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陸
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「4109です。よろしくお願いします。」
特に言うべきことも浮かばず、ただそれだけを言った。
「502は見る目があるからな。あそこの4042も502が連れてきたんだ。俺は31。数字ばっか言われても覚えられないだろうから、何回聞いてくれてもいい。」
頭にタオルを巻いた中年の男性がそう言った。白いTシャツに破れたベージュのズボンという、ここに来て初めて見る軽装だった。4042と呼ばれた男性は私と似たようなYシャツで、先端の破れたネクタイをぶら下げていた。軽く会釈する彼を見て、同じ4000代だから死期が近かったのかとぼんやり思った。
「自分は176です。」
一番背の高い男がそう名乗った。身長を申告したのかと思ってしまったのは、彼が今時の若者らしい茶色い短髪だったからかもしれない。その隣に立つ着物姿で白髪頭の初老らしき男性は何も言わず目も合わせてくれなかった。しかし不思議と悪意は感じられないので、おそらく人付き合いに興味のないタイプの方なのかもしれない。
「今は全部で5人。でもあんたみたいに次々来るから、良さそうな人はまだ連れてくるつもり。人数が増えたら順番に休憩もできるだろ。」
502が学生服の裾についた土を手で払いながらそう言った。はやくそうしてくれ、と31が笑いながら言った。地獄とは思えないほど和やかな雰囲気で、生前よりずっと良いなんて思っていると、全員が私の背後を見た。つられて振り返るとスーツ姿の男性が押してきた台車に生気の無い人間が何十人と載せられていた。
「あれ、埋めるから。」
502がぼそりと隣で呟いた。
「適当に一人連れてきてくれ。」
31が私に向かって言った。私は正直戸惑っていたが、来たからには働かなくてはならない。半ばやけくそで台車に歩み寄り、色の白い男に目をつけたが、どう連れて行けば良いか分からない。来いと言って来るものなのか、引きずるように連れて行けば良いのか。すると別のグループの男が台車から一人を引きずり下ろして作業場まで引っ張って行った。それに倣おうと思ったが、何せ人を乱暴に扱うことには慣れていない。色白の男の腕をつかむと、幸い男は諦めたように自分から歩いて着いてきてくれた。
作業場に戻るともう穴が掘られていた。足から、と初老の男性に言われ、その通りに男を穴に導くと、男はやはり諦めたように穴の中に収まった。その上から4042と176が土を被せていき、頭だけが出る形となった。そこへまだ番号を聞けていない太ったアロハシャツ姿の男と、502と歳が近そうなブレザー姿の青年が、石を積んだ一輪車を転がしながらやってきた。皆黙々と石を積む。途中からは投げつけるように、男の頭が見えなくなるまでガラガラと石を積んだ。
「ちょっとだけ時間を置く。窒息もさせなきゃだから。」
502がそう説明し終わると、アロハシャツの太った男が私に向かって口を開いた。
「ぼ、ぼくは、1211です。いちばん、力持ちで。見た目から、分かるだろうけど。」
1211は歪に笑ってそう言った。聞き取りやすいようにゆっくり番号を言ってくれたので、悪い人ではなさそうだ。むしろ気が弱そうですらあった。ブレザー姿の青年も続いて言った。
「僕は1104です。18歳です。」
初めて年齢付きの自己紹介を聞いて少し戸惑った。よろしく、とか言いながら、彼が自身の年齢を覚えていることが不思議だった。地獄に堕ちたら、生前の記憶が全て消えるのではなかったのか。
後ろで石を崩す音がした。振り向くと502と4042が男を引きずり出しているところだった。慌てて手伝いに行くが、やはり悪臭に胸が悪くなる。もう既に次の穴が掘られていて、初老の男性が黙々と掘っておいてくれたようだった。手順さえ把握できれば手際良く動けそうだった。
