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出会い

1 ルイザ

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「ルイザ様、一度休憩しますね」
 巫女達は身重のルイザに気をつかい、馬車を止めた。
 愛しいレティシアの乗る馬車はずっと先を行っており、もう見えなくなっている。

「ありがとう」
 レティシアの足手まといになりたくなかったが、長時間、馬車で揺られているのは身重の体につらかった。
 巫女に支えられながら馬車を降りる。小高い丘になっており、いい景色だった。

 平らな所に布を敷き、ルイザを座らせる。ずっと馬車の中で座り続けていたので足がむくんでいる。横たわり、脚の下に枕をいれてもらう。
 巫女はルイザの靴を脱がせて、ラベンダーの香油を入れた湯桶で足を洗ってくれた。滞っていた血の流れが良くなり疲れがとれていく。ほおっと溜息をつく。

「ありがとう。とても気持ちがいいわ」
 足を洗ってもらった後、裸足のままで少しリラックスする。30分程休憩して、また靴を履き直し、馬車に乗った。

 昨日、レティシアと離婚した。来月、レティシアは再婚する。

 自分はレティシアの侍女になる。
 侍女とは名前だけで、あなたに下働きはさせない。生まれるお子のお世話のみに専念してほしいと言われた。
 乳母になるということだろう。
 事情を知っているチカット国の巫女達は、ルイザを侍女扱いはしないが、何も知らないアスティア国の人々にとっては侍女でしかなくなる。

 侍女が嫌なのではない。

 ルイザはチカット国の庶民階級、仕立て屋の娘だった。オメガと診断され、レティシアの運命の番ということが判明して。そこからはシンデレラストーリーだった。レティシアは賢く、美しく、また自分のことを真に愛してくれた。
 ルイザはうなじを撫でる。
 噛んでもらって番になった時の感動は今でも覚えている。自分とレティシアは真の意味で一つになった。
 番になってからは離れていても、レティシアの気持ちが何となく分かるようになった。
 今は、レティシアの心は闇魔術との対決の一色だ。かなり大変な戦いになる。場合によっては命を落とすかもしれない程の。

 昨日レティシアはルイザのお腹を撫でた。
 この中にいるお子は、2人の愛の結晶というだけではない。おそらく、レティシアと同等レベルの聖魔術の使い手で、レティシアのこれからの戦の強い味方なのだ。

 レティシアはルイザに無事に子供を産むことに専念するようにと言った。それがルイザの誰にもできない使命なのだ。

 レティシアがどんな危険な目に合おうとも、共に戦うことは許されない。ルイザは安全な場所に誰よりも先に逃げなければいけないのだ。
 おそらく、新しい配偶者になるアスティアの王はレティシアと共に戦うのだろう。写真を見るからに美丈夫であった。2人並んで戦うさまは美しいだろう。

 レティシアと共にいられないのが、番であるルイザには何よりも辛かった。


 休憩を入れながら、レティシアに遅れて2日後にルイザの乗った馬車はアスティア国に到着した。アスティア国の城へ事務的に案内される。アスティア国にとっては聖魔術の巫女集団という扱いであった。ルイザの腹を隠すため、全員、ウエストの切り替えの無いシンプルなワンピースを着用していた。ルイザの産む子はレティシアが産んだ子とするため、ルイザが妊娠していることは隠さなければいけないのだ。

 アスティア国には巫女の立場の人間はいないため、王妃の住まう後宮に居を構えた。侍女が使う部屋である。既にアスティア人の侍女たちもいた。
 巫女達は到着の儀式がありますと、一室を用意してもらった。中に入り、鍵をかける。そこでルイザはまた一息ついて横になった。

 コンコンとノックの音がして、「私だ、レティシアだ」と愛しい声が聞こえた。
 巫女はすぐ鍵をあけ、レティシアを中に入れ、鍵を閉じた。

「……」
 言葉が出ない。やってきたレティシアにむしゃぶりつくようにルイザは抱きつく。涙が止まらなかった。

「ルイザ、ごめんね。辛かったね。よく頑張ってきてくれた」
 レティシアはルイザの背中をゆっくりと撫でた。緊張で強張った体がゆっくりとほぐれていく。

「ルイザとあなた達の部屋は私の部屋の隣に用意してもらった。部屋の中にドアもついているから、廊下に出なくても行き来できるようになっている」
 レティシアは巫女達に伝える。ルイザを抱き上げ、部屋から出た。
 廊下は人払いされていて、一人の女性以外、誰もいなかった。

「マーサだ。後宮の侍女長をしている。ルイザが私の妻であることも、私の子を妊娠していて無事に出産させなければいけないことも把握している」

「ルイザ様、マーサです。よろしくお願いいたします」
 ベータ女性とのことだった。褐色の髪をひっつめにした地味な装い。無駄な肉のついていないほっそりとした体形で、眼鏡の奥には知的な瞳があり、有能そうな女性であった。

 マーサの案内でレティシア達は部屋に向かった。

 巫女達は全員アルファなので、レティシアはルイザに自分の部屋で過ごすように言った。巫女達はルイザをレティシアの部屋に残し、隣の部屋に引き下がった。
 レティシアの部屋は広く作られており、ベッドも大きかった。ルイザと2人でも広々と眠れた。

「王様はここに来ないの?」
 2人でベッドに横になり抱きしめてもらうと、不安に思っていたことを尋ねた。

「ヒルダ様に白い結婚と言うことは承諾してもらっている。アイザック様ときちんとは話していないが、おそらく理解していただいてると思う。私が処女でなくなれば、巫女の力を失ってしまうのだから、無理やりされる恐れもないよ」

 闇魔術を滅ぼさない限り、レティシアの処女は守られるだろう。ルイザは安堵する。
「闇魔術はどのくらいアスティア国を攻めているの?」

 レティシアは眉を顰める。
「想像してたより、かなり浸食している。こちらに来てから、ずっと闇魔術を払って、結界を張り直す仕事ばかりしている。闇魔術を使う本体がいないので、まだ命の危険はないが、本体と戦うのなら、私も覚悟しなくてはならなさそうだ」

 ルイザは驚いてレティシアを抱きしめる。
「そんなに危険な事なの。もう、アスティア国は放っておいて、チカット国に帰りましょうよ」

 レティシアはルイザの額にキスする。
「ごめんね。ルイザに甘えて愚痴をこぼして、ルイザを心配させてしまった。チカット国に逃げ帰ったって、アスティア国が滅ぼされたら、チカット国は属国にされる。私なんて聖魔術の力を奪うために、妃にされてしまうだろうね。闇魔術の使い手に犯されるなら、アスティア国の王と白い結婚した方がはるかにマシだよ」

 ルイザは震える。聖魔術の後継者が自分の腹にいる。自分だってこの子供もろとも殺されてしまうだろう。
「ごめんなさい。私、愚かなことを言ったわ」
「ルイザ、2人の時は本音で話し合おうよ。私だって愚痴はこぼしたいのだから」

 ルイザは嬉しくなる。
「なんでも言って。私、なんでも聞くわ」
「……。でも、私、忙しくて、夜遅くにしか帰ってこれないんだ。今日は特別に早く帰ってきたけど」
「遅くたっていいわ。私、待ってる」
「お腹の子にさわるから、睡眠時間はきちんととって欲しい」
「じゃ、昼寝するから。私だって、レティシア様とお話できなければ寂しくて死んでしまうわ」

 レティシアはルイザを軽く抱きしめる。
「私の奥さんは、なんて可愛いんだろう」

 2人はひとときの安らぎを持って夢の世界へ旅立った。
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