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忙しない季節とキスの痕(此木視点)
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――夢だったらどうしよう。全部……オレの都合の良い夢だったら……
オレは寝室のベッドに大の字に寝転び、サイドボードに合鍵があることを確認した。先程から五回は同じことをしている。
時計を見るともう二十二時を過ぎている。今年最後の泊りがけ自宅デートだというのに、今朝の一件以来オレはずっとこんな調子だ。敬久さんと楽しく映画を観たり、一緒に食事を作ったりしたのに、合鍵のことを考えると心がふわふわと飛んで行ってしまう。
――オレはものすごく贅沢者になっているな。目の前に敬久さんがいるのに、心がふわふわしてしまって……自分のことばかり考えている。彼と過ごす時間は、全部大事にしたいのに……
敬久さんは今頃、湯船に浸かっている頃合いだろうか。チラリと開けたままにしている寝室のドアを見た。
今日は触り合うだけにしようと言われたので、オレの方が先に湯船に浸かり、身支度を整えてベッドで彼を待っている。昨日に引き続き、今日も抱いて欲しかったけれど「昨日は長い時間したし、君に負担がかかるからダメ」と頑なに断わられた。
体を気遣われたのは嬉しかったけれど、心の片隅では「しないんだ」と少しだけ残念に思ってしまった。最近煩悩がどんどん酷くなっている。オレはこんなに欲しがりではなかったはずだ。
――敬久さんがオレより年上だからとはいえ、こんなに優しくされても良いのだろうか? それとも、これが普通なのか……? 分からないことだらけだ……二人で暮らすようになっても、こんなに分からないことばかりなのだろうか……
寝転んだままサイドボードにある鍵に手を伸ばし、薄暗い寝室の照明にかざしてみた。茶色い革と金具で出来たストラップには敬久さんのマンションの合鍵が付いている。
――宝物の鍵みたいだ……いや、みたいじゃなくてこれは宝物の鍵だな。見ているだけで泣きそうになる
二人のこれからがどうなるのかは未知数だけれど、敬久さんとなら例え辛いことや悲しいことがあっても進んで行ける。それに楽しいことや嬉しいことを、今まで以上に分かち合えると思う。
――なんて……大袈裟かな。でも……オレが合鍵に慣れたら、敬久さんと一緒に暮らすのか……ふふ……ダメだな、顔がニヤける……ああ、ダメだ……今日は自分のことばかり考えてしまう……ダメだ……
鍵をサイドボードに戻すと、布団を被り丸まって唸った。今日のオレはいつも以上に落ち着きがない。
――ああ、もう、何だこの甘酸っぱいような……切なくて胸が苦しい気持ちは……落ち着きたいのに……今日は本当に、心臓が爆発するんじゃないか……
丸まって敬久さんの枕をぎゅうぎゅうと抱きしめた。この家には当たり前だけれど敬久さんの物が沢山ある。今のオレは彼が普段使っている物に囲まれているんだなと思うと、今更ながら不思議な気持ちがした。
――オレも今日はパジャマじゃなくて、敬久さんの服を着ているしな。今年最後だと思うと……着たくなってしまった……
敬久さんの服を着て彼の枕を抱いていると思うと、段々と穏やかな気持ちになって来た。
――敬久さんといると安心する……大事にされているっていうか……オレを……あ、愛してくれているのが分かるから……
こんな日々を手に入れることが出来るとは思わなかった。甘やかで優しくて、あの人の愛がすぐ側にある。
――あの日酔って告白したことをいつも情けなく思っていたのに……あの時に、気持ちを伝えて本当に良かったって……今は、心からそう思う……
オレは枕を抱きしめて、また泣いてしまった。
オレは寝室のベッドに大の字に寝転び、サイドボードに合鍵があることを確認した。先程から五回は同じことをしている。
時計を見るともう二十二時を過ぎている。今年最後の泊りがけ自宅デートだというのに、今朝の一件以来オレはずっとこんな調子だ。敬久さんと楽しく映画を観たり、一緒に食事を作ったりしたのに、合鍵のことを考えると心がふわふわと飛んで行ってしまう。
――オレはものすごく贅沢者になっているな。目の前に敬久さんがいるのに、心がふわふわしてしまって……自分のことばかり考えている。彼と過ごす時間は、全部大事にしたいのに……
敬久さんは今頃、湯船に浸かっている頃合いだろうか。チラリと開けたままにしている寝室のドアを見た。
今日は触り合うだけにしようと言われたので、オレの方が先に湯船に浸かり、身支度を整えてベッドで彼を待っている。昨日に引き続き、今日も抱いて欲しかったけれど「昨日は長い時間したし、君に負担がかかるからダメ」と頑なに断わられた。
体を気遣われたのは嬉しかったけれど、心の片隅では「しないんだ」と少しだけ残念に思ってしまった。最近煩悩がどんどん酷くなっている。オレはこんなに欲しがりではなかったはずだ。
――敬久さんがオレより年上だからとはいえ、こんなに優しくされても良いのだろうか? それとも、これが普通なのか……? 分からないことだらけだ……二人で暮らすようになっても、こんなに分からないことばかりなのだろうか……
寝転んだままサイドボードにある鍵に手を伸ばし、薄暗い寝室の照明にかざしてみた。茶色い革と金具で出来たストラップには敬久さんのマンションの合鍵が付いている。
――宝物の鍵みたいだ……いや、みたいじゃなくてこれは宝物の鍵だな。見ているだけで泣きそうになる
二人のこれからがどうなるのかは未知数だけれど、敬久さんとなら例え辛いことや悲しいことがあっても進んで行ける。それに楽しいことや嬉しいことを、今まで以上に分かち合えると思う。
――なんて……大袈裟かな。でも……オレが合鍵に慣れたら、敬久さんと一緒に暮らすのか……ふふ……ダメだな、顔がニヤける……ああ、ダメだ……今日は自分のことばかり考えてしまう……ダメだ……
鍵をサイドボードに戻すと、布団を被り丸まって唸った。今日のオレはいつも以上に落ち着きがない。
――ああ、もう、何だこの甘酸っぱいような……切なくて胸が苦しい気持ちは……落ち着きたいのに……今日は本当に、心臓が爆発するんじゃないか……
丸まって敬久さんの枕をぎゅうぎゅうと抱きしめた。この家には当たり前だけれど敬久さんの物が沢山ある。今のオレは彼が普段使っている物に囲まれているんだなと思うと、今更ながら不思議な気持ちがした。
――オレも今日はパジャマじゃなくて、敬久さんの服を着ているしな。今年最後だと思うと……着たくなってしまった……
敬久さんの服を着て彼の枕を抱いていると思うと、段々と穏やかな気持ちになって来た。
――敬久さんといると安心する……大事にされているっていうか……オレを……あ、愛してくれているのが分かるから……
こんな日々を手に入れることが出来るとは思わなかった。甘やかで優しくて、あの人の愛がすぐ側にある。
――あの日酔って告白したことをいつも情けなく思っていたのに……あの時に、気持ちを伝えて本当に良かったって……今は、心からそう思う……
オレは枕を抱きしめて、また泣いてしまった。
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