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また君と星を見上げて・前編(此木視点)
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三月は卒業旅行のシーズンでもあるので観光列車は満席に近い。少しだけ賑やかな車内は旅行気分を盛り上げてくれる。通勤電車や新幹線にしか乗ったことがないオレにはとても新鮮だ。
――ゆったり過ごせるようにグリーン車にしたのは正解だったな。観光列車だし予約はいっぱいかなと思っていたけれど、何とか滑り込めたし今回は運が良かった
ふかふかの座席は広々としていて足を伸ばして座ることも出来る。そんな風に快適な上に、隣には寝息を立てる敬久さんがいる。彼には窓際に座ってもらったので景色と寝顔を同時に見ることができる。
――敬久さんの寝顔を外で……こんな風にまじまじと見られるなんて……
普段から敬久さんの姿を盗み見ているオレにとってこの座席は天国だ。
――い、いや! 盗み見ると言っても……敬久さんもオレのことを見るのが好きだっていうし……恋人の色々な姿を見たいっていうのは、一般的なことだから別におかしなことでは……
自分自身に対しての言い訳を頭の中に並べた。ただ、敬久さんへの想いを隠して担当編集として過ごしていた時もチラチラと盗み見ていたので、その時期のことは言い逃れができない。
――無遠慮に見ていたわけではないけれど、仕事相手だった敬久さんを盗み見ていたわけだから、良くないことだよな。あの頃の敬久さんは気づいていたのだろうか……
最近は「視線が熱いよ」と気づかれるけれど、あの頃のオレはどんな風に彼を見つめていたのだろう。すでに懐かしい思い出のように感じる。まだ一年しか経っていないのになと内心苦笑した。
――さて、目的地まではあと一時間程だな……敬久さんにはゆっくり休んでもらおう
オレは敬久さん越しに窓の外を眺め、普段と違う景色に心を弾ませた。心身ともに調子が良いので旅行が楽しみで仕方がない。
――気を抜くと始終ニヤついてだらしない顔をしてしまいそうだから、気をつけないと。昨日は眠れなくて不安だったから……今日、こんなに体調が良いのは敬久さんのお陰だ
昨日のことを思い出して頬が熱くなってしまった。また顔がゆるんでいる気がする。
今朝のオレは敬久さんに色々してもらったので、すっきりと目覚めることが出来た。反対に敬久さんはベッドの中でぼんやりとした表情で眠たそうに目を擦っていた。恐らく二時頃まで作業をしていたせいだろう。「朝食が出来るまで寝ていてください」と言うと、敬久さんは「うん」と返事をして、オレを捕まえるように抱きしめてすやすやと寝てしまった。
――あの時の敬久さんは寝ぼけていたのだろうな……可愛かった……
敬久さんを起こさないように何とか腕から抜け出て、朝食を作ってから彼を起こしに戻った。オレに甘える彼を見ることが出来たので、何だか幸せな朝だった。オレは顔がニヤけそうになり慌てて表情を引き締めた。
――敬久さんは今年から別の出版社でも不定期連載を持っているし、コラムとかもしょっちゅう依頼されているようだし……忙しいのに、無理していなければ良いな
『柊山敬久』の名前がまた世の中に出て、彼の新作が書店に並ぶのは喜ばしいことだ。ただオレの勤める会社から出版された本ではない時に悔しさを感じてしまう。
――しょうがないとはいえ……新しい連載はうちでもやりたかったな、なんて……悔しく思ってしまう……いけない……二人の楽しい旅行の時間なのに
首を軽く振って考えを追い出した。こんな特別な日に仕事で悔しかったことを考えるのは避けたい。
――景色と敬久さんを見て悔しさは一旦頭の隅に追いやろう
以前敬久さんから「『此木さん』の時も『遥君』の時もどちらも愛してる」と言われたことがある。とても嬉しい言葉だった。多分、一生忘れられないんじゃないだろうか。
仕事をしている時もそうではない時も、敬久さんの愛が自分に向いていると思うと甘い喜びが胸の中に湧いてくる。
