【完結/R18】恋人として君と過ごす日々

テルマ江

文字の大きさ
103 / 154
君との温かい食卓・後編(柊山視点)

2

しおりを挟む
 朝食は昨日の残りのチーズを使ったピザトーストにインスタントのカップスープを添え、ヨーグルトとコーヒーを出した。

 ピザトースト以外は出来合いの物だけれど、僕にしては頑張ったメニューだ。目玉焼きなども付けたかったけれど、焦がさないで済むという保証がなかったので諦めた。

「美味しいです」

 遥君は食卓の向かいの席に座り、嬉しそうに微笑んでピザトーストを食べている。僕はカップスープを飲みながら、彼の嬉しそうな顔は相変わらず可愛いなと見つめた。

「遥君に手伝ってもらったからね」

 僕が普通に食パンを焼こうとしていると、遥君が具材をのせることを提案してくれたのだった。

「君と料理するのって楽しいから好きだな」

 料理は相変わらず得意ではないけれど、回数をこなすことによってコツらしきものが何となく分かるようになった。食材を組み合わせることで味や食感が変化するのは作っていて楽しい。遥君と一緒だからか余計にそう感じる。

「……オレも好きです」

 遥君はピザトーストを持ったままモゴモゴと言った。

「今の好きには料理だけじゃなくて、僕に対しての好きも含まれていたよね?」
「…………分かったなら……聞かないでくださいよ」

 からかうように言うと、遥君は目を細めてピザトーストを齧った。

「ごめんごめん。君の表情がくるくる変わるの好きだから……見たくなってつい……あ、今の好きは恋人として好きって意味と……」
「……そんなに……からかわないでくださいよ……」

 彼は赤い顔のままピザトーストを黙々と食べ終え、カップスープをこくこくと飲んだ。自分でもからかい過ぎたかなと反省した。

――僕はどうにも子どもっぽい所があるから、やり過ぎて呆れられないように気をつけないと

 しばらく遥君の顔色を窺いながら、僕もピザトーストを食べた。自分で作ったとは思えないほど美味しかった。

「足りなかったらまだ焼くから言ってね」
「大丈夫です。お腹いっぱいというか……胸がいっぱいで……」

 遥君はまた僕の方を見てくれたのでほっとした。

「今日は朝から良いスタートが切れたので、頑張れます……」
「そう、それは良かった」

 僕はまた彼をからかいたくなったけれど何とか踏み止まった。

「そうだ、今日は駅まで見送りするからね」
「……あなたにそんなにしてもらえて、嬉しいです」
「本当は車で会社まで送りたいんだけど」
「……今は本当、交通量が多いからダメですよ」

 そこだけはきっぱりと断わられた。出版社周辺はオフィス街なのもあり、繁忙期は交通量がどうしても多くなる。

「うん、分かったよ。遥君も気をつけてね。道路も電車も人が多いし……」 
「ありがとうございます。敬久さんも風邪引かないでくださいね?」

 心配そうな目で見つめられた。僕の生活は彼が側にいるようになってだいぶ改善された。けれど、まだまだ様々なことを疎かにして生きている。

「うん、温かくするし、食事も食べるし……夜は寝るよ……いや、最近は僕も割と……前よりはマシっていうか、ちゃんとしているからね……?」 

 最後の方は言い訳のようになってしまった。

「……遥君も外に出る時は暖かくして行ってね」

 僕の生活習慣に関する話を続けると彼に呆れられそうな気がしたので、内心焦りながら話題を変えた。

「今日も寒いですからね」
「うん、遥君は薄着だから……君こそ風邪引かないでね」

 室内は暖かいけれど、遥君はワイシャツ一枚なので寒そうにも見える。

「今日は上にジャケットか何か着るの?」
「はい、羽織る物をもう一枚着ます。その上から更にコートを着ていたら……ちょっと熱いんですけどね……こっちに丁度良いの置いていたかな……厚過ぎないくらいで……職場に着て行けるような……」

 遥君は少し考える風にしながら「後で探して来ます」と言った。彼は体温が高いので悩ましいようだ。

「ああ、じゃあ、僕のカーディガンを貸すから、着て行ったら良いよ」

 僕の家に三週間ぶりに来たので、彼の着替えの予備に丁度良い服が無いのかもしれない。コーヒーを啜りながら、何気なく言った。

「……え」

 僕の言葉を聞いた遥君の動きがピタリと止まった。

「どうしたの?」
「……だって……ク、クリスマスに恋人の服を着て出勤だなんて……そんなことをオレがしても……良いんでしょうか? いや……でも、敬久さんの服を着て……出勤してみたいです。オレはどうすれば……」

 遥君はしどろもどろになり、ブツブツと呟いた。それからハッと僕を見つめ、困惑と嬉しさが混じった表情になった。

――クリスマスに恋人の家に泊まったアピールみたいになってしまうのかな? でも、僕達服のサイズはほとんど一緒だから、言わなかったら分からないだろうし……良いんじゃないかな

 何気なく言ったけれど、遥君が僕の服を着て仕事に行くというのは良いものだなと感じた。

「言わなかったら分からないし、良いと思うよ。それに……」
「それに……?」
「僕の服を着て仕事に行く遥君を見てみたいな……」

 自分で言いながら照れてしまった。落ち着きを取り戻そうとコーヒーを啜った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

処理中です...