また一連の同じ作業を繰り返しながら、頭にあの女性の言葉がよぎった。慣れてしまえば単純作業。人を殺すことに慣れたくはないが、一通りの作業と思えるようになれば、確かに機械的な仕事だろう。
頭だけを出した男に、176が転がしてきた一輪車をひっくり返して石をぶっかけた。最近の若者はやることが大胆だ。たしかに効率的ではあるが。呆気に取られていると、502が私にシャベルを寄越した。次の穴を掘っておけということらしい。
これはなかなかの肉体労働だ。不思議と汗はかかないし息も上がらない。当然だ、死んでいるのだから。しかし疲労は確かに蓄積している。ここでは休めるのだろうか。眠れるのだろうか。限界を超えたらどうなるのだろうか。もう死んでいるのだから、死ぬようなことはないのだろう。いつまで続くのだろう。
「多分これで一旦終わりだから、そしたら少しだけ休憩が与えられる。」
不安が顔に出ていたのか、手が余っているらしい4042がそう言った。詳しい説明は求められそうになかったが、ひとまず目の前の仕事を済ませるしかない。
「これで一旦終わり。さっきの奴は3回埋めるだけで良かったから、あとは穴に放り込んでしばらく休憩。」
男を運んでいく31と1211を見送りながら502が言った。
「一応休憩があるんだ。延々と同じ作業が続くから、ちょっとでも疲れを抜くと良い。」
ただ、と続けながら、502が私の目をじっと見て言った。
「この体は、眠れないから。」
そう言って、502と176は連れ立って近くの岩壁に背を預けて腰を下ろした。4042と1104が私を伺いながら続いた。同じように休憩して良いということだろうか。初老の男性はいつの間にか消えていた。
「疲れた?」
隣に座ると1104が声をかけてきた。薄く微笑んでいた。人懐っこい青年らしかった。いや、まぁ、ちょっと、とまごつきながら答えたあとで、先ほどの疑問をぶつけることにした。
「君は、自分の年齢を覚えているんだね。」
1104が少し驚いた表情のあとで、あぁ、と小さく何かに納得した声を出して、そうだよ、と頷いた。それ以上の説明は望めそうになかったので、さらに質問を重ねるしかなさそうだった。
「私は、自分の名前も年齢も何も思い出せなくて。だから、君が自身のことを覚えていることに驚いているんだけど。」
1104は何も答えなかった。ただ微笑んで私の顔を見つめていた。意味ありげとも言えるその表情には妙な色気すら漂っていた。気づけば皆が私と1104のやり取りに注意を向けていた。いつの間にか戻ってきていた31と1211までも私を見ていた。ぐるりと見渡すと、4042だけが私と同じく不思議そうな顔で皆を見渡していた。どうやら私と番号が近い分彼も新入りらしい。
「4109、だっけ?その方が不思議だよ。だって俺たちはみんな」
私に向かって言いかけた4042を遮るように502が「ちょっと」と声をかけた。声をかけられた4042は怪訝そうに502を見て、もう一度私を見た。そんな顔で見られても困る、私だって訳が分からないのは同じだ。「いい?手伝って欲しいんだけど。」そう言って502は4042を連れてどこかへ消えてしまった。
二人を見送って振り向くと、皆何事もなかったかのように目を閉じて座っていた。1211だけが居心地悪そうに私と目を合わせなかった。妙な雰囲気だった。さっきまで話していた1104も押し黙って目を閉じて座っていた。
「まあみんな色々あるってこった。さ、ちょっとでも休んどきな。眠れはしないけど、目を閉じると少し休まるような気がするよ。」
31が朗らかにそう言って、張り詰めた空気が解けたような気がした。私はとにかく悪意を向けられたわけではないらしいことだけ理解して、31に従って目を閉じて休むことにした。そういえば休憩はいつまでなのだろう。
足音に目を開けると、502だけが戻って来ていた。4042は、と聞きかけたが、聞いてはいけないような気がして何も言えなかった。隣で1104が少し笑ったような気がした。
