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酩酊と告白について・中編(此木視点)
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「シャワーお借りしました」
リビングに入るとソファでマグカップに入れたお茶を飲んでいる敬久さんに声をかけた。
「お帰り、遥君。様子を見に行こうかと思っていたから、丁度良かったよ」
「ああ、すみません。……ついでに風呂掃除をしていましたので」
あの後も、色々と考えを巡らせそうになり結局風呂掃除をして煩悩を抑え込んでいた。
「え? ありがとう。でも何で?」
「……いえ、特に理由はないですが」
理由を言えるわけがない。
「そうなんだ? あ、飲み物はお茶で良いかな?君の分、今用意してくるから」
「あ、オレが自分で……」
「良いから良いから。君は座っていてよ」
「……ありがとうございます。ではお願いします」
にこやかに立ち上がる敬久さんを見送り、ソファに座った。リビングのテレビの電源が点いていて夕方のニュースが流れている。
――もう夕方になるのか
ここで過ごしていると一日が早く感じる。
「はい、遥君、どうぞ」
「ありがとうございます」
キッチンから帰って来た敬久さんが湯気を立てるマグカップをオレの前に置いた。そのままソファに腰掛ける。
「もう、夕方なんだよ。早いね」
「ええ、楽しい時間はあっという間ですから」
「ふふ、そうだね」
嬉しそうに微笑むと彼はオレの髪を撫でた。そのまま頬を撫でると首を傾げる。
「何だか、遥君、ひんやりしてない?」
言いながらオレの首筋に手を当てる。そこを舐められたことを思い出してゾクゾクしてしまった。
「ああ……水を浴びていました。その……熱かったので」
「え! まだ寒いのに……いや、熱いって言っていたのに僕が撫で回したせいだね」
「な、撫で回すって……いや、その、違いますっ」
敬久さんは心配そうにオレの顔を見つめながら、首筋から手を離した。
「遥君、ちょっと失礼するね」
「わっ」
敬久さんにぐいと引き寄せられ、彼の足の辺りに座るよう促される。
「ここに座って……ほら」
「あ、あの、でも、これは……」
躊躇う言葉は口から出たが、それとは裏腹に体は喜んで動いていた。
「…………これ、あの」
「膝に乗ってくれて良かったのに」
「……いや、それは、さすがに。敬久さん、狭くないですか、やっぱり、これ」
オレの方が敬久さんより少し背が低いくらいで、体型はそこまで変わらない。成人男性がソファで重なるように座るのは窮屈ではないだろうか。そういった気持ちがありながらも、内心ときめきを感じていて離れがたい。
彼はオレの腕の下に手を回すと、後ろからギュッと抱きしめた。
「……やっぱり、ひんやりしているよね。君のこと温めたら離すよ」
オレの肩の辺りに顔をのせ、穏やかな口調で囁いた。
――あ、温かい……これ、ものすごく恥ずかしいけれど、何ていうか、恋人って感じがして嬉しい……いや、でも、かなり恥ずかしい……
恥ずかしさを感じながらも、離れたくはなかった。蚊の鳴くような声で「お願いします」とだけ言うと、彼は手を伸ばしてオレのマグカップを目の前に移動させた。
「熱い内に飲んでね」
「……はい」
後ろから抱きしめられながら、熱いお茶を啜ると色々な意味で体が熱くなる。テレビの画面を観ながら音声も聞いているが、全く頭に入って来ない。
「大丈夫? 温かい?」
「は、はい、とても温かいです」
「ふふっ、それなら良かったよ。さっきは僕が君に甘やかしてもらったから、今度は君を甘やかそうと思ってね」
「……敬久さんは、オレに甘えていると思っているみたいですが、オレからしたら全然甘えている内に入らないですよ」
オレを抱きしめる彼の手に自分の手を重ねる。
「遥君は器が大きいなあ」
「……そんなことはありません。オレは狭量な男ですよ。ただ、あなたは優しいから……オレをもっと振り回すくらいで丁度良いと思うんです」
「…………」
敬久さんが黙り込んでしまったが、抱き締める手に力が入ったのが分かる。
「敬久さん?」
「僕に振り回されていたら、いつかなくなってしまうんじゃないかなって思うことがあるんだ」
ポツリと呟く。どこか不安そうな声色だった。
「君は前から側にいてくれて、恋人になってからも、側にいるのが心地良くて……真っ直ぐな君の心をもっと暴きたいって君を抱き締める度に思っているんだ。今もだよ」
そう言うと、重ねていたオレの手に指を絡めて手を繋いだ。
「……優しい僕でいれば、君が側にいてくれると思っているから、優しくしているんだ」
繋いだ手にギュッと力が入る。
「君には僕なんかに振り回されないで欲しいのに」
敬久さんはそこでため息をつくと、手の力を緩めた。
「でも、もう君を離せる気がしないからずっと側にいて欲しい。君が好きなんだ」
「…………」
こちらも思わず黙り込んでしまう。マグカップを持つ手が震え、顔が熱くなるのを感じる。
――な、何だ、今の……? ものすごく熱烈な……こ、告白じゃないか!?
