【完結/R18】恋人として君と過ごす日々

テルマ江

文字の大きさ
80 / 154
二人しか知らない秘密・中編(此木視点)

8

しおりを挟む
「はぁ……」

 敬久さんに抱きしめてもらうのは心地良かったけれど、中々の時間が経ってしまったので名残惜しさを感じながら離れた。

――少しだけ、一緒に眠っても良かったな。夜、するんだったら……体力温存にもなるし。今日は歩き回っていたからな……

 夕方になると食事を作ったり、団欒したりと、あっという間に時間は過ぎて行った。

――楽しい時間は過ぎるのが本当に早い……もう、明日には帰らないといけないなんて……明後日も休みだったら良いのに

 洗面台の鏡を見つめ、乾かした髪の毛を撫でつけながら、感傷的な気分になってしまった。

――お風呂にも一緒に入りたかったけれど、そんなに色々したら、オレの心がもたないからな……

 オレは体の準備があったので、敬久さんに寝室で待ってもらっていた。

――待っている間、寝ていても良いっていつも言っているのに……敬久さんは起きているからなあ。無理させていないかな……

 軽く頬をペチペチと叩き、深呼吸をしながら廊下に出た。寝室に向かう時はいつも緊張する。

「お待たせしました……」
 
 オレを待っている間、寝室のドアはいつも開け放たれている。敬久さんなりの気遣いなのかもしれない。入口直前でまた深呼吸して寝室に入ると、薄暗く調整された照明の中にいる敬久さんと目が合った。
 
「おかえり、遥君。あれ、そのパジャマ、昨日のと違うね」

 ベッドの上で片膝を立てて座っている敬久さんが嬉しそうに言った。オレは寝室のドアを閉めるとベッドの上に上がり、彼に体を寄せるように座った。

「ニ着持って来ていて……その……洗い替え用っていうか……今日は、違う方のを、折角だから着てみました……」

 昨日着ていた紺色のパジャマと違い、今日は白に近いグレーのパジャマを着ていた。襟やボタンは昨日着ていたものと同じような作りをしていて、生地が少しだけ異なっている。

――本当は……あわよくばどちらかを敬久さんに着て欲しかったので、ニ着持って来たとは言えないな

「今日のもすごく似合うよ」

 敬久さんはオレの腰を抱きながら言った。少し声が熱を帯びている気がする。

「あ、ありがとうございます……」

 オレはそんな中、サイドボードを目の端に映してしまった。

――寝室に来てサイドボードを見ると……オレの煩悩が押し寄せて来て……引き出しのアレについて、気になってしまう。折角だし、この機会に聞いておいた方が良いかな……

 サイドボードの様々な物について、聞き出すタイミングを伺っていると妙に緊張してくる。敬久さんはそんなオレをジッと見つめて首を傾げた。

「何だか緊張しているね?」
「……あー、あの……敬久さんに、聞きたいことが、ありまして」
「え、何だろう」

 彼はきょとんとした表情になり、オレの手を握ってきた。敬久さんの体温が伝わって来て、このまま撫でられたら気持ち良いんだろうなとぼんやりと考えてしまった。

――ダメだ……このまま身を委ねたくなってしまう……聞かないと……

「あ、あの、一昨日のことなんですが……サイドボードのウェットティッシュ、使わせてもらったじゃないですか」
「うん、僕が君の胸、吸ったからね……」

 はやる気持ちを抑えつけて尋ねると、敬久さんは気まずそうな顔をして目をそらした。

「いや、それは全然問題ないです! 二人きりの時だったら、オレの体、好きにしてもらってかまいませんから」
「…………うん……ありがとう」

 敬久さんが頬を赤らめ、目を細めて言った。オレは彼の手をギュッと握り返した。

「す、すみません……本題はそこではないんです。ウェットティッシュの中身がなくなったから、補充しようと引き出しを開けたんです……そうしたら……見つけちゃって……あの、いつかの『道具』っていうか……玩具……」
「あっ! えーと、そっかぁ……僕、そこに入れっぱなしだったんだね……」

 敬久さんは目を伏せると、口元に手を当てた。どうやら存在を忘れていたようだ。

「あの……オレ……見つけちゃってから……気になってしまって……」
「うん……」

 先程より更に気まずそうな表情の敬久さんが頷いた。自分のせいとはいえ、妙な雰囲気になってしまっている。オレは呼吸を整えてから、口を開いた。

「ぁ、あの、それで……アレはいつ、オレに使うんですかっ!」

 早口で勢いよくそう言った。敬久さんは驚いたような表情になり、細めていた目を開いた。彼と繋いでいる手がオレの冷や汗で湿っていくのを感じる。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

処理中です...