【完結】恋愛経験ゼロ、モテ要素もないので恋愛はあきらめていたオメガ男性が運命の番に出会う話

十海 碧

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 蓮は優斗を誘導し階段を昇る。
「あ、エプロン付けたままだった」
 部屋に入り、エプロンを外そうとした。
「ちょっと待って。そのままで、こっち向いて」
 優斗がエプロンを付けた蓮をじーっと見つめる。
「……恥ずかしいので、そろそろいいですか?」と蓮がもじもじする。
「本当は写真撮りたい。でも形に残せないから心のシャッター切ってる」
 優斗が訳の分からないことを言い出す。
「今日なんて普段着でエプロン付けっぱで、写真ならもうちょっときちんとした格好で撮った方が……」
「きちんとした格好も欲しいけど、結婚したらこうなるのかな、て妄想できる写真も欲しい」
(結婚?!)
 蓮は真っ赤になってしまう。
「本当にもう無理。可愛すぎる」
 優斗が蓮を抱き締める。

 ドキンドキンドキン

 蓮と優斗の心臓の音が響き合っている。
 優斗が少し体を離して蓮の顔を見つめる。ちゅっとおでこにキスされる。頬を撫ぜる。ちゅっと右頬に、そして左頬にキスする。優斗の茶色がかった瞳が欲望でとろりと溶けている。蓮も優斗の熱に浮かされる。
「口には?」
 震える声で蓮は問いかける。蓮の中で何かが爆発しそうだった。
 優斗の瞳が蓮の瞳を捉える。蓮はすっと目を閉じた。それを合図に優斗は蓮に口付けた。ちゅっと軽く触れ、離れる。蓮は目を開き、優斗を見つめる。優斗は蓮に伺うような、縋るような目をしている。
「もっと」
 蓮は両腕を優斗の首に回す。目をまたつむり、唇を近付けた。優斗は蓮の小さな唇に強く口付け吸った。蓮は陶然とした気持ちになり足の力が入らなくなった。優斗を軽く引き、そばのソファーに倒れこむ。優斗も抵抗せず一緒にソファーに倒れ込んだ。口付けしながら優斗の手が蓮の背中や腰をなぞる。触れられた場所から快感が生まれる。ひとしきり口付けし合い「ふう」と一息つく。ソファーに横たわったままお互いに見つめ合う。
「今日のオムライス美味しかった。蓮君は料理上手なんだね」
「僕の通ってた桜華学園って一番力を入れている授業が家庭科だったの」
「俺の友人で東拓哉っていうのいるんだけど『さくゆり』の大ファンだって言ってたよ」
「僕もアシスタントしてたよ」
 蓮はぴょこんとソファーから降り『さくゆり』の1巻を持って、また優斗の隣に寝転ぶ。当然のようにくっついてくる蓮が愛しくて、ソファーから落ちないよう腰を腕で支えた。
「ここのね、学校は僕描いたの。あと、この体育館をステージにして演奏したら電気系統がショートするシーン。ここの配線も描いたんだけど苦労したんだよ」
「上手いね。人物は描かなかったの?」
「人物は先輩アシスタントが描いてた。背景は僕が一番得意だったから」
「俺、漫画とか本あんまり読まないから知らなかったけど有名なんだよね。すごい先輩だね。東から勧められて『さくゆり』の音ゲーは一時やってたけどね」
「『さくゆり』の音ゲーの曲ってあず先輩の旦那さんの如月瞬さんが作ったんだよ」
「如月瞬は知ってる。カラオケでよく歌う」
「僕、カラオケ行ったことない」
「外デートできるようになったら行こうね」
 ソファーでごろごろして、お互いの体温を感じながら他愛のないお喋りをした。あっという間に3時間経ってしまった。時計を見ると蓮は寂しくなった。誰かにスマホ見られたら困るから電話もメールもできない。
「ごめんね」
 涙が滲んだ蓮の目に優斗が口付け、涙を舐め取る。蓮は涙すら甘い。
「キスして」
 蓮がねだる。深い口付けを心に刻む。
「また来週くるね」
 優斗が階段を降りていく足音を蓮はソファーの上でぼんやり聞いていた。
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