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酩酊と告白について・後編(柊山視点)
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間接照明に照らされた寝室のベッドに腰掛けながら、ぼんやりと部屋の入口を見た。入口のドアは開け放たれており、廊下の明かりが入ってくる。
サイドボードの引き出しを開けて、潤滑剤やコンドームを取り出した。そのままサイドボードの上に置こうかと思ったけれど、剥き出しのままにして彼を待っているのが何だかいたたまれなくなったので枕の下に入れた。
――遥君が来るまで、手持ち無沙汰だ……
先程、夕飯を遥君が冷蔵庫にある素材を使って手際よく作ってくれた。自分はといえば野菜を洗うだとか食器を用意するだとか、手伝いとなるのかよく分からないようなことをしただけだった。
――彼が来るようになって冷蔵庫に食材があることが増えたし、生活が豊かになっていくな
食後は残っていたチョコレートを食べさせ合うと言っていたので実行したところ、彼は一つ目で盛大に照れてギブアップした。足の間に座ってもらい後ろから抱きしめながら食べさせたのが原因だろう。
後ろから抱きしめると遥君の反応がいつもと違うことが分かったので、つい欲張ってしまった。
――自身の独占欲も満たせるので、遥君が慣れるまで小出しにやっていくことにしよう
ベッドの中央に移動して寝転んだ。自分の薄暗い気持ちを彼が受け止めてくれたことを噛みしめるように思い出す。
――『言葉にしてくれないと分からないこともある』か。知っていたはずなのに、僕はそういうことができない人間だな……
彼は自身のことを狭量だと言っていたけれどそんなことは全くない。どちらかと言えば狭量なのは自分の方だ。
例えば『ちゃんとした恋愛をしてこなかった』と言われた時だ。彼にも色々な経験があるのだと思いながら、彼とそういった関係になった顔も知らない他人に嫉妬を覚えた。
――こんな感情を抱いてしまう方こそ、狭量だ。そもそも恋人の昔の恋愛を詮索するなんて、できるわけがない
自分も過去の恋愛について問いかけられたとしても、あまり良い記憶もないので答えられる気がしなかった。
ため息を吐くと廊下から足音が聞こえてきたので、上体を起こしてベッドの上に座るような姿勢になり音のする方向を見た。
「失礼します」
そう言いながら、遥君はドアを閉める。薄手のシャツにスウェットを履いた彼は少し緊張した様子で僕の方に歩いて来るとベッドに上がった。
「……眠っていましたか?」
遥君が上体を起こした僕に近づいてきたので、僕の膝の上に乗せる格好になるように引き寄せた。
「ううん、眠っていないよ。ちょっとぼんやり考え事をしていたんだ」
昔の男に嫉妬していたとは言えなかった。
「そ、そうなんですか。……あの……ところで、この格好重くないですか……」
遥君は僕に体重を乗せるのを躊躇っているのか、足に力が入っている。
「大丈夫だよ。だから、もっとこっち……」
彼の腰をぐいと引っ張っり、膝に乗せた。
「……ちょっと恥ずかしいですね、この体勢」
向かい合って膝に乗せているので、彼の方が目線が高くなっている。少しだけ見上げるような形だ。赤い顔の彼を見つめると、僕の首に腕を回してギュッと抱きしめられた。
「でも、近いのは好きです……」
「……うん」
遥君の体温をもっと感じたくて腰に腕を回した。彼からは自分と同じシャンプーやボディーソープの匂いがして、クラクラする。
「待っている間、君のことを考えていたんだ」
「……どんなことを、考えていたんですか?」
抱き合ったままなので、彼の声が耳元で聞こえて心地良い。
「君が恋人になってから、生活が豊かになったなあって」
「ははっ、そうだとしたら、とても嬉しいです……」
「僕一人だと、家に誰かを招くだとか食事だとか、そういう穏やかに生活することが疎かだったからね。……あとは、遥君の料理が好きだなって」