「僕ってすごく重い男だよね……ごめんね、遥君」
「……い、いや、あの、敬久さん」
「振り回さないようには気をつけるから、これからも側にいて欲しい」
「敬久さん! 熱ッ」
勢い余ってマグカップの中身を自分の太ももに溢してしまった。慌ててマグカップを机に戻す。幸い大した量は溢れなかった。
「あっ、大丈夫!? 遥君!」
「すみません。少量だったので、オレは大丈夫です。敬久さんにはかかっていませんか!?」
「うん、僕は大丈夫だよ」
敬久さんがティッシュの箱に手を伸ばそうとするのを制止する。
「何だか……キャンプの時のこと、思い出しますね」
「うん、そうだね。僕がコーヒーを溢して君が心配してくれて……」
三ヶ月前のあの冬の日のキャンプを思い出す。少しだけ彼の声色に固さがなくなったのでホッとする。
「……敬久さんを、不安にさせていたんですね」
「違うよ。そうじゃないんだ、僕が勝手に」
オレは敬久さんに頼りにされたい。それなのに、彼の不安に気づくことが出来なかった。
――浮かれていたのは言い訳にもならないな。敬久さんは抱え込むタイプだって分かっていたのに……
「……オレは、その……今までちゃんとした恋愛をしてこなかったので、そういう機微に疎くて…………いや、あの、つまり、何が言いたいかと言うと! オレはあなたに対しての好意で目が眩んでいるんです。……だから、言葉にしてくれないと分からないこともあるんです」
――これは『叱る』に入るんだろうか、いや、どちらかと言えば『逆ギレ』だな……
敬久さんの手を解くと、彼の足の間から抜けて隣に座り直した。所在なさげな彼の手をギュッと握る。
「オレは、あなたに振り回されるのは本望なんです。それに、この気持ちは、それくらいでなくなったりしません。あなたに負けないくらいオレは重いんですから……」
「遥君……」
「オレに甘えてください。オレもあなたに甘えます。……それに叱りますし、敬久さんも叱ってください。……それで、オレに頼ってくれたら、とても嬉しいです」
顔を近づけて軽く彼の額に口づけた。我ながらキザな言葉だなと自省しながら、彼の顔を見た。
「……君のそういう所、好きだなあ」
敬久さんは困惑したような照れたような表情でそう言った。
リビングに入るとソファでマグカップに入れたお茶を飲んでいる敬久さんに声をかけた。
「お帰り、遥君。様子を見に行こうかと思っていたから、丁度良かったよ」
「ああ、すみません。……ついでに風呂掃除をしていましたので」
あの後も、色々と考えを巡らせそうになり結局風呂掃除をして煩悩を抑え込んでいた。
「え? ありがとう。でも何で?」
「……いえ、特に理由はないですが」
理由を言えるわけがない。
「そうなんだ? あ、飲み物はお茶で良いかな?君の分、今用意してくるから」
「あ、オレが自分で……」
「良いから良いから。君は座っていてよ」
「……ありがとうございます。ではお願いします」
にこやかに立ち上がる敬久さんを見送り、ソファに座った。リビングのテレビの電源が点いていて夕方のニュースが流れている。
――もう夕方になるのか
ここで過ごしていると一日が早く感じる。
「はい、遥君、どうぞ」
「ありがとうございます」
キッチンから帰って来た敬久さんが湯気を立てるマグカップをオレの前に置いた。そのままソファに腰掛ける。
「もう、夕方なんだよ。早いね」
「ええ、楽しい時間はあっという間ですから」
「ふふ、そうだね」
嬉しそうに微笑むと彼はオレの髪を撫でた。そのまま頬を撫でると首を傾げる。
「何だか、遥君、ひんやりしてない?」
言いながらオレの首筋に手を当てる。そこを舐められたことを思い出してゾクゾクしてしまった。
「ああ……水を浴びていました。その……熱かったので」
「え! まだ寒いのに……いや、熱いって言っていたのに僕が撫で回したせいだね」
「な、撫で回すって……いや、その、違いますっ」
敬久さんは心配そうにオレの顔を見つめながら、首筋から手を離した。
「遥君、ちょっと失礼するね」
「わっ」
敬久さんにぐいと引き寄せられ、彼の足の辺りに座るよう促される。
「ここに座って……ほら」
「あ、あの、でも、これは……」
躊躇う言葉は口から出たが、それとは裏腹に体は喜んで動いていた。
「…………これ、あの」
「膝に乗ってくれて良かったのに」
「……いや、それは、さすがに。敬久さん、狭くないですか、やっぱり、これ」
オレの方が敬久さんより少し背が低いくらいで、体型はそこまで変わらない。成人男性がソファで重なるように座るのは窮屈ではないだろうか。そういった気持ちがありながらも、内心ときめきを感じていて離れがたい。
