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二人しか知らない秘密・中編(此木視点)
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「はぁ……」
敬久さんに抱きしめてもらうのは心地良かったけれど、中々の時間が経ってしまったので名残惜しさを感じながら離れた。
――少しだけ、一緒に眠っても良かったな。夜、するんだったら……体力温存にもなるし。今日は歩き回っていたからな……
夕方になると食事を作ったり、団欒したりと、あっという間に時間は過ぎて行った。
――楽しい時間は過ぎるのが本当に早い……もう、明日には帰らないといけないなんて……明後日も休みだったら良いのに
洗面台の鏡を見つめ、乾かした髪の毛を撫でつけながら、感傷的な気分になってしまった。
――お風呂にも一緒に入りたかったけれど、そんなに色々したら、オレの心がもたないからな……
オレは体の準備があったので、敬久さんに寝室で待ってもらっていた。
――待っている間、寝ていても良いっていつも言っているのに……敬久さんは起きているからなあ。無理させていないかな……
軽く頬をペチペチと叩き、深呼吸をしながら廊下に出た。寝室に向かう時はいつも緊張する。
「お待たせしました……」
オレを待っている間、寝室のドアはいつも開け放たれている。敬久さんなりの気遣いなのかもしれない。入口直前でまた深呼吸して寝室に入ると、薄暗く調整された照明の中にいる敬久さんと目が合った。
「おかえり、遥君。あれ、そのパジャマ、昨日のと違うね」
ベッドの上で片膝を立てて座っている敬久さんが嬉しそうに言った。オレは寝室のドアを閉めるとベッドの上に上がり、彼に体を寄せるように座った。
「ニ着持って来ていて……その……洗い替え用っていうか……今日は、違う方のを、折角だから着てみました……」
昨日着ていた紺色のパジャマと違い、今日は白に近いグレーのパジャマを着ていた。襟やボタンは昨日着ていたものと同じような作りをしていて、生地が少しだけ異なっている。
――本当は……あわよくばどちらかを敬久さんに着て欲しかったので、ニ着持って来たとは言えないな
「今日のもすごく似合うよ」
敬久さんはオレの腰を抱きながら言った。少し声が熱を帯びている気がする。
「あ、ありがとうございます……」
オレはそんな中、サイドボードを目の端に映してしまった。
――寝室に来てサイドボードを見ると……オレの煩悩が押し寄せて来て……引き出しのアレについて、気になってしまう。折角だし、この機会に聞いておいた方が良いかな……
サイドボードの様々な物について、聞き出すタイミングを伺っていると妙に緊張してくる。敬久さんはそんなオレをジッと見つめて首を傾げた。
「何だか緊張しているね?」
「……あー、あの……敬久さんに、聞きたいことが、ありまして」
「え、何だろう」
彼はきょとんとした表情になり、オレの手を握ってきた。敬久さんの体温が伝わって来て、このまま撫でられたら気持ち良いんだろうなとぼんやりと考えてしまった。
――ダメだ……このまま身を委ねたくなってしまう……聞かないと……
「あ、あの、一昨日のことなんですが……サイドボードのウェットティッシュ、使わせてもらったじゃないですか」
「うん、僕が君の胸、吸ったからね……」
はやる気持ちを抑えつけて尋ねると、敬久さんは気まずそうな顔をして目をそらした。
「いや、それは全然問題ないです! 二人きりの時だったら、オレの体、好きにしてもらってかまいませんから」
「…………うん……ありがとう」
敬久さんが頬を赤らめ、目を細めて言った。オレは彼の手をギュッと握り返した。
「す、すみません……本題はそこではないんです。ウェットティッシュの中身がなくなったから、補充しようと引き出しを開けたんです……そうしたら……見つけちゃって……あの、いつかの『道具』っていうか……玩具……」
「あっ! えーと、そっかぁ……僕、そこに入れっぱなしだったんだね……」
敬久さんは目を伏せると、口元に手を当てた。どうやら存在を忘れていたようだ。
「あの……オレ……見つけちゃってから……気になってしまって……」
「うん……」
先程より更に気まずそうな表情の敬久さんが頷いた。自分のせいとはいえ、妙な雰囲気になってしまっている。オレは呼吸を整えてから、口を開いた。
「ぁ、あの、それで……アレはいつ、オレに使うんですかっ!」