瞬間、遠くの方で轟音が響いた。雷鳴にも似たその音は岩壁を震わせ、足元の石たちもカタカタと音を立てて揺れた。慌てて音のした方に目を凝らすと、細い線のような光の筋が差し込んでいた。そこに無数の人間が群がっていた。彼らは互いに押し合いへし合い、光の筋に縋り付くように蠢いていた。
するとその中から一人、光の筋に引っかかるようにして宙に浮いた男がいた。男はそのまま岩壁の天井まで浮かび上がり、光の根元の小さな岩の隙間に吸い込まれていった。群がっていた人間たちの間から嘆きとも怒りともとれる悲鳴が上がった。
何が起こったか分からなかった。私以外の皆は一瞥もくれずに目を閉じて座っている。あれは、と蚊の鳴くような声で説明を求めようとしたが、1211が目を閉じたまま小さく首を振った。聞いてはいけない、見なかったことにしなくてはいけない、そう言っているようだった。彼は何かに怯えているようでもあった。
仕方なく私は向こうの様子を伺うだけに留めた。群がっていた人間たちは諦めたように散り散りになり、何事もなかったかのようにまた沈黙が走った。何だったんだ、あれは。
しばらくしてスーツ姿の社員らしい男がまた罪人たちの乗った台車を押しながら現れた。作業再開のようだ。4042はまだ戻って来ない。1211が罪人を選びに行き、皆黙々と作業を開始した。穴を掘って、罪人を入れて、穴を埋めて、石を被せて。引き摺り出して、また繰り返して───。
罪人の死体を運ぶのに1211と一緒になった。放り込んで木蓋を閉めながら、声を潜めて1211に尋ねた。
「4042、戻って来ないね。」
すると1211は私の顔をじっと見つめたあと、視線をあちこちに泳がせて、眉根に皺を寄せて小さく呟いた。
「あいつは、まだ、知らないことが多かったみたいだね。」
言っている意味がよく分からなかった。私の表情を読み取ったのか、1211は取り繕うように笑って言った。
「そのうち戻って来ると思うよ。もう、この話、終わりね。」
1211が背を向けて歩き出したので、私も大人しくそれに従った。作業場に戻ると4042がいた。しかしさっきの1211の態度もあって、それに言及するべきでない雰囲気だったので私も黙って作業に加わった。4042は何か言いたげに時折私を見ていた。
特に言うべきことも浮かばず、ただそれだけを言った。
「502は見る目があるからな。あそこの4042も502が連れてきたんだ。俺は31。数字ばっか言われても覚えられないだろうから、何回聞いてくれてもいい。」
頭にタオルを巻いた中年の男性がそう言った。白いTシャツに破れたベージュのズボンという、ここに来て初めて見る軽装だった。4042と呼ばれた男性は私と似たようなYシャツで、先端の破れたネクタイをぶら下げていた。軽く会釈する彼を見て、同じ4000代だから死期が近かったのかとぼんやり思った。
「自分は176です。」
一番背の高い男がそう名乗った。身長を申告したのかと思ってしまったのは、彼が今時の若者らしい茶色い短髪だったからかもしれない。その隣に立つ着物姿で白髪頭の初老らしき男性は何も言わず目も合わせてくれなかった。しかし不思議と悪意は感じられないので、おそらく人付き合いに興味のないタイプの方なのかもしれない。
「今は全部で5人。でもあんたみたいに次々来るから、良さそうな人はまだ連れてくるつもり。人数が増えたら順番に休憩もできるだろ。」
502が学生服の裾についた土を手で払いながらそう言った。はやくそうしてくれ、と31が笑いながら言った。地獄とは思えないほど和やかな雰囲気で、生前よりずっと良いなんて思っていると、全員が私の背後を見た。つられて振り返るとスーツ姿の男性が押してきた台車に生気の無い人間が何十人と載せられていた。
「あれ、埋めるから。」
502がぼそりと隣で呟いた。
「適当に一人連れてきてくれ。」
31が私に向かって言った。私は正直戸惑っていたが、来たからには働かなくてはならない。半ばやけくそで台車に歩み寄り、色の白い男に目をつけたが、どう連れて行けば良いか分からない。来いと言って来るものなのか、引きずるように連れて行けば良いのか。すると別のグループの男が台車から一人を引きずり下ろして作業場まで引っ張って行った。それに倣おうと思ったが、何せ人を乱暴に扱うことには慣れていない。色白の男の腕をつかむと、幸い男は諦めたように自分から歩いて着いてきてくれた。
