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甘い唇とチョコレート(柊山視点)
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――あんな風に都合の良いことを言う僕は、彼に呆れられただろうか。僕はずるい大人だから、そういう所を彼に知られたくない…………いや、違うな、知ってもらいたいんだ。ずるい所や薄暗いことを考える僕を知っても、離れないで欲しいって……重い男だな、僕は
後ろ向きなことを考えながらも頬が緩んでしまい、声を押し殺して笑った。
「……どうして笑うんですか」
僕の真向かいには神妙な面持ちの遥君が座っている。僕達が向かい合っている場所は窓が四面に付いているので、もう少し高くなれば眺めがとても良くなると思う。
「だって……ねぇ?」
僕達がどこにいるかと言えば、観覧車のゴンドラの中だ。
「ぅう……」
「……うん、すみません……此木さん。笑う所じゃないのは分かっているんだけれど……君は決断が早いなあって、楽しくなっちゃって」
車を停めてからコインパーキングを出ると、遠くからでも大きな観覧車が見えた。遥君はただ一言「行きましょう」と頬を赤くして目をそらしながら言い、スタスタと歩いて行ってしまった。そして観覧車乗り場に着くと、テキパキとチケットを二枚購入して片方を僕に渡して来た。
「……あなたは、時間はまだあるって言いますが……列に並んで待って……観覧車に乗っていたら、時間なんてすぐに過ぎちゃうんですから」
確かに待機列では二十分程待った。そして観覧車は一周十五分程だそうだ。その後に公園を散歩していたら、すぐに日が暮れてしまいそうだ。
「うん、そうだよねえ。此木さんは僕達の時間を大事にしてくれるから」
「はい……大事です」
遥君は神妙な面持ちのまま頷いた。やっぱり呆れられているのかなと一瞬思ったけれど、観覧車に乗ってからは僕の手をギュッと握ってくれたので、恐らく大丈夫だろう。
膝を突き合わせて座っているので「手を握るなら隣に行こうか」と言うと「こんな窓だらけの所で並んで手を握り合うなんてハードルが高いです」と言われた。遥君の恥ずかしがる基準は相変わらず難しい。
――でも、こういう風になっているということは、きっと精一杯譲歩してくれたのかな。彼は僕みたいに大雑把な人間じゃないからな。葛藤を抱えて、色々考えてしまうんだろうなあ……
「……あの、オレのことはいつも通り『遥君』で良いですから」
「ああ、うん。分かったよ。遥君」
僕がそう言うと、彼はふっと魅力的に微笑んでくれた。
――可愛いな。ここで抱きしめたら怒られるかな……
不埒なことを考えながら、彼の手を指でスリスリと撫でた。
「ぁ……撫でるのは、ダメです」
遥君は焦った声を出して僕の手を離した。自業自得とはいえ温もりが離れるのを惜しく感じた。
「ごめんね……つい。ちょっと抱きしめたくなってしまって」
「抱きしめるのは……もっとダメです……」
遥君は赤い顔で高度が増して行く外を眺めた。
「わぁ……敬久さん、眺め、すごいですよ!」
遥君がはしゃぐように言ってくれたので、ほっとした。まだ葛藤は抱えているかもしれないけれど、楽しい時は笑って楽しんで欲しい。
観覧車はゆっくりと高くなって行く。僕も風景を眺め、これはすごいなとため息をついた。臨海公園なので当たり前だが建物が密集しておらず、広々とした海が広がっている。ここからは有名なテーマパークや海にかかる大きな橋などが一望出来る。
「本当、すごいね……」
こういった広々とした風景を見ると、月並みな表現だけれど心が晴れ渡って行くような気がする。遥君もそんな気分なら良いなと、楽しそうな彼を見つめた。
後ろ向きなことを考えながらも頬が緩んでしまい、声を押し殺して笑った。
「……どうして笑うんですか」
僕の真向かいには神妙な面持ちの遥君が座っている。僕達が向かい合っている場所は窓が四面に付いているので、もう少し高くなれば眺めがとても良くなると思う。
「だって……ねぇ?」
僕達がどこにいるかと言えば、観覧車のゴンドラの中だ。
「ぅう……」
「……うん、すみません……此木さん。笑う所じゃないのは分かっているんだけれど……君は決断が早いなあって、楽しくなっちゃって」
車を停めてからコインパーキングを出ると、遠くからでも大きな観覧車が見えた。遥君はただ一言「行きましょう」と頬を赤くして目をそらしながら言い、スタスタと歩いて行ってしまった。そして観覧車乗り場に着くと、テキパキとチケットを二枚購入して片方を僕に渡して来た。
「……あなたは、時間はまだあるって言いますが……列に並んで待って……観覧車に乗っていたら、時間なんてすぐに過ぎちゃうんですから」
確かに待機列では二十分程待った。そして観覧車は一周十五分程だそうだ。その後に公園を散歩していたら、すぐに日が暮れてしまいそうだ。
「うん、そうだよねえ。此木さんは僕達の時間を大事にしてくれるから」
「はい……大事です」
遥君は神妙な面持ちのまま頷いた。やっぱり呆れられているのかなと一瞬思ったけれど、観覧車に乗ってからは僕の手をギュッと握ってくれたので、恐らく大丈夫だろう。
膝を突き合わせて座っているので「手を握るなら隣に行こうか」と言うと「こんな窓だらけの所で並んで手を握り合うなんてハードルが高いです」と言われた。遥君の恥ずかしがる基準は相変わらず難しい。
――でも、こういう風になっているということは、きっと精一杯譲歩してくれたのかな。彼は僕みたいに大雑把な人間じゃないからな。葛藤を抱えて、色々考えてしまうんだろうなあ……
「……あの、オレのことはいつも通り『遥君』で良いですから」
「ああ、うん。分かったよ。遥君」
僕がそう言うと、彼はふっと魅力的に微笑んでくれた。
――可愛いな。ここで抱きしめたら怒られるかな……
不埒なことを考えながら、彼の手を指でスリスリと撫でた。
「ぁ……撫でるのは、ダメです」
遥君は焦った声を出して僕の手を離した。自業自得とはいえ温もりが離れるのを惜しく感じた。
「ごめんね……つい。ちょっと抱きしめたくなってしまって」
「抱きしめるのは……もっとダメです……」
遥君は赤い顔で高度が増して行く外を眺めた。
「わぁ……敬久さん、眺め、すごいですよ!」
遥君がはしゃぐように言ってくれたので、ほっとした。まだ葛藤は抱えているかもしれないけれど、楽しい時は笑って楽しんで欲しい。
観覧車はゆっくりと高くなって行く。僕も風景を眺め、これはすごいなとため息をついた。臨海公園なので当たり前だが建物が密集しておらず、広々とした海が広がっている。ここからは有名なテーマパークや海にかかる大きな橋などが一望出来る。
「本当、すごいね……」
こういった広々とした風景を見ると、月並みな表現だけれど心が晴れ渡って行くような気がする。遥君もそんな気分なら良いなと、楽しそうな彼を見つめた。
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