早口で勢いよくそう言った。敬久さんは驚いたような表情になり、細めていた目を開いた。彼と繋いでいる手がオレの冷や汗で湿っていくのを感じる。
敬久さんに抱きしめてもらうのは心地良かったけれど、中々の時間が経ってしまったので名残惜しさを感じながら離れた。
――少しだけ、一緒に眠っても良かったな。夜、するんだったら……体力温存にもなるし。今日は歩き回っていたからな……
夕方になると食事を作ったり、団欒したりと、あっという間に時間は過ぎて行った。
――楽しい時間は過ぎるのが本当に早い……もう、明日には帰らないといけないなんて……明後日も休みだったら良いのに
洗面台の鏡を見つめ、乾かした髪の毛を撫でつけながら、感傷的な気分になってしまった。
――お風呂にも一緒に入りたかったけれど、そんなに色々したら、オレの心がもたないからな……
オレは体の準備があったので、敬久さんに寝室で待ってもらっていた。
――待っている間、寝ていても良いっていつも言っているのに……敬久さんは起きているからなあ。無理させていないかな……
軽く頬をペチペチと叩き、深呼吸をしながら廊下に出た。寝室に向かう時はいつも緊張する。
「お待たせしました……」
オレを待っている間、寝室のドアはいつも開け放たれている。敬久さんなりの気遣いなのかもしれない。入口直前でまた深呼吸して寝室に入ると、薄暗く調整された照明の中にいる敬久さんと目が合った。
「おかえり、遥君。あれ、そのパジャマ、昨日のと違うね」
ベッドの上で片膝を立てて座っている敬久さんが嬉しそうに言った。オレは寝室のドアを閉めるとベッドの上に上がり、彼に体を寄せるように座った。
「ニ着持って来ていて……その……洗い替え用っていうか……今日は、違う方のを、折角だから着てみました……」
昨日着ていた紺色のパジャマと違い、今日は白に近いグレーのパジャマを着ていた。襟やボタンは昨日着ていたものと同じような作りをしていて、生地が少しだけ異なっている。
――本当は……あわよくばどちらかを敬久さんに着て欲しかったので、ニ着持って来たとは言えないな
「今日のもすごく似合うよ」
敬久さんはオレの腰を抱きながら言った。少し声が熱を帯びている気がする。
「あ、ありがとうございます……」
オレはそんな中、サイドボードを目の端に映してしまった。
――寝室に来てサイドボードを見ると……オレの煩悩が押し寄せて来て……引き出しのアレについて、気になってしまう。折角だし、この機会に聞いておいた方が良いかな……
サイドボードの様々な物について、聞き出すタイミングを伺っていると妙に緊張してくる。敬久さんはそんなオレをジッと見つめて首を傾げた。
「何だか緊張しているね?」
「……あー、あの……敬久さんに、聞きたいことが、ありまして」
「え、何だろう」
彼はきょとんとした表情になり、オレの手を握ってきた。敬久さんの体温が伝わって来て、このまま撫でられたら気持ち良いんだろうなとぼんやりと考えてしまった。
――ダメだ……このまま身を委ねたくなってしまう……聞かないと……
「あ、あの、一昨日のことなんですが……サイドボードのウェットティッシュ、使わせてもらったじゃないですか」
「うん、僕が君の胸、吸ったからね……」
はやる気持ちを抑えつけて尋ねると、敬久さんは気まずそうな顔をして目をそらした。
「いや、それは全然問題ないです! 二人きりの時だったら、オレの体、好きにしてもらってかまいませんから」
「…………うん……ありがとう」
敬久さんが頬を赤らめ、目を細めて言った。オレは彼の手をギュッと握り返した。
「す、すみません……本題はそこではないんです。ウェットティッシュの中身がなくなったから、補充しようと引き出しを開けたんです……そうしたら……見つけちゃって……あの、いつかの『道具』っていうか……玩具……」
「あっ! えーと、そっかぁ……僕、そこに入れっぱなしだったんだね……」
敬久さんは目を伏せると、口元に手を当てた。どうやら存在を忘れていたようだ。
「あの……オレ……見つけちゃってから……気になってしまって……」
「うん……」
先程より更に気まずそうな表情の敬久さんが頷いた。自分のせいとはいえ、妙な雰囲気になってしまっている。オレは呼吸を整えてから、口を開いた。
「ぁ、あの、それで……アレはいつ、オレに使うんですかっ!」
早口で勢いよくそう言った。敬久さんは驚いたような表情になり、細めていた目を開いた。彼と繋いでいる手がオレの冷や汗で湿っていくのを感じる。
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