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甘い唇とチョコレート(柊山視点)
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「観覧車……楽しいです」
観覧車のゴンドラが一番高くなった辺りで、窓の外を眺めていた遥君がこちらを向いてそう言った。
「遥君が楽しめて良かった」
僕は笑って頷き、携帯電話を取り出すとカメラを遥君に向けた。
「ね、撮って良いかな? 今日の君も素敵だから、ずっと撮りたかったんだ」
「す、素敵ですか……嬉しいです。オレも、後であなたを撮らせてくださいね」
遥君は照れたように微笑んでくれた。僕はその表情を逃さないようにシャッターのボタンを押した。続けて何枚もパシャパシャと撮っていると遥君に「次はオレの番です」とたしなめられた。
「……もうすぐ、観覧車を降りないといけないんですからね」
「ふふ、そうだね」
遥君もこちらに携帯電話を向けて、パシャリと僕を撮った。
「……敬久さん、今日、オレが贈ったマフラーを着けていますね」
撮影し終わるとはにかみながら言った。僕が巻いているライトグレーのマフラーはクリスマスに遥君が贈ってくれた物だ。
「うん、お気に入りなんだ」
「……嬉しいです。オレも、クリスマスに貰ったボールペン、気に入ってます」
僕はアクセサリーブランドが出しているボールペンを彼に贈った。なぜボールペンにしたかと言えば、クリスマスも指輪を贈ろうか悩み、アクセサリーブランドの店を眺めていた時に遡る。
店のショーウィンドウを見つめ「腕時計も良いな」や「指輪もやっぱり良いな……」「でも重いかな」などと心の中で唸っていた。そんな時にステーショナリーアイテムの取扱いを見つけ「これなら」と思ったからだ。
「……君も気に入ってくれたなら、嬉しいよ」
「とても良い物ですし……壊さないように大事に使っています」
「ありがとう。でも、もし、壊れちゃっても売っていた店で修理出来るからね。その時は店へ一緒に行こうよ」
「分かりました……」
僕はニコニコと笑って言った。アクセサリーブランドの店へ一緒に行けば、指輪を見る機会に恵まれることを考えなかったと言えば嘘になる。
――回りくどいかな。そもそもボールペンが壊れるまで待つなんて消極的だよなあ……でもイベントの度に「指輪を見に行こう」なんて、追い詰めるように言いたくないし……
そもそも遥君はアクセサリーを身に着けないのに、指輪を見に行っても困らせるだけかもしれない。
――ダメだな。また指輪のことを考えて……今は目の前の遥君に集中しないと
僕は窓枠に肘をつき、外を眺める遥君を見つめた。
「……敬久さんと観覧車に乗ることにして、本当に良かったなって思っていますから」
遥君が外を眺めたままポツリと呟いた。
「オレ……どうしても周りの目とか気になっちゃうんですが……敬久さんがそういう時は『担当編集の此木さんになれば良い』って言ってくれたの、嬉しかったです」
「……僕や君の肩書を利用するなんて、例え気持ちの問題としても君は嫌がるかなって……心配していたんだ」
「ふふ、まあ、公私混同は良くないですからね」
遥君は「でも」と続けた。
「あなたが担当のオレも、恋人のオレも、どちらも……あ、愛してるって言ってくれたから……周りの目を気にするなんて……小さなことだなって」
遥君はモゴモゴとか細くなっていく声で言った。
「担当編集のオレなら、周りなんか気にせず……柊山先生が観覧車を取材したいって言えば、付き合いますし、何だったら、三回くらいは乗ると思います」
「うん……そうだね。此木さんは率先してくれそう……ふっ」
想像に難くないので吹き出してしまった。
「……もう」
遥君は笑う僕を咎めるような表情になった。
「……そろそろ地上が見えて来ました」
「うん……ふふっ……そうだね」
ゆっくりと回っていた観覧車も、もう地上が近い。遥君は名残惜しそうに窓の外を見つめてから、僕の方を向いた。
「柊山先生、取材……出来ましたか?」
「ええ、此木さんのお陰で十分ですよ」
「良かったです。でも……公私混同はもう、しません。オレ自身がやりたいこととか、あなたとしたいことは、周りなんて気にせず出来るように、努力します」
「はぁ……」
遥君の凛とした表情に見惚れ、僕はまたため息をついてしまった。
「……そういう真っ直ぐな所、本当に好きだなあ」
「え?」
ゴンドラが地上に近づくと観覧車の駆動音が響き、僕の小さな呟きはかき消されたようだ。
「すみません。今、何て……」
「後でちゃんと言うよ」
遥君は首を傾げて「分かりました」と言った。地上では係員が待ち構えているのが見える。あと三回くらいは本当に乗っても良いなと思ったけれど、今日はまだまだ予定があるので、またの機会に持ち越すことにした。次の機会はきっと遥君も笑って付き合ってくれるだろう。
