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ブラックマーケット
しおりを挟む「ブラックマーケット、ですか」
サリバでの二度目の夜を迎えた翌日。
僕とミアとレヴィの三人は、宿の一階にある喫茶室で朝食と洒落こんでいた。
「そ。合法なものから違法なものまで何でもそろう、いわゆる闇市ってやつね」
レヴィの反芻に対し、ミアが得意気に説明する。
「どこで開催されるのか、日時も場所も不明なのが玉に瑕だけど……まあ、この街にも情報屋って奴はいるだろうし、調べは付くと思うわ。上手く潜り込めれば、何でも手に入るはずよ」
ミアはうんうんと頷き、シロップのたっぷりかかったパンケーキに手を伸ばす。
僕らが朝っぱらから如何わしい闇市の話に花を咲かせているのは、ひとえに手に入れたいものがあるからだ。
ずばり、レヴィのスキルを封じる物品である。
彼女の持つ常時発動スキル、【彼岸の穢れ】は、その手のひらで触れた人間を腐敗させてしまうという厄介な能力をしている。
レヴィの意志に関係なく発動してしまうため、早急に対処をしないと思わぬ事故を起こしかねないのだ。
「お二人と旅をするためには、この両手を何とかしないといけませんからね……そのためには、多少危ないことでもやらないと」
言って、レヴィは自身の手を見つめるレヴィ。
昨晩、ミアとレヴィの二人きりで話をした際、今後のことについて一つの結論が出たのだ。
僕らと一緒に旅がしたいと。
このままサリバに残るより、三人で冒険がしたいと。
レヴィは、そう言ってくれたのである。
もちろん、僕とミアが断るはずもない……だが一つ問題があるとすれば、やはり彼女の常時発動スキルだろう。
僕は【不死の王】という不死身のスキルのお陰で傷つくことはないが(激痛は伴うけど)、ミアは別である。
何かの拍子でレヴィとミアが接触したら、それこそ目も当てられない。
手が触れた部分が腐り落ち、ドロドロに溶解してしまうのだ。
そんなリスクを抱えたまま一緒に旅をするのは、とても健全とは言えない……よって、僕らはレヴィのスキルを何とかするアイテムを見つける必要があるのだ。
その手段が、ブラックマーケットという闇市らしい。
「とにかく、まずは情報屋を探しましょう。表ではなく裏の事情に通じている奴が望ましいわ」
「裏の事情か……どこの世界にも、物騒な輩はいるもんだな」
「? 何か言った、イチカ?」
「いや、何でもないよ」
僕は頭の中に浮かんだマフィアやギャングの映像を消し、グラスに口をつける。
「じゃあ、ご飯を食べ終わったら動きましょう。イチカとレヴィは街の北側を、私は南を調べるわ」
「別にいいけど、ミアが北の方が良くないか? あっちはほとんどが墓地になってて、調べる範囲も少なく済むと思うんだけど……」
「絶対に南よ‼」
勢いよく机を叩いたミアは、その衝撃で舞い上がったパンケーキの切れ端を器用に口でキャッチし、ツカツカと喫茶室を後にしていった。
「お見事です」
レヴィの拍手だけが、虚しく辺りに響く。
◇
宿から飛び出していったミアを追うように、僕とレヴィも行動を開始した。
ミアの指示通り、街の北側を重点的に調べる予定ではあるが……如何せん、何をどうしたらいいのかわからない。
裏の事情通を探すと言っても、そんな人がどこにいるのか見当もつかないのだ。
「やっぱり、暗くジメジメした場所を好むと思うんですよ。具体的には石の下とか」
「ダンゴムシかよ」
まあ石の下は冗談にしろ、表立って店を構えているとは思えないし、探すなら路地裏とかになるのだろうか。
「とりあえず、細い路地があったら入ってみよう」
「そんなところに私を連れ込んで何をするつもりですか、イチカさん。ついに私の魅力に屈して欲情でもしましたか」
「自意識過剰か。何もしないよ」
「か弱い女子を路地裏に連れ込むだなんて、犯罪以外の何物でもないじゃないですか。極悪非道です」
「あの程度の発言から想像を膨らませるな」
こいつの前では何を言うにも気を付けなければいけないらしい。
全く……黙っていれば、無邪気で可愛い子どもでしかないというのに。
「こっちを見ないでください! 次は視姦ですか!」
「お前、僕のことを歩く変質者だとでも思ってるのか?」
「そりゃ変質者は歩くでしょう」
冷静に突っ込まれた。
悔しい。
「それを言うなら、歩く男性器ですかね」
「この上なく最悪なものに例えてくれやがったな! 僕は侮辱罪でお前を訴える!」
「男らしくていいじゃないですか。無駄なものは何もいらない、ただ漢でありたいという強い意志を感じます」
「お前は漢を何だと思ってるんだ!」
何が漢だ。
ただの痴漢じゃないか。
「でも男の人って、隙あらば女子とイチャイチャしたいと思っているんでしょう?」
「いやほら、そうやって男を一括りにするといろいろ厄介なことになるから……」
厄介な人たちに厄介な考えを押し付けられるから。
穏便にいこうぜ?
「女こそ至高! 男は隷属せよ!」
「思想の偏りが過剰過ぎるだろ! さてはお前、偽物だな!」
僕のレヴィを返せ!
あいつはそんなことは言わない!
「僕のレヴィって、私、いつからあなたのものになったんですか」
「いつからって……そりゃ、お前がゾンビだった頃に僕が求婚したんだよ」
「とんでもない性癖です! アンデッド相手に何をしているんですか!」
「そしてお前は言ったんだ。『うぉおおおぉぉぉぉ』ってな」
「それ、呻いているだけですよね? 何を人のゾンビ時代を馬鹿にしてくれてるんですか」
呆れたように言いながら、レヴィは細い路地へと進んで行く。
「まあでも、感謝しますよ、イチカさん。そうやって笑い話にしてくれたら、少しは心が軽くなります」
「……別に、そこまで深く考えてたわけじゃないよ」
「だとしたらデリカシーがねーですね」
クスクスと笑うレヴィ。
年下の女の子を元気づける方法としては悪手かと思ったが、こうして笑顔になってくれたなら良かった。
まあ、これからゆっくり仲良くなっていこう。
僕らはせっかく、仲間になれたんだから。
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