作業場に戻るともう穴が掘られていた。足から、と初老の男性に言われ、その通りに男を穴に導くと、男はやはり諦めたように穴の中に収まった。その上から4042と176が土を被せていき、頭だけが出る形となった。そこへまだ番号を聞けていない太ったアロハシャツ姿の男と、502と歳が近そうなブレザー姿の青年が、石を積んだ一輪車を転がしながらやってきた。皆黙々と石を積む。途中からは投げつけるように、男の頭が見えなくなるまでガラガラと石を積んだ。
「ちょっとだけ時間を置く。窒息もさせなきゃだから。」
502がそう説明し終わると、アロハシャツの太った男が私に向かって口を開いた。
「ぼ、ぼくは、1211です。いちばん、力持ちで。見た目から、分かるだろうけど。」
1211は歪に笑ってそう言った。聞き取りやすいようにゆっくり番号を言ってくれたので、悪い人ではなさそうだ。むしろ気が弱そうですらあった。ブレザー姿の青年も続いて言った。
「僕は1104です。18歳です。」
初めて年齢付きの自己紹介を聞いて少し戸惑った。よろしく、とか言いながら、彼が自身の年齢を覚えていることが不思議だった。地獄に堕ちたら、生前の記憶が全て消えるのではなかったのか。
後ろで石を崩す音がした。振り向くと502と4042が男を引きずり出しているところだった。慌てて手伝いに行くが、やはり悪臭に胸が悪くなる。もう既に次の穴が掘られていて、初老の男性が黙々と掘っておいてくれたようだった。手順さえ把握できれば手際良く動けそうだった。
また一連の同じ作業を繰り返しながら、頭にあの女性の言葉がよぎった。慣れてしまえば単純作業。人を殺すことに慣れたくはないが、一通りの作業と思えるようになれば、確かに機械的な仕事だろう。
頭だけを出した男に、176が転がしてきた一輪車をひっくり返して石をぶっかけた。最近の若者はやることが大胆だ。たしかに効率的ではあるが。呆気に取られていると、502が私にシャベルを寄越した。次の穴を掘っておけということらしい。
これはなかなかの肉体労働だ。不思議と汗はかかないし息も上がらない。当然だ、死んでいるのだから。しかし疲労は確かに蓄積している。ここでは休めるのだろうか。眠れるのだろうか。限界を超えたらどうなるのだろうか。もう死んでいるのだから、死ぬようなことはないのだろう。いつまで続くのだろう。
「多分これで一旦終わりだから、そしたら少しだけ休憩が与えられる。」
不安が顔に出ていたのか、手が余っているらしい4042がそう言った。詳しい説明は求められそうになかったが、ひとまず目の前の仕事を済ませるしかない。
「これで一旦終わり。さっきの奴は3回埋めるだけで良かったから、あとは穴に放り込んでしばらく休憩。」
男を運んでいく31と1211を見送りながら502が言った。
「一応休憩があるんだ。延々と同じ作業が続くから、ちょっとでも疲れを抜くと良い。」
ただ、と続けながら、502が私の目をじっと見て言った。
「この体は、眠れないから。」
そう言って、502と176は連れ立って近くの岩壁に背を預けて腰を下ろした。4042と1104が私を伺いながら続いた。同じように休憩して良いということだろうか。初老の男性はいつの間にか消えていた。
「疲れた?」
隣に座ると1104が声をかけてきた。薄く微笑んでいた。人懐っこい青年らしかった。いや、まぁ、ちょっと、とまごつきながら答えたあとで、先ほどの疑問をぶつけることにした。
「君は、自分の年齢を覚えているんだね。」
1104が少し驚いた表情のあとで、あぁ、と小さく何かに納得した声を出して、そうだよ、と頷いた。それ以上の説明は望めそうになかったので、さらに質問を重ねるしかなさそうだった。
「私は、自分の名前も年齢も何も思い出せなくて。だから、君が自身のことを覚えていることに驚いているんだけど。」