彼はオレの腕の下に手を回すと、後ろからギュッと抱きしめた。
「……やっぱり、ひんやりしているよね。君のこと温めたら離すよ」
オレの肩の辺りに顔をのせ、穏やかな口調で囁いた。
――あ、温かい……これ、ものすごく恥ずかしいけれど、何ていうか、恋人って感じがして嬉しい……いや、でも、かなり恥ずかしい……
恥ずかしさを感じながらも、離れたくはなかった。蚊の鳴くような声で「お願いします」とだけ言うと、彼は手を伸ばしてオレのマグカップを目の前に移動させた。
「熱い内に飲んでね」
「……はい」
後ろから抱きしめられながら、熱いお茶を啜ると色々な意味で体が熱くなる。テレビの画面を観ながら音声も聞いているが、全く頭に入って来ない。
「大丈夫? 温かい?」
「は、はい、とても温かいです」
「ふふっ、それなら良かったよ。さっきは僕が君に甘やかしてもらったから、今度は君を甘やかそうと思ってね」
「……敬久さんは、オレに甘えていると思っているみたいですが、オレからしたら全然甘えている内に入らないですよ」
オレを抱きしめる彼の手に自分の手を重ねる。
「遥君は器が大きいなあ」
「……そんなことはありません。オレは狭量な男ですよ。ただ、あなたは優しいから……オレをもっと振り回すくらいで丁度良いと思うんです」
「…………」
敬久さんが黙り込んでしまったが、抱き締める手に力が入ったのが分かる。
「敬久さん?」
「僕に振り回されていたら、いつかなくなってしまうんじゃないかなって思うことがあるんだ」
ポツリと呟く。どこか不安そうな声色だった。
「君は前から側にいてくれて、恋人になってからも、側にいるのが心地良くて……真っ直ぐな君の心をもっと暴きたいって君を抱き締める度に思っているんだ。今もだよ」
そう言うと、重ねていたオレの手に指を絡めて手を繋いだ。
「……優しい僕でいれば、君が側にいてくれると思っているから、優しくしているんだ」
繋いだ手にギュッと力が入る。
「君には僕なんかに振り回されないで欲しいのに」
敬久さんはそこでため息をつくと、手の力を緩めた。
「でも、もう君を離せる気がしないからずっと側にいて欲しい。君が好きなんだ」
「…………」
こちらも思わず黙り込んでしまう。マグカップを持つ手が震え、顔が熱くなるのを感じる。
――な、何だ、今の……? ものすごく熱烈な……こ、告白じゃないか!?
「僕ってすごく重い男だよね……ごめんね、遥君」
「……い、いや、あの、敬久さん」
「振り回さないようには気をつけるから、これからも側にいて欲しい」
「敬久さん! 熱ッ」
勢い余ってマグカップの中身を自分の太ももに溢してしまった。慌ててマグカップを机に戻す。幸い大した量は溢れなかった。
「あっ、大丈夫!? 遥君!」
「すみません。少量だったので、オレは大丈夫です。敬久さんにはかかっていませんか!?」
「うん、僕は大丈夫だよ」
敬久さんがティッシュの箱に手を伸ばそうとするのを制止する。
「何だか……キャンプの時のこと、思い出しますね」
「うん、そうだね。僕がコーヒーを溢して君が心配してくれて……」
三ヶ月前のあの冬の日のキャンプを思い出す。少しだけ彼の声色に固さがなくなったのでホッとする。
「……敬久さんを、不安にさせていたんですね」
「違うよ。そうじゃないんだ、僕が勝手に」
オレは敬久さんに頼りにされたい。それなのに、彼の不安に気づくことが出来なかった。
――浮かれていたのは言い訳にもならないな。敬久さんは抱え込むタイプだって分かっていたのに……
「……オレは、その……今までちゃんとした恋愛をしてこなかったので、そういう機微に疎くて…………いや、あの、つまり、何が言いたいかと言うと! オレはあなたに対しての好意で目が眩んでいるんです。……だから、言葉にしてくれないと分からないこともあるんです」
――これは『叱る』に入るんだろうか、いや、どちらかと言えば『逆ギレ』だな……
敬久さんの手を解くと、彼の足の間から抜けて隣に座り直した。所在なさげな彼の手をギュッと握る。
「オレは、あなたに振り回されるのは本望なんです。それに、この気持ちは、それくらいでなくなったりしません。あなたに負けないくらいオレは重いんですから……」
「遥君……」
「オレに甘えてください。オレもあなたに甘えます。……それに叱りますし、敬久さんも叱ってください。……それで、オレに頼ってくれたら、とても嬉しいです」
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