甲で高級品であった。首には一連の真珠の首飾りが飾られた。
全て高級品なのに、地味な装いにされているということは……。これから会うサリエル5世の状態が予測された。
アイザックは濃紺に白で家紋が刺繍された正装であった。アイザックの若々しさにシンプルな服が映えた。侍女が思わず顔を赤らめてしまう美男子ぶりであった。
用意のできた2人を引き連れ、ウルキラ近衛大尉はサリエル5世の部屋に入った。
部屋には死の匂いが充満していた。
サリエル5世は青白い顔でベッドに横たわっていた。ウルキラ近衛大尉に誘導され、アイザックはサリエル5世の枕元に行く。サリエル5世は青白い顔のまま、「アイザック伯爵を王太子とする」と言った。話をする力もかなり損なわれているようだ。
「謹んで、お受けします」
アイザックが答え、質素な任命式は終了した。
サリエル5世は後ろに立っているヒルダを見つめる。
「……アスティアを頼んだ……」
政略結婚であった。ヒルダの祖国のヤマタイ国の国力が落ちた途端に離縁され、息子もろとも辺境地に追いやられた。それを恨んだ日もあったが、今の病み衰えたサリエルを見た途端、哀れと思い、恨み心は払拭された。
王都に残ったため闇魔術の犠牲になった。私達は難を逃れた。
2人は深々とお辞儀しサリエル5世の部屋を辞した。
「王は……サリエル5世は、後、どれくらい?」
ウルキラ近衛大尉は眉をひそめて言う。
「医師の診たてでは……王妃様や王子様と同じ経緯をたどっているので後、1週間位ではないか、と」
「……1週間……」
ヒルダは唇を噛みしめる。
「大至急、チカット国と友好を結ばなくては」
ウルキラ近衛大尉は深く頷いてヒルダを見つめる。
「アイザック、これから親書を書いてもらうわ。私があなたの代理でチカット国に行きます」
アイザックは驚いてヒルダを見つめる。ウルキラ近衛大尉もヒルダを見つめた。
「ウルキラ、明日チカット国に出発できるよう準備をお願い」
「はっ」
ウルキラ近衛大尉は深々と頭を下げ、急いで立ち去った。
「母上……」
アイザックはヒルダに声をかける。ヒルダはアイザックに微笑む。
「大丈夫。チカット国には昔、結婚前に留学したことがあるの。前の女王とは文通もしていたのよ。私、結婚して力を失ってしまったけど、ヤマタイ国で巫女をしていたの。結婚前に同じく巫女だった母が王をしていた父に頼んでくれて、聖魔術で有名なチカット国に留学に行かせてくれたの。宗教で国を治めるお手本として勉強させていただいたわ。ヤマタイ国は小さな国だったけど、チカット国は私を一国の王女として迎えて下さったの。今の女王のお母さま、前の女王とは年も近いので仲良くさせていただいていたわ」
ヒルダは娘時代を思い出すように目を細めた。微笑みが浮かぶ。
「前の女王様は今は隠居されているのですか? 母上と同年代なのですよね」
ヒルダは唇を噛みしめる。
「巫女としての力を使うということは、自分の命を削ることなのかもしれない。チカット国の女王はあまり長生きしないの。だいたい40歳位で亡くなるのよ。前の女王は私と同じくらいの年だけど、もう崩御されて、その娘が今の女王になっているわ。私は結婚して巫女の力を失ったわ。当時は残念に思ったけど、長生きはできているから巫女の力を失って良かったのかもしれないわ」
「母上が私をお産みになったせいで巫女の力を失ってしまい御いたわしいと思っておりましたが、母上が長生きできるようになったのなら、私にとって喜ばしい事です」
アイザックはヒルダに微笑みかけた。
「直接、私がチカット国に行って、同盟を結んでくるわ。その間、あなたは王太子として、アスティア国の現状を把握しておいてちょうだい」
「はい」
ヒルダとアイザックは侍女の手伝いで衣服を改めた。朝食が用意されたので、2人で食べた。2人とも、これからの事を思い、胸がいっぱいであったが、倒れている暇すらない。仕事のように食事をすませた。
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