「あなたを見て、こんな風に仕事のことを考えてしまうオレも……悪くないなって思っちゃいますよ……」
オレは誰にも聞こえないような声で敬久さんの寝顔に話しかけた。
――ゆったり過ごせるようにグリーン車にしたのは正解だったな。観光列車だし予約はいっぱいかなと思っていたけれど、何とか滑り込めたし今回は運が良かった
ふかふかの座席は広々としていて足を伸ばして座ることも出来る。そんな風に快適な上に、隣には寝息を立てる敬久さんがいる。彼には窓際に座ってもらったので景色と寝顔を同時に見ることができる。
――敬久さんの寝顔を外で……こんな風にまじまじと見られるなんて……
普段から敬久さんの姿を盗み見ているオレにとってこの座席は天国だ。
――い、いや! 盗み見ると言っても……敬久さんもオレのことを見るのが好きだっていうし……恋人の色々な姿を見たいっていうのは、一般的なことだから別におかしなことでは……
自分自身に対しての言い訳を頭の中に並べた。ただ、敬久さんへの想いを隠して担当編集として過ごしていた時もチラチラと盗み見ていたので、その時期のことは言い逃れができない。
――無遠慮に見ていたわけではないけれど、仕事相手だった敬久さんを盗み見ていたわけだから、良くないことだよな。あの頃の敬久さんは気づいていたのだろうか……
最近は「視線が熱いよ」と気づかれるけれど、あの頃のオレはどんな風に彼を見つめていたのだろう。すでに懐かしい思い出のように感じる。まだ一年しか経っていないのになと内心苦笑した。
――さて、目的地まではあと一時間程だな……敬久さんにはゆっくり休んでもらおう
オレは敬久さん越しに窓の外を眺め、普段と違う景色に心を弾ませた。心身ともに調子が良いので旅行が楽しみで仕方がない。
――気を抜くと始終ニヤついてだらしない顔をしてしまいそうだから、気をつけないと。昨日は眠れなくて不安だったから……今日、こんなに体調が良いのは敬久さんのお陰だ
昨日のことを思い出して頬が熱くなってしまった。また顔がゆるんでいる気がする。
今朝のオレは敬久さんに色々してもらったので、すっきりと目覚めることが出来た。反対に敬久さんはベッドの中でぼんやりとした表情で眠たそうに目を擦っていた。恐らく二時頃まで作業をしていたせいだろう。「朝食が出来るまで寝ていてください」と言うと、敬久さんは「うん」と返事をして、オレを捕まえるように抱きしめてすやすやと寝てしまった。
――あの時の敬久さんは寝ぼけていたのだろうな……可愛かった……
敬久さんを起こさないように何とか腕から抜け出て、朝食を作ってから彼を起こしに戻った。オレに甘える彼を見ることが出来たので、何だか幸せな朝だった。オレは顔がニヤけそうになり慌てて表情を引き締めた。
――敬久さんは今年から別の出版社でも不定期連載を持っているし、コラムとかもしょっちゅう依頼されているようだし……忙しいのに、無理していなければ良いな
『柊山敬久』の名前がまた世の中に出て、彼の新作が書店に並ぶのは喜ばしいことだ。ただオレの勤める会社から出版された本ではない時に悔しさを感じてしまう。
――しょうがないとはいえ……新しい連載はうちでもやりたかったな、なんて……悔しく思ってしまう……いけない……二人の楽しい旅行の時間なのに
首を軽く振って考えを追い出した。こんな特別な日に仕事で悔しかったことを考えるのは避けたい。
――景色と敬久さんを見て悔しさは一旦頭の隅に追いやろう
以前敬久さんから「『此木さん』の時も『遥君』の時もどちらも愛してる」と言われたことがある。とても嬉しい言葉だった。多分、一生忘れられないんじゃないだろうか。
仕事をしている時もそうではない時も、敬久さんの愛が自分に向いていると思うと甘い喜びが胸の中に湧いてくる。
「あなたを見て、こんな風に仕事のことを考えてしまうオレも……悪くないなって思っちゃいますよ……」
オレは誰にも聞こえないような声で敬久さんの寝顔に話しかけた。
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