「本当ですか? オレの料理が口に合って良かったです」
この体勢で遥君の顔は見えないが、照れたような声色になる。
「今日もあんなにサッと何品も作れるなんてすごいなあって思ったよ。僕、あのブロッコリーとゆで卵のサラダ好きだな……」
「オレ、細々した作業が好きなので……サラダ、また作りますね」
僕の髪の毛にチュと音を立ててキスしながら言うと、少し体を離した。
「そんな、色々言われると、照れます……」
「照れた遥君、好きなんだ」
遥君は積極的な所があるのに、妙に照れ屋だ。そういう所が好ましいなと常々感じていたので、僕自身わざと彼を照れさせるように仕向けている所がある。
「……そう、ですか。……あなたにそんな風に言ってもらえるの、好きです」
「……遥君は、可愛いね」
彼の頭を引き寄せて唇を合わせた。
「……はぁ、他にも、考えていたんだ」
「んん……他、ですか……」
舌先で唇をなぞると、彼がおずおずと口を開く。そこに舌を入れて口内をなぞった。熱い唾液が自分の口の端から溢れるのを感じて、少しだけ唇離すと彼も息を吐いた。僕の唾液を拭おうとしたのか彼が僕の唇に手を伸ばしてきたので、その手を掴んで指先に舌を這わせた。
遥君が驚いて手を離そうとしたが、構わず指の付け根や手の平に舌を這わす。
「えっ……あ……」
震えるような声が堪らないなと思いながら、指先を甘噛みすると彼の体がビクッと跳ねる。
「ぁ……あ、それ……」
「これ……気持ち良い?」
「……それ……ダメっ……」
遥君が手を勢いよく引っ込めると、唇を重ねられガブリと食まれた。僕の口の端の唾液は舌で舐めとられ、彼の舌先に唾液の糸が引いている。
「もっ……ダメですって…」
「…………」
彼自身も僕に割とすごいことをしているのに、その自覚はないようだ。
「……はぁ……さっきの、あんまりしちゃダメです」
僕の頬を手で包みながら、熱っぽい眼差しで言われた。
「考えていたんだ」
「え?」
遥君が息を整えながら聞き返してくる。彼の熱い吐息や震える体をすぐ近くに感じて、昂りを感じる。
「今日、君をどんな風に抱こうかって」
頬を包む彼の手を撫でながらそう言うと『普通で良いです』とか細い声で言われた。彼の『普通』について聞き出そうとすると、耳を強めに噛まれてしまった。
サイドボードの引き出しを開けて、潤滑剤やコンドームを取り出した。そのままサイドボードの上に置こうかと思ったけれど、剥き出しのままにして彼を待っているのが何だかいたたまれなくなったので枕の下に入れた。
――遥君が来るまで、手持ち無沙汰だ……
先程、夕飯を遥君が冷蔵庫にある素材を使って手際よく作ってくれた。自分はといえば野菜を洗うだとか食器を用意するだとか、手伝いとなるのかよく分からないようなことをしただけだった。
――彼が来るようになって冷蔵庫に食材があることが増えたし、生活が豊かになっていくな
食後は残っていたチョコレートを食べさせ合うと言っていたので実行したところ、彼は一つ目で盛大に照れてギブアップした。足の間に座ってもらい後ろから抱きしめながら食べさせたのが原因だろう。
後ろから抱きしめると遥君の反応がいつもと違うことが分かったので、つい欲張ってしまった。
――自身の独占欲も満たせるので、遥君が慣れるまで小出しにやっていくことにしよう
ベッドの中央に移動して寝転んだ。自分の薄暗い気持ちを彼が受け止めてくれたことを噛みしめるように思い出す。
――『言葉にしてくれないと分からないこともある』か。知っていたはずなのに、僕はそういうことができない人間だな……
彼は自身のことを狭量だと言っていたけれどそんなことは全くない。どちらかと言えば狭量なのは自分の方だ。
例えば『ちゃんとした恋愛をしてこなかった』と言われた時だ。彼にも色々な経験があるのだと思いながら、彼とそういった関係になった顔も知らない他人に嫉妬を覚えた。
――こんな感情を抱いてしまう方こそ、狭量だ。そもそも恋人の昔の恋愛を詮索するなんて、できるわけがない
