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これからとそれから 001
しおりを挟む「……やってしまった」
最悪だ。
ブルーだ。
陰鬱だ。
まさか、自分が所属するギルド内でいきなり暴れ出してしまうなんて……本当にこれが僕のやりたかったことなのか?
好きに生きるってそういうことじゃなくない?
反抗期の中学生じゃあるまいし、盗んだバイクで走り出したり、校舎の窓ガラスを壊して回ったりするわけにもいかないだろう。
自己嫌悪、再び。
「なーに暗い顔してるのよ、イチカ。冒険証も取り返せたし、万々歳じゃない」
肩を落として歩く僕と対照的に、金髪ギャルなミアさんはご機嫌である。
背後には大騒ぎになっているギルドがあるというのに、どこ吹く風だ。
「あのモルガンって男、マジで最低なのよ。盗みも恐喝も何でもやるって言ったでしょ? ここら辺にはレベル40のあいつに逆らえる人もいないし、やりたい放題好き放題って感じでさ。イチカが灸を据えてあげたお陰で、しばらくは大人しくなるんじゃない?」
「……まあ、そういう理由がつくならいいんだけど」
いやまあ、ほんとは良くないけれど。
でも、先程のいざこざが何かの役に立つというのなら、それはそれでいいか。
「だってあいつ、大々的にイチカのことをレベル1って言っちゃったしね。その上で瞬殺されてるんだから、プライドもズタズタでしょ。ギルドにいたみんなが目撃者だし、あれは当分引きこもりそうね。ふふっ」
「……」
怖いことを平然と言ってのける女子である。
怒らせないように注意しよう。
「……じゃあ、ミアがあそこで声を上げたのって、モルガンを懲らしめたかったからなの?」
「いや、全然そんなつもりじゃなくて……あれはその、何て言うか、イチカを馬鹿にされたのが許せなくて? つい反射的に? みたいな?」
ミアは恥ずかしそうに首を傾げた。
「イチカはマイナススキル持ちの私をパーティーに入れてくれた良い奴だし……その仲間が馬鹿にされたら、そりゃ怒るでしょ。うん、怒って当然。私は正しい!」
傾げた首を正常な位置に戻しつつ、ミアはうんうんと頷く。
どうやら、僕のことを思っての行動だったらしい。
それを聞くと、何だか少し嬉しかった。
「……何よ、ニヤニヤして。どうせ私はキレやすい女ですよーだ」
わかりやすく拗ねた調子のミアは、僕から離れるように早足になる。
「まあ、あれだけ派手に暴れちゃったわけだし、ここのギルドには顔出せないわよねー。イチカ、どうする?」
「実は元々、アルカの街に長居するつもりはなくてさ。ミアさえよければ、どこか別の街へ行きたいんだけど」
「全然オッケーよ! 旅の始まりってことね!」
ミアは振り返り、グッと親指を突き出す。
「そうと決まれば善は急げよ! 宿で荷物を整理して、今日のうちにこの街を出ましょう!」
「別にそこまで急がなくてもいいんだけど……もう少しゆっくり、今後の動き方を考えてからでも……」
「なーに言ってるのよ。善は急げってことは、急げば急いだだけ善になるのよ。急げば善!」
その理屈はいくら何でも無茶苦茶だが、旅には勢いが大事というのもわかる気がする。
実際僕も、ルッソ村を出る時は衝動的に動いたわけだし。
急がば回れという言葉については、今回は考えないでおこう。
「ってことで、一時間後に集合しましょ。場所は西にある噴水広場で!」
僕の返事を待たず、ミアは元気よく駆け出していった。
噴水広場とやらの場所を僕は知らないのだけれど、まあ、探せば見つかるか。
「……」
ミアの姿が見えなくなるまで見送ってから、僕は自分の宿泊している安宿へ向けて歩き出す。
アルカに来てからまだ二日目だが、もうこの街を後にすることになるとは……想定していたよりも性急に旅は進んでいきそうだ。
僕がここに長居をしたくなかったのは、村を出ると言っていたキリスたちもアルカを訪れるだろうと踏んでいたからで、彼らがやって来るにはまだ時間が掛かるはずである。
だから急いで行動する必要もないのだけれど、ここはミアの提案に乗るとしよう。
不安はあれど、しかしどこかワクワクしている自分もいる。
これから始まる仲間との旅に浮かれているのだろうか。
だとしたら、僕もまだまだ子どもっぽい。
「……」
なんて、だらだらと考え事をしながら無事に宿へと到着し、数少ない荷物の選別を開始する。
とは言っても、必要最低限の物しか持ち歩いていないので、改めて荷造りする必要もないのだけれど……こういうのは形が大事なのだ、多分。
そんなこんなで、数十分程せかせかと動いていたら。
コンコン
と、部屋の扉がノックされた。
「……?」
来客か?
一体誰が僕を訪ねてくるんだ?
考えられるのは宿の従業員くらいのものだが……最悪の最悪、モルガンやその取り巻きに後をつけられていた可能性もある。
もし後者なら律儀にノックなんてしないだろうが、あまりにも不意打ちだったため、そこまで頭が働いていなかった。
よって、僕は警戒を強めながら扉に近づいていく。
「おいおい、そんなに警戒しないでくれたまえ。君と私との仲じゃないか」
が、果たして。
ドアの向こうから聞こえてきたのは、中学生くらいの少女の声だった。
そしてその声色は。
はっきりと、僕の脳内に焼き付いている。
「やあ、イチカくん。みんなお待ちかね、可愛い可愛いカミサマの登場だよ」
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