1104は何も答えなかった。ただ微笑んで私の顔を見つめていた。意味ありげとも言えるその表情には妙な色気すら漂っていた。気づけば皆が私と1104のやり取りに注意を向けていた。いつの間にか戻ってきていた31と1211までも私を見ていた。ぐるりと見渡すと、4042だけが私と同じく不思議そうな顔で皆を見渡していた。どうやら私と番号が近い分彼も新入りらしい。
「4109、だっけ?その方が不思議だよ。だって俺たちはみんな」
私に向かって言いかけた4042を遮るように502が「ちょっと」と声をかけた。声をかけられた4042は怪訝そうに502を見て、もう一度私を見た。そんな顔で見られても困る、私だって訳が分からないのは同じだ。「いい?手伝って欲しいんだけど。」そう言って502は4042を連れてどこかへ消えてしまった。
二人を見送って振り向くと、皆何事もなかったかのように目を閉じて座っていた。1211だけが居心地悪そうに私と目を合わせなかった。妙な雰囲気だった。さっきまで話していた1104も押し黙って目を閉じて座っていた。
「まあみんな色々あるってこった。さ、ちょっとでも休んどきな。眠れはしないけど、目を閉じると少し休まるような気がするよ。」
31が朗らかにそう言って、張り詰めた空気が解けたような気がした。私はとにかく悪意を向けられたわけではないらしいことだけ理解して、31に従って目を閉じて休むことにした。そういえば休憩はいつまでなのだろう。
足音に目を開けると、502だけが戻って来ていた。4042は、と聞きかけたが、聞いてはいけないような気がして何も言えなかった。隣で1104が少し笑ったような気がした。
瞬間、遠くの方で轟音が響いた。雷鳴にも似たその音は岩壁を震わせ、足元の石たちもカタカタと音を立てて揺れた。慌てて音のした方に目を凝らすと、細い線のような光の筋が差し込んでいた。そこに無数の人間が群がっていた。彼らは互いに押し合いへし合い、光の筋に縋り付くように蠢いていた。
するとその中から一人、光の筋に引っかかるようにして宙に浮いた男がいた。男はそのまま岩壁の天井まで浮かび上がり、光の根元の小さな岩の隙間に吸い込まれていった。群がっていた人間たちの間から嘆きとも怒りともとれる悲鳴が上がった。
何が起こったか分からなかった。私以外の皆は一瞥もくれずに目を閉じて座っている。あれは、と蚊の鳴くような声で説明を求めようとしたが、1211が目を閉じたまま小さく首を振った。聞いてはいけない、見なかったことにしなくてはいけない、そう言っているようだった。彼は何かに怯えているようでもあった。
仕方なく私は向こうの様子を伺うだけに留めた。群がっていた人間たちは諦めたように散り散りになり、何事もなかったかのようにまた沈黙が走った。何だったんだ、あれは。
しばらくしてスーツ姿の社員らしい男がまた罪人たちの乗った台車を押しながら現れた。作業再開のようだ。4042はまだ戻って来ない。1211が罪人を選びに行き、皆黙々と作業を開始した。穴を掘って、罪人を入れて、穴を埋めて、石を被せて。引き摺り出して、また繰り返して───。
罪人の死体を運ぶのに1211と一緒になった。放り込んで木蓋を閉めながら、声を潜めて1211に尋ねた。
「4042、戻って来ないね。」
すると1211は私の顔をじっと見つめたあと、視線をあちこちに泳がせて、眉根に皺を寄せて小さく呟いた。
「あいつは、まだ、知らないことが多かったみたいだね。」
言っている意味がよく分からなかった。私の表情を読み取ったのか、1211は取り繕うように笑って言った。
「そのうち戻って来ると思うよ。もう、この話、終わりね。」
1211が背を向けて歩き出したので、私も大人しくそれに従った。作業場に戻ると4042がいた。しかしさっきの1211の態度もあって、それに言及するべきでない雰囲気だったので私も黙って作業に加わった。4042は何か言いたげに時折私を見ていた。
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