自分も過去の恋愛について問いかけられたとしても、あまり良い記憶もないので答えられる気がしなかった。
ため息を吐くと廊下から足音が聞こえてきたので、上体を起こしてベッドの上に座るような姿勢になり音のする方向を見た。
「失礼します」
そう言いながら、遥君はドアを閉める。薄手のシャツにスウェットを履いた彼は少し緊張した様子で僕の方に歩いて来るとベッドに上がった。
「……眠っていましたか?」
遥君が上体を起こした僕に近づいてきたので、僕の膝の上に乗せる格好になるように引き寄せた。
「ううん、眠っていないよ。ちょっとぼんやり考え事をしていたんだ」
昔の男に嫉妬していたとは言えなかった。
「そ、そうなんですか。……あの……ところで、この格好重くないですか……」
遥君は僕に体重を乗せるのを躊躇っているのか、足に力が入っている。
「大丈夫だよ。だから、もっとこっち……」
彼の腰をぐいと引っ張っり、膝に乗せた。
「……ちょっと恥ずかしいですね、この体勢」
向かい合って膝に乗せているので、彼の方が目線が高くなっている。少しだけ見上げるような形だ。赤い顔の彼を見つめると、僕の首に腕を回してギュッと抱きしめられた。
「でも、近いのは好きです……」
「……うん」
遥君の体温をもっと感じたくて腰に腕を回した。彼からは自分と同じシャンプーやボディーソープの匂いがして、クラクラする。
「待っている間、君のことを考えていたんだ」
「……どんなことを、考えていたんですか?」
抱き合ったままなので、彼の声が耳元で聞こえて心地良い。
「君が恋人になってから、生活が豊かになったなあって」
「ははっ、そうだとしたら、とても嬉しいです……」
「僕一人だと、家に誰かを招くだとか食事だとか、そういう穏やかに生活することが疎かだったからね。……あとは、遥君の料理が好きだなって」
「本当ですか? オレの料理が口に合って良かったです」
この体勢で遥君の顔は見えないが、照れたような声色になる。
「今日もあんなにサッと何品も作れるなんてすごいなあって思ったよ。僕、あのブロッコリーとゆで卵のサラダ好きだな……」
「オレ、細々した作業が好きなので……サラダ、また作りますね」
僕の髪の毛にチュと音を立ててキスしながら言うと、少し体を離した。
「そんな、色々言われると、照れます……」
「照れた遥君、好きなんだ」
遥君は積極的な所があるのに、妙に照れ屋だ。そういう所が好ましいなと常々感じていたので、僕自身わざと彼を照れさせるように仕向けている所がある。
「……そう、ですか。……あなたにそんな風に言ってもらえるの、好きです」
「……遥君は、可愛いね」
彼の頭を引き寄せて唇を合わせた。
「……はぁ、他にも、考えていたんだ」
「んん……他、ですか……」
舌先で唇をなぞると、彼がおずおずと口を開く。そこに舌を入れて口内をなぞった。熱い唾液が自分の口の端から溢れるのを感じて、少しだけ唇離すと彼も息を吐いた。僕の唾液を拭おうとしたのか彼が僕の唇に手を伸ばしてきたので、その手を掴んで指先に舌を這わせた。
遥君が驚いて手を離そうとしたが、構わず指の付け根や手の平に舌を這わす。
「えっ……あ……」
震えるような声が堪らないなと思いながら、指先を甘噛みすると彼の体がビクッと跳ねる。
「ぁ……あ、それ……」
「これ……気持ち良い?」
「……それ……ダメっ……」
遥君が手を勢いよく引っ込めると、唇を重ねられガブリと食まれた。僕の口の端の唾液は舌で舐めとられ、彼の舌先に唾液の糸が引いている。
「もっ……ダメですって…」
「…………」
彼自身も僕に割とすごいことをしているのに、その自覚はないようだ。
「……はぁ……さっきの、あんまりしちゃダメです」
僕の頬を手で包みながら、熱っぽい眼差しで言われた。
「考えていたんだ」
「え?」
遥君が息を整えながら聞き返してくる。彼の熱い吐息や震える体をすぐ近くに感じて、昂りを感じる。
「今日、君をどんな風に抱こうかって」
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