観覧車のゴンドラが一番高くなった辺りで、窓の外を眺めていた遥君がこちらを向いてそう言った。
「遥君が楽しめて良かった」
僕は笑って頷き、携帯電話を取り出すとカメラを遥君に向けた。
「ね、撮って良いかな? 今日の君も素敵だから、ずっと撮りたかったんだ」
「す、素敵ですか……嬉しいです。オレも、後であなたを撮らせてくださいね」
遥君は照れたように微笑んでくれた。僕はその表情を逃さないようにシャッターのボタンを押した。続けて何枚もパシャパシャと撮っていると遥君に「次はオレの番です」とたしなめられた。
「……もうすぐ、観覧車を降りないといけないんですからね」
「ふふ、そうだね」
遥君もこちらに携帯電話を向けて、パシャリと僕を撮った。
「……敬久さん、今日、オレが贈ったマフラーを着けていますね」
撮影し終わるとはにかみながら言った。僕が巻いているライトグレーのマフラーはクリスマスに遥君が贈ってくれた物だ。
「うん、お気に入りなんだ」
「……嬉しいです。オレも、クリスマスに貰ったボールペン、気に入ってます」
僕はアクセサリーブランドが出しているボールペンを彼に贈った。なぜボールペンにしたかと言えば、クリスマスも指輪を贈ろうか悩み、アクセサリーブランドの店を眺めていた時に遡る。
店のショーウィンドウを見つめ「腕時計も良いな」や「指輪もやっぱり良いな……」「でも重いかな」などと心の中で唸っていた。そんな時にステーショナリーアイテムの取扱いを見つけ「これなら」と思ったからだ。
「……君も気に入ってくれたなら、嬉しいよ」
「とても良い物ですし……壊さないように大事に使っています」
「ありがとう。でも、もし、壊れちゃっても売っていた店で修理出来るからね。その時は店へ一緒に行こうよ」
「分かりました……」
僕はニコニコと笑って言った。アクセサリーブランドの店へ一緒に行けば、指輪を見る機会に恵まれることを考えなかったと言えば嘘になる。
――回りくどいかな。そもそもボールペンが壊れるまで待つなんて消極的だよなあ……でもイベントの度に「指輪を見に行こう」なんて、追い詰めるように言いたくないし……
そもそも遥君はアクセサリーを身に着けないのに、指輪を見に行っても困らせるだけかもしれない。
――ダメだな。また指輪のことを考えて……今は目の前の遥君に集中しないと
僕は窓枠に肘をつき、外を眺める遥君を見つめた。
「……敬久さんと観覧車に乗ることにして、本当に良かったなって思っていますから」
遥君が外を眺めたままポツリと呟いた。
「オレ……どうしても周りの目とか気になっちゃうんですが……敬久さんがそういう時は『担当編集の此木さんになれば良い』って言ってくれたの、嬉しかったです」
「……僕や君の肩書を利用するなんて、例え気持ちの問題としても君は嫌がるかなって……心配していたんだ」
「ふふ、まあ、公私混同は良くないですからね」
遥君は「でも」と続けた。
「あなたが担当のオレも、恋人のオレも、どちらも……あ、愛してるって言ってくれたから……周りの目を気にするなんて……小さなことだなって」
遥君はモゴモゴとか細くなっていく声で言った。
「担当編集のオレなら、周りなんか気にせず……柊山先生が観覧車を取材したいって言えば、付き合いますし、何だったら、三回くらいは乗ると思います」
「うん……そうだね。此木さんは率先してくれそう……ふっ」
想像に難くないので吹き出してしまった。
「……もう」
遥君は笑う僕を咎めるような表情になった。
「……そろそろ地上が見えて来ました」
「うん……ふふっ……そうだね」
ゆっくりと回っていた観覧車も、もう地上が近い。遥君は名残惜しそうに窓の外を見つめてから、僕の方を向いた。
「柊山先生、取材……出来ましたか?」
「ええ、此木さんのお陰で十分ですよ」
「良かったです。でも……公私混同はもう、しません。オレ自身がやりたいこととか、あなたとしたいことは、周りなんて気にせず出来るように、努力します」
「はぁ……」
遥君の凛とした表情に見惚れ、僕はまたため息をついてしまった。
「……そういう真っ直ぐな所、本当に好きだなあ」
「え?」
ゴンドラが地上に近づくと観覧車の駆動音が響き、僕の小さな呟きはかき消されたようだ。
「すみません。今、何て……」
「後でちゃんと言うよ」
遥君は首を傾げて「分かりました」と言った。地上では係員が待ち構えているのが見える。あと三回くらいは本当に乗っても良いなと思ったけれど、今日はまだまだ予定があるので、またの機会に持ち越すことにした。次の機会はきっと遥君も笑って付き合ってくれるだろう。
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