【完結】恋愛経験ゼロ、モテ要素もないので恋愛はあきらめていたオメガ男性が運命の番に出会う話

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「伊集院美月さん、今度の日曜日、私の家でパーティするのですがいらっしゃいませんか？」
　授業後の美月に声をかけるT大の同級生。キラキラしているのでおそらくアルファだろう。
　美月が優斗を振ったと噂が流れてから、こういうお誘いが急に増えた。
「ありがとう」
　招待状を受け取る。今週末は金、土、日と予定が埋まった。こういうアルファのパーティに参加していると出会いがあるかもしれない。いつまでも1人だと優斗に未練があると誤解される。それは嫌なので早めに新しい恋人を作ろうと思った。自分が華やかに恋愛すれば優斗も蓮と付き合えるだろう。

　帰宅しようと歩いていると強い視線に気付く。視線の先には林雅司、19歳アルファ男性がいた。同じT大の1歳上、2年生だ。美月が見ると向こうは目をそらし去っていった。
（お父さん、そっくり）
　林雅司は美月の異母兄なのだ。美月の父、伊集院徹は伊集院家の婿養子である。跡取り娘である母の伊集院静がT大の同級生である父を好きになり結婚した。結婚後、徹は運命の番である林沙雪、オメガ女性と出会ってしまい番になった。重婚は禁じられているが、アルファとオメガの番は例外で法律で認められている関係である。しかし、アルファのみに許されている妾のようなもので、人権派にとっては眉を顰める関係だ。
　徹は林沙雪と結婚するために静に離婚を申し出たそうだ。静は承諾しなかったので徹と林沙雪の子供は林姓となっている。徹は静とは別居して林沙雪と3人の子供と一緒に住んでいる。林沙雪の実家はT大のそばの定食屋で、その隣に徹は家を建てた。
　長男の雅司は都立高校から現役でT大に合格した。徹に似て優秀なアルファという噂である。徹が伊集院家から離れられないので林一家は静や美月を恨んでいるだろうと思う。しかし、両親の離婚問題は美月にはどうにもできない。
　美月がIQテストで高得点を叩き出し、アメリカの学校から招待を受け、まだ幼いのに渡米したのはぎくしゃくとした両親を見ているのが嫌だったからでもある。
（お母さんもお父さんを解放してあげればいいのに）
　徹にこだわらず、美人なアルファなのだから新しい恋愛をすればいい。例えば桐生柊里。ベータで番にはなれないけど、たぶん向こうは静を好きだ。子供はいるので結婚歴はあるのだろうが、今は妻がいないようだ。イケメン流行作家で静の恋人としては釣り合いが取れていると思う。
　柊里の父の正仁は伊集社で顧問として働いている。静の側近だ。ベータだが優秀で、美月も静の後継者として伊集社の経営に加わる時には補佐してもらうだろう。そんな正仁の息子だから、静は柊里が小さい頃からの知り合いだ。ひとまわり年が離れていて初めて会った時は柊里は小学生だったと聞いているので、今更、恋愛感情は持てないのかもしれない。
　静はカリスマ性があり社長として伊集社のブランド力を高めている。徹は有能な副社長であり会社の土台をしっかりさせている。仕事面で徹を手放せないとすると、美月が徹の代わりができる位になれば離婚できるのだろうか？
　自分が恋愛体質でないのは、愛がなくなったのに離婚しない両親を見ているからかもしれない。
　優斗を確かに好きだったと思うが、優斗が自分を一番好きじゃなくなったら、あっさり好きを止められる程度だ。相手が自分をどう思おうと無償に愛するなどバカバカしくてできない。
　運命の番と言ってたな、と思う。
　運命の番であれば、無償の愛もできるのかもしれない。
　美月は、ふっと笑った。
（運命の番とか、お伽話の世界でしょ）