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次なる地
しおりを挟む昼の集合時間に合わせ、僕とレヴィは繁華街へと向かった。
そこでしばらく手持無沙汰にフラフラしていると、通りの向こうから満面の笑みで駆けてくる少女が一人。
もちろん、ミア・アインズベルその人である。
「イチカ~! レヴィ~! 良い知らせよ! ブラックマーケットについての情報をゲットできたわ!」
金髪を煌めかせながらドヤ顔をする彼女に対する正しい反応は、
『わあぉ! さっすがミアさん、僕らにできないことを平然とやってのける! そこにシビれる憧れるゥ!』
であることに間違いはないのだが、ミアが情報を得たことを事前に聞かされていた僕は、引きつった笑みしか浮かべられなかった。
「……何よ、その顔。もっと喜ぶか驚くか跪くかしなさいよ」
「跪きはしないけど……いやまあ、実はさ」
と、先程遭遇した真っ白なカミサマについてミアに話す。
ミアは不機嫌そうに眉をひそめ、大きな溜息をついた。
「まーたあのカミサマに会ったってわけ? 何よそれ、全然レアキャラじゃないじゃない。普通の知り合いじゃない」
「僕もそう思うよ、ほんと」
「まあ、これでレヴィもカミサマを直に見たわけだし、イチカの妄想の産物って可能性はなくなったわね」
「そんな可能性を考えてたのかよ」
普通に傷ついたぞ。
僕の話を全く信じてくれていないじゃないか。
「それにしても、カミサマはどうして私には会ってくれないのかしらね」
「さあ……でも、心配はしてたよ」
「心配? 何を?」
「ミアくんのことを気に掛けてやってくれって」
「何それ。親じゃないんだから」
軽く肩をすくめるミア。
「別に会いたいわけじゃないけど、せめてそのご尊顔くらいは拝みたいものよ」
「顔っていっても、普通の女の子だぜ?」
「イチカが虜になるくらい可愛い、でしょ?」
「僕がいつ虜になったなんて言ったよ」
「言わなくても顔に書いてあるわ。わかりやすいんだから」
確かにカミサマの容姿は整っているが、その情報は伝えていなかったはず……本当に顔に出るタイプなのだろうか。
「カミサマの話をする度に、『ロリコンの僕には堪りませんぞ!』って顔になるわ」
「僕はロリコンじゃないしそんな喋り方もしてない!」
「レヴィが仲間になるって決まった時も、『こ、これでいつでもロリコン欲を満たせますぞ、グエッヘッヘ』って顔をしてたわ」
「お前には僕がどう見えてるんだよ!」
「え? 人の皮を被った性獣?」
「純粋無垢な目でとんでもねえこと言うなや!」
とんだ風評被害だった。
仮に僕が性に奔放な獣だとしたら、今すぐ仲間をやめてほしい。
そちら側が自助努力してほしい。
「とにかく、情報があるわ。落ち着いて話せる場所に行きましょ」
一通り僕を貶して満足したのだろう(迷惑な奴だ)、ミアは話を進めるために移動を提案する。
「じゃあ、あそこのカフェにでも入るか。ほらレヴィ、行くぞ」
「ロリコンは話しかけないでください。ロリコンが移ります」
「そんな簡単に移ってたまるか!」
風邪じゃないんだから。
それにお前はロリの側だろうに。
「あと、ここでしっかりはっきりさせておくけれど、僕は決してロリコンじゃないからな。むしろ逆、年上の綺麗系なお姉さんがタイプなんだ」
「うっわぁ、聞きたくねーです。イチカさんの好みとか、そこら辺に落ちてるゴミよりも興味ありません」
「言い過ぎにも程があるだろ。せめてもう少し僕に興味を持ってくれよ」
「興味ならありますよ。この人、いつ痛い目に合うんだろうと興味津々です」
「僕の不幸を積極的に望むな。悪魔か」
全く、僕の周りには口の悪い女子しかいないらしい。
この先仲良くやっていけるか不安である。
「次のブラックマーケットの開催地はクイーンズらしいわ」
カフェに移動した僕らは適当にお茶を注文し、早速ミアの手に入れた情報を共有してもらう。
「クイーンズって、あの?」
「そう、あのクイーンズよ。田舎者のイチカでも、さすがに名前くらいは知っているみたいね」
「お前、一々僕を小馬鹿にしないと会話ができないのか?」
「馬鹿になんてしてないわよ。見下しているだけ」
「より質が悪いじゃねえか!」
僕、何か嫌われるようなことしましたっけ?
「冗談よ、冗談……で、イチカも知ってるクイーンズだけど、レヴィも聞いたことはある?」
「はい。今はどうかわかりませんが、三百年前は有名でした……カザス地域を治める領主、クライリー家が住む街として」
レヴィは神妙な面持ちで答える。
「その通り。エーラ王国が建国してから千年弱、権力者の入れ替わりは何度も起こったけど、このクライリー家はずっと変わらずに領主の地位を維持している珍しい家系の一つよ」
「ふーん……詳しいんだな」
「イチカに教養がないだけじゃない?」
「……」
隙あらば馬鹿にしてくるな、こいつ。
まあ、今回はミアが正論過ぎるので返す言葉もないが。
「……領主が住んでる街で違法すれすれの市場を開くなんて、主催者も肝が座ってるな」
「彼らは完全なランダムで国中から開催場所を選んでるらしいから、そんなこともあるんでしょ。主催者側の心配をするよりも、私たちの運の良さを祝いましょ」
ミアの言う通り、どこで行われるかもわからないブラックマーケットがカザス地域で開かれるというだけで、かなりの運を消費している。
今は素直にそれを喜ぼう。
「件のクイーンズは、ここからどれくらいかかるんだ? 無教養な僕に教えてくれよ」
「無知を自覚するのはいいことだけど、頼み方がなってないわよ。『どうかこの浅学菲才な私に教えを授けてくださいませ』と言いなさい。さんはいっ」
「さんはいっ、じゃねえ。言わないよ」
指揮棒を振る動作をするな。
僕はそこまでプライドをなくしてはいないのだ。
「クイーンズへは、大体一カ月弱ってところかしら。何か移動手段があれば別だけど」
「カザスには車の類は普及してないし、列車も走ってないからな……諦めて徒歩か馬車しかないか」
領主であるクライリー家様の意向かは知らないが、カザス地域の文明発展度合いはすこぶる悪い……そりゃ、アルカやサリバの街並みが煉瓦造りなのも頷ける。
何でもかんでも機械化することが至高と言うつもりもないが、便利にできるところは変えてほしいものだ。
「ついでに嘆願書でも提出する? 時代遅れの治世には懲り懲りだってね」
「一瞬で捕まるからやめてくれ」
ともあれ、今後の指針は決まった。
レヴィのスキルを封じるため。
僕らは一路、クイーンズを目指す。
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